異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

文字の大きさ
10 / 52

第10話

しおりを挟む
「兄さん、落ち着きましょうよ。俺たちはただ、この子が借りた金を回収しに来ただけなんですから」
 冷静な口調の男は、俺を落ち着かせるように言いながら男たちを下がらせる。
 最初に絡んできた男たちは、その指示に素直に従うと渋い表情を浮かべながらも引き下がる。
 どうやら、この男がチンピラたちのまとめ役のような立場のようだ。
「まぁ、俺だってわざわざ揉めごとが起こしたいわけじゃないさ。もう少し紳士的に話ができないのかって言ってるだけだからね」
 話が分かりそうな男が出てきたことにホッと一息つき、俺は相手の顔をまっすぐに見つめる。
 内心ではかなりビビってしまっているけど、そんな雰囲気はおくびにも出さない。
 こういう輩は、こっちが怯えたり怖がっていると一気に畳みかけてくる。
 そうやって精いっぱい強がる俺の内心を知ってか知らずか、一目で堅気ではないと分かるその男は微かに口角を上げながら口を開いた。
「まぁ、こいつらが荒っぽいのは認めましょう。幼気な少女を恫喝するのは、あまりスマートだとは言えないですからね。でもね、もとはと言えばその子が借りた金を返さないことが原因なんですよ」
 口元だけで笑いながら鋭い視線を送ってくる男に、俺はわざと強気な態度で答える。
「だから、今月は少し待ってほしいって頼んでるじゃないか。返さないなんて言ってないんだから、それでいいだろ」
「さっきも言った通り、先月も同じセリフを聞いてるんですよ。しかも、返済分には足りなかった。なのに今月もこのまま引き下がるわけにはいかないんでね。兄さんだって、分かるでしょう? 我々の業界ってのは、舐められたら終わりなんですよ」
 男の言葉は本当なのか確かめるためにリーリアに視線を向けると、彼女はうつむきながら小さく頷く。
 どうやら、男の言っていることは全て真実のようだ。
「分かったでしょう? だったら、関係ない人は下がっていて欲しいんですがねぇ」
「そうはいかないさ。彼女には、一宿一飯の恩があるからね」
 俺が引き下がらないと分かると、男の眉がピクッと歪む。
 後ろで気色ばむチンピラたちを手で制しながら、男は俺に向けて圧を掛けてくる。
「兄さんも強情な人だ。だったら、あんたがこの子の保証人にでもなるかい? もし返済が滞ったら、あんたに借金を被ってもらうことになるが」
 保証人。
 その言葉に嫌な過去を思い出してしまい、俺は表情を歪める。
 それをどう解釈したのか、相変わらず辺りを囲んでいた男たちが一斉に調子づいた。
「なんだぁ? かっこいいこと言ってたくせに、怖気づいたのかぁ?」
「あんたが保証人にならないってんなら、やっぱコイツに払ってもらわないとなぁ。なぁに、見た目は良いんだから身体を使えばすぐに金は用意できるだろうさ」
 口々にそんなことを言いながら下品に笑う男たちに、思わず反吐が出そうだ。
 俺の背後でリーリアがビクッと震え、そんな彼女の反応を感じてチンピラたちに向けてふつふつと怒りが湧いてくる。
 そしてそれは目の前の男も同じだったらしく、小さく咳払いをして他の男たちを睨む。
 たったそれだけで男たちは静かになり、すぐにまた俺たちの会話が再開された。
「で、どうするんだ? 俺としては、金さえ回収できれば文句はないんだが」
 相変わらず冷静な男の言葉に、俺は覚悟を決める。
 大丈夫。
 まだ出会って数時間しか経っていないけど、リーリアは元親友あのバカとは違う。
 きっと彼女は、俺を裏切ったりなんてしないはずだ。
 それに……。
 俺はもう一度、背後に隠れるリーリアを振り返る。
 恐怖に怯えながらも、どこか思いつめたような表情を浮かべる彼女を見捨てるなんて、俺にはできない。
 もしここで見捨ててしまえば、きっと俺は俺じゃなくなってしまうだろう。
 せっかく異世界に転生して、自由に生きると決めたんだ。
 だったら、俺は俺のやりたいようにやらせてもらおうじゃないか!
 そう心に決めた俺は目の前の男に視線を戻すと、その顔をまっすぐに見つめる。
「分かった。俺が彼女の保証人になる。だから今月の返済はもう少し待ってやってほしい」
 そう言って懐から財布を取り出すと、それを目の前の男に渡した。
「足りないだろうけど、それは受け取ってくれ。なんなら、この剣も持っていってくれて構わない」
 俺の打ち直した剣を手渡すと、それを眺めた男は口角を緩ませた。
「ほぅ、なかなか良い腕だな。……気に入った」
 さっきまでの強い圧みたいなものが消え去り、男は笑みを浮かべて俺に視線を戻す。
 しかしそれも一瞬だけ。
 すぐに今まで以上の圧を放ちながら、男は俺を睨みつけてくる。
「財布はいらん。ただし、この剣は担保として頂いていく。それと、待つのは二週間だけだ。それまでに今月分の金を用意しておくんだな」
 そう言って男は、取り巻きを連れて工房の出口へと向かって歩き始めた。
 立ち去る前、振り返った男はもう一度だけ口を開いた。
「兄さんのおかげで命拾いしたな。まぁ、せいぜい頑張って金を集めるんだな」
 そう言って去っていく男の姿が見えなくなって、俺はやっと緊張から解放された。
「はぁ、殺されるかと思った……。リーリアは大丈夫だった?」
 頑張って笑顔を浮かべながら声をかけると、瞳に涙を浮かべた彼女は勢いよく俺に抱き着いてきた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...