転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第四章 魔導王国

#118 言霊

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「兄さん、今すぐこんなことは辞めるんだ」
 諭すように兄に向かって言葉を掛けたエンティリーバ。それに男は吐き捨てるように言った。
「……お前には分からないさ。名付きのお前にはな!!」
 そう言って、男はエンティリーバに斬りかかる。ギィンと嫌な音が響き、男とエンティリーバの間にはグラディミーレが剣を構えて立っていた。
(火花が散ってる……もう鉄の武器があるの?)
 生活水準はそこまで高いようには思えなかったが、鉄製の武器がある時点でこうなる事は初めから分っていたのかもしれない。人は闘争心の塊だと、昔の偉人が言っていた気がする。
「こいつの兄であっても、刃を向けるのであれば容赦はしない」
「っ……くそっ」
 剣の戦士という名前を与えられているグラディミーレに、ただの村人が勝てるはずのなかったのだ。
 男は押し返され、無様に尻餅をついた。
 男に付いてきた村人達にどよめきが走る。意気揚々とここまで来ておいて、リーダーの男が負けてしまったのだ。
「ふっ……ははははは!」
 何が可笑しいのか、男は急に笑い始めた。
「何が可笑しい!」
 グラディミーレが問う。男の笑いは、どこか不安を感じさせる。酷く不気味だ。
「ははははは!……『跪け』」
 笑いを辞めた男は、響きの違う『音』を出した。それを聞いたグラディミーレ、エンティリーバ、そして村人は、一斉に足を折った。皆、自分の行動に目を白黒させ、一人立つ男を見る。
「エンティリーバ、智慧などと大層な名を貰っていてもその程度か……」
「何を、した……」
 跪かされた彼らは、誰一人として立ち上がることが出来ていない。それは、まだ力が働いていると言うことで……。
「俺が巫女に授けられた名前を知っているか?」
 男は、高圧的にエンティリーバを見下ろして言った。
「ウェルブム……言葉という意味だ」
 男の言葉で、フェーリエは理解した。村人が男に付いてきた理由も、最大の障害である名付き二人を敵と思っていなかった理由も、少女がすんなり死を受け入れた理由も。
(全部、この男の『言霊』の力のせいだったんだ……)
 言霊は、言葉だけで相手の精神を縛り、意のままに操ることが出来る恐ろしい代物である。使える者は歴史的にも一人二人居れば良い方の、非常に希少な魔法である。
 とは言え、それが分ったからと言ってフェーリエに何か出来る訳ではない。ただただこの光景を眺めるしか出来ないのだ。
「お前達も、巫女も、ガイアで無い限りこの言葉が効く。人である限り」
 自信満々に答えるウェルブムは、落ちた剣を拾い上げエンティリーバに握らせる。
「憎たらしい弟よ、名付きを、グラディミーレを『殺せ』」
 そして、耳元でその言葉を言った。
「エンティリーバ!!その音を聞くな!!」
 グラディミーレが慌てて声を張るが、もうその言葉は、エンティリーバを支配していた。
「あ、あぁ……何故……身体の自由がきかないんだ……やめろ、やめれくれ!!!兄さん!!」
 必死の抵抗の言葉も意味は成さず、涙を流しながら、エンティリーバはその剣を振り下ろした。片割れの首へと。



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