今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

文字の大きさ
1 / 59

第1話

しおりを挟む


 この俺、レジード・イルケシスの人生は、そう悪いものではなかったように思う。

 強がりじゃあない。
 たとえ今、山奥のあばら屋で、すきま風になでられながら床に伏しているとしても。
 生涯の目的を、80余年かけても達せられなかったとしても。

 ずっと……『村人』であったとしても。

 俺は満足している。
 それなりに。それなりにな。

「お師匠ざまああ゛あっ……!」

 粗末なベッドのかたわらで、色白の少女がぼろぼろと泣いている。
 しゃんとしていれば、俺のような田舎者から見ても、途方もない美人だというのに。

 今は涙と鼻水で、顔がめちゃめちゃだ。
 エルフの証である金の瞳も、今は悲しげに垂れ下がっている尖り気味の耳も、なんとも見ていられない。

「死なないでぐだざあい、お師匠ざばああああ!」
「無理を、言うな……寿命というやつだ」
「それにしたって! あと200年くらいは、普通大丈夫じゃないですかあ!」
「その感覚だけは直せと、俺は何度言った……?」
「5638回ですううう!」
「まことか」
「このパルル! 無粋な下級エルフといえど、お師匠さまの教えを数え間違えることなどありえません!」
「たいへんなまじめさは評価するが、教えをなぜ、覚えるのでなく、数える……っ?」

 激しくせきこんだ俺の胸に、エルフのパルルが細い手をのばし、しかしビクッと止める。
 どうすればいいのかわからないのだろう。

 我が生涯、たった1人の弟子。
 初めて出会ったときから、その愛らしい容姿こそほとんど変わっていないが。

「おまえには、悪いことをしたな、パルル……結局、望んだ修行を、つけてやれなかった」
「そんな……! そんなことありません! パルルはお師匠さまの弟子であれて、幸せ者でしたあ!」
「何を言う。おまえも、『勇者』になるのが目標だろう……この俺と、同じくな」
「は……はい」
「おまえには、しかし、感謝している。最後まで、ただの村人のままだった俺の修行に、ずっと付き合ってくれた……地道なことばかりで、嫌になることもあっただろうに」

 挙げ句、このざまだ。
 俺は満足しているが、それは俺が人間で……もうまもなく、死ぬからだろう。

 パルルの修行は、きっとこれからも続く。
 せめて、その道しるべとなってやりたかった。

「思い出す、な……日々の鍛錬。繰り返した腕立て腹筋のおかげで、この年まで病気ひとつせずにはすんだが……」
「ええ……わたしが10回腕立てをこなす間に、お師匠さまは1000以上をこなされ続けました。結局、その圧倒的なまでの差を縮めることもできず」
「畑も耕したな。農耕も修行の一環。おまえは文句ひとつなく、よく尽くしてくれた」
「ええ。ええ。山ひとつ完全に伐採してまるまる畑にするのは断じて村人1人の仕事じゃない、というパルルの意見。よくも事ここに至るまでスルーしてくださいましたねえ」
「狩りも……幾度も行った。修行とはいえ、楽しい思い出だ。おまえとともに鳥を射たことも、イノシシを得たことも、俺は忘れない」
「パルルも忘れません……! ドラゴンやらグリフォンやらを鳥とカウントし、大主魔猪グレート・ボアをかたくなに大イノシシと言い張られるどえらい認識格差! そこまでいくともう、お師匠さまは、い、1周回ってわたしの誇りですうっ……!」

 はは、と俺は口の端で笑った。
 ぼろくそに泣いていても、パルルはいつも通りだ。想いを伝えんとばかりによけいなことを言う。かわいいものだ。
 彼女なら、きっと叶えてくれるだろう。

 俺のかわりに。
 俺の、夢。
 目標。

 勇者の適性。

 ……なぜ俺は、村人の適性をもって生まれついたのだろうか。
 強くなれば、村人の己であっても鍛えれば、いつか勇者となるチャンスも生まれると思っていた。

 しかし今、俺に残っているのは、70年前に生家を飛び出したときにもらった魔除けのペンダントがひとつと、1人の弟子だけ。
 ……いいや、だけ、などと言ってはなるまいな。
 パルルは、俺には過ぎた弟子だった。

 それでも、むなしさがまったくないと言えば、さすがにうそになる。
 うそにはなるが――

「弟子よ……」

 最後の力を振り絞り、俺はパルルに手を差し伸べた。

――スキル 『村人』 水ランク98+風ランク95+地ランク97
――擬似的顕現・神聖技能<引くぐらいきれいな水>

 うっすらと光を帯びた水の球が、俺の指先にぷかぷかと浮かんだ。
 慌ててパルルが取り出した革袋の中に、それはぱしゃんと落ちる。

「ふうぅ……。持っていくがいい」

 使い果たした力で、それでも俺は微笑んだつもりだった。

「これが、村人の、せいいっぱいだ……」
「だからあ! 高ランク調整したスキルの複合で聖水生成するとか、王都の大賢者でも絶対できないですってばあ!」
「おまえは、いつも、そうだな……師を立ててくれる、よい弟子だ……」
「事実なだけなのにいいいいい最後までええええええ」

 確か、元ネタのスキルは、聖水<ハイプリエステス・ブレス>といったかな。
 俺のはしょせん、村人スキル。
 組み合わせただけ。まねごとにすぎない。

 情けないな。
 今際のきわにすら、こんなことしかしてやれないとは。

「わずかばかりの聖水だが、うまく、使って……今度こそ、どこかの勇者の、弟子……に」

 目がかすむ。
 いよいよか。

 パルルの泣き声が遠ざかり――かわりに、別の女性の声が、耳に響いてきた。

(レジードよ)

 これは。
 俺の、記憶の中の声……そうだ。

 母上。

 遠く、イルケシス〔勇〕家におわす、なつかしき我が母上の声だ。

(レジード。我が子よ。どうしてもゆくのですね。母はもう、止める言葉を持ちません)

 そうだ。
 旅立ちの日、確かにこうおっしゃっていた。
 今の今まで、思い出すことなくいられたのに……本当に、最期ということか。

 申し訳ありません、母上。なさけない息子でありました。

 あらゆる職業の頂点に君臨する特殊ジョブ、勇者。
 その恩恵を日々受けている母上ならば、それこそパルルの言うように、今なおご存命やもしれぬ……200年はさすがにどうかと思うが。

 最期にひと目、お会いしたかった。

(イルケシスに生まれながら、勇者適性を持たざるおまえを……よりにもよって、村人でしかなかったおまえを守る力が、母にはありません。せめて、この魔除けのペンダントを持っておゆき)

 とんでもありません。どうか嘆かないでください。

(おまえの義兄たちの目を盗んで持ってこれる物といえば、これくらいしかありませんでした。無力な母をゆるして、ゆるしてねレジード)

 母上の魔除けは今このときも、我が首元にかけております。
 生涯片時も、離したことなどありません。

(このペンダントの宝石は、唯一無二の魔珠。転生宝珠と言い、その名の通りの物です)

 母上。
 そんな貴重な物を、ありがたく。
 ははう……
 ……………………
 …………
 ……

 あっ。

(これからおまえは、『精霊との一体化』をはかるため、厳しい修行に励むのでしょう。万一、あやまって命を落とそうとも、一度だけ転生というかたちで助けてくれます。その結果、また巡り会えるかどうかはわからないけれど……さらばです、息子よ。義兄たちに見つからないうちにお行き。さらばです)

 母上。おお。
 転生とはやはり。ありが、いやそうじゃない。
 忘れていた。
 実家がキライだから、それごとまるっと。
 すまん、すみません母上、いやだからそうじゃなくて。

「お師匠さまああああああああっ――」

 パルル!
 俺は死なない。

 いや死ぬのは死ぬのだがまたもう1回、あっダメだ声が出ない。
 指すら動かせない。
 この体はもう終わりだ。

 なんということか。
 我が弟子よ。重ね重ね、本当にすまん。

 どうか、どうか。
 達者でな……!


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

処理中です...