18禁BL/ML短編集

結局は俗物( ◠‿◠ )

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弾丸ベルガモット 全8P/一人称×4/女性キャラあり/フィストファック/濁点喘ぎ/アヘ顔/直腸脱

弾丸ベルガモット 3

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-ignis-
 携帯電話に連絡が入って大急ぎで家に帰ると弟の(ほむらくんがまったく連絡とは関係のないホットケーキミックスを突き出した。
「ホットケーキ食べたいんだけど」
 わたしが2階に行くことを阻んでリビングに行かせようとする。こんな強引なだっただろうか。まるでわたしを雪也さんに会わせたくないみたいだった。
「それより、さっきの話…」
「うん、片付いたって。空き巣、空き巣。なんで玄関に鍵掛けとかないのさ。ハルヒが心配するだろ」
「そうじゃなくて、空き巣って…」
「警察には連絡しときましたって。オレもよく分かってないんだよ。旦那さん、寝てたみたいだし顔見てないんだってさ。でも良かったじゃん、無事で」
 階段を塞いで笑っている火群くんはなんだかわたしの知っている弟ではないみたいで怖くなった。
「それはそうだけど、」
「ほらほら、お礼はホットケーキ。卵と牛乳買い忘れたからそれはよろしく」
 わたしは雪也さんのことが心配でホットケーキを作っていられそうになかった。リビングから興味深そうにわたしたちを見ている深秋くんのことも気になってしまう。紹介している間もなかった。深秋くんはわたしを心配して買い出しに付き添ってくれたけれど、雪也さんを1人にするんじゃなかった。
「卵も牛乳も買ってないわ…作ってあげるから買ってきなさいよ。すぐ近くにコンビニがあるから…」
 咄嗟の嘘だった。深秋くんはわたしが卵と牛乳を買ったところを見ている。何も言わないでと願いながら、そして火群くんが騙されることを祈る。
「ぼく買ってくるっすよ。ハルトくんも一緒に行こうよ!」
「誰、その人」
「え、ひどい冗談だな、ハルトくん!」
 わたしは妙な真似をする深秋くんを振り返る。そうだった、火群くんと晴火くんは双子なんだ。他の人からみたら区別もつかないみたい。家族みんな、2人の区別がついているものだから…
「晴火が来たんだ?」
「オムライスが食べたいって…」
「うっわ、出たシスコン。まだ治ってないんだ。いい加減治せっての。それで、作ったの?オムライス」
 また火群くんの晴火くんの冷やかしが始まるみたい。口で肯定できず頷いた。
「甘やかすなよ、もう人妻なんだしさ。旦那さんに悪いだろ、いつまでも姉にべったりな弟にそんなんじゃ」
「それならホットケーキくらい自分で作りなさい」
 仲良く出来ないのかな。それよりも早く雪也さんに会いたい。脇を擦り抜けようとしても火群くんはわたしを妨害する。
「ぼく作ろうか!」
「だから誰なんですか、あなた。姉貴の何なんです」
「雪也さんの友達よ」
 彼が妙なことを言い出さないかとわたしは肝を冷やしながら早口になって説明した。父さんや母さんに、娘の旦那が若い男を侍らせているだなんて知られたら…若い女の子じゃないだけ問題ではないかも知れないけど…わたしの先入観がよくある世間からの見方を邪魔する。雪也さんが周りに若い男を侍らせたって、学生時代の後輩、趣味で繋がった友人くらいにしか思わない…はず。
「ふぅん?姉貴って結構鈍感っていうか、周りの目とか気にしないの?」
 火群くんは冷たく笑って、そういうところは晴火くんと似ていない。2人の区別が付かなくても笑ったときに圧倒的な差がつく。嘲笑ってるみたいなほうが火群くんで、照れたように笑うのが晴火くん。
「人妻なんだから、平日の真昼間に若い男と買い出しなんてやめとけって。それで、しかも平日の真昼間に鬱病の旦那放っぽってさ」
「…それは、」
「うん!大丈夫、大丈夫。だってぼく雪也さんのペットだから」
 火群くんの目が深秋くんに移ってまたわたしに戻ってきた。
「は~、なるほどね」
「何よ…」
「いんや、別に。また会いに来るよ。旦那さんによろしく」
 火群くんの手が戸惑いがちに宙を彷徨い外へ出てしまった。深秋くんはそれを追う。わたしが晴火くんを甘やかし過ぎたとしたら、それは火群くんのこともだと思う。やっと空いた階段を駆け上がって寝室に飛び込んだ。真っ暗な部屋で雪也さんは眠っていた。鼻に届いた生々しい匂いに脈拍が速くなってしまう。常夜灯を静かに点けた。安らかな寝息と妙に皺の寄った布団。肌触りのいい柔らかなタオルでやたらとうなされるようになった雪也さんの汗を拭く。首筋に見慣れない痣があった。首元のボタンを外す。鎖骨にも小さな花柄みたいに痣がある。空き巣は、空き巣じゃないかも知れない。火群くんは何か見た?胸倉を掴むような格好になる。
「ほ、のか…」
 起きてるのかと思った。でも首を動かしただけで寝言だった。まるで誰かに…決まった誰かに抱かれているみたいな弱々しい声で呼ばれ、わたしは手を離した。身動みじろいで小さく甘えるような呻き声。雪也さんは変わってしまった。違う、変えられてしまった。そうだろうか?元々こういう人だった?
 布団の下で彼のお腹がきゅるる、と鳴った。汗ばんで生温かい手がわたしに縋る。少しずつ意識を取り戻しつつあるらしい。布団を捲り寝間着を下げる。わたしでも、ああ見えて意外と丁寧な深秋くんとも違うテープの留め方。剥がした跡すらあった。
「お腹、痛いんですか」
 雪也さんのお腹はまだ鳴っている。お襁褓むつを広げ、通常でも薔薇のようになってしまったそこから他人の液体が漏れた。時間が経って変色している。空き巣は、多分金銭目的じゃない。鼻腔を殴るような見ず知らずの他人の悪臭に吐き気を催す。それでも雪也さんの身体だから。唇を噛んで、その痛みに集中する。胃が引っ繰り返りそうで食欲を失くす。でも掻き出して、お襁褓を替えて、お腹を温めて、それから雪也さんと深秋くんにご飯を作らないと。バイ菌が入らないようにゴム手袋を嵌めて彼の中に指を挿し込む。雪也さんは小さく呻いた。あまり深くしてしまうと直腸が外に出てきてしまう。ぬるついた空き巣の汚らしいものがお襁褓に垂れ、雪也さんを汚した。
「あ…ぁ、ほの、か……ほのか、ぁっ」
 雪也さんが目を覚まして勢いよく起き上がる。お腹に圧力がかかって、彼の壊されてしまった場所が膨らんだ。わたしに泣きながら抱き付いて、でもここでわたしが泣くのは彼に対する裏切りな気がしてわたしは雪也さんに見えないように彼の肩に頭を置いた。


-blaze-
 姉貴の肩を叩こうとして、オレの中に残ってる晴火が触んな!って怒ってるから触れる前に下ろした。
「ホットケーキは?食べないん?」
 自称姉貴の旦那のペット、どうみてもオス空気カオしてる妻公認愛人でれすけはマヌケなツラで外まで出てもオレを追ってきた。もう空は暗くて市街地から外れたここは星が見える。オレの見立てどおりに市街地のほうはキラキラしてた。
「また来た時に」
「食べちゃうよ、ぼくと雪也さんのお嫁さんと雪也さんで」
「そうですねぇ…次来た時は…明日は、お好み焼きが食べたくなるんじゃないですかね。キャベツ買ってきますよ。小麦粉、ありましたかねぇ?」
 姉貴の旦那の愛人は随分と人懐こかったし何より慣れな慣れしい。なんで?穴兄弟だから?姉貴の旦那の肛門あそこがああなってるのってこの人とりまくったから?いや、姉貴の旦那は他の人とも関係持ってるっぽい。だってあの空き巣とも知り合いっぽかったじゃん。この姉貴の旦那の愛人もいつかはあの空き巣みたいになるのか。そうしたらまたオレがボコボコにする。姉貴の旦那は姉貴のモノ。姉貴のモノはオレのモノ。つまり姉貴の旦那はオレのモノってわけ。
「あったと思う!じゃああのHCMホケミはいただいちゃうね!」
 姉貴の旦那、可愛かったな。あの透かした態度の下にあんな可愛い姿があったなんて。姉貴は知らないんだろうな。晴火が知ったら怒るだろうな。でも晴火も分かるよ。姉貴を奪った大魔王みたいに思ってるみたいだけど、あれはお姫様だよ。直腸脱するくらい手酷く何回も何回も抱かれてもずっと処女のお姫様だよ。晴火にも教えてあげたいな。あんな感度カラダで姉貴と結婚したなんて。晴火は怒るかな。姉貴の旦那モノ盗るなってさ。
「どうぞ?」
 でもオレはあんたの旦那ハニーをいただいちゃうんだよな。可愛かったな。泡吹いて怖がって、目を覚ましたかと思ったらオレに甘えてきて。


-vlam-
 一回会ったらまた会いたくなって、この前バタバタしたし、この前のことは何も見てませんよ気にしてませんよアピールも兼ねてまた姉さんの家にお邪魔すると、なんか知らない小学生くらいの男の子がいた。お義兄さんの甥だな、なんて思いながら子供苦手だから遠目に眺めてた。姉さんにべたべた懐くのやめろよなって感じで。宿題か何か見てるみたいだった。なんかプリントの裏にペンを走らせていた。でも何も書けてない。インクないの?って思ったけど随分ゴツいキャップだなって思ったらこれブラックライトで照らすやつだ。おれが小学生の時流行った。男の子も最近の子はそういうのやるんだな。時代は変わったね。子供はそのプリントばっかみてるおれに気付いておれのことじとぉって見上げた。気拙くなって目を逸らす。どうせイマドキの子供らしくマセた手紙でも書いてるんだろうね。せめてもっと可愛いメモ帳とかにしなよ。女子がよくやってた。ブラックライトに当てて読んでね、ってどこの家にもブラックライトってあるものなのかな。うちは姉さんが持ってたから読めたけど。その子はおれをやっぱりじとぉって見上げて、おれは首を傾げた。おれはお義兄さんや晴火はるかと違って子供に優しいんだからね。
「どったの」
 その子はプリントをおれに寄越して、何て読むのか聞いた。じゃあそのブラックライトのペン渡せよ。炙り出しかこれ。プリントが透けて、たまたま鏡になって文字が読めた。『あなたは強姦魔です』。裏返す。数行スペース空いて2行目には、『あなたの父親は強姦魔です。あなたの夫は強姦魔です。謝罪しろ、謝罪しろ、謝罪しろ』謝罪しろ、謝罪しろ、謝罪しろ、ってあとは紙いっぱいに埋め尽くされて、なんか虫みたいだった。
「何これ?」
 小学生くらいの男の子は、ママに感謝の手紙がどうのこうのと話したけどろくに聞いていられなかった。だって内容が尋常ふつうじゃない。頭痛くなってきた。こんなことならここに寄らないでちゃんともんじゃ焼きを広める会に顔出しておけばよかった。
「このプリント誰にもらったの」
 その子はリビングを見回した。この家の人、とこの子は間違いな答えた。そしてお父さんのお友達だと付け足した。強姦魔。姉さんが、レイプされた?ソファーに反物質が発生したみたいにおれは風呂に飛び込んだ。ドアというドアを蹴破って風呂場に飛び込もうとしたけど、
「姉さん!」
 姉さんはその前にある洗面所兼脱衣所にいた。勢い余って抱き付きそうになったけどおれの中のハルカが嘲笑するから転びかけても持ち堪えた。
「姉さん!姉さん!大丈夫?」
 肩を掴んで怒鳴るみたいに訊いてしまった。家族会議!ダメだ、親父は怒り狂うだろうしお袋は発狂しちゃう。お婆ちゃんが失神したら?お義兄さんに知られたら離婚突き付けられる?
「どうしたの?」
「暴行されたの?誰に!」
 姉さんは綺麗に目元を細めた。
「あの子のお父さんに」
 ああ、じゃああの子で炙り出そう。おれはリビングに戻った。可哀想だけど、仕方ない。この子のお父さんはおれの気持ち考えてくれなかったんだから、おれがこの子の気持ち考えないことに何の咎があるっていうのさ。でもおれがあの子の首根っこ掴む前にインターホンが鳴って、この子うちのエセ宗教?みたいな感じで何かに守られてるんじゃない?おれは溜息を吐いて玄関扉を開けた。ミャーなんとかさんだった。へらへら笑って慣れ慣れしく姉さんを呼ぶ。雪也さんのお嫁さん、じゃ、全然慣れ慣れしくないか。ミャーなんとかさんはホットケーキミックスがどうのこうの言っていてほんっとに頭悪いんだな、と思った。もう自宅みたいに上がり込んで、リビングを覗いてから誰かを探して風呂場に行って、ダメっすよ!って声におれも反応してしまった。姉さんが思い詰めて手首切っちゃったんじゃないかっておれも慌てて飛び込んだ。姉さんは手をタワシで洗って、白い綺麗な細い腕が真っ赤になっていた。なんで気付かなかった!
「いらっしゃい、深秋くん。匂いが落ちなくて。雪也さんが気にするから」
 ミャーなんとかさんが姉さんの腕を掴んだ。
「でもダメっすよ。雪也さんのお嫁さんの手が傷付いたら、雪也さん悲しいっすよ」
 ミャーなんとかさんと姉さんの間に、なんか、おれと姉さんの間にないものがある。でもなんか世間的に艶っぽいものじゃなくて。なんか変だ。置いて行かれたみたいな感じだ。お義兄さんと結婚しちゃった時よりと何か違うけどもっと固い。
「ちゃんと拭いて。イフリートのハンドクリーム塗ったげるっすよ。ちゃんと拭いて!」
 ミャーなんとかさんはそのふざけたチャラそうな雰囲気からは珍しく怒ったみたいな声で言った。我が物でタオル取って、姉さんの腕を包むように拭く。おれも混乱してる。必死にまとめて冷静になろうと努める。姉さんが大変なことになって、あのガキを人質にして、このミャーなんとかが来てお義兄さんより妙に近い。
「リビングの子供は誰なんすか」
「雪也さんの職場の人のお子さんよ」
 姉さんは空虚に笑う。絵に描いたみたいな雪女。綺麗だ。
「なんで、ここに?」
「預かっているの。もうすぐ迎えに来るわ。もうすぐ…深秋くんに買い出しを頼みたくて。晴火くんも一緒に行きなさい」
 ミャーなんとかさんは怒ったような表情で姉さんを見ていた。変だ、全部。姉さん、何する気なんだよ。それって例の強姦魔が自宅うちに来るってことだろ!
「ダメ!姉さん、本気で言ってるの?」」
「だってそう約束してるの。迎えに来るわよ。ちゃんとした親御さんだもの…」
 うんうん、小学生(あれくらい)の男児(ガキ)いながら人のおんなに手を出すくらいだ。完璧超人な強姦魔おやごさんなんだろうな。危機管理がなってないよ。被害者の家族が泣き寝入りすると思ってるわけ?自分が気持ち良ければ家族ガキどものことなんてどうでもいいわけだ。
「あの子の傍にはぼくがいるよ。ねぇ、雪也さんのお嫁さん、しっかりして。しっかりして…」
 何言ってんだこいつ?レイプ被害者の姉さんにしっかりしろだ?身体中が一気に熱くなってこの馬鹿男でれすけを掴んでしまった。
「おい!ちょっと来いって!」
 廊下に突き飛ばして、この人なんかお義兄さんとちょっと怪しげな関係じゃなかったっけ?って思ってそれでもお義兄さんの趣味相手ホモだちだし姉さんとも友達っぽいしヤバイよな?って頃には手が出てた。ハルカはシスコンとか言うけど姉がレイプされたらシスコンとかシスコンじゃないとかの問題じゃなくない?それを、その被害に遭った姉さんにしっかりしろって何さ!しっかりすべきなのは被害者の姉さんじゃないだろ!しっかりすべきは加害者じゃないのか。あの鼻垂小僧クソガキの法律も秩序も守れない鬼畜生ちちおやじゃないのか!これがシスコンな訳ないだろ?ハルカだって分かってくれるはず。そういえばハルカってハレじゃおれと被るからハルカにするなら太陽の「陽」使うつもりだったって親父は言ってたけど、結局晴火だよな?っつーかハルカはハルカって名前じゃなかったわ、そういえば。本名なんだっけ、そうだ、火群ほむらだ。ほむら、火群。うちの家は火の神に守られてるって絶対爺ちゃん頭おかしい。火事で死んだら嫌なんだが。


-ėrable-
 意味分かんない!なんでこの人いきなり殴ってくるのさ!子供がびっくりしてやって来た。子供に暴力見せるのも精神的虐待ボーリョクって教わんなかったのかな。
「やめろって!」
 ぼくはこの健康優良児クソガキにカマけている場合じゃない。雪也さんのお嫁さんが良からぬことを考えてる。それだけは分かる。だって職場の人っていったら…職場の人たちっていったら雪也さんに酷いことしてた人たちのはずだ。なんで雪也さんをぶっ壊した人たちの子供なんて預かってるの。何をする気なのか問い質したいけど、気付いたらいけない。雪也さんのお嫁さんには悪いけど、雪也さんのお嫁さんの弟さんの綺麗な顔をぼくも遠慮なく殴った。
「ごめんなさい。雪也さんのお嫁さん」
 弟さんのこと殴ってごめん。謝ったら、雪也さんのお嫁さんはちょっとだけビクってした。
「おい!」
「やめろよ。小学生こどもが見てるだろ。雪也さんのお嫁さんだってびっくりする…!」
 また殴ってきそうな手を受け止める。
「晴火くん、だめじゃない」
 雪也さんのお嫁さんはもうなんか疲れた感じで、棒読みだった。どうする?もっと勉強してたらいい解決法が浮かんだのかな?雪也さんをぶっ壊した人たちのうちの誰かの子供はもう怯え切っていた。子供は関係ないはずだよ。あの子とお父さんは切り離して考えなきゃいけない。あの子は雪也さんをぶっ壊した人たちのうちの誰かの所有物ものじゃない。あの子が雪也さんをぶっ壊したうちの誰かを支配してた訳じゃない。雪也さんのお嫁さんがそんな意味分かんない訳分かんない変なパズルみたいなクイズみたいなものに騙されて間違っちゃうなんて絶対に良くない。絶対、絶対に。雪也さんが悲しむ。ぼくも悲しい。
「姉さん…」
「帰りなさい。もうここに来たらダメよ」
 雪也さんのお嫁さんはやっぱり棒読みで、疲れてるみたいだった。食べてる時と食べてない時の量の差が激しくて、食べても食べてもトイレで吐いていた。雪也さんの状態はあんまり良くない。
「なんでだよ。おれはダメで、そいつはいいの?おれは姉さんの弟なのに、赤の他人のそいつはいいの?」
「この人は雪也さんのお友達。帰って欲しいかどうかは雪也さんが決めるの」
 今度は雪也さんのお嫁さんとその弟さんの間に不穏な空気が立ち込めてぼくはもうどうしていいか分からなくなった。
「なんでそいつのこと庇うんだよ?姉さん、そいつが男だからって安心してない?姉さんだって見ただろ…」
 雪也さんのお嫁さんの様子が怖い。雪也さんのお嫁さんの弟さんがちらちらぼくを見る。それは多分雪也さんのお嫁さんのめちゃくちゃ怖めな緊張感が伝わってるからなんだろうな。
「帰りなさい。二度と来ないで」
「姉さん…」
「雪也さんのお嫁さん!それは、言い過ぎっすよ!二度とって…」
 何だか嫌だな。なんか刺さるって思ったらぼくのとこも姉ちゃんが二度と会えるかどうかの瀬戸際にいるんだった。忘れてた。忘れてたな。忘れていた。目元を拭ってもう2人で解決するしかないよなって思ってぼくはリビングにいる小学生のところに行った。流石に怖いよね。ここはこの子にとって危ないところだ。めっちゃくちゃ敵地アウェイ。いきなり暴力お兄さん居るし。
「カエルが鳴いたら帰ろうね?ゲコゲコ」
 小学生はもうめっちゃ怖がって、ちょっと泣きべそかいてんじゃないの?くらいまであった。手でカエル作ってみるけどダダ滑りよ。ぼくも泣くってこんなん。
「おうちはどこ?」
 小学生の前のテーブルに伏せられたプリントがこの子の大事な宿題か何かかと思って裏返す。強いに女女女。青姦あおかんかんに魔法の魔。何カンマ?それと謝罪しろ、の羅列。
「これどうしたの」
 小学生はこの家の人に貰ったと言った。男の人か女の人かって訊き返したら女の人って言った。マジか、雪也さんのお嫁さん。
「ごめんね。これは、ちょっと大人の事情ってやつで」
 プリントを奪って破って捨てる。何これ。
「最近おうちで何か変わったことなかった?」
 小学生は頷いた。何もないなら良かった。
「帰ろう。おうちに…」
 玄関でバタバタ足音がした。弟さんとのことは解決したのかな、なんて思ったら知らない人だった。雪也さんと同じくらいかそれより上くらいのスーツの人。ぼくのことを見下ろして息を切らしている。急いで来たんだろうな。小学生はお父さん!って言った。それで雪也さんのお嫁さんもふらふら入ってきた。ジーンズにカットソーでもやっぱりモデルさんみたい。でもナイフ持ってるのはモデルさんっぽくない。
「雪也さんに謝って。雪也さんに謝ってよ。雪也さんに…」
 雪也さんの具合もあんまり良くないけど、雪也さんのお嫁さんもやっぱり調子良くないみたいだった。小学生のお父さんが引き攣ったカオをして小学生のこと守ろうとして小学生と一緒に居るぼくに背中を向けた。雪也さんのお嫁さんはへらへら笑って泣いていた。嬉しいんだな、雪也さんのこといじめた人たちのうちの誰かを追い詰められて。ぼくの姉も、じゃあ死んだら喜ぶ人がいる。死んだら喜ぶ人がいたら、死んで当然なの?
「雪也さんに謝って。それで全部、わたしは、許すから…わたしは、許そうとするわ。雪也さんに謝って…嘘でもいいから…」
 小学生のお父さんが後退る。雪也さんのお嫁さんがナイフを突き出す。華奢な人が人を刺すには小さ過ぎる。
「雪也さんのお嫁さん、ダメだよ!」
「貴方は黙っていて!」
 反撃されたら雪也さんのお嫁さんが無事じゃ済まない。そうしたら雪也さんは?ぼくは?雪也さんが悲しんで、雪也さんのお嫁さんが無事じゃなかったらぼくも悲しい。
 小学生のお父さんは、自分だけじゃないと言った。なんで自分だけこんな目に遭うんだと言った。これは誘拐と脅迫で完璧りっぱな犯罪で、目を瞑るから妻にも子供にも手を出さないでくれと言った。雪也さんのお嫁さんは泣き出して、手もナイフも震えていた。
「レイプは犯罪じゃねぇっつうのかよ!」
 帰ったと思った雪也さんのお嫁さんの弟さんが飛び込んできた。ぼくも小学生も突然の登場に驚いてビクってした。
「おいガキ!この親父はお前の母ちゃんを裏切ったんだ!この親父はな!母ちゃんを裏切ったんだよ!母ちゃんに言っとけよ、こいつはとんでもねぇ犯罪者だって!」
 小学生は泣き出して、雪也さんのお嫁さんの弟さんは雪也さんのお嫁さんを抱き締めた。弟なら許されるの?雪也さんのお嫁さんなのに?
「ちょっと!」
 ぼくは叫んだ。でも掻き消された。
「帰れよ。あんた刺して2年も3年もブタ箱入るだけの価値ねぇわ」
「ある!この男を刺し殺せば、雪也さんは少しは安心出来るのよ!」
「ンなら他の誰かにぶっ殺されてくれ、強姦おピンク野郎。あんたかそのガキの不幸を心の底から願ってるよ」
 めっちゃくっちゃ高熱出した時に見る夢くらいぐっちゃぐっちゃで頭がおかしくなりそうな光景に小学生の背中を押してお父さんの元に帰す。
「でもこれは貰っておく」
 尻ポケットに入ってた名札を抜き取った。名前と学校とクラス。裏には住所と電話番号。最近の子は個人情報とか言って外では付けないんだってね。でも迂闊だな。そうだよね、自分が見ず知らずの人から自分の知らないことで恨まれて狙われてるなんて思わないもんね。
「許さないから。貴方の奥さんもその子供のことも恨むから。わたしもう、死んだって構わないんだから。その子の成人式にも結婚式にも乗り込んでやる。その子の恋人にすべて話してやる。貴方の葬式も奥さんの葬式にも、その子の葬式にも乗り込んで貴方のやったことを言い触らすわ。その子の父親にカラダが壊れて病むほど弄ばれたってね」
 ぼくの手元から離れていく小学生が惜しくなって、でももう届かなかった。雪也さんをぶっ壊した人たちのうちの1人は自分の子供を連れて逃げるように出て行ったかと思うとリビングの壁を外側から蹴った。泣き崩れる雪也さんのお嫁さんを放してその弟が怒鳴って後を追おうとするからぼくは止めた。宥めるのに時間がかかって、それから雪也さんのお嫁さんの弟さんも雪也さんのこと知ってるのかと疑いが湧いた。リビングから聞こえる雪也さんのお嫁さんの泣いてる声で弟さんも蒼褪めてポケットにあったスマヒョの画面を押した。なんか波と時間みたいなのが動いてたけどボタン押した途端に止まった。
「姉さんにまた聞かせるのつらいだろうから、あんたにデータにして渡す」
「…うん」
「怒られんのごめんだから帰るわ」
 雪也さんのお嫁さんの弟さんはそのまま帰ってしまった。まだリビングからは声が聞こえる。転がったナイフが危なっかしくてゆっくり近くに寄ってから蹴って遠避ける。
「わたし、本当に…死んだっていいんだから!雪也さんをあんな風にした人たちのこと絶対に…」
 雪也さんのお嫁さんが子供みたいに泣いてぼくは細い身体を抱き締める。あの弟さんがそうしたのも分かる。本当に放って置けない子供みたいに泣く。
「ダメだよ、あの子が結婚して子供できるくらいまで生きなきゃでしょ」
 うぐうぐと雪也さんのお嫁さんの身体が震える。
「ごめんね、雪也さんのお嫁さん。雪也さんのお嫁さんの中でぼくが間違ってても、ぼくは雪也さんのお嫁さんに雪也さんが悲しむようなことさせられない。それがぼくの中で正しくなくても間違ってないことだから」
「間違ってるとか、間違ってないとか、正しいとか、関係ない…やらなきゃいけないの!わたしがやらなきゃあの人はずっと怯えて生きていくのよ!」
 雪也さんのお嫁さんの骨の浮いた背中を撫でる。
「だから貴方は雪也さんの傍に居て…わたしが間違うから、貴方は雪也さんの傍に居て…」
 雪也さんのお嫁さんの手がぼくの背に回って、すぐに落ちた。やっぱ綺麗な人だな。雪也さんはこういうところに惚れたのかな。ぼくは雪也さんのこういうところに惚れて、この人と結婚した雪也さんを好きになれて良かったと思う。
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