破壊の種 滅亡の花

結局は俗物( ◠‿◠ )

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七星将ラプソディー

七星将ラプソディー 21

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「スファーのやつ、廃棄だってな」
 政都は浮遊するゴンドラ、瀟洒しょうしゃな建物、慎みを美徳とした都民で賑わっている。建ち並ぶ高層ビルや、特に何という役割のないイルミネーションが絡む木々、待ち合わせの場所にされがちな豪華なオブジェが点々と窓ガラスの奥に見える。王都のように砂埃が舞わないよう、土は特殊な化学物質で覆っている。
 七星将で最も背の低い、ブラウンを帯びた赤髪の男・セロトが新聞紙を片手にしながら思い出したことを口にする。外観はまるで10代前半の少年だが、生を受けた順でいえば7人の中で4人目だ。黒い革張りのソファを1人で占め、寝転びながらテーブルの上のクッキーを口に放り込んだ。
「そういえばそうでしたよね。でもなんだか…かわいそうです」
 肩で切り揃えられた栗色の髪をした少女だけがセロトの言葉に反応する。すると金髪の縦巻ロールの女がセロトを睨んだ。
「リフィア!いいのよ。セロト。あんなマヌケの話し、ティーが不味くなるだけだわ」
 この部屋は7人の将のために与えられた部屋だ。政都でもっとも高い建築物の上層部にあり、壁一面がガラスになっている。政都の暮らしを一望してほしい、とのことだったが、眺められるのはこの窓が面している方角だけだ。
「公開処刑だってよ!捕らえしだい、公開処刑!」
 廃棄としか聞かされていなかったため、どのような処理をされるのかまでは知らされていなかったがついにそう判断が下った。
「捕らえしだい公開処刑って…まだ捕らえてなかったの?」
「ヴァンゲートたちも王都にいるし、もしかしたらすぐ捕まえられるかもな!」
 セロトの言葉に金髪の縦巻ロールの女・ルクレッタは乱暴にティーカップを置く。
「馬鹿言うんじゃないわよ。王都の警備やってるのよ、あのマヌケ面探す暇なんてないに決まってるじゃない」
「そうですよ。それに何百年と長い間一緒にいたのに…酷いです」
 2人に責められセロトはうっ、と狼狽する。
「王子が儀式失敗して、今混乱してるみたいだから延期よ延期。他にやることあるでしょう」
「っつーか儀式失敗するってあり得なくね。あの王子何したんだ」
 ルクレッタの出した単語にセロトは喰らいつく。同僚の処刑の話はどこへ行ったのだろうと思いながら栗色の髪の少女・リフィアはセロトとルクレッタが言い争うのを聞いていた。
「逃亡しようとしたからではなくて?死者までだして」
「でも厳密にはそれ殺したのオレたちじゃん。それにそんな形式的なもので失敗するか?」
 リフィアは王子が逃亡した夜、その場に居合わせなかった。7人が一度に王都にいることはない。王子は七星将を毛嫌いしていたため、王子に付き従う3人は政都で政都の仕事をこなしていた。
「太陽神の子の裏切りのほう…?」
 リフィアが呟く。耳聡くルクレッタがそれを拾った。
「それこそ一番儀式には関係ないわよ」
「そうそう、儀式が成功しなきゃ、太陽神の子なんてお呼びじゃねぇんだから」
 セロトはそう言ったがリフィアの興味は王子の幼馴染だという太陽神の子に向かった。




「ここに王子はいらっしゃらない!」
 眼鏡を掛けた黒髪の青年・ディンは椅子の上で蹲り、空中にそう言った。城内の会議室は無駄なほど豪華で王都の裕福さをうかがわせる。緋や赤、橙など王子の髪色を思わせ王の王子に対する溺愛みたいだと7人のうちの誰かが以前言っていた。
「王子が目覚めたと」
 灰白色の髪の男・ヴァンゲートが訊ねる。この空間でたった1人礼儀正しく座っていた。ヴァンゲートの視線の先には金に宝石が埋め込まれた座につく王がいる。
「ンで、目が覚めて、どこ行ったかって話なんスよ。息子行方不明て大丈夫なんスか?ドラ息子の世話、やっぱオレたちに任せたほうがいいスよ」
 片目を縫合で塞がれ、桃色に反射する銀髪を逆立てた男がテーブルの上に両足を重ねて気楽に笑った。
「ヘイン。王の前だぞ、自重しろ」
 ヘインと呼ばれる男は「すいやせ~ん」とふざけた謝罪をした。
「すまぬ。まさか王都から出て行ってしまうとは…」
「傑作っスね!」
 ヘインはげらげらと笑った。ヴァンゲートは侮蔑の眼差しでそれを一瞥する。
「あの娘…太陽神の娘はどうしています」
「…レーラと一緒にいるはずだ」
「ひとついいですかぁ?」
 ひゃひゃひゃと笑ってディンが空中に問う。
「いくら形式とはいえあの呪術は本物ですぅ。誰がそれを解いたんですかぁ?」
 王は難しい顔をした。ヴァンゲートはディンを睨み、ヘインはヴァンゲートを面白そうに眺める。
「ロレンツァから来た医者と聞いているが」
 無言。無言。無言。沈黙。ディンが初めて王を見て、片眉を上げる。ヴァンゲートの目が見開かれる。ヘインの片目はどこか遠くを見据えている。
「おっさん、マジか」
 ヘインがそれから突然笑い出す。
「ロレンツァの医者の届け出持って来い!」
 そしてヘインは低い声で怒鳴る。
「あっれぇ…まだ生きてたんですね。驚きだなぁ」
「上に連絡と取る。勝手な行動は慎めよ、特にヘインとディン」
 ヘインの要求したロレンツァの医者のリストが届けられる。乱暴に捲って、ヘインは思い当たる名を探す。書類作業は大嫌いだった。目当ての名前、オール・セルーティアを思わせる名は見つからない。
「名を変えている可能性があるが」
「やっぱり生きてるはずがありませんよ」
「何の話をしているのだ…」
「…王様は使いものならねぇって話だよ」
 ヘインが王を挑発的に睨む。
「完全に破壊しなかったせいですよぉ?」
 ディンがヴァンゲートに笑うと、ヴァンゲートはヘインを一瞥する。
「また壊すしかない…秩序が乱れる」
「そうですねぇ。ボク等の存在が危ういですもんね」
 ヴァンゲートの言葉の裏をディンはわざわざ口にした。



「あ~いらいらするわ!」
「ルクレッタさん、スファーさんが心配なんですね」
「それならヴァンゲートに訊いてみりゃいいじゃねぇか。スファーのこと捕まえるんですかって」
 ルクレッタは手鏡をテーブルに叩きつける。化粧品が落ちた。リフィアはそれを微笑ましく思っていたが、セロトは大袈裟に怯えて見せた。
「必要ないわ!仕事中なんだから!」
 リフィアは出動時に持参する情報端末を確認する。本来は全7機だが現在は実質全6機。返し忘れや常習犯がいるため5機。王都に向かった3人は2機持って行った。ヘインは返す習慣がない。
「本当に訊いてみますか?」
 自分用に付けたブラウンの毛の動物のマスコットが付いた1機を手に取り、確認する。
「必要ないわ!」
「そうだ、ついでにオレたちも公開処刑見に行こうぜ!」
 王族の監視と政都の警護で半々に分かれていることが多いため、7人で、今は6人でまとまって行動するということはほぼない。
「それ相応の理由がないとまずあの口煩いヴァンゲートが許さないわよ」
「あの平和ボケした王都だぜ?暇に決まってんじゃん」
「…セロトさん、警護と監視って何のためか分かってますか」
 リフィアの声を聞かずセロトはルクレッタとリフィアの腕を掴み、部屋に取り付けられた空間移動装置に引っ張り込む。
「政都督にはナイショな!」
 



「少々面倒なことになった」
 数人の従者に囲まれ自室に戻っていく王を目で追いながらヴァンゲートは言った。ここから飛び道具でも使えば王は瞬殺できる、無防備だ。まるで従者の役目が無い。
「ヴァンゲートさん、思うなら何故やってみないんです」
 ディンが考えながら視線を彷徨わせたヴァンゲートに面白そうに訊いた。
「何の話だ」
「暗殺ですよ」
 ディンの興味深そうな、だが危険な目が王に向かっている。
「面倒事を増やすな。まずは王子の探索とオール・セルーティアの粛清、次にスファーの捕縛。王の暗殺は指示されていない。分かったな」
「今死なれるとまずいんですね」
「指示にない」
「マニュアル人間に何言ってもムダだって学べよな」
 ヴァンゲートとディンの会話が面倒になってヘインが鼻で嗤うと、ヴァンゲートが2人を冷ややかに見た。
「ヘイン…リフィアと代わってくれ…」
「嫌なこった。こっちにいりゃ雑用任されねーもん」
「…これだけ肝に銘じろ。勝手なことはするな。王に手を出すな。指示には従え。廃棄処分になりたくなければな」
「そうなっちまったら五星将だな。王殺しとかスファーより重いっつの」
 ヴァンゲートが露骨に蔑む目をしてヘインは愉快そうだ。
「スファーさん、何やらかしたんでしょうねぇ」
「公開処刑、見れるんじゃね!さっさと仕事終わらそうぜ。世間知らずのおぼっちゃん探せばいいんだっけか」
 同族が“廃棄”される。だが実感がない。長い間7人でいた。意識がある頃からずっと。7人でまとまることはなかったが、7人でまとめられていた。それが1人減る。次があるのか。次は誰だ。
「最期くらいは看取るか」
 モルティナという死刑囚が集められる派手な街は遠いが7人が帰る政都から行くよりは近い。
「珍しいですねぇ、ヴァンゲートさんが道草なんて」
 指示にはないことですよぉとディンも珍しく驚きという表情を見せた。
「いいんじゃね。上にはそれっぽいこと言っておけば。脅せば頷くだろ。それに兄弟の廃棄じゃ見る権利くらいあるだろ」
 ヘインはそう言った。だがヘインの顔は曇る。人間でもない自分たちに、果たして権利はあるのかと。“上”は人間の集まりだ。話が分かるだろうか。
3人は城から出る。新しい指令は王子を探し出すことだった。ディンはきょろきょろと辺りを見回す。いつものことだ。ヴァンゲートもヘインも何も言わない。疑問も抱かない。だが突然奇行に走る。広場の噴水に入っていく。防刃服がわずかな水を弾くも、追い付かずに濡れた。ディンは噴水口に手を触れようとした。だが思い留まり、頭上を見た。円形の魔法の陣が空中に描かれていく。ヴァンゲートはいつものことだとディンを相手にせず、1人で進んで行く。ヘインはディンを気にしながらもヴァンゲートの背を追った。
「うわっ」
「きゃっ」
「ちょっと!」
 魔法陣からディンのよく知る3人が現れた。噴水の貯水池に落ち、水飛沫が上がる。
「みなさんおそろいで」
 赤黒い髪の小柄な少年、栗色の髪の眼鏡の少女、金髪縦ロールの女。着ているものがディンやヴァンゲート、ヘインと同じものだった。
「ちょっと…なんで水の上なのよ!」
 ルクレッタは水浸しになった団服を脱ぐ。下に着ていたワンピ―スが露わになった。ルクレッタの派手な怒声にヴァンゲートが振り向く。
「なんで移動地点が噴水になってんだ!」
 セロトがぶつけた腰を撫でている。リフィアはセロトの下でもがいていた。ルクレッタは呑気なセロトを退かせてリフィアを助け出す。
「すみませんねぇ、ボクが書き換えました。探す手間、省けたでしょう?」
 ディンが悪びれもせず言う。
「何もここじゃなくたって、もっとあったろ!」
「1人で水遊びも寂しかったんですよぉ。噴水って、ちょっとわくわくしません?」
 セロトは花壇を指差した。怒るセロトとルクレッタ、責められるディンを放りヴァンゲートはリフィアに向かう。
「どういうことだ」
 ルクレッタとセロトはヴァンゲートと折り合いが悪い。そのためヴァンゲートは最年長で話が通りやすいリフィアに相談を持ちかけることが多かった。
「スファーさんのことです。セロトさんとルクレッタさんも気にしていましたから。まだ捕まっていないんですよね。…っていうか、捕まえるんですか?」
「当然だ。だがその前に仕事が増えた。オール・セルーティアが生きているかも知れないという情報が入ってな」
 団服を絞っていたルクレッタとセロトが顔を上げる。リフィアはえ?と声を上げた。
「だがそのことはまだいい。まずは王子の探索が先だ」
「王子の探索、ですか」
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