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4章
(31)先祖返り
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道中でレオハニーと思しき巨大なビームに焼かれそうになりながらも、俺たちはついに作戦の目標地点に到達した。
工場や学校が集められた西区域は、南旧市街の戦火が嘘のように静まり返っていた。ドラゴンの群れは西区画を無視して大聖堂に集まっているため、ここは比較的被害も少なく戦闘の余波もない。
後は西区画を落とすだけで、予言書を覆す布石が完了する。その後のスタンピードの処理についてはレオハニーと相談すればいい。予言が書き換わりさえすれば、オラガイアの新しい未来も綴られる可能性が残されているのだから。
西区画と中央区画の接合部で、もっとも横幅が狭く切り落としやすそうな場所を探し出す。
「……ここだ」
俺は目印のために三か所に太刀を打ち込んだ後、ポシェットからバルド村式の集合発煙弾を取り出した。他の狩人を混乱させないよう、爆発した時に村の証が浮かび上がるよう設計されているものだ。構造は打ち上げ花火と同じで少々重いが、シャルの『重力操作』で弾道を支えれば通常の筒銃でも十分に扱えるはずである。
拳サイズの巨大な発煙弾を装填しながら、俺は両手でシャルに筒銃を手渡した。
「頼むぞシャル……うお!?」
シャルが上空に向けて引き金を引こうとした瞬間、西区画の突き当りから土砂崩れのような騒音が響き渡り、地面が上下に激しく揺れた。立っていられないほどの衝撃にバランスを崩しながら、俺はシャルを庇うように地面に身体を伏せる。
その直後、粉砕されたと思しき建物や地面が驟雨のように西区画へ降り注いできた。目の前の石畳が瓦礫と衝突して砕け散るのを見て、俺は鳥肌を立てながら『紅炎』で壁を作り、ダメ押しに『雷光』で巨大な盾を構築する。
まもなく瓦礫が俺たちの真上にまで落ちてきて、炎で融解しなかった分が盾に襲い掛かった。瓦礫の一つ一つがバスケットボールサイズで重く、それが何度も繰り返しぶつかるせいで盾の表面が削れ、俺の肩がもげそうになった。
「ぐ、おおお!」
歯を食いしばりながら衝撃に耐えていると、盾の向こうで蜘蛛の糸が広がり、瓦礫の雨が空中で砂になるまで粉砕された。
ざぁ! と散らばる砂に目を細めると、ドミラスが遠くからこちらへ駆け寄ってきた。
「浦敷! 作戦は中止だ! 今は生き残ることだけを優先しろ!」
「んなこと言われたって、何が起きてんだ!?」
「見れば分かる」
砂が止んだところで、俺は恐る恐る盾から顔を出した。ちょうどその時、俺の頭上に巨大な影が差し込んだ。
白と青磁のモザイク模様が、プラネタリウムのようにオラガイアの上空を泳いでいた。
よく見れば、それは巨大なドラゴンの腹部だった。
ぬいぐるみを顔の上に寄せたような見え方なのに、周囲の建物のほうが明らかに俺たちに近い。遠近感が狂いすぎて、どちらが小さくてどちらが大きいのか混乱してきた。
おかしい。意味不明だ。
こんな生物がいるなんて、物理学的にも、生物学的にもあり得ない。
俺の常識が目の前の光景を必死に否定するが、死の記憶からすでに経験を得ている俺の脳は、十全にこれが現実だと理解していた。討滅者シンが相対したマガツヒも、ちょうど目の前のそれと同じ巨大なドラゴンだったのだから。
ただ、複数の人生を歩んできた俺の記憶の中でも、マガツヒに匹敵するほどのトルメンダルクは見たことがなかった。
ただ存在するだけでサイクロンを生み、山間部だろうが海沿いだろうが巨大な竜巻を生み出せるトルメンダルク。その存在自体が自然災害と評されるというのに、目の前の個体は明らかに大きすぎる。オラガイアに覆いかぶされるほど規格外の大きさとなれば、その力はマガツヒを越えるかもしれない。
それともう一つ、目の前のトルメンダルクには通常の個体と異なるもう一つの点があった。通常のトルメンダルクは腹部以外が美しい青磁色の鱗で包まれているのだが、こいつはまるで欠損した部分を白粘土で塗り固めたようなまだら模様なのだ。のっぺりとした白い部分と艶やかな青磁色は、明らかに生物としての整合性を保てていない。まるでキメラだ。
「――――ッ!」
突然、シャルが無音の絶叫を上げながら俺に縋りついた。俺は盾を放り捨て、膝立ちになりながら慌ててシャルを抱きかかえる。
「シャル、どうした!?」
シャルは俺の呼びかけに大きく身体を震わせると、蒼白になりながら涙を滲ませた。魂を見通すと言われるシャルの瞳は紫色に輝き、何かを拒絶するように点滅を繰り返している。
まさかと思い、俺はヤツカバネの力を発動しトルメンダルクの魂を確認した。
すると、人間やドラゴンとかけ離れた謎の模様が、一瞬で俺の視界を覆いつくした。トルメンダルクの表面に、丸く黒いものがうねうねと煙のように流れているようだ。最初は蟻の群れかと思ったが、よく見たら違う。
無数の人間の顔だ。夥しい数の人間の魂が、仏陀の螺髪と比べ物にならない密集度で、懸命に助けを求めて蠢いている。どれも他人と混ざりすぎて同じ顔になっているだけで、元は個々の人間だったのだと本能的に察してしまった。
「はっ……おぇッ」
冒涜的な光景に口を押えながら強くえずく。昨日の夜に散々吐いていたおかげで、込み上げる胃液をぎりぎり出さずに済んだ。
あの魂から推察するに、トルメンダルクの一部と化した白い部分はドラゴン化した人間をそれらしく移植させたものなのだろう。
ゼンから貰った手紙によれば、国ぐるみで人間のドラゴン化実験が行われていたというので、あのトルメンダルクも実験の副産物の可能性が高い。ならば、あのトルメンダルクはダアト教幹部の裏切り者が呼び寄せたと考えるべきだろう。
しかし、裏切り者はどうやってリデルゴア国の最高機密である人体実験の副産物を手に入れたのだろうか。それとも俺の推測が間違っていて、機械仕掛け側が独自にあのトルメンダルクを作り出したのだろうか。
分からない。証拠がない。
しかしダウバリフの話も考慮すれば、裏切り者が誰なのか薄々予想がついた。
「浦敷、立てるか!」
爪が食い込むほど強く腕を引っ張られ、俺はふらつきながら立ち上がった。
瓦礫を防ぐために構えていた盾はボロボロだ。周囲には『紅炎』で溶けた瓦礫の残骸が散らばって酷い有様である。よくこの状況で無傷でいられたものだと思う。
荒れ果てた街並みを見ているうちに、現実逃避気味だった思考が徐々に引き戻されてくる感覚がした。
俺は胸のあたりを強く抑えながら呼吸を整えると、恐怖に震えるシャルをドミラスへ押し付けた。
「ドクター……俺よりシャルを頼む。あとレオハニーさんに合図を」
「アレと戦う気か?」
「戦う力があるのに、黙って殺されるわけにはいかないだろ」
かっこつけたつもりが、語尾が震えたせいでただの強がりにしかならなかった。討滅者シンの記憶があったところで、俺の臆病さはいつまで経っても変わらないらしい。
トルメンダルクを放っておけば、オラガイアは予言書の通りに墜落する。誰かがアレを止めなければならない。
だが、今の俺に止められるのか?
もう西区画を落とすどころではない。
ここから生き残る方法なんてあるのか。
街より巨大な化け物相手に、どうやったら勝てると言うのだ。
俺が生唾を飲み込むのとほぼ同時に、ドミラスがシャルの背を支えた。シャルはなんとかショックから立ち直ったようで、小さな指で今度こそ筒銃の引き金を引いた。
ばしゅん、と風船に穴を開けたような音が鼓膜を掠める。発煙弾が上昇から落下に切り替わる瞬間、どん! と膜を張るような破裂音が散り、バルド村の紋章が大きく空に描かれた。
煙と火花が消え始めた頃、大聖堂の方角から了承の合図が来た。レオハニーはすぐにここに来てくれるはずだ。
問題は、トルメンダルクとどうやって戦うかだ。
トルメンダルクは風の王であり、常に風属性の菌糸を使って飛行し続けている。弓や銃といった遠距離武器がなければ攻撃が届かず、分厚い鱗を打ち破るには生半可な力では足りない。憲兵隊が使っていた砲台なら鱗の一枚は砕けるだろうが、直接ダメージを与えるには力不足だ。菌糸能力で空を飛べる俺達でも、トルメンダルクが纏う風で近寄るどころではない。
いっそ、そこら辺の中位ドラゴンの背中に乗ってオラガイアから脱出してしまいたい。レオハニーが面白半分でドラゴンに乗れるのなら、俺でも必死にやれば再現できるんじゃなかろうか。
「……背中。そうだ、背中だ」
いくら通常の個体より巨大であろうと、所詮はトルメンダルク。攻略方法も他の個体と同じに決まっている。敵のあまりの強大さに、俺は基本すら忘れてしまっていた。
もはやこの世界がゲームの世界ではないとしても、自分の人生を犠牲にして積み重ねた経験が俺にはある。その中にはトルメンダルクをソロで狩りまくっていた討滅者シンの記憶もあるのだ。
俺は脳内で戦略を立てながらドクターへ笑いかけた。
「ドクター、やっぱり西区画は落とそう。計画続行だ」
「どうする気だ」
「トルメンダルクの上に西区画を落として、地上に叩きつける」
「……確かに西区画は広いが、あいつの図体じゃ、軽く背中を叩かれた程度にしかならないんじゃないか?」
「もちろん、ただ落とすだけじゃない」
にやりと笑みを深めながら俺は大聖堂の方へ目を向ける。ちょうど俺の視線の先には、大聖堂から駆け付けたレオハニーと、懐かしい女性の顔があった。
討滅者シキの相棒だった、テララギの里の討滅者であるグレンだ。
中央都市の処刑のせいで幼馴染にはトラウマを抱きがちな俺でも、グレンだけは特別だった。最後まで俺の味方であり続けた、かけがえのないかつての仲間。死の記憶で永遠の別れを果たした人と再会するのは、なんだか妙な気分だった。
グレンの方は、俺がシキの生まれ変わりだとは知らない。だから俺はなんの感慨も出さず話しかけた。
「二人とも、トルメンダルクの討伐に手を貸してください。まずは俺の作戦を話します」
工場や学校が集められた西区域は、南旧市街の戦火が嘘のように静まり返っていた。ドラゴンの群れは西区画を無視して大聖堂に集まっているため、ここは比較的被害も少なく戦闘の余波もない。
後は西区画を落とすだけで、予言書を覆す布石が完了する。その後のスタンピードの処理についてはレオハニーと相談すればいい。予言が書き換わりさえすれば、オラガイアの新しい未来も綴られる可能性が残されているのだから。
西区画と中央区画の接合部で、もっとも横幅が狭く切り落としやすそうな場所を探し出す。
「……ここだ」
俺は目印のために三か所に太刀を打ち込んだ後、ポシェットからバルド村式の集合発煙弾を取り出した。他の狩人を混乱させないよう、爆発した時に村の証が浮かび上がるよう設計されているものだ。構造は打ち上げ花火と同じで少々重いが、シャルの『重力操作』で弾道を支えれば通常の筒銃でも十分に扱えるはずである。
拳サイズの巨大な発煙弾を装填しながら、俺は両手でシャルに筒銃を手渡した。
「頼むぞシャル……うお!?」
シャルが上空に向けて引き金を引こうとした瞬間、西区画の突き当りから土砂崩れのような騒音が響き渡り、地面が上下に激しく揺れた。立っていられないほどの衝撃にバランスを崩しながら、俺はシャルを庇うように地面に身体を伏せる。
その直後、粉砕されたと思しき建物や地面が驟雨のように西区画へ降り注いできた。目の前の石畳が瓦礫と衝突して砕け散るのを見て、俺は鳥肌を立てながら『紅炎』で壁を作り、ダメ押しに『雷光』で巨大な盾を構築する。
まもなく瓦礫が俺たちの真上にまで落ちてきて、炎で融解しなかった分が盾に襲い掛かった。瓦礫の一つ一つがバスケットボールサイズで重く、それが何度も繰り返しぶつかるせいで盾の表面が削れ、俺の肩がもげそうになった。
「ぐ、おおお!」
歯を食いしばりながら衝撃に耐えていると、盾の向こうで蜘蛛の糸が広がり、瓦礫の雨が空中で砂になるまで粉砕された。
ざぁ! と散らばる砂に目を細めると、ドミラスが遠くからこちらへ駆け寄ってきた。
「浦敷! 作戦は中止だ! 今は生き残ることだけを優先しろ!」
「んなこと言われたって、何が起きてんだ!?」
「見れば分かる」
砂が止んだところで、俺は恐る恐る盾から顔を出した。ちょうどその時、俺の頭上に巨大な影が差し込んだ。
白と青磁のモザイク模様が、プラネタリウムのようにオラガイアの上空を泳いでいた。
よく見れば、それは巨大なドラゴンの腹部だった。
ぬいぐるみを顔の上に寄せたような見え方なのに、周囲の建物のほうが明らかに俺たちに近い。遠近感が狂いすぎて、どちらが小さくてどちらが大きいのか混乱してきた。
おかしい。意味不明だ。
こんな生物がいるなんて、物理学的にも、生物学的にもあり得ない。
俺の常識が目の前の光景を必死に否定するが、死の記憶からすでに経験を得ている俺の脳は、十全にこれが現実だと理解していた。討滅者シンが相対したマガツヒも、ちょうど目の前のそれと同じ巨大なドラゴンだったのだから。
ただ、複数の人生を歩んできた俺の記憶の中でも、マガツヒに匹敵するほどのトルメンダルクは見たことがなかった。
ただ存在するだけでサイクロンを生み、山間部だろうが海沿いだろうが巨大な竜巻を生み出せるトルメンダルク。その存在自体が自然災害と評されるというのに、目の前の個体は明らかに大きすぎる。オラガイアに覆いかぶされるほど規格外の大きさとなれば、その力はマガツヒを越えるかもしれない。
それともう一つ、目の前のトルメンダルクには通常の個体と異なるもう一つの点があった。通常のトルメンダルクは腹部以外が美しい青磁色の鱗で包まれているのだが、こいつはまるで欠損した部分を白粘土で塗り固めたようなまだら模様なのだ。のっぺりとした白い部分と艶やかな青磁色は、明らかに生物としての整合性を保てていない。まるでキメラだ。
「――――ッ!」
突然、シャルが無音の絶叫を上げながら俺に縋りついた。俺は盾を放り捨て、膝立ちになりながら慌ててシャルを抱きかかえる。
「シャル、どうした!?」
シャルは俺の呼びかけに大きく身体を震わせると、蒼白になりながら涙を滲ませた。魂を見通すと言われるシャルの瞳は紫色に輝き、何かを拒絶するように点滅を繰り返している。
まさかと思い、俺はヤツカバネの力を発動しトルメンダルクの魂を確認した。
すると、人間やドラゴンとかけ離れた謎の模様が、一瞬で俺の視界を覆いつくした。トルメンダルクの表面に、丸く黒いものがうねうねと煙のように流れているようだ。最初は蟻の群れかと思ったが、よく見たら違う。
無数の人間の顔だ。夥しい数の人間の魂が、仏陀の螺髪と比べ物にならない密集度で、懸命に助けを求めて蠢いている。どれも他人と混ざりすぎて同じ顔になっているだけで、元は個々の人間だったのだと本能的に察してしまった。
「はっ……おぇッ」
冒涜的な光景に口を押えながら強くえずく。昨日の夜に散々吐いていたおかげで、込み上げる胃液をぎりぎり出さずに済んだ。
あの魂から推察するに、トルメンダルクの一部と化した白い部分はドラゴン化した人間をそれらしく移植させたものなのだろう。
ゼンから貰った手紙によれば、国ぐるみで人間のドラゴン化実験が行われていたというので、あのトルメンダルクも実験の副産物の可能性が高い。ならば、あのトルメンダルクはダアト教幹部の裏切り者が呼び寄せたと考えるべきだろう。
しかし、裏切り者はどうやってリデルゴア国の最高機密である人体実験の副産物を手に入れたのだろうか。それとも俺の推測が間違っていて、機械仕掛け側が独自にあのトルメンダルクを作り出したのだろうか。
分からない。証拠がない。
しかしダウバリフの話も考慮すれば、裏切り者が誰なのか薄々予想がついた。
「浦敷、立てるか!」
爪が食い込むほど強く腕を引っ張られ、俺はふらつきながら立ち上がった。
瓦礫を防ぐために構えていた盾はボロボロだ。周囲には『紅炎』で溶けた瓦礫の残骸が散らばって酷い有様である。よくこの状況で無傷でいられたものだと思う。
荒れ果てた街並みを見ているうちに、現実逃避気味だった思考が徐々に引き戻されてくる感覚がした。
俺は胸のあたりを強く抑えながら呼吸を整えると、恐怖に震えるシャルをドミラスへ押し付けた。
「ドクター……俺よりシャルを頼む。あとレオハニーさんに合図を」
「アレと戦う気か?」
「戦う力があるのに、黙って殺されるわけにはいかないだろ」
かっこつけたつもりが、語尾が震えたせいでただの強がりにしかならなかった。討滅者シンの記憶があったところで、俺の臆病さはいつまで経っても変わらないらしい。
トルメンダルクを放っておけば、オラガイアは予言書の通りに墜落する。誰かがアレを止めなければならない。
だが、今の俺に止められるのか?
もう西区画を落とすどころではない。
ここから生き残る方法なんてあるのか。
街より巨大な化け物相手に、どうやったら勝てると言うのだ。
俺が生唾を飲み込むのとほぼ同時に、ドミラスがシャルの背を支えた。シャルはなんとかショックから立ち直ったようで、小さな指で今度こそ筒銃の引き金を引いた。
ばしゅん、と風船に穴を開けたような音が鼓膜を掠める。発煙弾が上昇から落下に切り替わる瞬間、どん! と膜を張るような破裂音が散り、バルド村の紋章が大きく空に描かれた。
煙と火花が消え始めた頃、大聖堂の方角から了承の合図が来た。レオハニーはすぐにここに来てくれるはずだ。
問題は、トルメンダルクとどうやって戦うかだ。
トルメンダルクは風の王であり、常に風属性の菌糸を使って飛行し続けている。弓や銃といった遠距離武器がなければ攻撃が届かず、分厚い鱗を打ち破るには生半可な力では足りない。憲兵隊が使っていた砲台なら鱗の一枚は砕けるだろうが、直接ダメージを与えるには力不足だ。菌糸能力で空を飛べる俺達でも、トルメンダルクが纏う風で近寄るどころではない。
いっそ、そこら辺の中位ドラゴンの背中に乗ってオラガイアから脱出してしまいたい。レオハニーが面白半分でドラゴンに乗れるのなら、俺でも必死にやれば再現できるんじゃなかろうか。
「……背中。そうだ、背中だ」
いくら通常の個体より巨大であろうと、所詮はトルメンダルク。攻略方法も他の個体と同じに決まっている。敵のあまりの強大さに、俺は基本すら忘れてしまっていた。
もはやこの世界がゲームの世界ではないとしても、自分の人生を犠牲にして積み重ねた経験が俺にはある。その中にはトルメンダルクをソロで狩りまくっていた討滅者シンの記憶もあるのだ。
俺は脳内で戦略を立てながらドクターへ笑いかけた。
「ドクター、やっぱり西区画は落とそう。計画続行だ」
「どうする気だ」
「トルメンダルクの上に西区画を落として、地上に叩きつける」
「……確かに西区画は広いが、あいつの図体じゃ、軽く背中を叩かれた程度にしかならないんじゃないか?」
「もちろん、ただ落とすだけじゃない」
にやりと笑みを深めながら俺は大聖堂の方へ目を向ける。ちょうど俺の視線の先には、大聖堂から駆け付けたレオハニーと、懐かしい女性の顔があった。
討滅者シキの相棒だった、テララギの里の討滅者であるグレンだ。
中央都市の処刑のせいで幼馴染にはトラウマを抱きがちな俺でも、グレンだけは特別だった。最後まで俺の味方であり続けた、かけがえのないかつての仲間。死の記憶で永遠の別れを果たした人と再会するのは、なんだか妙な気分だった。
グレンの方は、俺がシキの生まれ変わりだとは知らない。だから俺はなんの感慨も出さず話しかけた。
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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