魔法学校の嫌われ者カイア

しゃこじろー

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少女独居編13

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「すごいな、君は」

「い、いえ、私一人の力ではありませんので」

「どうやら君は、普通の者とは違う運命を歩んでいるようだ」

「へ?」

 よくわからないが、まるで何かを悟ったかの様子で見つめてくるリードさんは「ついてきて」と言うと女神像の背後へと回っていった。その姿を見たあと、私はネックレスに向かって「ありがとう」とつぶやくと、スーは「お役に立てて光栄だ」と言った。
 とても頼もしい言葉だったが、それと同時に自分の非力さを嘆いてしまった。おそらく私はこの非力さを嘆く事が、生涯においての習慣となってしまうだろう。

 そんな事を思いながら女神像の後ろへと回ると、そこではリードさんが待ち構えており、彼は女神像の土台となる部分に目を向けていた。
 そう言うとリードさんは女神像の土台部分に体をくっつけた。それはまるでこの女神像を動かそうとしているようだった。
 
 すると、女神像全体が徐々に動き始めた。ゴロゴロと音を立てながら動く女神像を押しながら気づいたのは、足元に階段のようなものが設置されており、それに気づいたときには隣にいたリードさんがその階段を下ろうとしていた。

「さぁ、早く降りてしまおう、この像は自動的に締まるようになっている。挟まれないように気を付けて」

 リードさんの言葉に従いながら身をかがめて階段をおりていった。

 薄暗い階段を恐るおそる降りていくと、徐々に光を感じ始めた。それはオレンジ色の温かみを感じる優しい光だった。
 そうして、光で照らされた場所にたどり着くと、そこに広がっていたのは広い空間と数多くの武器や防具だった。
 それはまるで日本を彷彿とさせるような代物ばかりであり、私は少し興奮した。

「すごい、どうしてこんなものがここにあるのですか?」

「聞いた話によると、ここはこの国における古代の戦士たちの拠点となっていたらしい」

「では、これは誰かのコレクションでも何でもなく本当に武器という事ですか?」

「どれも実戦のための本物だろう、見た所使用された形跡もあった」

 どうやらリードさんはここに幾度も足を運んだことのある様子だった。しかし、どうしてこのような物騒なところに私が案内されたのかがわからなかった。明らかに私とは遠い世界が広がっており、どことなく恐怖すら感じ取れた。

「あのぉ、リードさんはどうして私をこのような場所に連れてきたのでしょうか?」

「今日からここが拠点となるんだ、許可も取ってある」

「拠点?ここで一体何をされるおつもりですか?」

「個人的なことを言えば歴史を解き明かすといった感じかな?」

 疑問形で応えたリードさんはどこかお茶目にほほ笑んだ。彼自身もこの場所やキンという存在についての答えがはっきりと見いだせていないのかもしれない。

「歴史というと、魔法界の歴史という事ですか」

「あぁ、でも校長先生とアーモンド先生は違う目的があるらしい」

「違う目的ですか?」

「実は校長先生はこの魔法学校ができる前に、この場所を世界一の忍者学校にするつもりだったんだ」

「忍者学校?」

「まぁ、そうは言ったものの賛同者がいなかった事と、この学校の創設者である二人によって却下されたらしいんだが、校長先生は今でもそんな野望を抱いているだろうな」

「忍者だなんて、大昔の話だと思っていました」

「そうだ、俺も忍者は創作物の一つだと思っていた。だが、ここにきてその価値観はひっくり返った。これらのモノは間違いなくかつて栄えた時代の遺物だ」

 目の前の光景とリードさんから発せられる言葉は、あまりに衝撃的で私のお堅い頭の殻が徐々に砕けていくように感じた。
 それはと持て新鮮な感覚であり、私はリードさんという人の魅力に浸かりそうになっていた。
 
「ちなみにだが、俺の見立てではここよりもさらに下があると踏んでいる」

「さらに下があるのですか?」

「あぁ、これより下が存在すると俺は思っている」

「ですが、見た所下に行けるような場所は見当たらないような気がしますが」

 見渡してみても扉やさらに地下へと続くような会談は見受けられなかった。

「そうだな、俺もこの場所をくまなく調べさせてもらったが、悔しいことにどこにも下につながるような場所は見当たらなかった」

「では、どうして更に下があると思われたのですか?」

「・・・・・・感じないか、この底から湧き上がってくるような圧倒的な気配を」

 リードさんは大まじめな顔をしながらそう答えた。彼の表情は真剣であり、その様子はまるでこれより下の階層があると確信しているかのようであった。
 しかし、私にはその湧き上がってくるであろう気配をうまく感じ取ることができずにいた。むしろ、どこか心地の良いような感覚の方が強かった。

 これが魔法の才能のあるものとないものの差なのかもしれないと勝手に解釈しながら地面を見つめた。

「すみませんリードさん、私にはよくわかりません」

「いいんだ、あくまで個人の感想だ。ただ、この場所はおそらくかつて交流を持っていた世界との懸け橋となっていた可能性がある」

 リードさんの言っている話がうまく理解できなかった。しかし、言葉だけ理解するならば、それはまるでこの下に今いる場所とは違う世界が存在していて、かつてはその場所を交流していたかのような発言だった。

「その世界というのは一体どのようなものなのですか?」

「異界モンス、かつて地上の魔女たちと交友関係にあったとされた世界だ」

「初めて聞く名前ですが、それは絵本や小説などに登場する伝説の場所かなにかですか?」

「モンスはおとぎ話じゃない、実在するはずだ」

「では、モンスとは一体どのような所なのですか?」

「・・・・・・はっきりとは言えない、何せこの目で見たことはないからな」

 リードさんは少し悔しそうに言った、しかし彼の顔は微笑んでいた。

「そうなんですね」

「あぁ、だが聞いた話によるとモンスには地上では見たことのない動物や植物がいるとても素晴らしい所だそうだ」

 ただでさえ魅力的な魔法学校という場所に来たというのに、私はリードさんの語るモンスという場所にさらに惹かれてしまった。

「だが、今となってはもう行くことも、誰かがその事について話す事もない」

「もしかして、召喚魔法のように禁忌ということになっているのですか?」

「モンスについての情報は意図的といってても過言ではない程に隠されている、そして、俺たちのような若い世代がそれを知り得るのは難しいことなのかもしれない」

 何もかもがわからない。しかし、だからこそリードさんは何かがあるかもしれないという希望的観測を持ったのだろう。そして私も彼に触発されていた。

「なんだか、リードさんの話に私も興味が湧いてきました」

 私の一言にリードさんはにやりと微笑みながら顔を向けてきた。

「わずかな知識をひけらかした甲斐があった」

 リードさんは「へへっ」と恥ずかし気に笑って見せた。

「私も、キンやモンスについて調べてみたくなりました」

「そうか、じゃあそんな大角さんに一つアドバイスだ」

「はい」

「調べるのはもちろんだが、そこにスパイスを加えるのが肝だ、これは魔女としての器量にもかかわってくるから覚えておくといい」

「スパイスというのはどういう事ですか?」

「とりあえずはイメージが大切って事にしておこう、魔女にとって想像力というものは非常に重要なものだ」

「想像力・・・・・・」

 小さなころから想像する事は日常茶飯事だった。寝る前なんかは特に想像力があふれ出していた。気づけば寝ていることが多かったが、そのせいか摩訶不思議な夢を見ることも多く、私の心をいつも癒してくれていた。

 まさか、そんな現実逃避とも思える行為が魔女として必要なことだったとは夢にも思わなかった。

「原初の魔女と呼ばれる俺たちの祖先は、釜に想像力を投げ入れてはかき混ぜ、現在における大いなる魔法の基礎を作り出したともいわれている。現代の魔女はもちろん魔女見習いの誰もがこの意識を学ぶが、この基礎的な部分についつい目をそらしがちだ。
 しかし魔法界におけるマスター達は皆、口をそろえて想像力について深く語る、それは間違いなくそこに魔女としての真理が秘められているからに違いないと思っている」

 リードさんの熱心な言葉を私は一言も逃すことなく耳に入れて頭に大切にしまい込んだ。思わず頭の中がパンクしそうな程の情報量に思えたが、頭だけではなく心にもその言葉をしまい込んでみると意外とすんなり収まってくれたような気がした。

「その言葉をしっかりと頭と心に留めておきます」

「あぁ、大角さんがいい返事をしてくれて俺はうれしいよ」

 こんな私に対しても魔女とは何かと教えてくださるリードさんは本当に優しいお方だ、いうなれば私にとって身近な先生、いや師匠ともいうべき人なのかもしれない。

「ちなみにですが師匠、ここの事を知っているのはどれくらいいるのですか?」

「・・・・・・師匠?」

 リードさんはきょとんとした顔で見つめてきた。

 と、同時に私は思っていることがつい口に出てしまっていた事を恥じながら口に手を当てた。そうして押し黙っているとリードさんは大笑いし始めた。私は必死に無礼な言葉を訂正しようと訴えかけてみたが彼は聞く耳を持ってくれなかった。

「いやぁ悪くない、今日から俺は君の師匠になろう。困ったことがあったら俺に聞きに来るといい、教えられることは教えよう」

「あ、あのこれは違うんです、心の声が漏れ出てしまって」

「何が違うんだ、別に俺は構わないぞ?」

「し、失礼ではありませんか?」

「構うものか、君は俺の初めての弟子だ」

「よ、よろしいのですか?」

「あぁ、でも二人の時だけだな。大角さんにも色々と迷惑がかかるだろうから」

「私は大丈夫ですがリードさんは?」

「構わない、それよりもさっきの質問だが、この場所の事を知っているのは校長先生とアーモンド先生と俺の三人だ、そして君が四人目だ」

「学校の先生方もここの事は知らないのですか?」

「ベリル屋敷周辺は一応校長先生の管轄だから限られた人以外は立ち入らないことになっている。だから、本館の先生たちもほとんどここには来ない」

 とても貴重な場所に訪れた私は急に緊張感が増してきた。しかしそんな緊張もつかの間、師匠が腕時計を気にする様子を見せたかと思うと「長居は禁物だ」と言い、私たちはそそくさとこの場を後にする事となった。

 帰り際、女神像から這い出てきた時に私はふと、思ったことを口に出してみることにした。

「あのぉ、師匠」

 なれない言葉を口にしながらおずおずとリードさんを見つめると、彼は優しい笑顔で私を見つめてくれた。

「なんだい?」

「ふと思ったことなんですが、このアザミの上を飛び越えることはできないんですか?」

「おぉ、良い質問だ弟子よ」

 私が師匠と呼び、師匠が弟子と呼ぶ関係に少しだけ心が浮ついた。それはかつて本で読んだことのある様子そのものであり、私は無性にうれしくなった。

「私、空を飛べる魔法や高くジャンプする魔法にとても興味あります」

 人間なら誰しも空を飛んでみたいと考えたことがあるはず、私だってよく空を見上げてはさっそうと飛ぶ鳥を見てはよく憧れたものだ。

「確かに、そうした魔法はあるし君たち新入生はいずれ学ぶ事になるだろうな・・・・・・」

 師匠は少し微笑みながらどこか言い淀んだ。そして、唐突に私の方を向くと右手の人差し指を天に向かってピンと立てた。
 その様子に思わず空を見上げてみるも、そこには青空と雲が漂うだけだった。しかし、そんな様子に師匠は「違うちがう」とつぶやき、私は再び彼に視線を戻した。

「エルメラロード魔法学校の七不思議その一、ベリル屋敷の女神像周辺では魔法が使えない」

「で、ですが先ほど「ナギ」という呪文を使っていたのでは?」

 突然に七不思議を教えられた私はあっけにとられたが、すかさず先ほど教えてもらった魔法の言葉を思い出して口に出した。すると師匠は慌てた様子を見せた。

「おっとと、言い忘れていたけどその呪文は絶対に口外しちゃだめだ。文字に残すのもダメ、これはトップシークレットだ」

「えっ、すみませんっ」

「いやいや、わかってくれればいいんだ。でも覚えていてほしい、この呪文は本当に限られた者にしか伝わらない口伝だと教わった。だからそれを守ってもらいたい」

「は、はい」

「ありがとう」

「ですが、そのような貴重な呪文をどうして私に?」

「何度も言うが君は例外だ、君にそれを自覚しろとは言わないが俺はそうだと聞かされているし、今日ではっきりと確信した」

「そんな、私なんて・・・・・・」

 あまりうれしくはない確信だったが、師匠は嬉しそうにしていた。

「それで質問に戻るが、さっきの呪文は俺たちが普段使ったり習ったりする魔法とは明らかに違うという事だ、それこそ人それぞれに属性があるようにこの呪文はどこか例外的な呪文なのかもしれないという事だ」

「例外的な呪文というと?」

「あまりにも異質で謎めいた呪文だ、魔法界にはまだまだ不思議なことが隠れているのかもしれないということだ。
 いや、あるいは新たに湧いて出てきているのかもしれないという仮説も俺の中にはある」

 なんだかとてもワクワクとした様子の師匠は、今にも走り出してしまいそうなほど体を揺らしていた。

「とにかく、俺はその解明に人生を捧げたいと思える程ワクワクしている、だから君にも協力してもらいたいんだ」

 そう言うと師匠は私に手を差し伸べてきた。まったくもって話しについていけていない私だったが、それでも師匠の熱量がかすかに伝わってきた私は彼の手に応えた。
 そうして「裏庭での出来事は秘密」という言葉と共に師匠は私の手を離して去って行ってしまった。その言葉を胸に秘めて私は自室へと戻ることにした。

 道中、先ほどまでの出来事を思い返しながら歩いていると、まるで私を待ち構えていたかのようにベリル屋敷の入り口でアルバ様がいた。彼は私を見つけた様子を見せると、ツカツカと私の元へとやって来た。

「アルバ様?」

 思わず彼の名前を口に出すと、アルバ様は怒った表情をした。

「おい、その呼び方はやめろっ」

「す、すみませんっ」

「いいかっ、俺とお前はただの同胞であってそれ以上でも以下でもない、わかったか?」

「失礼しました」

「そんな事よりも、どうしてお前がリードさんと同じ方向からやって来たんだ」

「それはその、あちらで少しリードさんとお話をしていましたので」

 すると、アルバ様はより一層眉間にしわを寄せて詰め寄ってきた。

「まさかお前っ、リードさんを誘惑したんじゃないだろうな?」

「はぇっ!?」

 思いもよらぬ言葉に思わず動揺して変な声を出してしまうと、アルバ様は真剣な表情で私を見つめてきた。そのあまりにも鋭い視線に耐えきれない私は目を背けた後、すかさず否定することにした。

「ゆ、誘惑だなんてそんな事を私がするわけありません。それに、誘惑なんてどのようにすればよいのかわかりませんっ」

 必死に弁明するとアルバ様は私から距離をとった。すると、しばらく私を上から下まで、まるで品定めするかのように見つめられた後、彼は「ふんっ」と、まるで鹿乃瑚おばさんの様に鼻から声を出した。

「まぁ、お前みたいなのがリードさんをどうにかできるわけないか」

 何やら、物事が良くない方向へと言っているような気がした。これ以上の厄介を避けるために深々と頭を下げ謝罪の言葉を残し、アルバ様から逃げるように自室へと戻った。
 部屋に戻り、アルバ様がどうしてそのようなことを口にしたのかを真剣に考察していると、あっという間に日が暮れてしまった。
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