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<フリーター出撃編> ~守護龍ヴァスケル 覚醒する~
第十五話:ヴァスケル様、失踪する
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金庫室の扉を開けると、そこは金庫室のなかだった。
当たり前か。
金庫室のなかに、守護龍ヴァスケルの姿はなかった。
これは一大事だ!
「リューキさまがいけないんですよ!!」
城の大広間で緊急会議。
ジーナ・ワーグナーが俺を責める。
俺に反論する術はない。
ヴァスケル失踪の原因に思い当たるフシがありすぎて困るくらいだ。はは……
それから一週間。
ヴァスケルは城に戻ってこない。
ジーナはずっと口をきいてくれない。
いつもニコニコしてる彼女でも、こんなに怒るんだね。
はい、えろうすんません……
「ジーナ様。そろそろ許して差し上げても良いのでは?」
「嫌ですわっ!」
「リューキ殿は、とても反省しておられるご様子。お話を聞くかぎり、リューキ殿に悪意はありません。むしろ、ヴァスケル様を目覚めさせようと懸命に……」
「エリカ! そんなこと分かってるわよ! 分かってるけど、ヴァスケルさまはいなくなっちゃったじゃない!」
女騎士エリカ・ヤンセンがジーナを諭そうとする。
正直、ありがたい。
けど、ジーナは弁明を受け付けない。
頭では理解できても、気持ち的に受け入れられないというやつか。
他人事なら「時間が解決するさ」なんて無責任な発言もできるが、俺は当事者。
怒っているのが、絶対に怒りそうもない相手なだけに、余計こたえた。はあ……
状況が変化したのは翌日。
守護龍ヴァスケルが姿を消して、八日目のことだ。
「廃鉱山に住みついていたサイクロプスの群れが駆逐された」
「家畜を食い荒らすワイバーンが退治された」
「他領から侵入してきた盗賊の一味が掃討された」
連日の大広間での会議。
オーク・キングの守備隊長グスタフが、領内各地で起きた事件を報告する。
共通するのは、空から舞い降りた黒い巨体の目撃情報。
巨体の正体は「ドラゴン」との具体的な証言もあった。
「女騎士エリカ、グスタフ隊長。お前たちはどう思う?」
「我が領主。いずれも守護龍ヴァスケル様がなされたことかと思います」
「リューキ殿。オレも同じ考えだ」
配下の武闘派ふたりが答える。
俺も同意見だ。
当然のように、ジーナ・ワーグナーも同じ結論に至った。
「リューキさま! ヴァスケルさまをお城に連れ帰ってください! そしたら許してあげますわ」
「ほんとに?」
思わず俺はそう答えてしまった。
答えてから、実現する可能性の低さに気づく。
ジーナが望むのは迷子のペット探しではない。
イヌやネコなら、引っかかれたり噛まれたりしても生命に別条はない。
だが、今回の相手はドラゴン。
それも神獣と称される古龍の末裔。
しかも、俺はヴァスケルを怒らせてしまっている。
「そろそろ、お城に帰ろうか」と諭したところで、素直に応じるとは思えない。
俺がヴァスケルを城に連れて帰るより、ヴァスケルが俺をあの世に送り出すほうがありそうで怖い。
「ジーナ様! リューキ殿が優しいからといって、そんなワガママを!」
「だってぇ……ヴァスケルさまが、ヴァスケルさまが……、うええーーん!!」
号泣するジーナ・ワーグナー。
懸命に宥める女騎士のエリカ・ヤンセン。
男ふたり。俺とグスタフ隊長は茫然と立ち尽くす。
ジーナをうまく慰められる器用さがあれば、俺はここにいなかっただろうな。
ふと、そんなことを考えてしまった。
結局、翌日から俺とエリカで領内を探索することになった。
もちろん、守護龍ヴァスケルを求めての行動だ。
エリカとふたりで出かけられるというのに、気が重いったらありゃしない。
五日前にサイクロプスの群れが駆逐された廃鉱山に到着する。
山の斜面に穿たれた巨大な穴は、まるで火山の噴火口のよう。
鉱山の跡地とは俄かには信じられない。
斜面に沿って流れて固まった溶岩がドラゴンブレスの威力を静かに物語る。
なんという相手を俺は怒らせてしまったのだろうか。
後悔先に立たずとは言ったものだ。
四日前にワイバーンが退治された現場に行ってみる。
住民も家畜も無事だったが、家畜小屋は半壊していた。
村はずれにある黒焦げの穴はドラゴンブレスの跡。
死骸なきワイバーンの墓だ。
こちらでもなかなかの暴れっぷり。
けれど、破壊は最小限に抑えられているように感じられた。
家畜小屋の修繕費の足しにと、住民に金貨五枚渡し、俺たちはその場を去った。
三日前に盗賊の一味が掃討された村に着く。
村に到着して知ったが、「掃討」された盗賊は、実は全員「捕縛」されていた。
ヴァスケルに殺された者はない。
盗賊たちは足枷をはめられていたが、逃亡の意思はなさそうだった。
彼らの瞳に映るのは恐怖の色。
よほど怖い思いをしたと見える。
「我が領主。ヴァスケル様の行動をたどる限り、日に日に落ち着きを取り戻しているように感じます」
「エリカ。俺もそう思う! うん、そう思いたいよ……」
「リューキ殿! 諦めてはいけません! 私も一緒に、ヴァスケル様に謝罪します。このエリカ・ヤンセン、地獄の底までおつき合い致します!」
「待ってくれ! それって俺も死ぬってことじゃあ……」
「マ、我が領主。失礼致しました。そうですね、可能性が僅かでも残る限り、共にがんばりましょう!」
「うわあ! 俺ってやっぱり死んじゃうんだあ!!」
その後、数日。
俺と女騎士エリカは、村から村へとヴァスケルの姿を求めて回る。
結局、盗賊の一味が捕えられたのを最後に守護龍の目撃情報は得られず、俺たちはワーグナー城に戻ることになった。
◇◇◇
「ふう、さすがに疲れたな」
慣れない山道を歩き回った俺の足はマメだらけ。
スニーカーの底もすっかりすり減っている。
次回、元の世界に戻ったとき、新しいスニーカーを数足買いたいものだ。
日本円はほとんど残ってないから、俺もジーナと一緒にバイトをしようか。
いや、「タナカ商会」にこの世界の金貨を買い取り可能か打診していた。
あまり換金しすぎるのは良くないが、少しくらいならいいだろう。
寝室のベッドに腰掛ける。
俺の寝床は、予備の領主用居室。
本来の領主用居室は今までどおりジーナに使ってもらっている。
俺が新しい領主になったからといって、いままで女の子が使っていた部屋を取り上げるのは憚られたからだ。
領主用居室にあるベッドが大きすぎて落ち着かないからでもある。
俺が使う居室のベッドですら十畳ほどの大きさ。
広さの単位を畳で換算してしまうところに日本人らしさを実感する。
いっそのこと、町や村はドーム球場何個分かで考えようか。
そんな、どうでも良いことを妄想してしまう。
ふと、窓際の柱の陰にひとの気配を感じる。
「おのれ! 曲者! 皆の者、出あえ!」なんて時代劇っぽく心の中で警鐘を鳴らすが、なぜか声は出ない。身体も動かせない。
あらわれた曲者さんは妙に色気を感じさせる女性だった。
腰まで伸びた黒髪をかきあげながら、ゆっくりと近づいてくる。
黒目がかった大きな瞳とセクシーとしか表現しようのない真っ赤な唇。
無言だが、彼女の表情は俺に笑いかけているように見えた。
曲者さんは一歩、また一歩と歩みを進める。
別の言葉で表現するなら、ぷるんぷるんと俺に近づいてきた。
うむ……認めよう。
曲者さんのスバラシイ持ち物に俺の目は釘づけさ!
大きく胸元の開いた白いドレスが、褐色のふたつの山の存在を際立たせている。
ドレスが小さめなのは、わざとなのか?
でもダメだ! 見ちゃだめだ!
まだ自己紹介もしてないのに。
いや、そういう問題じゃない。
なんでこの女は俺の部屋にいる?
ハニートラップか?
城の警備はどうなっている?
女騎士エリカ・ヤンセン! グスタフ隊長!
ここに知らない女のひとがいますよー!
だれか―! お願い! 俺をひとりにしないでー!
「あたいもさ……いろいろ考えたんだよ」
曲者さんが言う。
女性にしては低めの、ドスの効いた声だ。
「こいつ……喰ってやろうかとも思った。けど、そんな悪い奴でもなさそうだし」
うん? 何を言ってる。
「乱暴なとこはムカついたけど、懸命にしがみつくとこなんかは、かわいかった。母性本能っていうのか? あたいにも、あるんだなって」
曲者さんが顔を赤らめる。意外とシャイなのか?
大人な雰囲気とのミスマッチにぞくりとする。
「あたい……『カワイイ』って言われたのは、はじめてだったんだよね」
曲者さんが舌をぺろりと出す。
うん、カワイイ。すごくカワイイよ!
だから、お願い。
俺の身体を解放して!
「だからさ……いいよ。あんたの望み通り、あたいの背中に乗せてやるよ」
曲者さんがくるりと向きを変える。
長い黒髪をバサリと横に流し、俺に背中を見せる。
白いドレスは前よりも後ろの方が大胆。
肩からお尻の上までほぼ全開。
グラビアアイドルの水着より布の面積が少ない。
ただし、色っぽいだけではない。
背中一面に、天に昇る龍の姿がある。
紋々。
超こえー。
そう。大衆浴場への入場をお断りされそうな見事な絵が、曲者さんの背中一面に描かれていた。
どこかの組の姐さんか?
え?
「どうした? 新領主さんよ。遠慮は……、おっといけない。魂を縛りつけたまんまだったね……さあ、これでどうだい?」
急に身体が自由になる。
身動きする前に、汗がどっと出る。
心臓が早打ちする。
息ができない。
曲者さんが笑いかけてくる。
なにか言われる前に、俺はなんとか声を出した。
「あなたは……いえ、あなた様は、ヴァスケル様ですか?」
曲者さんの笑顔が固まる。
起き上がり、俺のベッドの上にあぐらをかく。
白いドレスから生えるふたつの肉感的な太腿に視線が流れないよう、俺は懸命に努力した。
「『様』はいらないんだよ! あんたは『ドラゴン・ライダー』とやらなんだろ? あたいに乗りたいんだろ? 領主、あたい、女騎士で勢揃いしたいんだろ? だったら、あたいのことは呼び捨てにしな! また『ヴァスケル様』なんて言いやがったら、喰っちまうぞ!」
「ひいいっ! ……ヴァスケル……、これからも頼む」
「そう! そうこなくっちゃあ。あんたが一人前になったら、あたいがあんたの卵を産んでやるからよ!」
ヴァスケルに抱きつかれる。
すんごい力。
ちょっとは手加減して欲しい。
柔らかいとか、いい匂いだとかの快楽は一瞬だけ。
息が詰まる。目の前が暗くなる。
反射的に俺は悲鳴をあげてしまった。
ジーナとエリカが部屋に飛び込んでくるのが見えた。
ふたりとも遅いよ。
ジーナ、俺はちゃんとヴァスケルを連れ帰ったからな。
いや、ヴァスケルが勝手に帰って来ただけか。
まあ、どっちでもいいや。
俺の意識は落ちる。
あとのことは任せた。
当たり前か。
金庫室のなかに、守護龍ヴァスケルの姿はなかった。
これは一大事だ!
「リューキさまがいけないんですよ!!」
城の大広間で緊急会議。
ジーナ・ワーグナーが俺を責める。
俺に反論する術はない。
ヴァスケル失踪の原因に思い当たるフシがありすぎて困るくらいだ。はは……
それから一週間。
ヴァスケルは城に戻ってこない。
ジーナはずっと口をきいてくれない。
いつもニコニコしてる彼女でも、こんなに怒るんだね。
はい、えろうすんません……
「ジーナ様。そろそろ許して差し上げても良いのでは?」
「嫌ですわっ!」
「リューキ殿は、とても反省しておられるご様子。お話を聞くかぎり、リューキ殿に悪意はありません。むしろ、ヴァスケル様を目覚めさせようと懸命に……」
「エリカ! そんなこと分かってるわよ! 分かってるけど、ヴァスケルさまはいなくなっちゃったじゃない!」
女騎士エリカ・ヤンセンがジーナを諭そうとする。
正直、ありがたい。
けど、ジーナは弁明を受け付けない。
頭では理解できても、気持ち的に受け入れられないというやつか。
他人事なら「時間が解決するさ」なんて無責任な発言もできるが、俺は当事者。
怒っているのが、絶対に怒りそうもない相手なだけに、余計こたえた。はあ……
状況が変化したのは翌日。
守護龍ヴァスケルが姿を消して、八日目のことだ。
「廃鉱山に住みついていたサイクロプスの群れが駆逐された」
「家畜を食い荒らすワイバーンが退治された」
「他領から侵入してきた盗賊の一味が掃討された」
連日の大広間での会議。
オーク・キングの守備隊長グスタフが、領内各地で起きた事件を報告する。
共通するのは、空から舞い降りた黒い巨体の目撃情報。
巨体の正体は「ドラゴン」との具体的な証言もあった。
「女騎士エリカ、グスタフ隊長。お前たちはどう思う?」
「我が領主。いずれも守護龍ヴァスケル様がなされたことかと思います」
「リューキ殿。オレも同じ考えだ」
配下の武闘派ふたりが答える。
俺も同意見だ。
当然のように、ジーナ・ワーグナーも同じ結論に至った。
「リューキさま! ヴァスケルさまをお城に連れ帰ってください! そしたら許してあげますわ」
「ほんとに?」
思わず俺はそう答えてしまった。
答えてから、実現する可能性の低さに気づく。
ジーナが望むのは迷子のペット探しではない。
イヌやネコなら、引っかかれたり噛まれたりしても生命に別条はない。
だが、今回の相手はドラゴン。
それも神獣と称される古龍の末裔。
しかも、俺はヴァスケルを怒らせてしまっている。
「そろそろ、お城に帰ろうか」と諭したところで、素直に応じるとは思えない。
俺がヴァスケルを城に連れて帰るより、ヴァスケルが俺をあの世に送り出すほうがありそうで怖い。
「ジーナ様! リューキ殿が優しいからといって、そんなワガママを!」
「だってぇ……ヴァスケルさまが、ヴァスケルさまが……、うええーーん!!」
号泣するジーナ・ワーグナー。
懸命に宥める女騎士のエリカ・ヤンセン。
男ふたり。俺とグスタフ隊長は茫然と立ち尽くす。
ジーナをうまく慰められる器用さがあれば、俺はここにいなかっただろうな。
ふと、そんなことを考えてしまった。
結局、翌日から俺とエリカで領内を探索することになった。
もちろん、守護龍ヴァスケルを求めての行動だ。
エリカとふたりで出かけられるというのに、気が重いったらありゃしない。
五日前にサイクロプスの群れが駆逐された廃鉱山に到着する。
山の斜面に穿たれた巨大な穴は、まるで火山の噴火口のよう。
鉱山の跡地とは俄かには信じられない。
斜面に沿って流れて固まった溶岩がドラゴンブレスの威力を静かに物語る。
なんという相手を俺は怒らせてしまったのだろうか。
後悔先に立たずとは言ったものだ。
四日前にワイバーンが退治された現場に行ってみる。
住民も家畜も無事だったが、家畜小屋は半壊していた。
村はずれにある黒焦げの穴はドラゴンブレスの跡。
死骸なきワイバーンの墓だ。
こちらでもなかなかの暴れっぷり。
けれど、破壊は最小限に抑えられているように感じられた。
家畜小屋の修繕費の足しにと、住民に金貨五枚渡し、俺たちはその場を去った。
三日前に盗賊の一味が掃討された村に着く。
村に到着して知ったが、「掃討」された盗賊は、実は全員「捕縛」されていた。
ヴァスケルに殺された者はない。
盗賊たちは足枷をはめられていたが、逃亡の意思はなさそうだった。
彼らの瞳に映るのは恐怖の色。
よほど怖い思いをしたと見える。
「我が領主。ヴァスケル様の行動をたどる限り、日に日に落ち着きを取り戻しているように感じます」
「エリカ。俺もそう思う! うん、そう思いたいよ……」
「リューキ殿! 諦めてはいけません! 私も一緒に、ヴァスケル様に謝罪します。このエリカ・ヤンセン、地獄の底までおつき合い致します!」
「待ってくれ! それって俺も死ぬってことじゃあ……」
「マ、我が領主。失礼致しました。そうですね、可能性が僅かでも残る限り、共にがんばりましょう!」
「うわあ! 俺ってやっぱり死んじゃうんだあ!!」
その後、数日。
俺と女騎士エリカは、村から村へとヴァスケルの姿を求めて回る。
結局、盗賊の一味が捕えられたのを最後に守護龍の目撃情報は得られず、俺たちはワーグナー城に戻ることになった。
◇◇◇
「ふう、さすがに疲れたな」
慣れない山道を歩き回った俺の足はマメだらけ。
スニーカーの底もすっかりすり減っている。
次回、元の世界に戻ったとき、新しいスニーカーを数足買いたいものだ。
日本円はほとんど残ってないから、俺もジーナと一緒にバイトをしようか。
いや、「タナカ商会」にこの世界の金貨を買い取り可能か打診していた。
あまり換金しすぎるのは良くないが、少しくらいならいいだろう。
寝室のベッドに腰掛ける。
俺の寝床は、予備の領主用居室。
本来の領主用居室は今までどおりジーナに使ってもらっている。
俺が新しい領主になったからといって、いままで女の子が使っていた部屋を取り上げるのは憚られたからだ。
領主用居室にあるベッドが大きすぎて落ち着かないからでもある。
俺が使う居室のベッドですら十畳ほどの大きさ。
広さの単位を畳で換算してしまうところに日本人らしさを実感する。
いっそのこと、町や村はドーム球場何個分かで考えようか。
そんな、どうでも良いことを妄想してしまう。
ふと、窓際の柱の陰にひとの気配を感じる。
「おのれ! 曲者! 皆の者、出あえ!」なんて時代劇っぽく心の中で警鐘を鳴らすが、なぜか声は出ない。身体も動かせない。
あらわれた曲者さんは妙に色気を感じさせる女性だった。
腰まで伸びた黒髪をかきあげながら、ゆっくりと近づいてくる。
黒目がかった大きな瞳とセクシーとしか表現しようのない真っ赤な唇。
無言だが、彼女の表情は俺に笑いかけているように見えた。
曲者さんは一歩、また一歩と歩みを進める。
別の言葉で表現するなら、ぷるんぷるんと俺に近づいてきた。
うむ……認めよう。
曲者さんのスバラシイ持ち物に俺の目は釘づけさ!
大きく胸元の開いた白いドレスが、褐色のふたつの山の存在を際立たせている。
ドレスが小さめなのは、わざとなのか?
でもダメだ! 見ちゃだめだ!
まだ自己紹介もしてないのに。
いや、そういう問題じゃない。
なんでこの女は俺の部屋にいる?
ハニートラップか?
城の警備はどうなっている?
女騎士エリカ・ヤンセン! グスタフ隊長!
ここに知らない女のひとがいますよー!
だれか―! お願い! 俺をひとりにしないでー!
「あたいもさ……いろいろ考えたんだよ」
曲者さんが言う。
女性にしては低めの、ドスの効いた声だ。
「こいつ……喰ってやろうかとも思った。けど、そんな悪い奴でもなさそうだし」
うん? 何を言ってる。
「乱暴なとこはムカついたけど、懸命にしがみつくとこなんかは、かわいかった。母性本能っていうのか? あたいにも、あるんだなって」
曲者さんが顔を赤らめる。意外とシャイなのか?
大人な雰囲気とのミスマッチにぞくりとする。
「あたい……『カワイイ』って言われたのは、はじめてだったんだよね」
曲者さんが舌をぺろりと出す。
うん、カワイイ。すごくカワイイよ!
だから、お願い。
俺の身体を解放して!
「だからさ……いいよ。あんたの望み通り、あたいの背中に乗せてやるよ」
曲者さんがくるりと向きを変える。
長い黒髪をバサリと横に流し、俺に背中を見せる。
白いドレスは前よりも後ろの方が大胆。
肩からお尻の上までほぼ全開。
グラビアアイドルの水着より布の面積が少ない。
ただし、色っぽいだけではない。
背中一面に、天に昇る龍の姿がある。
紋々。
超こえー。
そう。大衆浴場への入場をお断りされそうな見事な絵が、曲者さんの背中一面に描かれていた。
どこかの組の姐さんか?
え?
「どうした? 新領主さんよ。遠慮は……、おっといけない。魂を縛りつけたまんまだったね……さあ、これでどうだい?」
急に身体が自由になる。
身動きする前に、汗がどっと出る。
心臓が早打ちする。
息ができない。
曲者さんが笑いかけてくる。
なにか言われる前に、俺はなんとか声を出した。
「あなたは……いえ、あなた様は、ヴァスケル様ですか?」
曲者さんの笑顔が固まる。
起き上がり、俺のベッドの上にあぐらをかく。
白いドレスから生えるふたつの肉感的な太腿に視線が流れないよう、俺は懸命に努力した。
「『様』はいらないんだよ! あんたは『ドラゴン・ライダー』とやらなんだろ? あたいに乗りたいんだろ? 領主、あたい、女騎士で勢揃いしたいんだろ? だったら、あたいのことは呼び捨てにしな! また『ヴァスケル様』なんて言いやがったら、喰っちまうぞ!」
「ひいいっ! ……ヴァスケル……、これからも頼む」
「そう! そうこなくっちゃあ。あんたが一人前になったら、あたいがあんたの卵を産んでやるからよ!」
ヴァスケルに抱きつかれる。
すんごい力。
ちょっとは手加減して欲しい。
柔らかいとか、いい匂いだとかの快楽は一瞬だけ。
息が詰まる。目の前が暗くなる。
反射的に俺は悲鳴をあげてしまった。
ジーナとエリカが部屋に飛び込んでくるのが見えた。
ふたりとも遅いよ。
ジーナ、俺はちゃんとヴァスケルを連れ帰ったからな。
いや、ヴァスケルが勝手に帰って来ただけか。
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俺の意識は落ちる。
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