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国王の、父上の執務室に呼び出された。おそらくリリーのことだろう。あとの用事はよく分からないが。

「シデルミ、いつまであんな汚らしい狐に執着しているつもりだ」

「汚らしい、ですか? 具体的にはどこが?」

少し煽ってみせれば、すぐに苛立って舌打ちをする。短期で傲慢で強欲、こんなのが父親とは、生まれる場所を間違えたのではないかと、目の前の男を見る度に思う。

ろくに愛情を持って接してこなかったくせに、文句だけは垂れ流すとは、さすが態度だけは大きい国王だな。我が父ながら呆れる。兄2人も、こんな愚王の血を色濃く引いている。だからこの国に未来はないのだ。

民の気持ちを知らずに横暴に振る舞う王の行き着く先は、一族の破滅だ。私はごめんだがな。

「売れ残りのくせに、王の一員に入り込もうなど・・・・・・」

「どんなにいい商品も、商売下手が売っていれば見向きもされません。どうせ跡継ぎには期待されていないのですから、自由くらいは貰わないと困ります」

「私の一族が、それも息子があんな汚らしいペットを飼っていると知れれば、私の地位も危うくなるのだぞ!」

あーつまり、貴族たちの反応が怖いんですね。リリーの純粋さや優しさが分からないとは、このジジイも耄碌もうろくしたな。私の予想は間違っていないということか。

平民よりも貴族たちの顔色ばかり伺っていては、どちらにせよ地位が危うくなりますよ、耄碌国王。

「それで、ご要件は?」

「明日縁談を行う。拒否権は無い。それとあの汚らしいペットも捨ててもらうぞ」

そう来たか。何も期待していなくても、自らの地位にはリリーのような血を入れたくはないようだ。いや、予想はできないはずは無いが。

「ご安心ください、もうすぐ目の前から消えますから」

「ほう? ようやく飽きたのか」

「えぇ、飽きました」

さっきまでの不機嫌はどこへやら、声色が変わって機嫌が良くなったようだ。わがままし放題の地位は、いつまで続くだろうな。
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