破壊の種 滅亡の花

結局は俗物( ◠‿◠ )

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処刑の街 

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 同じ轍を踏みたくないとミーサから1人1つ、催眠を解く薬剤を配られていた。光沢を帯びた砂礫のような粉末を眠ったアルスに振りかける。レーラの手は震えていた。七星将のひとりと対峙してからずっと治まらない。
「レーラ…?」
「すまなかったな」
 レーラはアルスの顔が見られず、一言先に謝った。
「戻るぞ」
「戻るって…え?」
「戻るんだ。ここにスファーはいない」
「え?え、どういうこと」
 アルスは半壊した周囲を見回した。
「逃げられた」
 アルスはそれだけでは意味が分からずに眉を顰める。
「じゃあどうするんだ?」
「別の方法を探す。きっと何か…」
 あるか、確証はない。確実な方法を目の前でみすみす逃した。アルスに至っては眠っていた。
「戻ろう」
 雷鳴。雨が降り始める。びっくりした様子でアルスはレーラへ視線を断ち切り、目を見開いて低地の先を見た。
「やむまで待つか」
「ううん。いい。戻ろう」
 強制的な睡眠と強制的な目覚めに倦怠感が重く圧し掛かっていたがアルスは雨の中を焦って進んだ。坂を雨水が流れていく。
「夜は結構静かなんだね」
「死刑囚が逃げ出したからだろうな」
「…オレが寝てたから?」
 アルスは苛々した様子で訊ねた。
「それは俺が、」
「いいよ、違う。オレがちゃんと、いや」
 ますます苛々してアルスは黙って急ぎながら坂を降りる。宿の前にセレンが見えると駆けだした。踵が雨水を蹴った。鮮やかなレンガの水溜りが飛び散った。
「セレン!何して…」
「ミーサがっ、その、七星将の人と…」
 セレンは何から言って分からないといった感じで忙しなく言葉を紡ぐ。
「ミーサちゃん?」
 セレンの周囲にも宿の前にも確かに姿がなかった。傘でも持って、おどけたように「おかえりなさいっす」とでも言いそうなものだったが小柄な影はまるでない。宛てもないまま走り出そうとしたアルスの腕をセレンは引いた。
「待って。モルティナの外にいるって言っていたの」
「分かった、ちょっと行ってくる!」
 セレンの肩を叩いてアルスはモルティナの外へ向かった。
「セレン、中に入っていてくれ。すまなかったな」
 レーラは彼女の肩を掴んで、宿へと促した。妙に落ち着いた様子にセレンは怪訝な目を向けた。
「何かあったの?アルスと?」
 何かあることは既に彼女の中では決定事項だった。問い詰めるような口調になってしまったことを半ば反省しつつも関心がそれを上回っていた。
「セレンが心配するようなことは、何もなかった」
 もう一度彼女の細い肩に触れた。話は終わったとばかりに宿へ促し、彼はアルスの後を追った。だがセレンも言うことをきかずに幼馴染の後を追う。少し離れたところに、跪く七星将だという死刑囚と、幼馴染たちが立っていた。両者の間に入るような形で小柄な人影が見え、安堵する。合流すると幼馴染たちは膝を着いて忠誠を誓っているスファーから、不安に曇った目をセレンへ向けた。
「セレン…」
「ありがたいっす、セレン」
 レーラの苦々しげな態度にミーサが割って入った。そのために彼は何か言うことを諦めたようで、頭を上げないスファーを見下ろした。
「色々訊きたいことはある…が、まずは協力を願いたい」
「王子の仰せのままに」
 アルスは訝しげにスファーを眺めまわしていた。この人物が本当に七星将なのか疑っているような眼差しだった。
「アルス殿、セレン殿、数々の非行と無礼、謹んでお詫び申し上げる」
 慣れない呼ばれ方、自ら穿ほじくり返した過去にアルスはたじろいだ。沈黙にミーサはひとりずつ目を彷徨わせる。
「明日に響くっすから、宿戻ったらいいっすよ。自分ここに残るんで。近くに洞窟あったし、スファーさんとはそこで」
「ミーサちゃん?さすがに雨だし…」
「死刑囚匿うのはリスキーっすよ。明日お店が開いたら、衣類買ってきてください。スファーさんの」
 レーラは無言のままミーサを見ていた。わずかながら威圧的で、ミーサは小さく後退る。アルスは躊躇いがちにどうするのかを視線でセレンとレーラに問うた。セレンは惑っていたがレーラはしっかりとミーサを捉える。
「分かった。よろしく頼む」
「ミーサ…」
 セレンはスファーを一瞬だけ目に入れ、ミーサへ心配そうな顔をみせる。ミーサは彼女の元へ歩み寄った。
「風邪には気を付けるんすよ」
 雨で冷たくなった手を取り、ぺちぺちと叩く。
「うん、ミーサもちゃんと雨風しのいで」
 ミーサを置いて幼馴染3人は宿へと戻る。ミーサは雨に打たれながらじっとそれを見送っていた。何度かセレンが振り返る。そのたびにレーラが彼女の肩を抱いた。
「本当に戻らなくていいの」
「空気重いし、いいんじゃないすか」
 ミーサは彼等へ背を向け、洞窟へ行くことを勧めた。入口は雑草に覆われていた。
「僕はあの方々を深く傷付け。それでも僕を匿うの」
「自分はよく知らないんすよ。だから自分が残った。っていうか自分がそうなるしかなかった。何も詳しくは知らないっすからね」
「…そう、なんだ。でもあれは、命じられたことだから。七星将は命じられたことをこなすのが役目だから…」
 ミーサが人工クリスタルを握ると、その手を上から包まれ制される。洞窟のとば口に座り、スファーは指先に炎を灯した。それに舌打ちをしかける。
「ロレンツァで1人でいたのもっすか」
「あれは…ロレンツァに大きなイカがいるから…倒せっていわれて…でも僕は嫌だったから…」
「独断行動して今に至るって感じっすか」
 頷いた。ミーサは特に興味も示さず、魔術の炎に当たる。スファーは彼女の首から下がっているクリスタルを気にしていた。
「クリスタル免疫不全は、生まれつき?」
「分かる人には分かるんすね。覚えてないっす。気付けばこのザマっすから」
 まだ消えきれていない腕の紋様を見せる。燈火を握っていないほうの手から温かい光が放たれ、その痕を消す。治癒術だった。
「魔力が無いのは?」
「…”六”星将に襲撃されたんすよ。身の丈に合わない術使ったもんすから」
「じゃあ、僕が捕まったのはその後かな。ロレンツァで王子に会ったから、多分。誰かに空間転送されたって言ってたから…」
 ミーサは肩を竦めて横になった。人工クリスタルを握ると落ち着いた。
「でもミーサ殿。そうではなくて、どうしてずっと…」
「ちょっと疲れたから寝るっすね」
 強い口調で言うとスファーは指先の明かりを弱める。
「王子めちゃめちゃ七星将の過去の不祥事気にしてるから、慎重に。…自分はよく知らないことなんすけど」
 荒々しい壁と向き合って、両目を閉じた。
「う、うん…」
 雨音は相変わらず続いていた。スファーは突然火を消し、ミーサの目蓋の奥が突然暗くなる。肌を刺すような緊張感が漂う。近くにあった気配が消え、彼女は逃がしたのかと内心ひやりとした。
「俺だ。腹減ってないか」
「ミーサ殿は寝てしまいました」
 レーラが姿を現し、紙袋を見せた。また暗い洞窟内に明かりが灯る。姿勢を低くする照明係を制して対面へと座り、横たわるミーサへ布を掛ける。
「七星将はあまり食費がかからないと聞いたことがあるな」
「食べられないわけではないのです。食べる必要がないだけでございまして」
 レーラは紙袋からモルティナサンドと呼ばれたパン生地に野菜や肉やチーズが挟まれた食品と、モルティナチップスと呼ばれて広く親しまれている芋の揚げ物をスファーへ差し出した。
「ありがたき、幸せ」
 礼をしてから紙袋を恭しく受け取った。
「起きたらミーサにも食べさせてやってほしい」
「御意」
「七星将で、こうも対応が違うと混乱するな」
「七星将の話は王子が気を遣うから慎重にせよ、とミーサ殿が」
 岩壁の傍で眠っているミーサを一瞥してレーラは苦々しく笑んだ。
「そんなことを言ったのか。色々気を遣わせているな。すまないと思ってはいるのだが…、俺もどうしていいか、なかなか上手く気が回らない」
「何か憂いているのですか」
 染まったばかりの結われた髪が揺れた。スファーは首を傾げる。
「どうだろうな」
 雨の音が場を支配した。静けさにミーサは空寝を察知されるのではないかと危惧した。
「儀式のことですか。噂なら聞いております」
「随分と人の心を読むのが上手いんだな」
 そう言ったレーラの口調は少し嫌味っぽく、ミーサは初めて耳にしたものだった。
「貴方様個人として生きていくわけにはゆかれないんですか。以前の貴方様が望んでいらしたように…昨日のことのようによく覚えております。あの機が、今まさに目の前にあるとお考えになるのはいかがです」
 ミーサは寝相を装って口元に手を当てた。スファーという憎らしい七星将と今後行動を共にしなければならない不安が一気に襲い掛かる。
「素敵な提案だ。だがそういうわけにもいくまい。王子としてあの場に立つことを選んだんだからな」
神経質な青年を煽り立てそうに思えたが、彼は穏やかにそう答えた。
「王の子とて人の子ではありませんか。僕等とは違う…」
「人の一生を背負っているからな。人の子でも、人として生きるわけにはいかない―と言えたらよかったが、生憎俺は王子と名乗れる身分ではなくなった。これからはその尻拭いとして生きることにする」
 この話は終わりだとばかりにレーラは立ち上がったのがミーサには影で分かった。
「案外形式にこだわっているのはレーラ殿…いいえ、王子、貴方様なのかも知れません」
 スファーも腰を上げ、忠誠を誓う姿勢をとった。
「半端者同士の傷の舐め合いだったな…いいや、俺が一方的に舐めてもらっただけだ。よせ、明日からは俺とお前は仲間だ。それを忘れないで一夜を過ごしてくれ」
 気の重げな青年は洞窟を去っていった。雨はまだやまない。
「ミーサ殿はどう思っているの」
「寝てんすよね、自分。今」
 この様子ではレーラも気付いているのではないかと思いながらミーサはおどけて返した。スファーは真に受け、控えめに謝る。
「外野が何言ってもダメっすよ。あの人の中では色んな人巻き込んだって思い込んで、あの人だけの問題になってんすから」
 レーラの持ってきた掛け布を引っ張って頭まですっぽりと被った。顔も見ずに投げやりにいうとスファーは黙り込み、そのうちミーサも本当の眠りに就いた。
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