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序章
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人間族の英雄と悪魔族の首領による戦争が終結して久しく、多種多様な異種族たちが共存の道を歩んだ世界。平和な世において冒険者たちは害意ある魔物の討伐、および魔物の根城たる迷宮の踏破を主目的とした。
東の国から来た流れの魔女アシャも冒険者稼業を生業にし、様々なパーティを渡り歩いた。現在のパーティは歳の差がニ、三歳ほどと年代が近く、今までにない居心地の良さを感じていた。
前衛で斬り込み隊長を務めるリーダーの斧使いバーナード。帯剣と大盾で後衛を守る剣士ロック。魔法障壁や癒しの術を得意とする聖職者ルネ。
攻守のバランスの取れた四人パーティは安定感をもって数々の依頼をこなしていった。結成から三年目を迎え、まさにこれからといったところだった。
荒々しい山脈がそびえ立つ僻地での魔物討伐を果たして、王都へ帰還する道すがら。四人は野宿のためにテントを張り、倒木を椅子に焚き火を囲んでいた。
厳しい冬の時期だけあって周りは一面の雪景色で、音もなく斑雪が降り積もっている。吐く息も白く、温かい木製のマグカップを持っていなければ、指先はもっとかじかんでいただろう。
「そういえば、あたし明日で誕生日だ」
火の番の順番はどうするか等のとりとめもない雑談の最中、アシャがぽつりと呟く。
「まぁ、おめでとうございます。お幾つになられましたの?」
隣で座っていたルネは琥珀色の目を細めて柔和に微笑んだ。全員分の紅茶を淹れてくれたのは彼女だ。
アシャは即答せず、湯気が少なくなったのを見計らい、一口飲んで喉を潤す。
付き合いはそれなりに長くなったが、ほとんど仕事仲間としてのみ接しておりプライベートの情報はあまり明かしていなかった。
別段、隠している訳ではなく、率先して開示する必要がなかっただけだ。元々歳が近いとは言っていたし、正確な年齢を伝えたとて何も変わるまい。
「明日で三十路になるよ。他にやれることがなかったのもあるけど、人生の半分を冒険に費やしてきたな」
各地に支部を持つ冒険者専用ギルド・ワンツリーの加入試験に、わずか十四歳で挑んだ日が懐かしい。あの頃は食い扶持を稼ぐことしか頭になく、心を固く閉ざしていて、誰も信用していなかった。
「そ、そうなんだ……」
「アシャがおれたちより歳上なんて知らなかったなぁ」
ロックの相槌を引き継ぎ、バーナードが続けざまに言う。二人とも怪訝そうにした後、誤魔化しの苦笑いを浮かべた。
上手く形容しがたい微妙な反応だったが、すぐに気を取り直して誕生日を歌で祝ってくれたため、その場では軽く流した。
一瞬流れた不穏な空気を、アシャは気のせいだと思いたかった。
しかし数日後、無事に王都へ到着し、ギルドに依頼達成を報告し終えた矢先。バーナードは仲間たちに相談事があると切り出してきた。
間借りしている宿屋の大部屋で顔を突き合わせて、提案されたことは。
「あたしを……パーティから外す?」
アシャへの突然の解雇宣言だった。
東の国から来た流れの魔女アシャも冒険者稼業を生業にし、様々なパーティを渡り歩いた。現在のパーティは歳の差がニ、三歳ほどと年代が近く、今までにない居心地の良さを感じていた。
前衛で斬り込み隊長を務めるリーダーの斧使いバーナード。帯剣と大盾で後衛を守る剣士ロック。魔法障壁や癒しの術を得意とする聖職者ルネ。
攻守のバランスの取れた四人パーティは安定感をもって数々の依頼をこなしていった。結成から三年目を迎え、まさにこれからといったところだった。
荒々しい山脈がそびえ立つ僻地での魔物討伐を果たして、王都へ帰還する道すがら。四人は野宿のためにテントを張り、倒木を椅子に焚き火を囲んでいた。
厳しい冬の時期だけあって周りは一面の雪景色で、音もなく斑雪が降り積もっている。吐く息も白く、温かい木製のマグカップを持っていなければ、指先はもっとかじかんでいただろう。
「そういえば、あたし明日で誕生日だ」
火の番の順番はどうするか等のとりとめもない雑談の最中、アシャがぽつりと呟く。
「まぁ、おめでとうございます。お幾つになられましたの?」
隣で座っていたルネは琥珀色の目を細めて柔和に微笑んだ。全員分の紅茶を淹れてくれたのは彼女だ。
アシャは即答せず、湯気が少なくなったのを見計らい、一口飲んで喉を潤す。
付き合いはそれなりに長くなったが、ほとんど仕事仲間としてのみ接しておりプライベートの情報はあまり明かしていなかった。
別段、隠している訳ではなく、率先して開示する必要がなかっただけだ。元々歳が近いとは言っていたし、正確な年齢を伝えたとて何も変わるまい。
「明日で三十路になるよ。他にやれることがなかったのもあるけど、人生の半分を冒険に費やしてきたな」
各地に支部を持つ冒険者専用ギルド・ワンツリーの加入試験に、わずか十四歳で挑んだ日が懐かしい。あの頃は食い扶持を稼ぐことしか頭になく、心を固く閉ざしていて、誰も信用していなかった。
「そ、そうなんだ……」
「アシャがおれたちより歳上なんて知らなかったなぁ」
ロックの相槌を引き継ぎ、バーナードが続けざまに言う。二人とも怪訝そうにした後、誤魔化しの苦笑いを浮かべた。
上手く形容しがたい微妙な反応だったが、すぐに気を取り直して誕生日を歌で祝ってくれたため、その場では軽く流した。
一瞬流れた不穏な空気を、アシャは気のせいだと思いたかった。
しかし数日後、無事に王都へ到着し、ギルドに依頼達成を報告し終えた矢先。バーナードは仲間たちに相談事があると切り出してきた。
間借りしている宿屋の大部屋で顔を突き合わせて、提案されたことは。
「あたしを……パーティから外す?」
アシャへの突然の解雇宣言だった。
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