早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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心配

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その日の昼休み、那月が中庭へ行くと一足先にベンチに座っている揺れた黒髪の後ろ姿が見えた。胸をドキドキと弾ませながら近付くと、その人は那月の方を振り返る。

「あ…、ナツくん。昨日ぶり」
「先輩…!き、来てくれたんですね」
「うん。ここ来るのちょっと久しぶりな感じするな」

先に来ていたその人は彩世だった。久しぶりにここで会えたことが嬉しく、那月は笑みを隠しきれないようだ。

そして彩世の隣、少し距離をとった所におずおずと那月も腰かける。日中の日差しが差す時間。セミの鳴き声も聞こえ始めた中庭は、日陰に居ないとそろそろ熱中症になりそうな時期だ。

2人の座っているベンチはかろうじて大きな木があり日陰になっている。

「まだ真横には来てくれないんだ?」
「えっ!!あっ、そ、それは…」
「うそうそ。ナツくんが平気になってからでいいよ」
「あ、ありがとうございます…。やっぱり、ちょっと緊張しちゃって…」
「緊張…そっか」

俯きながら頭をかく那月を見て、彩世は胸を撫で下ろすように微笑んだ。その那月の横顔は少し照れくさそうにしていて、耳はほんのり赤く染まっているから。

安心したのと同時に、柄にもなく期待もしてしまう。

「それより今日はどうだった?授業とか、クラスとか…」
「あ!!は、はい!実は、今日体育でサッカーがあったんですけど…初めて参加してみました!」
「えっ、大丈夫だったの?」
「は、はい。思い切って参加させてもらって…まだ揉みくちゃにはできないけど、肩が触れたりハイタッチしたりとか、そういうのは出来るようになりました」
「へぇ…すごい。集団競技は見学って言ってたのにね。参加できるようになるなんて」
「…も、もっと強くなりたくて。何が起こっても1人で何とか動じないように…。前の自分には戻りたくないから」

そう言った那月の表情は、今までのびくびくと怯えて縮こまっていたものとは違い、しっかり前を向いて凛としている。

その変化にすぐ気付き目を丸くした彩世。出会ってからの那月の変化を1番近くで感じているのだろう。

「…そっか。でも前のナツくんがいたから、今のナツくんがいる。もっと変わりたいって頑張るのは良いことだと思う。でも1人で強くなるには限界があるよ」
「え…」
「だから1人じゃどうしようもない時は頼ってね。それは悪いことじゃないから。無理はしないで」
「…はい!ありがとうございます」

その言葉が嬉しかったのか、不意打ちであどけない笑顔を見せた那月。彩世は慌てて顔を逸らし、鼓動を誤魔化すように鼻かいた。

「あ!そ、そうだ。今日も夏夜行祭の準備ありますよね」
「うん、1年生が手伝ってくれたおかげで思ったより進んだから…今日で最後だと思う。助っ人ありがとね」
「い、いえ!!学校行事の準備も初めてで…楽しかったです」

一一一それに、先輩がいたから…。

「あのさ、ナツくん。今日準備が終わった後、一緒に帰れない?」
「……え!!!?え!?ぼ、僕とですか!?」
「うん。あ、誰かと約束してる?」
「い!いや!!してないです!で、でも、あの僕電車で…」
「うん。俺も自転車だけど、よかったら駅まで一緒に行かない?」

一一一えっ急に帰りのお誘い!?な、なんで…!先輩と一緒に帰る…!?

「あ、でも俺風紀委員で少し残るから…ちょっと待たせちゃうかもだけど…」
「まっ、待ってます!だ、大丈夫です!!」
「よかった、ありがとう」
「あっあ、あの、でもなんで急に…」
「んー…。ちょっと、ね。心配なことがあって」
「え?し、心配?」
「でも駅まで見送れれば安心だから」

一一一何が安心なんだろう…?帰り遅くて暗くなるから?でももう夏だし、夜も明るい方だけど…。それでも心配してくれてるのかな…?やっぱり優しい…

“いろは残酷なくらいみんなに優しいんだよ。特別なのは俺だけ。あとはみんな一緒”

一一一わ、なんで今夏希さんに言われたこと思い出したんだろう。違う違う!

那月は頭にこびりつく言葉達を払うように、ぶんぶんと首を左右に振った。

「どうしたの?」
「あ、あの…。先輩、そ、その…」
「ん?」

一一一夏希さんがああ言ってたってことは、きっと先輩も言われてきたんだろうな。だから自分でも気にしてたのかも。僕も直接伝えたい、先輩が励ましてくれたように…。

「僕は…、先輩がみんなに優しくても、ちょっとぶっきらぼうなとこあっても、自分を犠牲にするくらい人のこと考えてて不器用でも…ぜ、全部が先輩だから…。どれを含めても、せ、先輩のこと…素敵だなって思います…!」
「…え」
「あ!!急にごめんなさい…!へ、変なこと言っちゃって…」
「…ううん。そんなことないよ」

顔を手で仰ぐ那月と、後ろに手をつき空を見上げて目をキョロキョロさせる彩世。気恥しい雰囲気の中、那月が視線だけを移すと、彩世の耳は赤くなり首は少し汗が伝っている。

初めて見るその様子に、また胸が締まる想いだ。

一一一こうやって木を挟まずに会えるようになって、色んな表情の先輩が見える。たくさん見てきたのに…新しい一面を知る度にもっともっとって思っちゃう。

“ちょっと優しくされたからって、思い上がらないでくれる?”

一一一ううん。優しくされて思い上がってるだけじゃないよ…。きっと僕の気持ちは…。

「…ナツくん」
「はっ!はい!!」
「俺、頑張るね」
「え?あ、は、はい…?」

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