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Dear Finalist リメイク打切りver. 中学生/R-15/流血/暴力表現(2009年)
Dear Finalist 10 【未完】
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風間の部屋を開けた。相変わらず高級そうな部屋だった。そこに風間の姿はなく、移送が済んでいたことを美浦は感じ取った。
逃げ込むように3人は病室に入った。
「どうして、義姉さん、俺を助けたりするんだ」
柊が呟くように訊いた。前里は何も言わない。
「あの人、死んだんだよな…?」
柊がおそるおそる訊いた。前里はまた無視。
「あたし、弟、いたの」
何の脈絡も無く前里は口を開いた。
「そんなこと、聞いたこともなかったが」
「私が貴方のところの会社に入る前に死んだからね」
美浦は納得したようだった。そして話を促す。
「それだけよ。話した意味は無い」
前里は笑う。
「そうか」
「話をはぐらかさないでくれ」
柊が訴えるように言った。
「死んでない。だよな。前里」
美浦が前里の代わりに答えた。
「偽物の銃弾じゃ人は死なないわ。痣くらいならできるだろうけれど」
「え?」
「貴方の義姉さんは、もう、辞める。貴方の会社も」
柊を見たあと、美浦を見た前里。
「美浦さーん」
病室の外から美浦を呼ぶ声。
「風間さんの移送についてなんですけど…」
扉の向こうから話しかけてくる人物を、移送業者か、と柊は思った。
罠。そう分からせている。あからさまに。
「…これが、私達の手口」
前里が呟いた。前里の罠かと柊は身構えたが違うようだった。前里が言っているのは、扉を隔てた人物のことらしい。前里は寝間着のポケットから銃をひとつだして、柊のもとに置いた。
「行くなら、援護、する。頼りにならないかもしれないけど」
前里はもうひとつ銃を出した。
「頼む」
美浦は扉の前に立ち、前里を振り返った。前里は立ち上がる。
「待っててね」
前里が笑う。柊はゆっくりと頷いた。
美浦と前里は病室から出ていく。
「どうして、態々、罠でしょう。薬漬けになった友人は、諦めなさい」
「倉木か。よく分かったな。この階は行き止まりだ。柊は関係ない。逃がしてもらうさ」
美浦は穏やかだった。
「そう」
前里は実弾の入った本物の銃のグリップを握った。ここで義姉をやめられればこの少年を殺し、随分な報酬がもらえるだろう。瀬戸の姿が脳裏を過ぎった。全ての元凶はこの少年。美浦という男から生まれてしまったばっかりに命を狙われ、友人の命まで掴まされて。しかしこの少年を今、この瞬間に撃ち殺してしまうだけで、もう争うことはない。義弟を巻き込ませることも無い。けれど、義弟のためかというとそうではないだろう。
「前里」
「何?」
「この御守り、柊に渡してくれないか?」
美浦はポケットから緑色の御守を出した。鷹の刺繍がしてある。
「これを?」
「できれば、そっと。本人にばれないように」
「どうして?」
それはおかしいと思った。
「でないと意味がない。柊がもし強くなれたら持ってることに気付く。そういう御守なんだ」
「小塚村の御守?」
そういえば、小塚村の御守は少し変わっていたことを前里は思い出した。小塚村の御守は自分で買わずに、誰かに買ってもらい、自分のどこかに隠してもらうのだった。そういう風習は小塚村くらいしかなく、外の村では洗濯の際に母親が見つけてしまうなんてこともよくあるようだ。
「そうだ」
「分かった」
前里はその御守をしっかりと握った。そんな話が、ずっと続けばよかった。
「裏切ったんだね、前里」
誰もいない廊下。そこに立っているのは赤茶色の髪を肩まで伸ばした少女と黒い服装の何人かのおそらく特殊部隊。少女の手に握られているのは、銃。特殊部隊の隊員であろう黒い奴等に捕まっているのは倉木。
「倉木…」
倉木の空ろな瞳が美浦を捕らえた。
「いいよ、君は甘いから、そうなるのは、想定以内だよ」
「その子は無関係だから。返してくれる?」
「それなら、キーを渡せ」
少女は物凄い形相だった。
「ああ」
潔い美浦に少女は怪訝な表情をした。
「この中だ。詳しくは俺も知らない。本物があるのかもな」
美浦は鍵束を投げた。軽く百を越えるその鍵の数。
「ふざけるな!」
バァンっ
爆発音と火薬の匂い、僅かな閃光。
キィンっ
前里が少女の手の中の銃を撃ったようで、少女の手から銃が吹っ飛ぶ。
「前里!お前!」
ダダダダダダ・・・・・
タイプライターを押しているかのような音の連続。前里の寝間着に赤い染みが無数に浮かんだ。
「前、里…?」
美浦は隣にいる前里をみた。倉木を捕らえている黒い影はまるでカステラの箱のような銃を前里に向けていた。
「まえさと、」
「だ…いじょ、うぶ…」
げほ、げほ、と咳き込む前里。美浦は唇を噛んだ。どうすればいいのか分からない。前里は限界だ。美浦は両手を上げようとする。
バンッ バンッ バンッ
美浦の決意は銃声によって阻まれた。黒い連中が倒れていく。
「七津川くん…何やってるの?」
少女と黒い連中の背後から現われた女。
「百華に…何したの!」
美浦は眉根に皺を寄せた。
「瀬戸…!?くそっ!」
少女の顔が怒りに歪む。
バンッ バンッ
威嚇射撃だろうか、天井に向かって発砲する。
「瀬戸ッ!?」
瀬戸は容赦なく銃口を少女に向ける。
「勝手なことはできないようにしてあげようか?」
バンッ バンッ バンッ
銃声で耳がおかしくなりそうだった。
少女の両手首と右足に弾丸が打ち込まれる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
少女は床に倒れて苦痛に声を上げた。
「瀬戸ォオ!!」
少女が額から汗を流しながら叫ぶ。
「百華、義弟に会いにいきなさい。最期くらい望みどおりにさせてあげる」
瀬戸が瀕死の前里に言った。前里は何の反応もなく壁に寄りかかりながら病室まで歩き出す。
「そこの少年を私によこしなさい」
倉木を捕らえる黒い奴から奪い取る。そして容赦なく黒い奴を撃つ。
「この少年を正気に戻したかったら、私に従うことね」
苦しむ少女を見下ろしながら瀬戸は美浦に言った。少しだけだが緊張が解れたようで、倉木に襲撃された頭部から流れてくる血液を肌で感じ取る。美浦は黙って歩き出す。瀬戸は美浦に近付き、手錠をかけた。
「魅奈斗」
朦朧とする意識の中、前里は病室にいる柊のもとまで歩いた。酷く身体が痛む。
「義姉さん…?」
血塗れの義姉が露われ、柊は面食らった。
「魅奈斗…」
ひゅー、ひゅーという音の呼吸。柊の手が震えた。義姉の生命の危機を感じた。痛みを見せてはいけない。柊の胸へ崩れ落ちる。前里は柊の背へ腕を回す。女1人を支えられず共に床に崩れる柊を細い体だと前里は思った。緩そうなジーンズのポケットに美浦から預かった御守を忍ばせる。
「ごめん」
柊の手は前里の血によって汚れていた。そして、震えている。
「ごめん、魅奈…斗」
声が掠れてくる。視界は霞んでいる。
ありがとう、という言葉はもう声にならなかった。
「柊…」
次に病室に入ってきたのは美浦だった。
「み…うら…」
怯えた表情だった。
「柊、小塚村に行け…」
手錠を後ろ手にかけられてしまっている美浦と、顔を顰めている瀬戸。
「美浦…」
「小塚村なら、きっとお前を受け入れてくれる…。手配はしてある」
柊のポケットから緑色のものが少し見え、何となくそれが御守だということが分かった。柄でもなく微笑を浮かべた。
「美浦」
「お前は護られてる。お前なら上手くやれる。柊部長」
瀬戸に引っ張られ、美浦は病室から退室させられた。
柊の頬を涙が伝った。抱き締めた義姉の身体は冷たかったのに、今までにない感情で、ひどく愛しく感じた。
【未完】
風間の部屋を開けた。相変わらず高級そうな部屋だった。そこに風間の姿はなく、移送が済んでいたことを美浦は感じ取った。
逃げ込むように3人は病室に入った。
「どうして、義姉さん、俺を助けたりするんだ」
柊が呟くように訊いた。前里は何も言わない。
「あの人、死んだんだよな…?」
柊がおそるおそる訊いた。前里はまた無視。
「あたし、弟、いたの」
何の脈絡も無く前里は口を開いた。
「そんなこと、聞いたこともなかったが」
「私が貴方のところの会社に入る前に死んだからね」
美浦は納得したようだった。そして話を促す。
「それだけよ。話した意味は無い」
前里は笑う。
「そうか」
「話をはぐらかさないでくれ」
柊が訴えるように言った。
「死んでない。だよな。前里」
美浦が前里の代わりに答えた。
「偽物の銃弾じゃ人は死なないわ。痣くらいならできるだろうけれど」
「え?」
「貴方の義姉さんは、もう、辞める。貴方の会社も」
柊を見たあと、美浦を見た前里。
「美浦さーん」
病室の外から美浦を呼ぶ声。
「風間さんの移送についてなんですけど…」
扉の向こうから話しかけてくる人物を、移送業者か、と柊は思った。
罠。そう分からせている。あからさまに。
「…これが、私達の手口」
前里が呟いた。前里の罠かと柊は身構えたが違うようだった。前里が言っているのは、扉を隔てた人物のことらしい。前里は寝間着のポケットから銃をひとつだして、柊のもとに置いた。
「行くなら、援護、する。頼りにならないかもしれないけど」
前里はもうひとつ銃を出した。
「頼む」
美浦は扉の前に立ち、前里を振り返った。前里は立ち上がる。
「待っててね」
前里が笑う。柊はゆっくりと頷いた。
美浦と前里は病室から出ていく。
「どうして、態々、罠でしょう。薬漬けになった友人は、諦めなさい」
「倉木か。よく分かったな。この階は行き止まりだ。柊は関係ない。逃がしてもらうさ」
美浦は穏やかだった。
「そう」
前里は実弾の入った本物の銃のグリップを握った。ここで義姉をやめられればこの少年を殺し、随分な報酬がもらえるだろう。瀬戸の姿が脳裏を過ぎった。全ての元凶はこの少年。美浦という男から生まれてしまったばっかりに命を狙われ、友人の命まで掴まされて。しかしこの少年を今、この瞬間に撃ち殺してしまうだけで、もう争うことはない。義弟を巻き込ませることも無い。けれど、義弟のためかというとそうではないだろう。
「前里」
「何?」
「この御守り、柊に渡してくれないか?」
美浦はポケットから緑色の御守を出した。鷹の刺繍がしてある。
「これを?」
「できれば、そっと。本人にばれないように」
「どうして?」
それはおかしいと思った。
「でないと意味がない。柊がもし強くなれたら持ってることに気付く。そういう御守なんだ」
「小塚村の御守?」
そういえば、小塚村の御守は少し変わっていたことを前里は思い出した。小塚村の御守は自分で買わずに、誰かに買ってもらい、自分のどこかに隠してもらうのだった。そういう風習は小塚村くらいしかなく、外の村では洗濯の際に母親が見つけてしまうなんてこともよくあるようだ。
「そうだ」
「分かった」
前里はその御守をしっかりと握った。そんな話が、ずっと続けばよかった。
「裏切ったんだね、前里」
誰もいない廊下。そこに立っているのは赤茶色の髪を肩まで伸ばした少女と黒い服装の何人かのおそらく特殊部隊。少女の手に握られているのは、銃。特殊部隊の隊員であろう黒い奴等に捕まっているのは倉木。
「倉木…」
倉木の空ろな瞳が美浦を捕らえた。
「いいよ、君は甘いから、そうなるのは、想定以内だよ」
「その子は無関係だから。返してくれる?」
「それなら、キーを渡せ」
少女は物凄い形相だった。
「ああ」
潔い美浦に少女は怪訝な表情をした。
「この中だ。詳しくは俺も知らない。本物があるのかもな」
美浦は鍵束を投げた。軽く百を越えるその鍵の数。
「ふざけるな!」
バァンっ
爆発音と火薬の匂い、僅かな閃光。
キィンっ
前里が少女の手の中の銃を撃ったようで、少女の手から銃が吹っ飛ぶ。
「前里!お前!」
ダダダダダダ・・・・・
タイプライターを押しているかのような音の連続。前里の寝間着に赤い染みが無数に浮かんだ。
「前、里…?」
美浦は隣にいる前里をみた。倉木を捕らえている黒い影はまるでカステラの箱のような銃を前里に向けていた。
「まえさと、」
「だ…いじょ、うぶ…」
げほ、げほ、と咳き込む前里。美浦は唇を噛んだ。どうすればいいのか分からない。前里は限界だ。美浦は両手を上げようとする。
バンッ バンッ バンッ
美浦の決意は銃声によって阻まれた。黒い連中が倒れていく。
「七津川くん…何やってるの?」
少女と黒い連中の背後から現われた女。
「百華に…何したの!」
美浦は眉根に皺を寄せた。
「瀬戸…!?くそっ!」
少女の顔が怒りに歪む。
バンッ バンッ
威嚇射撃だろうか、天井に向かって発砲する。
「瀬戸ッ!?」
瀬戸は容赦なく銃口を少女に向ける。
「勝手なことはできないようにしてあげようか?」
バンッ バンッ バンッ
銃声で耳がおかしくなりそうだった。
少女の両手首と右足に弾丸が打ち込まれる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
少女は床に倒れて苦痛に声を上げた。
「瀬戸ォオ!!」
少女が額から汗を流しながら叫ぶ。
「百華、義弟に会いにいきなさい。最期くらい望みどおりにさせてあげる」
瀬戸が瀕死の前里に言った。前里は何の反応もなく壁に寄りかかりながら病室まで歩き出す。
「そこの少年を私によこしなさい」
倉木を捕らえる黒い奴から奪い取る。そして容赦なく黒い奴を撃つ。
「この少年を正気に戻したかったら、私に従うことね」
苦しむ少女を見下ろしながら瀬戸は美浦に言った。少しだけだが緊張が解れたようで、倉木に襲撃された頭部から流れてくる血液を肌で感じ取る。美浦は黙って歩き出す。瀬戸は美浦に近付き、手錠をかけた。
「魅奈斗」
朦朧とする意識の中、前里は病室にいる柊のもとまで歩いた。酷く身体が痛む。
「義姉さん…?」
血塗れの義姉が露われ、柊は面食らった。
「魅奈斗…」
ひゅー、ひゅーという音の呼吸。柊の手が震えた。義姉の生命の危機を感じた。痛みを見せてはいけない。柊の胸へ崩れ落ちる。前里は柊の背へ腕を回す。女1人を支えられず共に床に崩れる柊を細い体だと前里は思った。緩そうなジーンズのポケットに美浦から預かった御守を忍ばせる。
「ごめん」
柊の手は前里の血によって汚れていた。そして、震えている。
「ごめん、魅奈…斗」
声が掠れてくる。視界は霞んでいる。
ありがとう、という言葉はもう声にならなかった。
「柊…」
次に病室に入ってきたのは美浦だった。
「み…うら…」
怯えた表情だった。
「柊、小塚村に行け…」
手錠を後ろ手にかけられてしまっている美浦と、顔を顰めている瀬戸。
「美浦…」
「小塚村なら、きっとお前を受け入れてくれる…。手配はしてある」
柊のポケットから緑色のものが少し見え、何となくそれが御守だということが分かった。柄でもなく微笑を浮かべた。
「美浦」
「お前は護られてる。お前なら上手くやれる。柊部長」
瀬戸に引っ張られ、美浦は病室から退室させられた。
柊の頬を涙が伝った。抱き締めた義姉の身体は冷たかったのに、今までにない感情で、ひどく愛しく感じた。
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