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9話 真実の美しさ
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空間魔法を見せてくれたミネルバさんだが、また光景が変わっていた。
ミネルバさんの様子は、俺ですらおかしいと感じられる。
それでも、どういう風におかしいのかも原因もまるでわからない。
やはり、俺にとって人間関係は難しすぎる。
それにしても、繭や蛹というのは変化の直前というイメージだ。
だから、俺が持つミネルバさんがもうすぐ大きく変わってしまうという感覚は正解なのかもしれない。
そうだとして、その変化は好ましいものなのだろうか。
それが俺にとって良いものかどうかはもはやどうでもいい。
それでも、俺はミネルバさんを心配することを止められそうにない。
もう初恋は終わったとはいえ、それでも俺に空間魔法を教えてくれた恩人なんだ。
とはいえ、俺にはどうすればいいのかわからない。何をすれば正解になるんだ。
俺が悩んでいると、ミネルバさんの方から話しかけてきた。
「答えてくださいよ。私の空間魔法をどう思うのか。気になっていたんですよね。ルイスさんがどう感じるのかが」
あの繭や蛹がいっぱいの光景か。
俺はどう答えたらいいのだろうな。正直にそのまま話せばいいのか、無理にでも褒めるべきなのか。
あるいは、それ以外にも良い回答があるのだろうか。分からない。全くわからない。
だが、黙ったままというわけにもいかない。困ってしまうが、仕方のないことかもしれない。
とりあえず、曖昧に答えてから徐々に詰めていくという形を試してみるか。
「印象的だったな。思い出せと言われれば、いつでもどこでもすぐに思い出せそうだ」
「へえ。それで、その印象というのは、好ましいものなんですか? それとも、嫌いなんですか?」
ミネルバさんは未だに笑顔だ。それで、今でも恐ろしさを感じる。
何を俺は恐れているんだ。それが分からないから、ミネルバさんへの対応を迷っている面もある。
もちろん、俺はミネルバさんとできることならば仲良くしたい。
そのためには、ミネルバさんを喜ばせる回答が必要なはずなんだ。
だが、それはどの様なものだ? 抽象的なイメージすらも浮かんでこない。
仕方ない。できる範囲のことを試してみるしか無いか。
「なんというか、ミネルバさんに良くないことが起こっているのではないか不安なんだ。そうだな。ミネルバさんが苦しんでいるのなら、俺はそれが嫌なんだ」
「あんなことを私に言われておいてですか? ルイスさんは面白いですね。でも、悪くない気分です」
ミネルバさんはずっと笑顔なのに、俺にはまるで感情が伝わってこない。
この反応はどういったものなんだ。俺をバカにしているのか?
それとも、俺の言葉に不快感をもちながら隠している?
あるいは、喜んでくれているのか?
何が正解なのか、想像すらもできない。
つくづく俺は人間関係が苦手だということが分かってしまう。悲しいが、どうにかなるのだろうか。
ミネルバさんは相変わらずの恐怖を覚える笑顔で俺に話しかけてくる。
「そうだ、ルイスさん。あなたには私になにかしてほしいことがありますか? 今ならば、聞いてあげてもいいですよ」
俺としては、ミネルバさんの魔法がもっと見たい。本音を言えば、あのきれいな空間魔法を。
でも、それをミネルバさんに頼むことは間違いのような気がしてならない。
とはいえ、俺のこの感覚は正解なのだろうか。俺の能力を信じていいのだろうか。
結局、俺はミネルバさんに一度拒絶されているんだ。何もわからないままに。
その俺の感覚が当てになると思っていいのか? だが、それを否定したところで、俺は何を信じればいい?
これまで俺が魔法しか見ていなかったことが重くのしかかってくる。
それとも、俺がこれまで人間関係の構築で努力したところでダメだったのだろうか。
そもそも全く才能がないから、今のような状況に陥っている。その可能性だってある。
だが、何も回答しないというのはきっと最もダメな選択だ。
今の俺はミネルバさんと付き合いたいわけではない。ただ、普通に仲良くしたいだけだ。
恋の熱のようなものはもう冷めている。それでも、ミネルバさんは最高の魔法使いだと思えるから。
そうだな。魔法についての何かがいいだろう。俺もミネルバさんも、魔法が好きというのは同じはず。
今もし魔法を嫌いになっているのならば、こうして俺に空間魔法を見せたりしなかったはずだ。
そうだな、魔法でなにかあっただろうか。そういえば、以前ミネルバさんと約束したことがあったな。
あれは、ミネルバさんに拒絶されたことでなくなったと考えていたが、今ならどうだ?
「火属性の魔法を使って料理が作れると以前言っていたよな? それを見せてくれないか?」
「ふふっ、そういえば、そんな約束もしていましたっけ。いいですよ。私の料理をごちそうしてあげます」
「どんな味なのか、気になるな。楽しみにしているよ」
「今日でなくてもよいのですか? まあ、休日のほうが時間を使えますから、そうしましょうか」
ということで、次の休日にミネルバさんに手料理を振る舞ってもらえることになった。
そういえば、放課後からミネルバさんに料理を作ってもらうとして、場所はどこにするつもりだったのだろう。
まあ、そうならなかったのだから、考える必要はないか。
そして、ミネルバさんと約束した日。ミネルバさんの部屋に誘われて、昼食を作るところを見せてもらうことになった。
いくつもの鍋に同時に火属性魔法で火を通していくミネルバさん。
やはり、ミネルバさんはとんでもなく優れた魔法使いだ。今の状況だけでもよく分かる。
炒めものに強い火力で一気に火を通したり、煮物では時間ごとに火を細かく調節したり。
他にも、汁物や魚を焼いたもの、パンにも同時に火を通していた。
当然、それぞれに合わせた火加減に調整している。凄まじい技だ。
魔力の流れはとてもスムーズだし、火の強弱も狙った強さに即座に変更できている。
どれほど努力すればこれほどのことができるのだろう。今はまだ、俺には想像することしかできない。
いつか、俺もこれほど火属性魔法をうまく使えるようになりたいものだ。
俺はこの学園に来るまで、ずっと複合魔法を優先して使ってきていた。
空間魔法を使うために訓練する中で、単一属性の重要性に気がついた。
ミネルバさんは、俺がこれまで寄り道してきた時間も、まっすぐに進んできたのだろう。
だから、これほどに凄まじい単一属性を使いながらも、空間魔法まで使える。
空間魔法では、当然複数属性の練度が高くなければならないのだからな。
料理が完成して、ミネルバさんはこちらに料理を運んできてくれた。
どの料理も美味しかったが、俺にはうまく言葉にできる気がしなかった。
なので、魔法について褒めていくことを中心にした。
「ミネルバさんの火属性魔法は凄まじかった。今の俺には届かないほどの境地だ。やはり、ミネルバさんは誰よりも尊敬できる魔法使いだ」
「そうなんですね。ルイスさんほどの人がそう言うのならば、私も捨てたものではないのでしょう」
やはり、ミネルバさんからは自信のようなものが失われている気がする。
俺をミネルバさんが拒絶したときにも、似たようなことを言っていたはずだ。
だが、俺はミネルバさんを本気で尊敬しているんだ。誰のものよりもミネルバさんの魔法を見たいんだ。
「そんなレベルではない。俺はミネルバさんの魔法がいちばん好きなんだ。ミネルバさんがどれだけ努力したのか、どれだけ魔法が好きなのか、どれだけでも伝わってくるミネルバさんの魔法が」
「それは、この空間魔法を見ても言えるセリフなんですか?」
そして、ミネルバさんは以前俺がおぞましいと感じた空間魔法を使う。
あいかわらず見た目は澱んでいると言ってもいい。
それでも、今の俺にはミネルバさんの空間魔法が何よりも輝いて見えた。
なぜなら、ミネルバさんは俺以上に優れた魔力の制御で空間魔法を使っている。
それがどれだけ素晴らしいことなのか、俺にわからないはずがない。
だって、俺は誰よりも空間魔法に憧れて、空間魔法を使うために進んできた。
それだけじゃない。俺は誰よりも魔法が好きだと信じている。
実際、俺以上に努力している人間など、他には思いつきもしなかった。ミネルバさんを除いては。
ただ、本当に俺より努力しているのか分かるほど、俺はミネルバさんを知らない。
それでも、そうだとしても、ミネルバさんが努力していないなど、俺は口が裂けても言えない。
それほどに、ミネルバさんはきれいな魔力制御をしていた。
この美しさが分かる人間が、一体どれほどいるのだろうか。
俺には、そう多いとは思えない。アベルですら、きっと気が付かないだろう。
それにまだ理由はある。俺が初めてみたときよりも、俺が拒絶されたときよりも、もっと洗練されているからだ。
一度魔法を楽しくないと感じながらも、それでもずっと努力してきたという事実がそれだけでわかる。
それだけで、今のミネルバさんの魔法を好きだと言い切るための理由としては十分だった。
「好きだ。今なら迷わず言える。その空間魔法は、ミネルバさんが苦しみながらでも前に進んできた証なんだ。それを嫌いだというのならば、俺に魔法使いとしての資格はない。魔法を使うために努力する姿勢を否定して、俺に何が残るというんだ」
「そうなん、ですね。それは……本当に嬉しいです。もしかしたら、今まで生きてきた中で一番かもしれないくらい。この醜い心を、そうと知りながら好きだと言ってもらえることは」
今のミネルバさんの言葉で確信した。やはり、空間魔法の威力と己の心の形は連動している。
最も自分の心の姿に近い光景を作ることで、空間魔法の威力を高められるということだ。
やはり、ミネルバさんが避けられる原因になったのは、この空間魔法が原因なのだろう。
それにしても、空間魔法の景色だけで人の心を知ったような気になるなど、くだらないな。
今、ミネルバさんの空間魔法を見たからこそ、その考えは正しいと思える。
それはなぜか。ミネルバさんの心は澱んでいたのかもしれない。
それでも、ミネルバさんは魔法の実力を目に見えて向上させられるほど努力していたんだ。
同じことが、ミネルバさんを避けていた連中の誰か1人にだってできたとは思わない。
だからこそ、俺はミネルバさんの空間魔法が澱んでいたところで、ミネルバさんの心まで醜いだなんて言うつもりはないんだ。
「俺はミネルバさんの心を醜いとは思わないが。本当にミネルバさんの心が醜かったのならば、魔法すら捨てていたとしか思えない。ミネルバさんはそうしなかった。それだけで、俺がミネルバさんを信じるには十分なんだ」
「ふふ。そうですか。ルイスさんは本当に魔法が大好きなんですね。私でも敵わないかもしれないくらい。でも、そんなルイスさんだからこそ、私は救われたのかもしれない」
そう言うミネルバさんの笑顔は、これまで俺が見てきたミネルバさんの顔の中でいちばんきれいだとすら思った。
今のミネルバさんからは、先程まで感じていた恐怖をまるで感じない。
だから、救われたというのは大げさかもしれないが、ミネルバさんの心は良い方に進んでくれたのだろう。
本当に、本当に嬉しい。ミネルバさんが嬉しそうにしてくれているだけで、俺のこれまでの苦しみが報われたとすら思える。
「ミネルバさんが喜んでくれるのなら、恥ずかしいことを言ったかいがあったな」
「そんなふうに言わなくても。かっこよかったですよ。さっきのルイスさんは」
そんな事を言われると照れてしまう。でも、ミネルバさんの笑顔は随分自然になった。
先程のものが作った顔ではないと思えて、達成感のようなものがある。
「そうだ。もう一度空間魔法を使ってみてもいいかもしれませんね。どうなっているか、確かめてみませんか?」
「ミネルバさんが見せてくれるのなら、喜んで」
「なら、よく見ていてください」
そのままミネルバさんは空間魔法を使っていく。
かつて俺がおぞましいと感じていた光景、繭と蛹がいっぱいの景色。
いつか俺が空間魔法に憧れるきっかけになった、美しい空間。
今回のミネルバさんの空間魔法は、美しいものが一番威力が高い様子だった。
それでも、空間魔法としてのすべてを発揮できているわけではない。
「これから、私の心と一致した景色を探さなくてはいけませんね」
間違いなく大変な作業なのだが、それに挑むミネルバさんの顔は、希望で満ちているようにすら見えた。
俺の言葉がミネルバさんのこの顔を生み出すきっかけになったのなら。こんなに嬉しいことはない。
今の俺には、目に映る全てが輝いて見えるようだった。ミネルバさんを好きだという気持ちが、もう一度湧き上がってきたのだと感じた。
ミネルバさんの様子は、俺ですらおかしいと感じられる。
それでも、どういう風におかしいのかも原因もまるでわからない。
やはり、俺にとって人間関係は難しすぎる。
それにしても、繭や蛹というのは変化の直前というイメージだ。
だから、俺が持つミネルバさんがもうすぐ大きく変わってしまうという感覚は正解なのかもしれない。
そうだとして、その変化は好ましいものなのだろうか。
それが俺にとって良いものかどうかはもはやどうでもいい。
それでも、俺はミネルバさんを心配することを止められそうにない。
もう初恋は終わったとはいえ、それでも俺に空間魔法を教えてくれた恩人なんだ。
とはいえ、俺にはどうすればいいのかわからない。何をすれば正解になるんだ。
俺が悩んでいると、ミネルバさんの方から話しかけてきた。
「答えてくださいよ。私の空間魔法をどう思うのか。気になっていたんですよね。ルイスさんがどう感じるのかが」
あの繭や蛹がいっぱいの光景か。
俺はどう答えたらいいのだろうな。正直にそのまま話せばいいのか、無理にでも褒めるべきなのか。
あるいは、それ以外にも良い回答があるのだろうか。分からない。全くわからない。
だが、黙ったままというわけにもいかない。困ってしまうが、仕方のないことかもしれない。
とりあえず、曖昧に答えてから徐々に詰めていくという形を試してみるか。
「印象的だったな。思い出せと言われれば、いつでもどこでもすぐに思い出せそうだ」
「へえ。それで、その印象というのは、好ましいものなんですか? それとも、嫌いなんですか?」
ミネルバさんは未だに笑顔だ。それで、今でも恐ろしさを感じる。
何を俺は恐れているんだ。それが分からないから、ミネルバさんへの対応を迷っている面もある。
もちろん、俺はミネルバさんとできることならば仲良くしたい。
そのためには、ミネルバさんを喜ばせる回答が必要なはずなんだ。
だが、それはどの様なものだ? 抽象的なイメージすらも浮かんでこない。
仕方ない。できる範囲のことを試してみるしか無いか。
「なんというか、ミネルバさんに良くないことが起こっているのではないか不安なんだ。そうだな。ミネルバさんが苦しんでいるのなら、俺はそれが嫌なんだ」
「あんなことを私に言われておいてですか? ルイスさんは面白いですね。でも、悪くない気分です」
ミネルバさんはずっと笑顔なのに、俺にはまるで感情が伝わってこない。
この反応はどういったものなんだ。俺をバカにしているのか?
それとも、俺の言葉に不快感をもちながら隠している?
あるいは、喜んでくれているのか?
何が正解なのか、想像すらもできない。
つくづく俺は人間関係が苦手だということが分かってしまう。悲しいが、どうにかなるのだろうか。
ミネルバさんは相変わらずの恐怖を覚える笑顔で俺に話しかけてくる。
「そうだ、ルイスさん。あなたには私になにかしてほしいことがありますか? 今ならば、聞いてあげてもいいですよ」
俺としては、ミネルバさんの魔法がもっと見たい。本音を言えば、あのきれいな空間魔法を。
でも、それをミネルバさんに頼むことは間違いのような気がしてならない。
とはいえ、俺のこの感覚は正解なのだろうか。俺の能力を信じていいのだろうか。
結局、俺はミネルバさんに一度拒絶されているんだ。何もわからないままに。
その俺の感覚が当てになると思っていいのか? だが、それを否定したところで、俺は何を信じればいい?
これまで俺が魔法しか見ていなかったことが重くのしかかってくる。
それとも、俺がこれまで人間関係の構築で努力したところでダメだったのだろうか。
そもそも全く才能がないから、今のような状況に陥っている。その可能性だってある。
だが、何も回答しないというのはきっと最もダメな選択だ。
今の俺はミネルバさんと付き合いたいわけではない。ただ、普通に仲良くしたいだけだ。
恋の熱のようなものはもう冷めている。それでも、ミネルバさんは最高の魔法使いだと思えるから。
そうだな。魔法についての何かがいいだろう。俺もミネルバさんも、魔法が好きというのは同じはず。
今もし魔法を嫌いになっているのならば、こうして俺に空間魔法を見せたりしなかったはずだ。
そうだな、魔法でなにかあっただろうか。そういえば、以前ミネルバさんと約束したことがあったな。
あれは、ミネルバさんに拒絶されたことでなくなったと考えていたが、今ならどうだ?
「火属性の魔法を使って料理が作れると以前言っていたよな? それを見せてくれないか?」
「ふふっ、そういえば、そんな約束もしていましたっけ。いいですよ。私の料理をごちそうしてあげます」
「どんな味なのか、気になるな。楽しみにしているよ」
「今日でなくてもよいのですか? まあ、休日のほうが時間を使えますから、そうしましょうか」
ということで、次の休日にミネルバさんに手料理を振る舞ってもらえることになった。
そういえば、放課後からミネルバさんに料理を作ってもらうとして、場所はどこにするつもりだったのだろう。
まあ、そうならなかったのだから、考える必要はないか。
そして、ミネルバさんと約束した日。ミネルバさんの部屋に誘われて、昼食を作るところを見せてもらうことになった。
いくつもの鍋に同時に火属性魔法で火を通していくミネルバさん。
やはり、ミネルバさんはとんでもなく優れた魔法使いだ。今の状況だけでもよく分かる。
炒めものに強い火力で一気に火を通したり、煮物では時間ごとに火を細かく調節したり。
他にも、汁物や魚を焼いたもの、パンにも同時に火を通していた。
当然、それぞれに合わせた火加減に調整している。凄まじい技だ。
魔力の流れはとてもスムーズだし、火の強弱も狙った強さに即座に変更できている。
どれほど努力すればこれほどのことができるのだろう。今はまだ、俺には想像することしかできない。
いつか、俺もこれほど火属性魔法をうまく使えるようになりたいものだ。
俺はこの学園に来るまで、ずっと複合魔法を優先して使ってきていた。
空間魔法を使うために訓練する中で、単一属性の重要性に気がついた。
ミネルバさんは、俺がこれまで寄り道してきた時間も、まっすぐに進んできたのだろう。
だから、これほどに凄まじい単一属性を使いながらも、空間魔法まで使える。
空間魔法では、当然複数属性の練度が高くなければならないのだからな。
料理が完成して、ミネルバさんはこちらに料理を運んできてくれた。
どの料理も美味しかったが、俺にはうまく言葉にできる気がしなかった。
なので、魔法について褒めていくことを中心にした。
「ミネルバさんの火属性魔法は凄まじかった。今の俺には届かないほどの境地だ。やはり、ミネルバさんは誰よりも尊敬できる魔法使いだ」
「そうなんですね。ルイスさんほどの人がそう言うのならば、私も捨てたものではないのでしょう」
やはり、ミネルバさんからは自信のようなものが失われている気がする。
俺をミネルバさんが拒絶したときにも、似たようなことを言っていたはずだ。
だが、俺はミネルバさんを本気で尊敬しているんだ。誰のものよりもミネルバさんの魔法を見たいんだ。
「そんなレベルではない。俺はミネルバさんの魔法がいちばん好きなんだ。ミネルバさんがどれだけ努力したのか、どれだけ魔法が好きなのか、どれだけでも伝わってくるミネルバさんの魔法が」
「それは、この空間魔法を見ても言えるセリフなんですか?」
そして、ミネルバさんは以前俺がおぞましいと感じた空間魔法を使う。
あいかわらず見た目は澱んでいると言ってもいい。
それでも、今の俺にはミネルバさんの空間魔法が何よりも輝いて見えた。
なぜなら、ミネルバさんは俺以上に優れた魔力の制御で空間魔法を使っている。
それがどれだけ素晴らしいことなのか、俺にわからないはずがない。
だって、俺は誰よりも空間魔法に憧れて、空間魔法を使うために進んできた。
それだけじゃない。俺は誰よりも魔法が好きだと信じている。
実際、俺以上に努力している人間など、他には思いつきもしなかった。ミネルバさんを除いては。
ただ、本当に俺より努力しているのか分かるほど、俺はミネルバさんを知らない。
それでも、そうだとしても、ミネルバさんが努力していないなど、俺は口が裂けても言えない。
それほどに、ミネルバさんはきれいな魔力制御をしていた。
この美しさが分かる人間が、一体どれほどいるのだろうか。
俺には、そう多いとは思えない。アベルですら、きっと気が付かないだろう。
それにまだ理由はある。俺が初めてみたときよりも、俺が拒絶されたときよりも、もっと洗練されているからだ。
一度魔法を楽しくないと感じながらも、それでもずっと努力してきたという事実がそれだけでわかる。
それだけで、今のミネルバさんの魔法を好きだと言い切るための理由としては十分だった。
「好きだ。今なら迷わず言える。その空間魔法は、ミネルバさんが苦しみながらでも前に進んできた証なんだ。それを嫌いだというのならば、俺に魔法使いとしての資格はない。魔法を使うために努力する姿勢を否定して、俺に何が残るというんだ」
「そうなん、ですね。それは……本当に嬉しいです。もしかしたら、今まで生きてきた中で一番かもしれないくらい。この醜い心を、そうと知りながら好きだと言ってもらえることは」
今のミネルバさんの言葉で確信した。やはり、空間魔法の威力と己の心の形は連動している。
最も自分の心の姿に近い光景を作ることで、空間魔法の威力を高められるということだ。
やはり、ミネルバさんが避けられる原因になったのは、この空間魔法が原因なのだろう。
それにしても、空間魔法の景色だけで人の心を知ったような気になるなど、くだらないな。
今、ミネルバさんの空間魔法を見たからこそ、その考えは正しいと思える。
それはなぜか。ミネルバさんの心は澱んでいたのかもしれない。
それでも、ミネルバさんは魔法の実力を目に見えて向上させられるほど努力していたんだ。
同じことが、ミネルバさんを避けていた連中の誰か1人にだってできたとは思わない。
だからこそ、俺はミネルバさんの空間魔法が澱んでいたところで、ミネルバさんの心まで醜いだなんて言うつもりはないんだ。
「俺はミネルバさんの心を醜いとは思わないが。本当にミネルバさんの心が醜かったのならば、魔法すら捨てていたとしか思えない。ミネルバさんはそうしなかった。それだけで、俺がミネルバさんを信じるには十分なんだ」
「ふふ。そうですか。ルイスさんは本当に魔法が大好きなんですね。私でも敵わないかもしれないくらい。でも、そんなルイスさんだからこそ、私は救われたのかもしれない」
そう言うミネルバさんの笑顔は、これまで俺が見てきたミネルバさんの顔の中でいちばんきれいだとすら思った。
今のミネルバさんからは、先程まで感じていた恐怖をまるで感じない。
だから、救われたというのは大げさかもしれないが、ミネルバさんの心は良い方に進んでくれたのだろう。
本当に、本当に嬉しい。ミネルバさんが嬉しそうにしてくれているだけで、俺のこれまでの苦しみが報われたとすら思える。
「ミネルバさんが喜んでくれるのなら、恥ずかしいことを言ったかいがあったな」
「そんなふうに言わなくても。かっこよかったですよ。さっきのルイスさんは」
そんな事を言われると照れてしまう。でも、ミネルバさんの笑顔は随分自然になった。
先程のものが作った顔ではないと思えて、達成感のようなものがある。
「そうだ。もう一度空間魔法を使ってみてもいいかもしれませんね。どうなっているか、確かめてみませんか?」
「ミネルバさんが見せてくれるのなら、喜んで」
「なら、よく見ていてください」
そのままミネルバさんは空間魔法を使っていく。
かつて俺がおぞましいと感じていた光景、繭と蛹がいっぱいの景色。
いつか俺が空間魔法に憧れるきっかけになった、美しい空間。
今回のミネルバさんの空間魔法は、美しいものが一番威力が高い様子だった。
それでも、空間魔法としてのすべてを発揮できているわけではない。
「これから、私の心と一致した景色を探さなくてはいけませんね」
間違いなく大変な作業なのだが、それに挑むミネルバさんの顔は、希望で満ちているようにすら見えた。
俺の言葉がミネルバさんのこの顔を生み出すきっかけになったのなら。こんなに嬉しいことはない。
今の俺には、目に映る全てが輝いて見えるようだった。ミネルバさんを好きだという気持ちが、もう一度湧き上がってきたのだと感じた。
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