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63.姫と戦士

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平日の昼下がり、あたしは時々図書館へ行きます。
 取り合えず、いつもの雑誌コーナーへ。
 週刊誌やファッション誌が読み放題です。
 雑誌代だって馬鹿になりません。OL時代には、わざわざお金を出して買っていたのですから、毎月数千円の節約です。
こんなところも専業主婦っていいわ。
それに、『妻は質素を旨とすべし』ですもの。
ふと書架に目をやると、絵本の忘れ物。
 子供が忘れて行ったのでしょうか。
 懐かしくなって、あたしは手にとります。

 「姫と戦士のものがたり」
むかーし、むかし、とある国のお城に、それはそれは美しいお姫さまが住んでいました。

 「ダァー!ダァー!」
 「キンッ!、コッ、キンッ!」
 「お見事です。殿下」
 毎朝の、幼い弟の朝稽古。
お相手の剣術の指南役は、あたしの幼いころ、遊び友達だった男の子。今は立派な戦士です。
 「お相手ごくろうさまでした」
あたしは、メイドさんの隙を盗んで、ティーカップにお茶を淹れて、カレに渡します。
 「姫さまにお茶を淹れていただくとは、身に余る光栄です」
カレは片ひざをついて跪く。
 「もう、大げさなんだから」
 二人で大笑い。
メイドさんはちょっと困ったような顔をしていますが、いつものことです。
 他に臣下がいないときは、あたしとカレは、昔の幼馴染にもどります。

そんな穏やかな日々が、いつまでも続いていくと思っていました。
 「ワー!ワー!ワー!」
 「キャー!、誰かー!ウグゥ」
お城の中がなにやら騒がしいです。
カレがあたしの部屋に飛び込んで着ました。
 親しい仲とはいえ、姫であるあたしの部屋に、家族以外の男性が入室するのはあってはいけないこと。
 異常事態です。
 「姫さま、直ぐ脱出のご用意を!」
クーデターです。
 大臣が城内で、突如蜂起、国王であるあたしのお父さまは捕らえられたとのこと。
お父さまの信任の厚かった大臣が何故?
いえ、理由はなんとなくわかります。
 大臣はずっとあたしに求婚したかったようですが、お父さまに止められていました。
 国王である父は、国家安定のため、もちろん政略結婚を考えています。
 隣国のスパン国やプロース国、その隣国を挟み撃ちにするためポルト国やルス国、あるいは少し離れた大国トルク帝国。
 国内貴族との結婚は考えていません。
 大臣は国王を適当な理由をつけて幽閉した後、取り合えず、弟の王子の摂政となり、あたしと結婚した後は、お父さまと弟を亡き者にするつもりでしょう。

 「カツッ、カツッ、カツッ」
 薄暗い地下道をカレと一緒に進みます。
こんな時ですが、幼いころ、この地下道に迷い込んだ事を思い出します。
その時あたしを見つけ出してくれたのはカレ。
 「大きくなったら、あたしをお嫁さんにしてくれる?」
あたしはカレと結婚の約束をしました。
 今では、そんなことは無理なことは分かっています。
あたしは一国の王女、カレは一介の戦士、しかも爵位もありません。
もし、国内貴族との結婚が許されたとしても、子爵や男爵程度ではなく、公爵や伯爵ぐらいは必要でしょう。

 裏通りの地上に出た後、あたし達は街の様子を伺います。
 街の外にでるには検問があり、見つかったら大変です。
カレは少し心苦しそうな顔で、とある提案をしました。
 「姫さま、ある提案があります、それは・・・」
それは、あたしが奴隷女に化けること。
 一国の王女であるあたしが、下賎な奴隷女なんかに?
 「おもしろそうね、やってみるわ」
カレは街で奴隷女定番のスレーブワンピースを手に入れ、あたしに首輪をつけました。

 「そこの二人、待った!う~ん?ちょっと人相書に似てないか?]
 二人は検問の衛兵に呼び止められました。
 「あら、姫さまに似ているなんて嬉しい。今度お店にいらして~ん」
あたしはスカートをめくったり下げたりしながら衛兵に近づきます。
 「ええい、寄るな!我らが姫さまが、こんな下賎な女であるはずが無い。とっとと行け!」
 検問からしばらく離れて、あたしはカレに自慢げに言いました。
 「どう?あたしの名演技」

<エピローグ>
「姫さま、もう危険はありません、そろそろ城へ戻りましょう」
そういって彼はあたしの首に手を回し、首輪を外そうとしました。
 「首輪を外さないで下さい。ご主人さま」
あたしはカレの手を止めて、囁きます。
 「姫になんて戻りたくありません。ずっと、あなたのお側に置いて下さい」
カレは優しく言いいました。
 「奴隷ごっこはもう終わりですよ。姫さま」

 数日後、王宮にて騎士の授与式が開催されました。
あたしは姫として、カレの肩に剣を乗せ、騎士の称号をさずけた後、突然、彼の前に跪きます。
 「あたしは、貴方さまの奴隷になることを請い願います」
 城内からどよめきの声があがります。
 古から伝わる正式な請願です。城内の誰もこの請願を否定することはできません。
カレは優しく言いました。
 「全く貴女って人は、いつも驚かせる」
 「あたしは姫であるよりも、貴方の奴隷になることを願います」
 宮中から万雷の拍手。
カレは古来の作法に従い、あたしの足を掴んで肩に乗せて、お城を後にしました。
     


 『ああ、面白かった』
 何度読んでも素敵なお話。
あたしが子供のころ大好きだったおとぎ話。
あたしは、うっとりしてしまいます。
あたしとご主人さまの子供ができたら・・・
女の子?男の子?
やっぱり最初は女の子がいいかしら、一姫二太郎っていうし。
そして女の子ができたら、この絵本を読んであげるの。
 「むかーし、むかし、とある国のお城に、それはそれは美しいお姫さまが住んでいました・・・」
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