異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第83話 侮る者、あしらわれる者となる――

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一面を黒雲が覆い、泉の畔に重苦しい気配が沈み込む。

バナムは前回と同様に精霊発見装置を手にしていた。

おそらく精霊探しを続けていたのであろう。

だが、今は違う。

その目は、すでにアマトたちを“敵”と断定していた。

「この辺りに精霊がいるはずだとは思うが……まぁいい。まずはお前たちを倒す方が先だ」

バナムが精霊発見装置を無造作に地面へ置くと、アマトたちの方へ歩み寄って来た。

背後の部下たち10人もそれに続く。

バナムがアマト達の目前で立ち止まると、背後で部下たちは揃って膝をつき、頭を垂れた。

「俺の名はバナム。ラグナメア軍、ドルギー将軍配下の者だ」

淡々とした名乗り。

しかし、その声には相手を見下す色がはっきり滲んでいた。

アマトとルダルは何も言わず、じっとバナムを見据える。

重い沈黙が落ちた――その時。

ルノアとエメルダが、迷いなくアマトの前へ踏み出し、バナムとの間に割って入った。

「ほう、勇ましいお嬢さんたちだ。だが、お前たちの相手をする暇はない。邪魔だ。どけ」

バナムの眼中にないようである。

「まったく。言ってくれるねぇ」
「まぁ、それぐらい威勢を張ってもらった方が倒し甲斐があるってもんだ」

二人も真っ向から喧嘩を売る。

バナムの顔からは表情が消えた。

「仕方ない。お前たち、この二人を消せ」

片腕を水平に上げ、後ろに控える部下たちに命令を下すと、部下たちが立ち上がり、バナムの前に出て戦闘態勢をとる。

それに対しルノアとエメルダも構えると、スライムとゴブリンの形態に変身した。

その姿を見たバナムが思わずあざ笑う。

「ふっ。たいそうな威勢を張っていたからどんな魔物かと思えば、スライムにゴブリンか?話にならんな」

部下たちも同じように薄ら笑いを浮かべる。

「一瞬で決着《けり》をつけろ」

バナムが一言発すると、次の瞬間、部下たちが飛び出した。

ルノアとエメルダはお互い左右逆方向へ飛ぶ。

すると、部下たちは二手に分かれルノアとエメルダをすかさず追う。

二人はそのまま真っすぐ飛び続けた。

「先ほどまでの威勢はどこへ行った。逃げ回っているだけでは勝負にならんぞ」

バナムが上空を見上げ、ルノアとエメルダの様子を嘲笑する。

「まぁいい。時間の問題だろう。俺はルダルと異世界人を叩くとするか」

そう言うとバナムがアマトとルダルの方へ振り返る。

そして、ニヤリと笑うと低い声で言い放った。

「さぁ、ショウタイムだ」

ただ、次の瞬間――。

「勝負をしてやってもいいが……お前の眼は節穴か?あれのどこが逃げ回っているように見える」

ルダルが空を舞っている二人を仰いで言った。

「なに?」

そう言ってバナムも空を見上げると、先ほどとは異なる光景が目に写った。

逃げ回っていると思っていた二人の魔物は、空中をものすごいスピードで飛び回っていたのだ。

部下たちは明らかにそのスピードについていけていない。

「お前たち、何をしているのだ!?さっさと叩き落さんか!」

バナムの怒りの声が無意識のうちに発せられていた。

一方、ルノアとエメルダは――。

「はははっ!こいつらオレたちのスピードに全然ついてこれてないぞ!」

ルノアは完全にはしゃいでいる。

「まったくだ!あの忌々しい虫どもより遅ぇぞ!」

エメルダが鼻で笑った。

「ったく。これもあの鬼教官のおかげってことか!」
「あぁ、悔しいがそのとおりだな!」

二人は眼下のルダルの方を見た。

ルダルは、そんな二人を見て口元だけわずかに緩める。



『あいつら……本当に見違えたな』

アマトの精神空間のゼルヴァスが感心した。

『きゃぁーっ、二人とも!かっくいいぃぃーっ!』

ティアマトも大はしゃぎである。

『あぁ、確かにな』

アマトはそう呟くと、笑みを零して上空の二人を見上げた。



「じゃぁ、そろそろ叩き落しますか?」
「あぁ、そうだな!」

そう言い合い、二人はそれぞれ反転すると、追ってくる異世界人の方へ突っ込んだ。

次の瞬間、異世界人たちは地面に叩きのめされていた。

その様子を見たバナム。

さっきまでの冷静さが嘘のように動揺して、目の前の部下たちに怒鳴る。

「な、なにをやっているのだ!さっさと立ち上がれ!!」

すると、部下たちは何とか立ち上がってきた。

「よ、よし。仕方ない。俺も戦うぞ」

そう言って腰の剣を抜いて上を向くと、そこに二人はいなかった。

その刹那――

「あれぇ?結構しぶといね」
「黙って寝ときゃぁ、死ななくて済んだものを」

その声にビクッと驚いてその方向へ体を向けるバナム。

そこには、余裕しゃくしゃくのルノアとエメルダの姿があった。

「ふ、ふざけるな……たかがスライムとゴブリンの分際で!」

バナムの額に汗が滲む。

ルノアとエメルダの顔がポカンとするも、

「いいよ。今度こそ叩きのめしてやる!」
「お前たち、後悔すんなよ!」

と構えた。

一瞬の沈黙――

バッ!

次の瞬間、飛び出したのはバナムであった。

ルノアとエメルダ目掛けて攻撃を仕掛けるバナム。

そのスピードは確かに早かった――早かったが、それは普通の異世界人に比べてである。

ルノアとエメルダは、二人の間に突進してくるバナムの軌道を読み切ると、身体をわずかにひねってかわし、すれ違いざま――

ゴッ!!

「ぐはっ……!?」

二人同時の肘打ちが、真上からバナムの背中へ叩き込まれた。

直撃した瞬間、

ズドン!!

バナムはそのまま地面へ叩き落ちた。

土煙が舞い、バナムは顔面から地面に沈んだまま動かない。

「ゴホッ、おいおい、勘弁してよ」
「土埃が舞ったじゃないか、ゴホッ」

二人がむせる。

その言葉にバナムは目を見開き、歯ぎしりを立てると、すぐに後ろへ跳ねあがる。

「おのれぇぇぇっ。思い知らせてやる!」

そう言うと、右の胸ポケットから注射器のようなものを取り出す。

魔素ドーピングのアルティマナである。

そして、そのまま自分の心臓に突き立てた。

すると、淡い青のオーラが彼の全身を包み込んだかと思うと、その肉体が膨れ上がり筋肉質の体が浮き彫りになったのだ。

「ふっ、俺の本気を見せてやる」

と言うと、すかさず剣をルノアとエメルダの方へ掲げて唱えた。

「”青矢”」

次の瞬間、剣の先から青い光の矢がルノアとエメルダを襲ったのだった。

ガキィィィン!

金属同士が激突したような鋭い音が辺りに響き、直後、二人のいた地点に砂煙が柱のように吹き上がった。

「ふっ、はっはっ。跡形もなく吹き飛んだぞ!」

バナムが大きく笑う。

だが――

砂煙が薄れはじめると、そこに二つの影がゆっくりと浮かび上がる。

「……なっ!?」

バナムが目を見開いた。

「……だから、砂埃を立てるなよ」
「泉で洗い流す手間が増えたじゃねぇか」

声と共に姿を現したのは、槍を構えるルノアと棍棒を振り切っているエメルダであった。

そう、二人は咄嗟にアイテムを取り出して、その一撃を真正面で弾き返していたのである――。
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