フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

文字の大きさ
76 / 90
<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第七十二話:フリーター、精霊を叱る

しおりを挟む
 黒檀こくたんの塔を出て、庭園を歩く。

 エル姫が言うには、温泉に用事があるとのこと。
 ジーナを探すのと何の関係があるのか分からないが、行けば分かるらしい。

 なんだろうね? さっぱりだ。
 
 温泉に向かう道中、エル姫が話しかけてくる。
 風の精霊シルフデボネアを召喚した話だ。

「ワーグナー?」
「そうじゃ。ジーナにもらったワーグナーで超一級品の神紙しんしが作れたのじゃ。ダゴダネルで手に入った低品質の紙では三級品の神紙しんししか作れなんだから、スゴイことじゃぞ!」

「今回は超一級品の神紙しんしを使ってデボネアを召喚したってことか?」
「そのとおりじゃ!」

 風の精霊シルフデボネアに視線を向ける。

 白磁はくじの塔で会ったデボネアはかわいらしい小妖精フェアリーの姿だったが、目の前にいるデボネアは人間ヒトの少女くらいの背丈がある。
 同じ召喚でも神紙しんしの違いで外見も変わるのだと、あらためて理解した。

「なんや! うちがあんまりカワイイもんやかられよったか?」
「そうじゃないけどさ。てか、デボネアは俺の守護精霊になってくれるみたいだけど、早いモノ勝ちみたいに言ってたよな」

「なに呑気なこというてんねん!? リューキはんはエイシェント・ドラゴンの力を借りて、一時的に竜人ドラゴニュートになってるだけやないか! あんさんが魔人になってさっさと龍の魂ドラゴン・ソウルを返さんと、エイシェント・ドラゴンはいつまでたっても目覚めないんやで!」
「マジか!? なら、守護精霊はデボネアでいいや。よろしく頼むよ!」

「なんやて!? うちでもイイって言い方はないやろー!! でもまあ、リューキはんがうちを選んでくれるんなら……」

「いけません! 勝手に話を進めるのは許しません!!」

 突然、叱責しっせきする声が飛んでくる。
 
 声がした方を見ると、高貴そうな顔立ちの女性が温泉で半身浴していた。

 その三十代前半くらいの女性は、ちゃぷんと音を立てながら温泉から上がる。
 けど、どう考えても人間ヒトではない。

 うん、全身が半透明な女性が人間ヒトであるはずがない。
 もしやグスタフ隊長がビビっていた幽霊ゆうれいさんの正体か?

「あなたは何者です?」
「あら? リューキさんは、ワタクシのことを忘れてしまったのですか? ヒドイ殿方とのがたですね。このような仕打ちを受けたのは何万年ぶりかしら」

「リューキよ。失礼じゃぞ! こちらにおわすのはエフィニア殿下でんかじゃ。ダゴダネルの街の大火災で助けてもらったじゃろう? デボネアと一緒に、わらわが召喚お呼びしたのじゃ」

「ダゴダネルの……あっ! 水の精霊ウンディーネ殿下でんかでしたか。エフィニアさんとおっしゃるんですね。その節はお世話になりました」
「ワタクシのことを思い出してくれましたか。うれしいですね。約束も覚えていますか?」

「そういえばエルがなんか約束してましたね。エル、殿下でんかとなにを話したんだ?」
「エフィニア殿下でんかはリューキの守護精霊となって、つか異世界いせかい滞在を楽しみたいそうじゃが……」

 エル姫の回答に、風の精霊シルフデボネアが強く反応する。

「なんやてー!? リューキはんの守護精霊はうちがなるんや! いくら水の精霊ウンディーネ女王様クイーンでもゆずるつもりはないわー!」
「デボネアさん。風の精霊シルフプリンセスがワガママを言うものではありませんよ。ワタクシの方が先に約束をしたのですから」 

「エル姫はんとの約束やないかー! うちはリューキはんから直接頼まれたんやでー! うちがリューキはんと一緒にあちこち遊びに行くんやー!」
「そんな話は無効です。ワタクシとの約束の方が優先です」

「アホいうなー! そんなん認めんわー!!」
「あらあら……風の精霊シルフプリンセスともあろう者が品のないこと。ワタクシと風の精霊シルフ女王クイーンはお友だち。代わりに教育して差しあげますわ」

「ぬかしやがれー!!」

 ごうごうと風が吹きはじめる。
 庭園のなか、視界に入るだけでも大きな竜巻が三つ発生する。
 風の精霊シルフの姫君、デボネアの仕業だろう。

 ざあざあと雨が降り始め、ゴロゴロと雷の音が近づいてくる。
 水の精霊ウンディーネの女王、エフィニア殿下でんかがやっているのだろう。

「デボネアもエフィニア殿下でんかも止めるのじゃ! ふたりが本気でケンカしたらお城が壊れてしまうのじゃ!」

「エル姫はん! 止めてくれるな! うちは負けへんでー!」
「エルさん。お話が違いますわね。デボネアさんを教育したあと、少しお時間よろしいかしら?」

「ひっ! ひぃいいぃーーッ!?」

 赤、黄、橙、紫など、カラフルな色彩の花びらが千切れながら舞う。
 殴りつけるような激しい雨に打たれ、樹に生っていた果実が地面に落とされる。
 稲妻が直撃した樹木はメリメリと大きな音をたてながら倒れる。
「ふぎゃーっ!」とシッポを踏まれた猫みたいに悲鳴をあげながら、エル姫が抱きついてきた。

「ああ、俺の楽園が壊されていく。温泉、花いっぱいの庭、たわわに実った果実……」

 俺はがっくりと肩を落とした。

 それから徐々に、怒りがこみあげてきた。

……おまえら、なんてことしやがるんだ! 俺の守護精霊になりたいなんて言いながら、ホントの目的は別じゃないか! エフィニア殿下でんかとやら、「束《つか》の異世界いせかい滞在を楽しみたい」だと? ふざけんじゃねえ! デボネア、お前もだ! 俺を早い者勝ちの特売品みたいに言うな! ったく、エルもエルだ。テキトーな空約束からやくそくを連発した挙句、「あとはよろしく」みたいに丸投げするんじゃねえ! はいはい、どーせ俺はしがない人間だよ。いや、いまや竜人ドラゴニュート。平々凡々な能力の凡竜人ドラボニュートさ。 ど畜生ちくしょう―――ッ! どーせ俺なんか、精霊の女王やお姫様、高貴な生まれの魔人の貴族様に比べれば、ゴミみたいな存在だ。けどなあ、俺は俺なりに……


「プリンセスぱーんち!」

 アホっぽい掛け声が聞こえる。
 エル姫のボディブローが、俺のみぞおちを撃ち抜く。

 ぐおっ、完全に油断していた。
 
 息が詰まる。身体がよじれる。耐え切れず、膝が落ちる。

 グチャっ――俺は泥だらけになりながら大の字に転がった。
 
「リューキよ! もうやめるのじゃ!!」
「……エル。それは俺のセリフだよ。てか、おまえ、格闘技かなんかやってたのか? パンチがとてつもなく重いよ」

「貴族のたしなみで護身術を習っておったのじゃ! あとは神器しんきのリストバンドの威力かのう。というか、そんなものはどうでも良いのじゃ! デボネアとエフィニア殿下でんかを許してやるのじゃ!!」

 ハードパンチャーのエル姫に支えられながら身体を起こし、あたりを見まわす。

 雨はやみ、風も止まり、青空が戻っている。

 黒檀こくたんの塔はゆるぎなくそびえ立っているが、あたり一面咲き乱れていた花はほとんど散り、果実は枝ごと地面に落ち、泥水が流れ込んだ温泉はにごりきっていた。

 無残な様子となった庭園を前に、俺の怒りは再度沸騰ふっとうしはじめる。

「やーめーてーっ! リューキはん、かんにんしておくれーー!!」
「リューキさん! ワタクシが悪うございました! もうお止めください!」

 甲高かんだかい悲鳴があがるが、デボネアとエフィニア殿下でんかの姿は見えない。

 代わりに、泥水のみずたまりのなかで、小人がふたりのたうち回っている。

 見ると、手のひらサイズにちぢんだデボネアとエフィニア殿下でんかだった。

「ん? ふたりとも随分ずいぶんちんまりしたな」

「リューキはん! アホなこと言わんと助けてーな! もうケンカせんから!」
「リューキさん。ワタクシもです。お情けをくださいませ」

 小さくなったデボネアとエフィニア殿下でんかがすがりついてくる。

 仕方ないので、俺はふたりを拾い上げてやる。
 
 さて、俺は何をどーすれば良いのだろうか?
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

処理中です...