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第3章 前衛タンク
第106話
しおりを挟む下着姿になってしまったテミティ様に、ありもののマントを巻きつけます。
第3勇者隊の装備です。
「感謝」
「いえいえ。…………」
「どうした」
……こんな状況でさえなければ……
見た目にはまるで、おめかし遊びをする幼子のようで……
魔王様の愛いをおともに、心ゆくまで鑑賞したいところですけれども。
「それにしても……途中からなんとなく、テミティ様の狙わんとするところだけは察していましたが。裏返しのミスリル、とは? 普通のミスリル鎧ではありませんよね?」
「ミスリルなことは、ミスリル。弾かず取り込む」
「……敵の攻撃を? そんなことが……」
「極めて特殊な製法。造れたとて、普通は板」
「鎧の形に加工するのが難しい、ということですか。確かに想像もつきません。いったいどちらの名工が……」
「がんばった」
「がんばりましたか。左様でございますか」
いかなドワーフが鋳造に長けた種族だとて、テミティ様お手製だなどと誰が思うでしょう。
何者ですか本当に。
「ドワーフのお姫様であらせられますし、あのラグラドヴァリエを倒してしまわれますし。異様な密度ですねテミティ様」
「甘いな。意外と。アリーシャたんは」
「たん……、甘い、ですか?」
「勝ちきれたものではない。あの程度で。あの飛龍魔王に」
「……!……」
思わず背後を振り返ります。
テミティ様の1撃で、大きくすり鉢状にえぐられた宮殿。
その底に潰れて倒れているソレからは、何の気配も伝わってきませんが……
確かに。なるほど。
今のこの感じは、倒せた気分とも違うものですね。
「今のうちに、トドメを……?」
「やめておけ。命を賭けることになる、我々も。この戦場はそれに値しない。いまだ秘めたるものもありそうだがな、そのガルマガルミアには」
「……はい」
「披露したいか? 今ここで。闇の精霊の目があるやもしれぬ中で」
やはりいらしているのですか、マロネ様も。
となれば話は早いですね。
「では」
「ああ。脱出」
「はい。テミティ様は、いかように?」
「どこからでも出られる。地精操作で。入ってくるのには苦労させられたが」
「地精、操作……」
「対策がされていなければ、もぐれる。地面だろうが岩盤だろうが。この城はザル」
「なんと……」
「魔王ゼルスの城もザル」
「なんと」
得心いたしました。
それで、あのとき……最初にお会いしたとき、誰にも気づかれずに謁見の間まで侵入してこられたのですね。
こんなチートな御方、改めて初めて見ました。
「では、テミティ様はお早く。わたしは姫様をさがして、連れ出して参ります」
「見ていたぞ。哀れな女だ、あれも。死なせてやるのも情ではないか?」
「……おっしゃる通りかもしれません。ただ、一宿一飯の恩義がございますので」
「ふむ……。ならば同じか、わたくしも。付き合おう」
「助かります」
テミティ様とともに、龍の宮殿を駆け出す瞬間。
ほんのひと呼吸だけ振り返り、わたしはそっと、下唇を噛みました。
わたしでは……まだ届きません。
ラグラドヴァリエが倒せないでいて、どうしてアレが倒せましょうか。
かの魔王のすさまじさは、わたしが――今現在は――最も身近で、感じているところ。
まだまだ、倒せません。
もっと精進しなければ。
もっと、もっと。……ずっと……
**********
ゴゴゴゴ、と重い魔力が渦巻いている。
俺がここに来たときには、もうそうなっていた。
耳が痛くなるほど、空気そのものが震えているな。
震源地は、言うまでもない。
なんだかすごいことになっている、ラグラドヴァリエだ。
『逃げられるとでも……思うておるのか……!!』
ごき、ぼき、と骨が砕け、またつながる音。
もともとの長身がさらに伸び、体表が碧いウロコに美しく覆われてゆく。
翼もなにやら増えていって、今や5対、6対……
う~ん。派手だなー。
俺もこういうことやったほうがいいのかな。
『こざかしい、下等生物どもが……! このラグラドヴァリエを本気にさせたこと、後悔させてくれるわ。ゆるさん……ゆるさんぞおおおおおおおおおお!!』
ドオオオ、と空間の魔力濃度が急上昇する。
氷がきしむような音を立てて、あちこちに色とりどりの珠が出現した。
エネルギーが固まって物質化したのか。
何の意味があるのかはわからんが、オシャレだなー。
『うまく利用してやろうと思うたが、もうよいわ。勇者など、いつでもどうにでもなる……わらわをなめくさった報い、その魂魄に刻んでくれようぞ! 親兄弟まで八つ裂きだ、ほほ、きょほほほほほ……!!』
ふーむ。
そいつは困るな……
『……その前に』
む――
ラグラドヴァリエの目元が光ったと思った瞬間。
俺が身を潜めていた金色の円柱が爆散した。
おいおい。
大した威力だが、ただでさえこのでっかい部屋、柱少ないだろ。
平気か? 天井落ちてきたりしないか?
『隠れてこそこそ盗み見おって……! ずいぶんいい度胸だ、逃げ出さぬとはな! 出てこい!? あのドワーフかアリーシャめの連れであろうが!』
「まあ、そうだけど」
『……! ほお……』
粉塵の向こうで、ラグラドヴァリエがこっちに体の向きを変える。
忙しいやつだな。
逃げたこと怒ったり、逃げてないこと怒ったり。
『今のを受けて無傷か……ふん。いちいち面倒なやつらよ、忌々しい』
「先にちょっかいかけてきたのはそっちじゃないか」
『なんだと? 我が配下のまぬけな作戦に勝手に引っかかったのは、あの――……』
ラグラドヴァリエが言葉を切る。
粉塵が晴れ、俺と目が合ったからだろう。
両腕を地面と水平に伸ばし、
足は直立、きれいにそろえたまま、
堂々と胸を張るこの俺と。
『な……』
「こうやれば小鳥がとまってくれるよ、という人間のアドバイスを忠実に実行してたら100年くらい過ぎてて地域の偶像と化してしまったサンドゴーレム!!」
今回の沈黙は長かった。
時が止まったのかとすら思った。
さすがの俺も、時間を操るすべなどは、身につけていないんだが……
『……き……さま』
「いや、考えてみたら、魔王に対してはやってみせたことないな~と思って。俺のこのモンスターモノマネギャグ。どう?」
『ゼルス……魔王ゼルス!! どういうことだ!?』
「ゴーレムってなぜか小鳥好きじゃない?」
『黙れ阿呆!! いつからだ!? いつから紛れておった!? なぜわらわがっ……側近の者どもが気づかなかった!!』
そりゃあ、まあ。
「お前が気づかなかったのは、なんでか知らんが……それだけアリーシャたちに夢中になってたんじゃないか?」
『なにを……!』
「他のドラゴンどもは、気づいてないわけじゃなかったぞ。うちのマロネを追っかけて集まってきたからな」
『……!! まさか……まさか貴様』
ユグスはやっぱり、ラグラドヴァリエの部下の中じゃ下っ端だったみたいだな。
あやつは四天王で最弱、とでもいったところか。
その後のほうが手間で、時間かかっちまったよ。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は9/30、19時ごろの更新です。
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