魔法学校の嫌われ者カイア

しゃこじろー

文字の大きさ
32 / 38

少女独居編19

しおりを挟む
 随分とご機嫌の様子の大烏を背に、内心ではもう少しあの鳥を観察してみたかった所だったが、私の本文はこの補修をすぐにでも終わらせてペラさんに謝罪しなければならない。そう思うと私は力がみなぎってきて、前を走るアルバ様の背中を必死で追いかけた。

 その後は道のりを進むままに大烏の巣へと向かっていると、ようやくそれらしき場所にたどり着いた。そこには大きな看板が立てられており『このさき大烏の巣!!!』と書かれていた。それはどこか注意標識の様であり嫌な予感がした。

 しかし、そんな看板をものともしない様子のアルバ様はズカズカと歩みを進めた。相変わらずではあるが私もそのあとに続くと、そこには大きな巣のようなものが姿を現した。それは私が思い描く鳥の巣そのものではあったが、想像していたものよりもはるかに大きく、それでいてその巣からは明らかに卵と思われるものが置かれていた。

 だが、私はその卵を目にした途端に強い違和感を感じた。そう、それは目の前にある卵であろうそれはわずかに青みがかって無数の斑点で埋め尽くされていた。そして私が背負っている卵は白く斑点も少なめだ。そのことに気づいた私は頭が混乱した。

 果たして、私はこのままこの卵をここに置いて行って良いのだろうか?

「・・・・・・違う」

 アルバ様は突然そうつぶやくとギラギラとした目つきで私を見つめてきた。頭がこんがらがっていたとしてもアルバ様の言葉はしっかりと私の耳に届くものらしい。
 そんな事を思っていると、アルバ様は勢いよく私の背負う卵に駆け寄ってきた。そして、注意深く観察する様子を見せたかと思うとアルバ様は片手で頭を掻きむしり始めた。その様子があまりにも動揺しているかのようであり、思わず声を掛けた。

「ど、どうかなされたのですか?」

「どうもこうもない、いや、よくよく考えればそもそもこの補修とやらに何の意味もなかったんだ。あいつはただお前を貶めたかっただけなんだ」

 そうして、アルバ様は自分を責めるかのような言葉をいくつか吐き捨てた。おそらく彼も、私同様にこの状況に混乱している様子だった。だが、私の混乱というものはアルバ様が思っているものとは少し角度が違ったものだという事だけははっきりとしていた。

 そう、私はこの期に及んで自らが背負う卵の心配をしていたのだ。

 もしも、この卵が大烏のものではなく別の鳥の卵だったとしたら。もしかすると、この卵を大烏の巣に預けたら乱暴に扱われて捨てられたりするかもしれない。
 あるいは、大烏に食い漁られたりなんてことも・・・・・・あぁ、考えれば考えるだけ心配になってくる状況の中、アルバ様が私を呼んでいるのに気づいた。

「おいっ」

「は、はいっ、どうかいたしましたか?」

「早くその卵を巣に返せ、それで一応目的は達成だ。とっととこの場を離れて帰るぞ」

「・・・・・・」

 アルバ様の言っていることは正しい、そして私の本文である補修をこなしてペラさんに謝罪に行くという行為に最も近い選択だろう。しかし、どうしてか私はアルバ様の選択に納得できずにいた。
 ありえない選択に思えるが、私の心はもう何もかも出来得る全てのことを達成したいという無謀な気持ちになっていた。

「あの、アルバ様」

「なんだ」

「この卵はひとまず持ち帰るという事でいかがでしょう」

 わかってはいたが、私の言葉にアルバ様は険しい顔をしながら私をにらみつけてきた。

「はぁっ、お前は何を言ってるんだ」

「ですから、見たところこの卵は大烏のものではないように見えます。なので、ひとまず持ち帰ってもう一度この卵が本当に大烏の卵なのかを先生に確認したいと思いまし」

 私が言い終わる前にアルバ様は「ふざけるなっ」と声を荒げて私に詰め寄ってきた。

「今は非常事態だっ、一刻も早く最良最短の選択をしなければ、俺達は不幸な事故にあった哀れで未熟な魔女見習いとして後世に語り継がれることになるんだぞっ」

「ですが・・・・・・」

「いいからその卵を巣に置けっ」

 アルバ様の言っていることは正しい、やはりそれだけに私は彼の言葉にしっかりと反論することができず、わけのわからない直感で物事を考えて行動しようとしている。
 これは、いわゆるワガママというやつなのだろうか。思いついた全ての事をその場その場で切り抜けようとする行為は、私の心の中にあるどこか不自由な気持ちの反動だったりするのだろうか?

 考え出したら止まらない、今この状況でどうすれば良いのだろう。そう思うと私はその場で立ち尽くす事しかできなくなってしまった。すると、目の前のアルバ様が私につかみかかってきた。

「いいから寄越せ、初めから俺に任せておけばよかったんだよ」

「いやっ」

 私はアルバ様の腕を振り払って卵を守るかのようにアルバ様から距離をとった。すると、アルバ様は怒りを通り越して、困惑か憐れみを含んだような絶妙な表情をして見せた。

「なんなんだお前は」

 その言葉に私は強く共感した。私がもしアルバ様の立場だったなら私も同様の事を思っただろう。けれど、これが私の本心なのだろう。憧れの人を前にして、なおかつ最良の選択であろうものを蹴ってまでも私はこの選択をしたのだ。

「やはり、この卵は持って帰ってヤグルマ先生に報告してみます」

「だから、もとより卵なんざどうでもいいんだよ、あのヤグルマってやつはお前という存在を消してしまいたいだけの狂人だ。いいからそんな卵はほっておけ」

「で、できません」

 精一杯の無茶な子どもじみた反論を口にすると、アルバ様は再び私に歩み寄ってきた。それはもうしびれを切らしたアルバ様が力づくで私から卵を奪い取ろうとしているかのようであり、わずかながらに恐怖を感じる瞬間だった。

 しかし、アルバ様は突如として歩みを止めた。そして、何かに感づいたかのようにあたりを見渡し始めた。彼の様子に私もあたりを見渡してみると、どこか違和感に気づいた。
 あたりが妙に騒がしい、そして、幾度となく聞いてきた風のざわめきと地面から這い寄ってくる地鳴りの様な音に気付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...