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第3章 前衛タンク
第74話
しおりを挟む「ただいまでぇ~す」
徐々に緊張をゆるませる謁見の間に、マロネがとことこ帰ってきた。
「いや~、びっくらこきましたね。ゼルス様」
「まったくな。たったあれだけの話をするためだけに、あんなぞろぞろ引き連れてきやがって」
「ゼルス様がうまく受け答えしなかったら、そのまま攻めこんでくるつもりだったんでしょ?」
「どうかな? あいつの領土はずっと北だ。こんな飛び地を手に入れたって、しょうがないだろう」
「それもそーですか」
俺を殺しておくつもりだった、ってのはあったかもしれないけどな。
魔王はそれぞれ、人間と敵対してるが、魔王同士で仲がいいわけじゃない……いるにはいるけどな、そういうのも。
だが基本、目障りな相手がいたら、排除しようとケンカを吹っかけてくる。
おまけに交渉事にうとい魔王ばっかだから、手段が腕力しかなくて面倒なんだ。
勇者育成疑惑がうそでも本当でも、せっかく来たのだから魔王くらい倒しておこう、となった可能性は高い。
そうしなかったのはたぶん、マロネの機転と……
「本当にアイツも、なんらかの形で勇者を利用しているか……。マロネよ。明日からラグラドヴァリエ領の諜報を頼む」
「がってんです。今から行きますよ?」
「いや、今はなんかもう、アレだ。疲れた。気晴らし的なことをしよう。城のみんなも安心させたいしな、『龍族1位追い返してやったぜパーティ』とか銘打って、パーッと」
「! パーティ!」
「ああ」
「どんちゃん騒ぎ! お酒! 酔っぱらうゼルス様! 介抱するマロネ! 見つめ合う2人! ラブレボリューション!」
「なんでもいいから準備を手配してくれ。……しかし、ドラゴンくさくなっちまったな」
ラグラドヴァリエとその搭乗獣、2体入ってきただけだったが、強烈な獣臭が今も残っている。
魔族だろうが人間だろうが、感性をにぶらされるにおいだ。
あるいはこれも、ドラゴン族の能力のひとつか……
ま、この謁見の間は、開放しっぱなしだからな。
ほっといたら換気されるだろう。
外までドラゴンくさくなってたらたまらんけど、さすがに――
「……ん……?」
くん、と俺は鼻に意識を集中した。
……なんだ?
今、なんか、違和感が……
ドラゴンのにおいの中に、また別の嗅ぎ慣れないにおいを感じたような。
気のせいか。
いやまて。
やっぱりおかしい――
「ゼルス様」
るんるんで謁見の間を出て行くマロネと入れ替わりに、アリーシャがそばに寄ってきた。
ちょっとまってくれ、においが…………、う~ん、アリーシャたんは今日も良~い香り。
ラズベリーみたいに甘くて爽やかなにおいだ。愛い愛い。
「どうした、アリーシャ?」
「あの、先ほどの……」
「先ほど? ……あ」
「龍族の魔王に、わたしのことを……」
「ち、違うぞ!? その、えっと、違うからな!? まさかこの俺が弟子の人間をそんな目で見ているとか、そんなのないからな!? 誓って!」
「いえ、あの……こすぷれというのは、何でしょうか?」
「…………うん?」
「人間社会の文化とおっしゃいましたが、不勉強なもので知りません。どういったものでしょう? 何に役立てるものですか……?」
……う~む。なんてこった。
ラグラドヴァリエよりピュア……いや世間知らずというべきか。
その。まあ。なんだ。
本来のニュアンスとはだいぶ違ってたけれども、そこのところはおいといて、と。
「仮装のことだヨ」
「ああ。そうなのですか」
「そうとも。人間たちはときに大勢で集まって、いろいろな仮装を楽しむというじゃないか。それのことなのであるよ」
「仮装が罪深い文化、なのですか……?」
「そのへん深くつっこまないでお願い――……」
おかしい。
やはりにおう。
アリーシャの香り、マロネの残り香。
慣れたにおいの中に紛れこんで。
なにか……これは……
「おい……」
「はい、さすがはゼルス様。実はわたし、仮装に凝っていた時期がありました。ご要望とあらば、女海賊でもなんでも」
「いや違くて。……いつからだ?」
「はい?」
「いつからそこに、そんな鎧あった……?」
俺が指さす、広間のすみ。
魔王城を巣立っていった弟子たちの石像|(よくラグラドヴァリエにこれツッコまれなかったよな)の端。
色合いこそ、石像とよく似てはいるが……
にぶくくすんだ銀色は、極めて硬質なミスリル銀のそれ。
完全防備のフルフェイスな兜が、弟子たちの石像に彫ってあるはずの顔部分を覆っている。
なにより。
ちっちゃい。
小柄なマロネの、さらに半分程度……
俺のひざ上ちょっとくらいしかないだろう。
そんなミニチュアな置物や像など、かざった覚えはない。
というか。
「あれは……?」
気づいたらしいアリーシャの前で。
がちょんっ
とその鎧が動いた。
「「なっ……!?」」
びっくりする俺たちに、鎧はその正面を向けた。
フルプレート。
兜の面も下りているせいで、鎧の中身は見通せない。
しかし、誰かが着ている。
めっちゃちっちゃい誰かが。
「お……おまえ、まさか……!?」
鎧は黙ったまま、ゆっくりと手を伸ばした。
かたわらの石像|(ガチ)のうしろから――巨大なハンマーを取り出す。
そっちはマジででかい。
柄の長さが俺の身長よりある。
ぶぶんっ、と軽々それを振り回し、
「魔王」
初めて鎧がしゃべった。
「覚悟」
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お読みくださり、ありがとうございます。
次は4/20、19時ごろの更新です。
(しばらくは1の位が0と5の日に更新して参ります)
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