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会話文

無限なる幻夢

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死「もうすぐだな」

女「死神さん、来てたんだ」

死「言い残したいことは?書き記しておけばいい。まだ間に合う。長くはないが」

女「ううん。お迎えも来ていることだし、別に誰にも未練はないからね」

死「お前は終われど、遺されたほうはそうもいくまい」

女「あらら?命を持っていくくせに、優しいんだね」

死「泣いて苦しむ家族や友を何度も見てきたからな」

女「死神のお仕事、つらくなっちゃったんだ?」

死「有限の生命しか持てない人間どもと比べれば、容易いもの」

女「ああ、そうだ。残った時間、死神さんにあげる。話してよ、つらかったこと、悲しかったこと」

死「お前の命の残りは、お前のために使え」

女「死神さんと話せるのって、生きてるからでしょ。一番、生きてるって感じがする。ねぇ、だから話してよ」

死「何も話すことはない。仕事どおりお前の命をもらっていくだけだ」

女「それだけ優しいのに、こんな仕事、大変だね」

死「もう少しだぞ」

女「うん。もし父さんとか母さんとかがお世話になったらよろしくね。もっとずっと先だといいんだけど。幸せだったんだよって伝えておいてね、毎日伝えてるつもりだったけど、きっと忘れちゃうから」

死「伝言係など断る……」

死「羨ましいよ、お前らが」
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