近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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メーヴェルラント

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 メーヴェルラント。
 現地の原住民ヴァルト系を駆逐し、ヴァロイセン人や南方ライヒ人が入植してきて生まれたライヒ人居住地方である一方、昔からのヴァルト・リヴォニア人が多く居住し、ライヒ語を話す地域でもある。

 この都市は結構反映していた。なんといっても、神聖グロウス帝国の最東方、大規模な港湾都市が存在しているというのが大きい。
 穀物などを西方に送り出し、そしてそれよりも安いヴェルーシ帝国の小麦などを消費する土地でもあり、同時にヴェルーシ帝国に工業製品を送り込むための国際貿易拠点でもあるのだ。

 我ら魔法使い旅団は、そこに設置してある駐屯地を利用している。
 新しく歩兵大隊を創設する予定とのことで、そのための建築が進んでいた小さな駐屯地だ。まぁそれでも1000人近い兵を養う余裕はあったりする。

 今は、メーヴェルの街で兵士たちの福利厚生に努めている最中だ。

「しかし…少々暗い顔をしている者たちが多いな」
「はは、ここじゃポラーブ童謡なんてものがあるくらいだ。秋とか、冬の夜に外に出ていると野蛮なポラーブ騎兵が攫いに来ますよってな」

 笑えないジョークだ。しかもそのジョーク、恐らく東方国境では事実なのだろう。
 特に商人の子供とかは人質商売に利用できる。中世や近世では、商人の子供を攫って金をせびる人質商売なんてモノが普通にあったのだ。
 未だに混乱している合同共和国と、未だに国境警備に全力を避けないヴァロイセン王国の状況がそれを成立させている。

「ルートははっきりしてるからね。じゃなきゃ定期便って言えないよ」
「すまないな、何から何まで」
「なぁに、僕たち第七師団に被害が出ないだけでも十分さ」

 実際、そうだ。兵士が死ぬと遺族年金とかそっち方面の面倒そうな書類仕事が降ってわいてくる。
 最も、若者はあまり加入するだけの余裕がないが、戦死しただけでも新兵を補充し、教練し、使える手駒にしなきゃいけない。それにはそれ相応の時間が必要だ。
 だからこそ、兵士が自部隊で死ぬのは勘弁願いたい。そう言った風潮は各地にある。

「さて、メーヴェルに到着して三日ほど休憩を取る。諸君、金は持ってきただろう。好きに過ごすと良い」
 1000人を受け入れることができる駐屯地と言っても、その実態はかなりお寒い。ウチの魔法使い旅団の駐屯地と同じく、近くに巨大な街はなく、転々とした農村地域で娯楽をすることはとんど出来ない。
 だから、近くにメーヴェルラントという町があるならば、そこで休暇を過ごさせて士気をあげるべきだろうと判断したのだ。

 ちなみに、ウチの旅団だと男女が混在しているからこそ、性的な娯楽が横行したりもしたが…それは俺が無理矢理抑えつけ、代わりに勉強会や遊戯会などを開いて健全な娯楽を提供した。
 ……それでもやらかすバカモンは流石にむち打ちなどで対処するしかなかったが。
 
 ……ちなみに、練度が低いのは食料を自給していたからだそうだ。理由は、先代や先々代の旅団長が資金を横領して食えなくなったから。あいつらホンマ……見つけたら誤射したろうか?

 まぁ、それでも結構金は余っている。だって遊ぶ場所がないもん、川を使って届く食料は最低限だし。農村で遊ぶと言ったら性的な遊びしか残ってねぇ。
 狩猟場所として、貴族用のハンティングに使う山々を開放したりもしたが、それだって治安維持を兼ねたハンティングであり、まぁ結局は軍の備品を流用した演習のようなもの。
 結果として兵士に支給した金の大半が使われずに余っている。

「酒だー!」「女だー!」「本を買わなきゃ!」
「待てお前ら、軍紀は乱さぬようにな!」

 各々が好き勝手に動いている中、それを羨ましそうに見ている中隊長たち。彼ら彼女らは俺をジットリと眺めている。俺たちも遊びたいんだが?そう言った意図がありありと透けて見えるから。


「中隊長諸君、申し訳ないが君たちは私と酒盛りしながら反省会である」
 ビクリと大勢の肩が揺らぎ、クスクスとフリードリヒは笑っていた。こういった上司との飲み会という嫌なことトップに位置することを俺がすることになるとは…と思いながら、嫌なことは分かっているけど、こいつらをフリードリヒのお気に入りの(奴が貸切った)大衆酒場に向かう。


「「「かんぱーい!」」」

 エールの木製ジョッキを合わせながら、俺たちは乾杯する。フリードリヒは、小麦を限界まで醸造して作るスピリタス…アルコール原液90%を超えるバケモノ…を、高級なフルーツで割ってカクテルにするという何とも未来的な酒を優雅に口に運んでいた。
 俺は、貧しい少年期時代にライ麦エールを呑んでいたので、すっかり舌はこいつに染まっちまってるからエールだが(当時のビールは安全に飲める水、現代で言うジュースみたいなモンである)


「さて、諸君。早速行軍の振り返りと行こう。まず、私から一つ…君たちは何故過大報告を続けたのか、それについてだ」
 まぁ、それについては分かっている。正直に言えば、前の旅団長たちがクソだったんだろう。それ故に、上司たちに媚び諂うために過大報告を繰り返すようになった。まぁそんなところか。

「は、はい…前の、その前の旅団長も正直な報告をすると激怒していましたので」
 と、レヴィーネ中隊長が静かに現状を報告する…が、まぁ彼女は流石に俺がその程度察していることを理解していたようだ。
 しかし、それが分からない周りが「何言ってんのお前!?」と狼狽えている中で、彼女だけが豪気にそれなりのライヒ・ワインを口に運びながら、俺に進言していた。

「成る程、しかしそれは前の旅団長が軍律に違反していた故である。正しい報告に激怒し、鞭打つような愚物は旅団長に相応しくなかった…それだけの話だ。
 正しい報告を常に旅団長である私に届けるように!」
「「「ハッ!」」」

 威勢は良く、しかし「本当かなぁ…?」と、不安がるような表情で中隊長たちはお互いに目を走らせる中…唯一、レヴィーネ中隊長のみが俺に向けて静かに笑みを浮かべてきた。
 成る程、確かにお前は俺の説教を受けた先輩だからな、動揺しなくても当然か。

 今回の飲み会は、俺と直接接する機会が多くなるであろうレアな兵士たちに対して、前の上司とは違うと徹底的にアピールすることにある。

「さて、正直この後の話は面倒であろう。今日は無礼講である、好きなだけ飲み、好きなだけ食べたまえ」
「僕とグラウスが全部払うから安心してね」

 俺とフリードリヒがそう太鼓判を押せば、中隊長たちはガッツくように色々と食べ、エールを喉に流し込み始めた。
 こういった形で上司の気前の良さを示すことも大事だからな。俺も滅多に金を使わんし、親戚一同に金をせびられて消えるくらいなら、部下の懐柔で消える方がマシ、むしろ大歓迎だ。

 しかし、レヴィーネ中隊長は、どうやら飲み会に興味はさほど沸かないらしく。俺に席を合わせてくる。

「ユンガー旅団長閣下。失礼ながら…何故我々に対して優しく接してくれるのです?」
「部隊を統率するためだから…ってのも一つあるが。俺は上司とはまぁ折り合いが合わんこと合わんこと。第八師団長閣下は最悪な人だ。ある意味、お前らの前の旅団長と大差ないぞ?
 …それに苦しんでいた俺だからこそ、魔法使いのお前たちにも寄り添った。それくらいで十分な答えじゃないか?」
「では、何故シオン人やジプジー出身の魔法使いにも同じように…?」

 ジプジー。シオン人。どちらも欧州では差別されている者たちであり、シオン人は常に反シオン主義に晒されていると言っても良い。治安が悪くなれば、彼らの出している商店や銀行は常に襲われ、破壊され、略奪されるような有様にある。それくらい、反シオン主義はメジャーなのだ。
 殆どの欧州人(ビオーネ人を除く)は、シオン人を人と見ていないフシすらある。というか前世の欧州も割とそうだ。

「…何言ってんだ、お前たちも人間だからに決まってるからだろう。確かにシオン人は偉大なる神の子を殺したが、それは神の子がお前たちが信じる神を冒涜したから…そう捉えたからだろうし。
  ジプジーやロンマの遊牧民だって同じようなモンだ」

 俺にとって、ヴァロイセン人もシオン人も遊牧民も大差ない。皆が同じ人の形をしてるわけだし。
 勿論、俺の家族や軍人としての責務として国に仕えているつもりはあるが、周りが反シオン人感情を拗らせていても、俺はちゃんと納税して、北ライヒ語を喋って、ヴァロイセン王国人としての責務を果たすのであれば、同じヴァロイセン人だとしか思えないのだ。
 
「……閣下はシオン教徒になっても上手にやっていけそうです」

 妙な言葉を言った後に押し黙るレヴィーネだが、21世紀で過ごしてきたグラウス=フォン=ユンガーにとっては、本当にそうとしかとらえようがないのだ。
 恐らくは心底そう思いながら、中隊長を(時代背景を考えたら)口説き落としていく様子を、フリードリヒはいつものこと、いつものこと、とカクテルを喉に流しながら、それを笑いながら眺めていた。


—————

「コラム」

 この時代の欧州の人権意識
 自国民→基本的にうすぼんやりとした隣人感覚はあるし、御近所付き合いもしてる。ナポレオンがやってくるまでそれが表立った愛国心や人権意識として芽吹くことはない。

 ユダヤ人→あ、ねぇよそんなモン!(あまりにもキリスト教徒からしたらアウト、ユダヤ教の教義がキリスト教徒違うからアウト、市民感情的にもアウトと要素が多すぎる)

 ロマ・ジプジー→そんなモンねぇよ。あいつら俺たちと同じ過ごし方しねぇし(同胞意識がないのは致命的すぎる)


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