家に帰りたい狩りゲー転移

roos

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5章

(5)不時着

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 オーディたちと別れてすぐ、俺たちは地下ホールの先にある十二人会議室へと足を向けた。廊下の広さは五人がギリギリ横に並べる程度の広さで、豪奢で毛の長い絨毯は、汚れた靴で踏むのが申し訳なくなってくるほどだ。ここで火を使えばさぞ燃え上がるだろうな、と思いながら進んでみるも、廊下の先に誰かが潜んでいる様子は全くなかった。

 数分ほど歩くと、中途半端に開かれた会議室の扉が見えてくる。血の匂いはしなかったが、代わりに不気味な静けさが、冷気を伴って俺たちの足元まで流れ込んできていた。

 俺は太刀を握りしめながら壁に身を預け、半開きの扉をそっと押した。そしてゆっくりと露になった内部を見て、軽く息を詰める。

 中央に円卓が置かれた会議室は地下ホールと比べれば綺麗なものだった。ただし、円卓を囲う十二の椅子のうち八つの席が、だらしなく寄りかかる老人たちの死体で塞がれていた。

 ダアト教幹部と思しき老人たちは、全員口から白い泡を吐きながら絶命していた。首には三本の指でできた歪な痣ができており、何者かに絞殺されたことが窺える。

「……生き残りはいないね」

 レオハニーは会議室の中を見て回り、最後にそう結論付けた。犯人は疑う余地もなく、ダアト教幹部の裏切り者だ。

「くそ、こうなるって予想できたはずなのに!」

 あと少し時間があれば、会議の内容からダアト教幹部の裏切り者を見つけ出せたかもしれないのに。せめて会議の内容をダウバリフに伝える時間が残っていれば。

 そういえば、ダウバリフはどこに行ったのだろう。戦いの最中でも見かけなかったが。

 考え込む俺の横で、レオハニーがふむと顎に手を当てた。

「トゥアハが見当たらない……予想通り、トルメンダルクが討伐されたのに合わせて、竜船で脱出したのかもしれないね」
「……ひとまず、地上の皆と連絡を取りましょうか」

 言いながら会議室を出ようとした瞬間、オラガイア全体が大きく揺れた。衝撃で天井から砕けた石の粉末がサラサラとこぼれ落ち、沈没寸前の船のような軋み声があちこちで響き渡る。

「な、なんだ!?」

 腰を低くしながら衝撃に耐えた後、今度はオラガイア全体が斜めに傾き始めた。

 まさか、今になってオラガイアが墜落しかけているのか。

「くそ!」

 焦燥感に駆られながら会議室を飛び出すと、ホールとは反対側の通路から俺を呼ぶ声がした。

「おい小童! こっちじゃ!」
「ダウバリフ!? アンタずっと地下にいたのか!」
「話は後じゃ! ニヴィの『支配』を受け継いだのだろう。手を貸せ!」

 よく見ればダウバリフは全身に細かな傷を負っており、左腕に関しては複雑骨折していた。俺は『雷光』で治療しながら、会議室からレオハニーが追いかけてくるのを確認した。レオハニーは俺とダウバリフが平然と会話している光景を見て物言いたげだったが、今はそれどころではない。

「おっさん、何が起きてんだ!?」
「オラガイアを浮かせていた心臓部がもう持たん。トルメンダルクが何度もオラガイアにぶつかったせいで、島全体を浮かせるための菌糸が足りなくなってしまったんじゃ」
「マジかよ……!」
「儂の連れがなんとか持たせておるが『支配』の能力でなけりゃ海まで持たんだろう」
「大体わかった。ともかく海に不時着させればいいんだな?」
「おう」

 ダウバリフの先導の元、暗い地下の奥深くへ進む。迷路のように入り組んだ地下通路では、天井から吊り下がった鎖が忙しなく上へ引っ張り上げられ、重々しい歯車の音が響き渡っている。おそらく、地下全体が複雑に変形しているのだろう。重々しく反響する音はまるで巨大な生物の胃袋の中にいるようだった。

「ダウバリフ、トゥアハはこっちに来たか?」
「いんや。ラグラードならこちらに来たぞ。オラガイアの心臓を破壊しようと襲いかかってきおったわ」
「じゃあ、さっきのアンタの傷もラグラードって奴の仕業か」
「前々から知っていたが、リデルゴア国の上層部は売国奴ばかりじゃ。――着いたぞ、小童」

 緑色の光が漏れる大きな扉の前に辿り着き、俺たちは足を止めることなく開け放たれたままの内部へ飛び込む。

 その部屋の中央には巨大な心臓がポッドの中で脈動していた。文字通りの心臓に俺はギョッとしたが、だんだんと傾いていく地面に足を取られながら進み出る。

「これがオラガイアの心臓でいいんだよな!?」
「ああ。かつてマガツヒと死闘を繰り広げたトルメンダルクの心臓だ! 肉体は化石となったが、心臓だけは菌糸によって生きながらえておる!」
「でも心臓からどうやってオラガイアを操作すりゃいい!?」
「知るか! 細けぇことは99番に聞け!」

 ダウバリフから怒鳴られ、俺ははっと心臓部の足元へ目を向ける。そこには先に心臓を操りながら四苦八苦するツインテールの白髪少女がいた。

「君は……やっぱり生きて――」

 再会できた安堵に頬を緩ませた途端、背後で不穏な風が吹いた。反射的に太刀を翻して99に背を向けると、俺の両腕に重い衝撃が加わった。鉄の塊を切り出したような大剣が俺の太刀を半分ほど噛み切り、火花を散らしてようやく止まる。
 
「レオハニーさん。なぜ彼女を殺そうとするんですか」
「…………」

 レオハニーは俺ではなく99を睨みつけたまま何も言わない。

「レオハニーさん! 剣を退けてください! このままではエトロも死にますよ!」

 喉が裂けんばかりに怒鳴りつけると、ようやくレオハニーは俺を見た。しゅんかん、ダウバリフがレオハニーの脇腹に拳を叩き込む。が、鍛え上げられたレオハニーの体幹は僅かに揺らぐのみだった。

「こいつ、なんという重厚感じゃ!」
「――ドケ」

 獣じみた濁った声が空から響き、ダウバリフが大きく飛び退く。瞬間、上から血に塗れた鎧がレオハニーを強襲した。

 レオハニーは大剣ごと地面に引き倒され、そのまま鎧の人物に羽交締めにされる。その時鎧の人物から酷く懐かしい気配がしたが、ダウバリフの切迫した声で現実に引き戻された。

「早うやれ!」
「お、おう!」

 破損した太刀を消滅させつつ、99の隣に並んで『支配』を発動する。その間にもオラガイアは三十度ほどまで傾き始め、不規則な振動も加わって立っているのがやっとだった。

 『支配』でオラガイアの心臓と繋がったはいいが、どうやったら傾きが戻るかなんてさっぱりだ。

「ど、どうすりゃいい?」

 冷や汗を掻きながら99へ問いかけると、彼女は冷静に答えてくれた。

「『支配』でオラガイアと知覚を共有してみてください」
「分かった」

 早鐘のような心拍に急かされながら目を瞑り、意識をオラガイアの心臓深くへと流し込む。すると、クラトネールに変化した時と同じように自分の身体がオラガイアの骨格と同化していくような感覚がした。このまま元の身体に戻れないのではと不安になったが、遅れて追いついてきた99の菌糸が、命綱のように俺の意識と肉体を結びつけた。

「……これなら」

 俺は思い切って意識をオラガイアに預け、五感をドラゴンのものへと置き換える。

 すると、目脂で凝り固まったような違和感が瞼を包み込んだ。気合を入れて目をこじ開けると、パラパラと石が落ちる音と共に地平線を見渡せるようになる。

 丸一日眠りこけた後のように身体が重い。無意識にバランスを取ろうと翼をはためかせるも、西区画が丸ごと消えているせいで東側の翼しか動かせず余計に身体が傾いてしまった。咄嗟に風属性の菌糸を発動し、すぐに身体を水平に戻す。

「浦敷様。左を見てください」

 99の声に促され、俺は言われた通りにそちらを向く。すると逆さ滝が天に落ちる山の向こうに、真っ青な海が宝石のように煌めいているのが見えた。その近くではリアス海岸を跨ぐように設置された大きな橋が黒く光っていた。

「あれはアヴァクト海峡大橋。あの近くにはスキュリアの姉妹里、ミヴァリアの里があります」

 スキュリアの里の姉妹里。ならばあの海はバルド村にも近いはずだ。他に近い海も見当たらないのであそこに不時着するしかない。

「進入角度はそのまま、少しだけ右に傾けて……」

 99から細かな指示を受けながら、長いようで短いようなフライトは、激しい水飛沫に呑まれて幕を閉じた。
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