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◇第伍章 メリーさんは寂しがり
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部屋では、ノンナが泣いていた。
私は二段ベッドの隅っこで丸くなったまま。
ルームメイトが居なくなってしまったからである。
それでなくても、人が死んでいるのを見るのは15や16そこらの少年少女には大変ショックな出来事だろう。
ノイズがなだめて、泣いていた私の話をずっと聞いていてくれたからか、私は今は落ち着きを取り戻して何とか正常でいられる。
「また、独り……だわ」
私は、ノンナに聞こえない小さな声で呟いた。
秘密を知っていてくれる大切な人は、もういない。
この世に存在しない者となってしまったのだから。
「ノンナ…、ごめん私外へ行ってくる」
「そんなぁ…駄目だよメリーちゃん。メリーちゃんまで居なくなったら、私っ……!」
涙が止まらないノンナに、私は優しく言った。
「私は……絶対死なないから、大丈夫…」
行き先は、やっぱり夜の教会だ。
今度こそふわふわの暖かい上着を着てきた。
アルムにもらった手作りのマフラーも巻いてきた。
それから、私の大切なスケッチブック。
もう、ここへは戻ってこない。
さようなら、シスター達、ノンナ。
一度だけ孤児院を振りかえると、真っ直ぐ教会の中へと向かう。
教会は今日も静かで誰もいやしない。
いつものベンチの端っこへ座って彼を待つ。
今日も彼はここへ来るはずだ。
と、その時、入り口から足音が聞こえてきた。
その足音が近付くのと同時に、甘くて優しい声が辺りに響き渡った。
「……あれ?メリー、どうしたの?」
「私を、外の世界に連れていって」
「え………?」
私の突然の申し入れに、彼は戸惑い首を傾げた。
そんな彼に、私は続ける。
「私が何かを成せば、アルムみたいに…人が理不尽に死ぬ事なんて無いでしょう?」
「じゃ~あ、僕が嫌だって言ったらどうするの?」
「そうしたら…、そうね……私、独りになるわ」
だって私の秘密を知っているのも、それを変だって思わないのも、もう彼一人しかいないのだから。
ノイズは笑顔を浮かべて、私に言った。
「独りになったら、っていうか…僕がいなくなったら、メリーは寂しい?」
「それは、どういう意図を持っての…質問?」
「『僕』がいなくなったら、だよ」
『ノイズ』が、居なくなったら?
そうしたらきっと、私はアルムの時と同じ様にパニックになる。
そしてノイズがいなくなる事によって、私の存在意義がうやむやになったまま、ただ何となく生を全うすることになってしまう。
何より。
ノイズが言ってくれる「おやすみ」の声が聞けなくなる。
「寂しい……ノイズが、いないと」
「そんな可愛い顔されると困っちゃうんだけどな」
「可愛い顔なんか、してないし…」
立っていたノイズは私の隣に座った。
そしてふと、私の手にあったスケッチブックに目を止めると、目を細めて微笑む。
「へぇ、スケッチブック…持ってきたんだね」
「私の宝物、だから……」
ぱらり…と、絵の描かれたページをめくっていく。
その絵のジャンルは様々で、孤児院のとある場所や昼の光が差した教会、近所の農家さんが作る艶々の紅いりんご。
更にはアルムやノンナまで細かく描いた。
「メリーの絵は素敵だね」
そんな風に感想をこぼしたノイズに、私は返事をした。
「……ノイズって、すごい」
「すごいって、何が?」
「『上手い』とか『下手』じゃなくて、『素敵』って言う所」
普通の人は、そうだと思っていなくても「上手だね」とか上辺だけのお世辞を並べる。
ノイズはなんだか不思議だ。
私はゆっくりと立ち上がると、ノイズに言った。
「そろそろ、この村を出ないと……見付かったら怒られちゃうし」
そんな私に、ノイズも笑ってみせる。
そして手を差し伸べて来たので、その手を取った。
「行こうか、メリー」
私は二段ベッドの隅っこで丸くなったまま。
ルームメイトが居なくなってしまったからである。
それでなくても、人が死んでいるのを見るのは15や16そこらの少年少女には大変ショックな出来事だろう。
ノイズがなだめて、泣いていた私の話をずっと聞いていてくれたからか、私は今は落ち着きを取り戻して何とか正常でいられる。
「また、独り……だわ」
私は、ノンナに聞こえない小さな声で呟いた。
秘密を知っていてくれる大切な人は、もういない。
この世に存在しない者となってしまったのだから。
「ノンナ…、ごめん私外へ行ってくる」
「そんなぁ…駄目だよメリーちゃん。メリーちゃんまで居なくなったら、私っ……!」
涙が止まらないノンナに、私は優しく言った。
「私は……絶対死なないから、大丈夫…」
行き先は、やっぱり夜の教会だ。
今度こそふわふわの暖かい上着を着てきた。
アルムにもらった手作りのマフラーも巻いてきた。
それから、私の大切なスケッチブック。
もう、ここへは戻ってこない。
さようなら、シスター達、ノンナ。
一度だけ孤児院を振りかえると、真っ直ぐ教会の中へと向かう。
教会は今日も静かで誰もいやしない。
いつものベンチの端っこへ座って彼を待つ。
今日も彼はここへ来るはずだ。
と、その時、入り口から足音が聞こえてきた。
その足音が近付くのと同時に、甘くて優しい声が辺りに響き渡った。
「……あれ?メリー、どうしたの?」
「私を、外の世界に連れていって」
「え………?」
私の突然の申し入れに、彼は戸惑い首を傾げた。
そんな彼に、私は続ける。
「私が何かを成せば、アルムみたいに…人が理不尽に死ぬ事なんて無いでしょう?」
「じゃ~あ、僕が嫌だって言ったらどうするの?」
「そうしたら…、そうね……私、独りになるわ」
だって私の秘密を知っているのも、それを変だって思わないのも、もう彼一人しかいないのだから。
ノイズは笑顔を浮かべて、私に言った。
「独りになったら、っていうか…僕がいなくなったら、メリーは寂しい?」
「それは、どういう意図を持っての…質問?」
「『僕』がいなくなったら、だよ」
『ノイズ』が、居なくなったら?
そうしたらきっと、私はアルムの時と同じ様にパニックになる。
そしてノイズがいなくなる事によって、私の存在意義がうやむやになったまま、ただ何となく生を全うすることになってしまう。
何より。
ノイズが言ってくれる「おやすみ」の声が聞けなくなる。
「寂しい……ノイズが、いないと」
「そんな可愛い顔されると困っちゃうんだけどな」
「可愛い顔なんか、してないし…」
立っていたノイズは私の隣に座った。
そしてふと、私の手にあったスケッチブックに目を止めると、目を細めて微笑む。
「へぇ、スケッチブック…持ってきたんだね」
「私の宝物、だから……」
ぱらり…と、絵の描かれたページをめくっていく。
その絵のジャンルは様々で、孤児院のとある場所や昼の光が差した教会、近所の農家さんが作る艶々の紅いりんご。
更にはアルムやノンナまで細かく描いた。
「メリーの絵は素敵だね」
そんな風に感想をこぼしたノイズに、私は返事をした。
「……ノイズって、すごい」
「すごいって、何が?」
「『上手い』とか『下手』じゃなくて、『素敵』って言う所」
普通の人は、そうだと思っていなくても「上手だね」とか上辺だけのお世辞を並べる。
ノイズはなんだか不思議だ。
私はゆっくりと立ち上がると、ノイズに言った。
「そろそろ、この村を出ないと……見付かったら怒られちゃうし」
そんな私に、ノイズも笑ってみせる。
そして手を差し伸べて来たので、その手を取った。
「行こうか、メリー」
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