近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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茶会とルデ兄

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「まぁ!騎士グラウス様とお茶ができて光栄ですわ!」
「こちらこそ、光栄です」

 父さんが見繕ってきた…というよりも、多分押し付けられた淑女たちと会話をする日々が一週間ほど続いた。多分、父さんは可能な限り弾いてくれたに違いない。何故なら、お茶会という名の結婚を求めてくる15とかの少女たちは、基本として親が子爵とか伯爵令嬢だ。
 しかも、大半が王都やケルニヒス、メーヴェルラントなどの都市部近くの、俺たちとは別格の豊かさを誇るユンカー、或いは政治的権力を握っている中央貴族たちである。
 俺たち貧弱な準男爵家からしたら遥かお空の相手であり、そりゃもう玉の輿と言える相手ばっかりだった。
 
 それでも、相手側も必死過ぎる。俺はもう10歳は年上だ。だって俺はもう24だぞ?はっきり言ってこの世界だと行き遅れだ。血痕寸前の婚約者を失ったとはいえ、冷静に考えれば8年間結婚しないのは貴族社会じゃ頭オカシイ部類に入る。

 確かにポラーブ戦争で俺と同じように婚約者を失った淑女も多いだろうが、だからといってアラサー近い男にあてがうべきではないだろう、いやマジで。
 しかも、そう言った婚姻話はヴァロイセン王国だけで収まればマシだった。なんと神聖グロウス帝国の伯爵家からもバンバンそう言った手紙が届いてくるのである。 

 俺と父さんの胃は全力で胃酸を清算中だ。頼むからいい加減休ませてクレメンス…

 しかも、更に気を張る要素がある。彼女たちが想像しているのは、国家が宣伝しているような凛々しい騎士姿であり、それ以上のことは望まれていないのは目を見れば痛いほどに理解できるのだ。
 ある意味で政治闘争を知っていても、それをまだ理解する歳ではないのだろう。権力闘争で散っていった東部方面軍の上層部の連中と比べれば、遥かに分かりやすく表情が動いてくれていた。

 だからこそ、雲の上の相手の不興を買わないように騎士らしく、紳士らしく振舞いながらも決して言質を取らせずに立ち回る。第八師団長と言葉で殴り合っていた時の所作を思い出しながら立ち回り、いわゆるお見合いが終わる。

「父さん、いい加減にしてくれよ。もう10人目だぞ?」
「俺の気持ちも分かってくれ、同格以下は全部弾いてやったんだぞ!?」

 父さんも俺もグロッキーだ。父さんからすれば、自分と比べれば目の上の、目に入るだけで「田舎者が目に入って不快ですわ!」なんて言いかねないめんどくせぇ王都出身やら、へこへこ遜らないと最悪難癖で潰されるような格上ばっかり。
 俺は俺で、彼女たちを見定めて、それがバレないように国家が押し付けてくる英雄像を守りつつ、言質がとられないように立ち回らないといけない。なんだこれ、地獄か?地獄だったわ。


「あ、これ国王陛下からお前宛ての書状な?」

 中身をチラッとみると、これ以上大臣とかの圧力から逃げらんない!なんとか抵抗して二つの選択肢を用意できたからそのふたつから選んでくれ!
 上級貴族と結婚して玉の輿か、それともヴァルト地方の子爵様、好きな方を選んでね!だと。
 
クソがシャイセッ!なんで御家騒動を悪化させることしかしないんだ、アドルフを説得するのにどんだけ手間がかかると思ってんだ!?」
「落ち着けぇ!ってか、もう爵位でいいんじゃね?嫁さん選び放題…ってわけじゃないけどさ、お前の財力と名声なら側室を取れるだろ?」

「おー、国王陛下からそんなことも言われたなぁ。あんときは冗談だって笑い飛ばしてたけど」
 曰く、英雄の血を残すなら側室の1人や2人、10人だって大丈夫だろ。とは国王陛下のなげやり、ぶっちゃけトークである。普段はシュヴァーベルク大公に頭を下げるのメンドいとか、ブタンタリアがウゼェとかが大半だったから、このやり取りは結構記憶に残ってるんだよなぁ。

 メイド長が凄い目で俺を睨んでいたのがすげぇ記憶に残っている。
 あんときは下世話な答えをしたらどうなるか…分かるな?
 っていう感じの脅しだと思ったけど、今思えば「投げやりになるくらいに苦労させてんだよこの野郎」っていう意味だったかもしれない。


「お前、国王陛下にいい加減なんとかしろって言われて、事実上イヤだナイン!って意味の言葉を放てるの逆に凄くおかしくないか…?」
「……伯爵家が娘送り出してきたのが分かったわ。多分俺が独立するの読まれてるな?」

 正室になれば、そりゃもう大騒ぎだろう。俺が後世でロリコンの称号を歴史家たちから賜ることと引き換えに、伯爵家が情報通であること、それと同時に英雄様にウチの娘を正室として送り込めたけど~?とぼんやりマウントを取れるわけ。マウント合戦しないと死んじゃう政治家たちからすれば歯ぎしりするくらいに悔しがるだろう。
 
 そりゃ上級貴族だって躍起になるわ。王都の権力闘争とマウント合戦が常な政治情勢だと、そりゃポッと湧いてきたライヒ民族の英雄なんて肩書背負ったやつを何としても手に入れようとする。俺だってそうするから。

 頼むからもうちょっと国益とか考えられないんですかね…?
 っていうか、政治家たちが真面目に俺の意見を傾聴してた理由って……俺の政治的センスを見定めようとしてた?で、それで俺は見事政治家連中から合格だと判定された、と。
 
 うーん、それならポラーブ一般ラント法典の制定についてはもうちょっと手を抜けばよかったかもしれない。コツコツ頑張ってきたことが不当に評価されて今の立ち位置なのだから。


「……あれ、全部ひょっとして自業自得?」
「今更かよ、この政治と軍事のパーフェクトヒューマンめ」

 いやだ、俺は出世しとうない!権力闘争の歯車にされるなんてまっぴらごめんだ!俺は田舎で不労所得手に入れてのんびりと老後を過ごしたいの!
 安楽椅子に揺られて、本を執筆して、のんびりと老いて孫に囲まれて死にたい!


 あれかな。やっぱ婚約者を見殺しにしちゃったツケが今更やってきたんかなぁ。

「ウギギギギッ…」
「大変そうな顔してるねぇ。ライヒ民族の英雄にして俺の弟さま」
「ルデ兄!?」

 のんびりとした話し方。ユンカーらしくない算盤を弾いている人特有の目。全身からのんびりとしたオーラを放っている、一見するとどう見ても大博打を仕掛けて結果的にちょい収入程度に収める事業を計画するギャンブラーとは思えないルデ兄だ!

「いやぁ、我らが騎士様の武名はウチの商会にも届いてるよ。おかげで儲かること儲かること」
 ニコニコと笑いながらズイズイッと距離を詰めてくるこの積極的に空気を読もうとしないマイペースさがルデ兄の短所でもあり長所でもある。所謂変人さんだ。
 次男三男が変人で、長男は真面目さん。近所付き合いをしてたユンカーもそんな感じの評価してたしな。

「んで、ウチに来たのはあれでしょ?1000エーカーの農地の開拓でしょ」
「そうそう。そうなんだよね~。何せ利益率が悪くても、あの・・英雄様がウチみたいな木端商会に依頼してくれるとなればそりゃもう大騒ぎになるよねってコトで」
「よろしく頼む。んでも、大不作とか考えて小麦とジャガイモ、これはバランス良く育ててくれよ?」

 ルデ兄の商会は規模は小さくても堅実に儲けている商会で、ルデ兄をギャンブラーとか散々に言ってるけど割と投資している内容は真っ当なんだよね。ただ、ちょーっと規模が大きい投資しちゃうから資金繰りがちょっと怪しくなる時が多くて、結果的にギャンブルに見えてるってだけで。

 だからこそ、父さんは商会の方に息子を送り出したし、俺は二つ返事でルーデンス兄の代行プランに了承を出して、家で話し合おうかって手紙を送ったりもしていたのだ。
 商売は堅実に。ウチらみたいな経済基盤が弱い家こそ、大穴なんて狙わずにコツコツ投資を続けるべきだから。

「こっちとしてもユンカーに残された小作人を独自に裁ける権利があるからユンカーの農場代行の仕事はある程度自由にできる上に、収入も結構手堅いお仕事なんだよね~」
 あくまでもその権利はユンカーにのみ付与されるが、代行ならば問題はない。そう言った建前で、大規模ユンカーほど土地を管理することに旨味がないから、代行業を利用する。
 史実は知らないが、この世界ではそうだ。

 一見すると国家権力と商売人が結びつくことは不合理に見えるかもしれないが、国は基本赤字経営だ。商人がいないとやっていけないのである。それが行きすぎれば緊縮財政になって、増税を繰り返し、挙句の果てには大内戦に繋がってしまうのだが。

「言っておくけど、弾圧はしないでくれよ?俺の農場の基本方針は…」
「殺さず生かして経済を回す、でしょ?」
 鋭い目になるルデ兄に、俺はにっこりと笑みで返した。
 傭兵隊長ヴァレンシュタインの金看板だ。経済を回せば発展する。俺の狭い狭い荘園では、小作人たちは他の所の収穫量の1.5倍をもらうことができる。更に、狩猟所も解禁する。だって田舎だからどーせ狩猟しに来る奴いないし。
 森も1本伐採するごとに苗木を1本植えることを条件に自由な伐採を認めている。
 
 確かに経済力は上向いたけど、ウチの領地は狭いから大した成果は出てないんだけどね、ハハッ。
 
「んゆ、分かった。暫くしたら駐屯地に手紙を届けるし、ウチの方から出向くからさ。暫く家にいるんでしょ?せっかくだから軍隊生活教えてよ~」
「ハハッ、期待できるような話はないぞ~?軍隊って儲からない商売みたいなモンだからな」

「えー?でもいっぱい持ってけば一杯売れるんでしょ~?」
「言っとくけどウチの駐屯地にだって御用商人いるんだからな…?」

 ちゃっかり兄弟の絆を利用して御用商人の地位をかすめ取ろうとする油断も隙も無い兄上に、俺はつい苦笑しながらも。軍隊生活と商人としての生活を互いに話し合い、盛り上がった。
 
「あれ、じゃあ軍隊に使う書類の紙って結構需要があったりなかったり?」
「そりゃお前あるに決まってんだろ。一日に何十枚の紙が溶けると思う?」
 
「あ、珍しいけど女性も多い部隊なんだっけ?んじゃあ洗剤とか結構売れるんじゃない?」
「あー、それはそう。生憎とウチの御用商人はそっちは管轄外だからなぁ」

 まぁ、それとなく商売先を探られることはあったけども。それでも基本は兄弟水入らずの楽しい会話だ。父さんと母さんはそれを楽し気に眺めていて、夜にはゆったりとした穏やかな空気が流れ続けていた。

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