1 / 47
序章
しおりを挟む
人間族の英雄と悪魔族の首領による戦争が終結して久しく、多種多様な異種族たちが共存の道を歩んだ世界。平和な世において冒険者たちは害意ある魔物の討伐、および魔物の根城たる迷宮の踏破を主目的とした。
東の国から来た流れの魔女アシャも冒険者稼業を生業にし、様々なパーティを渡り歩いた。現在のパーティは歳の差がニ、三歳ほどと年代が近く、今までにない居心地の良さを感じていた。
前衛で斬り込み隊長を務めるリーダーの斧使いバーナード。帯剣と大盾で後衛を守る剣士ロック。魔法障壁や癒しの術を得意とする聖職者ルネ。
攻守のバランスの取れた四人パーティは安定感をもって数々の依頼をこなしていった。結成から三年目を迎え、まさにこれからといったところだった。
荒々しい山脈がそびえ立つ僻地での魔物討伐を果たして、王都へ帰還する道すがら。四人は野宿のためにテントを張り、倒木を椅子に焚き火を囲んでいた。
厳しい冬の時期だけあって周りは一面の雪景色で、音もなく斑雪が降り積もっている。吐く息も白く、温かい木製のマグカップを持っていなければ、指先はもっとかじかんでいただろう。
「そういえば、あたし明日で誕生日だ」
火の番の順番はどうするか等のとりとめもない雑談の最中、アシャがぽつりと呟く。
「まぁ、おめでとうございます。お幾つになられましたの?」
隣で座っていたルネは琥珀色の目を細めて柔和に微笑んだ。全員分の紅茶を淹れてくれたのは彼女だ。
アシャは即答せず、湯気が少なくなったのを見計らい、一口飲んで喉を潤す。
付き合いはそれなりに長くなったが、ほとんど仕事仲間としてのみ接しておりプライベートの情報はあまり明かしていなかった。
別段、隠している訳ではなく、率先して開示する必要がなかっただけだ。元々歳が近いとは言っていたし、正確な年齢を伝えたとて何も変わるまい。
「明日で三十路になるよ。他にやれることがなかったのもあるけど、人生の半分を冒険に費やしてきたな」
各地に支部を持つ冒険者専用ギルド・ワンツリーの加入試験に、わずか十四歳で挑んだ日が懐かしい。あの頃は食い扶持を稼ぐことしか頭になく、心を固く閉ざしていて、誰も信用していなかった。
「そ、そうなんだ……」
「アシャがおれたちより歳上なんて知らなかったなぁ」
ロックの相槌を引き継ぎ、バーナードが続けざまに言う。二人とも怪訝そうにした後、誤魔化しの苦笑いを浮かべた。
上手く形容しがたい微妙な反応だったが、すぐに気を取り直して誕生日を歌で祝ってくれたため、その場では軽く流した。
一瞬流れた不穏な空気を、アシャは気のせいだと思いたかった。
しかし数日後、無事に王都へ到着し、ギルドに依頼達成を報告し終えた矢先。バーナードは仲間たちに相談事があると切り出してきた。
間借りしている宿屋の大部屋で顔を突き合わせて、提案されたことは。
「あたしを……パーティから外す?」
アシャへの突然の解雇宣言だった。
東の国から来た流れの魔女アシャも冒険者稼業を生業にし、様々なパーティを渡り歩いた。現在のパーティは歳の差がニ、三歳ほどと年代が近く、今までにない居心地の良さを感じていた。
前衛で斬り込み隊長を務めるリーダーの斧使いバーナード。帯剣と大盾で後衛を守る剣士ロック。魔法障壁や癒しの術を得意とする聖職者ルネ。
攻守のバランスの取れた四人パーティは安定感をもって数々の依頼をこなしていった。結成から三年目を迎え、まさにこれからといったところだった。
荒々しい山脈がそびえ立つ僻地での魔物討伐を果たして、王都へ帰還する道すがら。四人は野宿のためにテントを張り、倒木を椅子に焚き火を囲んでいた。
厳しい冬の時期だけあって周りは一面の雪景色で、音もなく斑雪が降り積もっている。吐く息も白く、温かい木製のマグカップを持っていなければ、指先はもっとかじかんでいただろう。
「そういえば、あたし明日で誕生日だ」
火の番の順番はどうするか等のとりとめもない雑談の最中、アシャがぽつりと呟く。
「まぁ、おめでとうございます。お幾つになられましたの?」
隣で座っていたルネは琥珀色の目を細めて柔和に微笑んだ。全員分の紅茶を淹れてくれたのは彼女だ。
アシャは即答せず、湯気が少なくなったのを見計らい、一口飲んで喉を潤す。
付き合いはそれなりに長くなったが、ほとんど仕事仲間としてのみ接しておりプライベートの情報はあまり明かしていなかった。
別段、隠している訳ではなく、率先して開示する必要がなかっただけだ。元々歳が近いとは言っていたし、正確な年齢を伝えたとて何も変わるまい。
「明日で三十路になるよ。他にやれることがなかったのもあるけど、人生の半分を冒険に費やしてきたな」
各地に支部を持つ冒険者専用ギルド・ワンツリーの加入試験に、わずか十四歳で挑んだ日が懐かしい。あの頃は食い扶持を稼ぐことしか頭になく、心を固く閉ざしていて、誰も信用していなかった。
「そ、そうなんだ……」
「アシャがおれたちより歳上なんて知らなかったなぁ」
ロックの相槌を引き継ぎ、バーナードが続けざまに言う。二人とも怪訝そうにした後、誤魔化しの苦笑いを浮かべた。
上手く形容しがたい微妙な反応だったが、すぐに気を取り直して誕生日を歌で祝ってくれたため、その場では軽く流した。
一瞬流れた不穏な空気を、アシャは気のせいだと思いたかった。
しかし数日後、無事に王都へ到着し、ギルドに依頼達成を報告し終えた矢先。バーナードは仲間たちに相談事があると切り出してきた。
間借りしている宿屋の大部屋で顔を突き合わせて、提案されたことは。
「あたしを……パーティから外す?」
アシャへの突然の解雇宣言だった。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる