転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第六章 舞踏会?いいえ今度こそ武闘会です

#152 チーム戦其の三

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「お次の相手はAランクの魔法使いと武闘家の方です。顔見知りではあるようですけど、仲が宜しく無いようですから戦いがどうなるか分かりません」
 クローは入場口に立ったときにそう言った。上ランクが相手なのは初めてだが、良い力試しだ。
「ここは軽く突破しましょう。私たちなら出来ますよ」
 クローは恐らく笑っている。優しく、柔らかく微笑んでいる様に思える。フードでわからないが。
「確かに出来ると思いますけど……どうして、そんなに信頼してくれるんですか?」
「それは……全ての試合で勝ったら教えて差し上げますよ」
 気になったことを聞くと、クローははぐらかすようにそう言った。その態度を不思議に思ったが、言質は取ったのだ、あまり気にせず優勝しにいこうではないか。それよりも、何故優勝ではなく全ての試合で勝ったらなどと含みのある言葉を使ったのだろうか。
 引っかかった疑問を考え始めた矢先、選手入場の号令が掛けられた。クローに促され、フェーリエは考えを中断した。
(また後で考えれば良いか……)
 フェーリエは観衆の声が響く闘技場に足を踏み出した。


「ちょっと!あたしの足を引っ張るんじゃないわよこの脳筋!!」
「足を引っ張ってるのはそっちだろうが!しょぼい魔法しか使わねぇポンコツ魔女が!!」
 観衆の声よりも尚大きい二人の声が空気を震わせる。
 最初に叫んだのはアルス。身体のラインを見せつけるような布面積の少ない服を着た妖艶な美女だ。もはや踊り子ですか?と聞きたくなる程に彼方此方露出している。しかしそれでも本職は魔法使いなのだ。大きければ大きいほど高級である魔石だが、十分に高価な手のひらほどの魔石が付いた杖を持っている。ランクに実力が伴っていてよく稼いでいるのだろう。所でその服装をなんとかして頂きたい。自分も女性だが、目のやり場に困る。
 次に叫んだのはエルゴー。如何にも肉体派ですと言わんばかりの筋骨隆々な肉体を見せつけている。武器は所持しておらず、余程自分の拳に自信があるのだろう。
 二人が仲が悪いことは先程聞いたばかりだったが、試合開始早々口喧嘩をされる相手の身にもなって欲しい。今攻撃したら反感を買いそうで嫌だ。
「どうしますか?クロー」
「これは少し想定外でした。取り敢えず此方に注意を向けて頂きましょうか」
 相手を遠い目で見ていたフェーリエは、クローの言葉にため息を吐いた。それが嫌で問いかけたのだが……。
(取り敢えず吹き飛ばすか)
 キングウルフを吹き飛ばした時よりも可愛らしい範囲魔法をイメージする。某ゲームの二段階目ぐらいを意識して。
 罵り合う二人の周りで、閃光が弾けた。初めは一つの光。そこから連鎖してあっという間に二人を包み込む。爆発音と共に、土煙が舞う。闘技場の地面を少し抉ってしまったようだ。
「呪文は唱えないんですね」
「……気恥ずかしので」
 クローの言葉に、フェーリエは目をそらす。呪文にしなければならない程の魔法を使う機会も早々無いのだから、別に良いではないか。と、誰に向けてか分からない言い訳を心の中で呟く。
 そうこうしていると、急に土埃が払われた。
「感謝しなさいよ。守ってあげたんだから」
「はっ!あの程度避けれたわ!」
 目の前には、五体満足の二人が立っていた。どうやら障壁で弾かれたらしい。土埃が払われたのは風魔法だろう。
「あの程度、か……」
 あまり傷をつけないように威力は弱めたが、自分の魔法に対する評価にフェーリエの内心は穏やかではない。
(Aランクだし、ちょっと本気を出しても良いよね?)
 フェーリエは心の中で黒く微笑んだ。

 
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