魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第2章 テイマー

第68話

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 魔王ゼルスの領土から、人間の国だけを通って旅すること10日としばし。
 とある王国の豪奢な宮殿に、

「それで……おめおめと逃げ帰ってきたというのか!!」

 地鳴りのような怒声が響いた。
 平伏する、3人の勇者たち――剣士、槍術士、魔法使いのパーティ。
 壁際にいならぶ儀仗兵。ばらばらとたむろする上級大臣たち。
 そして、宮殿を縦に走る赤絨毯の先には、金の玉座を支える黒曜石の台座があり……

「余の怒りを鎮める旅だったのか! 煽り立てる旅だったのか! どちらだ!!」

 真っ赤な顔に王冠を戴いた老人が、つばを吐きながら勇者たちに怒鳴った。
 かたわらの文官たちも皆、苦々しい顔つきをしている。

「貴様らそれでも勇者か!? 平和ボケしておるのではあるまいな!?」

「お……恐れながら、大王様。あのように強力な魔王は、我々としても初めてで……」

「言い訳はいらぬ!! 余はラフカルディを引っ立ててくるか、首を持ち帰れと言ったのだ! あの裏切り者のな!!」

 老いた大王の指さした先、宮殿の壁が1部壊れている。
 巨大な何かが、外から躍りこんだような壊れ方で、まだ完全には修復もされていない。

「あの小娘が半端なしつけを……いいや、意図的かもしれぬ! この国を去ったあと、子飼いにしておったドラゴンどもに、余を殺すようにテイムしておったのだ!」

「申し訳ありません! 元とはいえ、私どものパーティメンバーからの失態、必ずや取り戻す気概で臨んだのですが……!」

「もうよい! それで、やつは死んだのか!? 生きながらえとるのか!?」

 死んでます! と魔法使いの女が顔を上げた。

「最後には、あの魔王と1騎打ちのかたちになっていました。生きているはずがありません!」

「ふんっ……よくわからんが、何なのだその魔王は。不気味なものだな……」

「は、はい。本当に底知れない魔王でした。……あっ、も、もしかすると!」

「なんだ?」

「あの魔王、人間を弟子とかいって、洗脳している様子でした! もしイールギットが、魔王に殺されずに洗脳されてしまったとすると、ここに復讐に来るかも……!」

「な、なにっ!? じょ、冗談ではない……やつは猛獣使い、やつ自身も猛獣であるぞ! だ、だから殺せと言ったのだ!!」

「ご安心ください! あの魔王ならともかく、たかがテイマーなどに負けはしません! そのときこそ、私たちが討ち取ってごらんにいれます!」

「まことだな!? か、確実に殺すのだぞ!?」

 はい! と答えながら、魔法使いが剣士たちに向けてにやりと笑う。
 これで失敗をうやむやに……かつイールギットの脅威が残っていると思わせて、自分たちの立場も守れた。

 イールギットが生きているわけはない。
 この話は、ここまでで終わりだ。

「どうにも溜飲が下がりきらんが……それは、まあ、食事で晴らすとしようか」

 大王の合図で、宮殿に食事が用意される。
 広々とした空間をめいっぱいに使った、宴の催しである。
 メインの肉料理がどんどんと、給仕たちによって途切れなく運ばれてくる。

「勇者たちよ、結果はどうあれ、長旅ご苦労であった。ともに食べ、疲れを癒やすがよい」

「ありがたき幸せ! ……しかし、これほどの肉は、いったい……?」

「あの小娘のドラゴンだ」

「ああ、あの」

「騎士団総出で捕らえて、半死半生のままにしておいたのだがな。昨日ついにくたばりおった。みなで食えば、ふたつの意味で腹癒せとなろうよ!」

「な、なる、ほど……さすがは大王様」

「余がいちばんに食うぞ! よいところを切って参れ! ふあーっはっはっはっはっはっはっ!!」

『あーっはっはっはっはっはっ!!』

「ふあーーーっはっはっはっはっはっはっ、はっはっ……、ん!?」

『あーーーっはっはっはっはっはっはっはっ!!』

「な……なんだ、誰だ!? けしからん! 余とともに笑ったのはどいつだ!?」

『あーーーーーっはっはっはっはっはっ!! 気に入らない!!』

 どよどよと、誰もが不安げに見回す中。

 ずるり、

 と剣士の青年の影から。
 影より暗いなにかが、宮殿に這い出してきた。

「ひいっ!? なっ……な、なんだあ……!?」

『気に入らない! あーっはっはっはっはっ! いや~気に入らないなあ!』

「こ、こいつっ……魔族!? い、いつのまに、俺の影に……!?」

『あんたらもそうでしょ!? アイツ気に入らないよねえ! すましちゃってさあ! お高くとまっちゃってさあ!』

「ぎ、儀仗兵、くせ者だぞーッ! 文官がたは王をお連れして逃げるんだ、早く!」

 わああ、と混乱をきたす宮殿の中央。
 真っ黒く屹立した小さな闇に、いきなり色がついた。

 金色の、長いツインテールの髪。
 闇ほどは深くない、黒のだぼついたローブ。
 くりくりした大きな赤い目で、にまにまと人間たちを見回している、それは――
 とても小柄な、普通の女の子に見えた。

「チビのくせに、人のことチビって言うしさ! メシだってゼルス様より食ってたしさ! 罠かけたら引っかかるけどかけ返してくるし、1発でも多く殴り返そうとしてくるしさ! コンジョー曲がってるよね!」

「な、何者だ! まさか、あの魔王の手の者か!?」

「もうさあ、ダイッキライ! ずっと、ずーっとダイッキライだったんだよねえ! 初めて会ったときから気に入らない! ひどい目に遭っちゃえって思ってたもん! マジで! ガチで! だからさあ!」

「さ……さっきから、なんだ!? 何の話をしてるんだ!?」

「感謝すべきなんだよね! おまえたちにはさあ、本来なら・・・・さあ! アイツのこと追放してくれてありがとーって! いたぶってくれてスカッとしたーって!」

「くっ、こ、こいつ……! さっさとここから出ていけ!」

「なのにさあ!」

「うおおおおおおお!!」

「なのにさあ!! …………なんでだろうねえ」

 斬りかかった剣士の聖剣が、

 じゅおっ

 と小さな音を立てて蒸発した。
 刀身から溶けて落ちるように。
 泥を固めて作った剣で、巨大な岩に斬りつけたかのように。

 ほうけたように動きを止めた剣士の頭が、パンッと弾けた。
 首から上がなくなった。

 血も出ない。
 残された体から吹き出すこともない。
 まるで最初からそういう物だったかのごとく、剣も頭も失った彼は、ごとりと赤絨毯に転がった。

「なっ……こ、こいつッ!!」

 続けて突きかかってきた槍術士の槍は、少女に届く前に軌道を変えた。
 どうしてか大きな弧を描き、

 ドスッ

 と確かな音とともに、棒立ちしていた魔法使いの腹を貫く。

「え……、あっ?」

「ちょ、っと、なにして……い、痛っ、え、ええっ……?」

「い、いや、俺じゃない! 俺、だけど、でも今、そっ――」

 パパンッ、と2人の頭も弾け、消える。
 わけもわからず静まりかえっていた宮殿に、ようやく絶叫がこだました。

 幾重にも響く悲鳴。
 音の奔流。
 勇者たちを呼ぶ者の声。
 逃げようとする者の足音。
 ぶつかり合ってままならない者たちの怒声。
 料理や食器がテーブルごと倒れ、割れて砕けてばらまかれる騒音。

 洪水のような恐怖のただ中にあっても。
 なぜか。
 金縛りのように立ち尽くしたままの大王の耳に、彼女の声は確かに届いた。

「なんでだろうねえ。本当に。ムシャクシャするんだ。ものすごく」

「……よ……余は……」

「アイツのことは気に入らない。ほんとだよ? なのに、おまえらが……おまえらみたいなゴミクズが、アイツのこといいように嘲ってるの聞くと。ムシャクシャするんだ。胸のまんなかのとこが」

「余は、な……なにも……!」

「なんでだろうねえ。わかんないねえ。でも」

「え、衛兵ッ! なにをしている、ひ、ひるむな! こやつを討ち滅ぼせ……!!」

「このムシャクシャ自体は、よく知ってる」

 取り囲み、喚声をあげて打ちかかった兵士たちを。
 少女のまわりに出現した、無数の黒球が迎え撃った。

 触れただけで蒸発してゆく。
 黒球が着弾した床が放射状に爆裂する。
 破片に襲われた上級大臣が、全身を切り裂かれてのたうち回った。

「この感じは」

 周囲の惨劇を意にも介さず、少女は大王に向けて嗤った。

「皆殺しにしなきゃ、おさまらないものだよ」

「っひ、い……!?」

「焼き払われる山々。迫害される同胞。光を投げこまれて悶え苦しむ闇。そういった類いが抱える感情だから、このままだとずっとムシャクシャする。元を絶たないと、いけない」

「余は、余は……!」

「余は?」

「し、死にたくないっ……!!」

「なんだ。名乗るのかと思ったよ」

 ぞわぞわぞわ、と少女の体から闇の粒子が湧き出した。
 揺らめく漆黒の中心で。
 少女の口元から、はじめて笑みが消える。

「我が名はマロネ」

 闇はゆっくり這うように、しかし決して止まらない。
 空気を侵食し、
 死体を侵食し、
 赤絨毯を侵食してゆく。
 ここがあたかも、魔界であるかのごとく。

「闇より出ずる古霊。魔王ゼルス様配下筆頭」

「だ、だ、誰かああっ……!!」

「憎きイールギットの名誉のため……ただの1人も、逃がしはしないよ」



 その日。
 ひとつの国の宮殿が、根こそぎこの世から消え去った。
 国王以下、文官武官のほとんどが行方知れずとなり、国は間を置かず崩壊してしまったという。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は2/19、19時ごろの更新です。
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