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第三章~ルゼル王国~

EPISODE15~新たな道~

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「はっ…」

 ガバッと起き上がったのは、赤髪の女だった。

 辺りを見渡すとすっかりと日が暮れており、焚き火が眩しい。

「ここは…一体…?」

 赤髪の女は、思い出そうとするが、酷い頭痛が襲う。

 記憶が曖昧になっているようだ。

「目が覚めたみたいだよ?」

 ティルシアが気付くと、それぞれの作業を止め、赤髪の女を見る。

「んあ?」

 剣を抱きながら赤髪の女の傍で警戒していたデイルは座ったまま寝落ちしていた。

 すると、赤髪の女はデイルに飛び付く。

「わお」

 ティルシアとエスティは口元を抑えて笑い、ライは耳をピーンと立てて、成り行きを興奮しながら見ている。

「無事だったんだな…!ティルト…良かった…本当に良かった…!」

「待て待て待て!俺はティルトなんて名前じゃない!」

「何を言って…」

 赤髪の女は、眉間に皺を寄せながら、まじまじとデイルの顔を眺める。

 思っていたよりも、優しい表情はしておらず、鋭い目付きだった。

「…誰だ貴様」

 目を輝かせ、喜びを見せていた表情が一瞬にして殺意に変わる。

「あのなぁ!?」

 すると、赤髪の女はデイルの剣を奪い取り、距離を取りながら剣を手に掛ける。

「貴様ら何者だ…!奴らの仲間か!?」

「落ち着け、我々はお前の敵ではない。それに敵であれば動けるようにしてはいないだろう」

 エスティの言葉に赤髪の女は、剣をデイルに投げ渡し、焚き火の元へと静かに座った。

「お前は、何故あの廃村に居た?」

 エスティの問いに赤髪の女は首を傾げる。

「あそこは、廃村ではない」

 赤髪の女の言葉にティルシア達が顔を見合わせる。

 エスティが始めた説明を赤髪の女は静かに聞いていた。

 廃村だった事。

 黒い瘴気が充満していた事。

 黒き鎧を纏い暴れていた事。

 赤髪の女は、信じられないと言った様子だったが、黒き鎧を纏っていた事に関しては認めていた。

「では…私は、村を守れなかったんだな」

 ギュッと拳を握り締める。

「私を救ってくれた事に感謝はするが、それそろ行かなければならない」

 赤髪の女は立ち去ろうとするが、エスティの言葉に足を止めた。

「ティルトなら、行方知れずだ」

「…何?」

「何故、お前がその名を知っている?」

「私の大切な仲間だからだ。今もあいつは1人で戦っているはずだ」

「魔王の待つ城で…か」

 エスティが悲しそうな表情を浮べながら、焚き火へ木を焼べる。

「貴様こそ何故知っている!何故、助けに向かわないんだ!」

 赤髪の騎士は言葉を続けた。

「魔王軍が本格的に侵攻を始めているんだぞ!」

「もう200年も前の話だ」

「200年…だと?」

「ティルトは私の愛弟子でな。あいつは魔王軍と激闘を繰り広げていながら歴史に名を残す事はなかった。だが、私はお前を知っている」

 エスティは空を仰ぐ。

「あいつが言っていた。どんな敵にも臆する事無く立ち向かう、頼りになる仲間が居ると。名を残せなかったが、お前は後世に語り継がれているぞ」

「何を言って…」

「【不死鳥】のルゼル。それがお前の名だな?ティー達も知っているだろう?」

 エスティの言葉にティルシア達も頷く。

 北の領地を治める大国、ルゼル王国が発祥する事になった語り継がれる騎士。

 魔王軍相手に1人で立ち向かい、何度倒れようとも折れなかった国を救った英雄だからだ。

「本当…なんだな?」

 赤髪の女、ルゼル。

 ルゼルは立ちくらみ、エスティから告げられた現実を受け入れられずにいた。

 当然だ。

 ルゼルの中では、ほんの数時間程の出来事が、200年という時が経っているとは思いもしない。

「少し…一人にしてくれ」

 ふらふらと、ルゼルはその場を離れた。

 受け入れる時間は必要だ。

「しっかし、あのルゼルなんて驚きだよねー」

 ティルシアは、分厚い歴史書を取り出してルゼル王国建国の歴史を読み始めた。

 理解する為に必要な知識を得るためだ。

「ねぇ、エスティ。そのティルトっていう人は聖獣とか魔獣になってたりするの?」

「知っていたら、とっくに迎えに行っているさ。あの時、私が到着した頃にはティルトの姿はなかった」

「ふーん…」

 エスティは何やら言葉を濁している。

 これ以上、何か聞いても空返事しかない事を察したティルシアは口を閉じた。

 ティルシアもエスティに関して、分からない事が多過ぎる。

 話してくれる事を待つばかりだ。

「あの女、これからどうすんだ?」

 デイルが話題を変える。

「おーっ、そうだったそうだった。わたしは仲間になるなら全然大歓迎だけど、皆は?」

「ティーさんがそう言うなら、わたしも大歓迎ですよっ!」

 ライは快諾するが、エスティとデイルは少し考えている様子だった。

「私は静かに暮らせる場所を提供したい。いくつか宛てがあるのでな」

 ルゼルの事を知って居なければ、出ない提案だ。

 エスティの言う事も一理ある。

 200年彷徨い続け、他の仲間が居ないとなれば、静かに暮らしてもらうのも1つの手だ。

「俺も今回はエスティに賛成だな。国に帰しても信じてくれねーだろうしな」

「どして?」

「馬鹿お前、200年さ迷ってました、ただいまーって言ったって嘘だって思うだろ?」

「まー、それもそうだね」

 ティルシアは腕を組みながら考え込む。

 はっきりと意見が分かれてしまい、エスティの意見も捨て難い。

 仲間が増えるのは嬉しい事であるが、200年経っても戦い続けて来たルゼルを連れ回すと考えると気が引ける。

「じゃあ2つの案を合わせて、最初は村で暮らしてもらって、もし定住するならそれで良し!付いて来るってなったら連れて行く!これでどう!?」

 珍しくティルシアの名案が炸裂する。

 一同には文句はない。
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