仙人様、小間使いいりませんか?

タウタ

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 狼に食われて死んでしまうのか。運よく襲われなかったとしても、金丹は手に入らない。旅をする金も荷物もなく、どうすればいいのだろう。どうすればよかっただろう。馬鹿な選択だっただろうが、遊明に薬をやったのが間違いだとは思えなかった。
「母さん、ごめん」
 母は璃央のこんな末路を望んでいなかっただろう。死の恐怖と道を閉ざされた不安と母への申し訳なさで頭がいっぱいになり、璃央はしゃがみこんだ。ろうそくが消え、闇に包まれる。腕に顔を埋めたら腹が鳴った。ただでさえよくない考えで満たされた頭に空腹が追加され、泣きたい気持ちになる。ぎ、とかすかに軋んだ音がしたが、確かめる元気もない。
「戻ったのか」
 顔を上げると、灯りを手にした士鵠がいた。
「早く入れ。狼の話、忘れたわけではないだろう」
「入れてくれるんですか」
「入りたくないのか」
 入りたいに決まっている。璃央はぶんぶん首を振った。ろうそくと魚を拾って立ち上がろうとしたが、脚が萎えてうまくいかない。結局ろうそくも魚も士鵠が持ってくれて、璃央はよろけながらついていくしかなかった。士鵠がかんぬきをかけるのをぼうっと待つ。とりあえず命は助かった。中に入れてもらえたのだから、荷物も取り戻せる。でも、それだけだ。未来が閉ざされているのに変わりない。
「けがをしたのか」
「どうして知ってるんですか」
 千里眼だろうか。さすが仙人だ。
「縄に血がついている」
 千里眼ではなかった。士鵠は呆れた顔で璃央のろうそくと魚を地面に置いた。
「見せろ」
 手をつかまれ、灯りにさらされた。歩いている最中は痛いだけだったが、実際に見るとひどい傷だ。てのひらの皮が裂けて血が滲んでいる。途中からずっと使っていた左手は指にも擦り傷があり、見る間にふつふつと血の玉が浮かんでくる。
「来い」
 連れていかれた先は士鵠の部屋だった。背の高い灯台に火を移した士鵠は、天井から吊り下がっている草を取って部屋の中央に座った。
「座れ。血がつくから何も触るな」
 璃央が戸惑っていると、士鵠はかろうじて床が見える場所を指した。璃央の返事も待たず、平らな石の上で草をすりつぶし始める。強い匂いのする酒を混ぜ、白い粉を加えてさらにすりつぶす。璃央はおとなしく指された場所に座り、士鵠の作業をながめていた。
 黒い粉と別の薬草が加わり、薬は粘り気を増した。それぞれに量が違う。配分が決まっているのだろう。他の薬もこうして何も見ないで作るのだろうか。何種類くらいの配合を覚えているのだろう。金丹の作り方も記憶しているのだろうか。
「どうして部屋に入った」
「すみません」
 てのひらをつけないので、璃央は頭だけを深く下げた。
「謝れとは言っていない。なぜかと聞いているだけだ」
「遊明があんまり必死だったから、何とかかしてやりたくて、それで」
「出ていけ」
 冷水をかけられたように体が強張る。心臓が大きく脈を打ち、こめかみが痛んだ。ごりごりと薬草をすり潰す音が耳に響く。
「と、言われるとは思わなかったのか」
「思いました」
 声が震える。考えて、悩んで、迷って、それでも遊明を放っておけなかった。覚悟したはずなのに、やっぱり怖い。この先どうしよう。どうすればいいだろう。混乱とともに絨毯の模様がうねり始め、璃央は目をつむった。
「無謀だな。母親の病状を知らないから無理もないが。知っていれば子どもの訴えだけで勝手をするはずは」
「遊明の母親がどんな状態でも、俺は部屋に入ったと思います」
 薬草をすり潰す音が止まった。
「症状が軽いとか重いとか、遊明には関係ないんです。母さんが苦しそうにしてるから助けたいだけなんです」
「なぜ、そう言い切れる」
「俺の母親も病気でした。遊明は、昔の俺なんです」
 物心ついたとき、璃央は母と二人きりだった。しばらくは父という存在すら知らずにいた。どうして自分には父親がいないのかと泣きながら聞いたとき、母はとても困った顔をした。涙がこぼれないよう耐える母を見て、自分がとてもひどいことをしたのだと思い、璃央は余計に泣いた。
母の仕事を知ったのも同じ頃だった。
「俺の母親は娼婦でした」
 父については何も教えてもらえなかったが、若い頃に関係があって捨てられたのは察せられた。最初に母を困らせてから、璃央は父を話題にしなくなった。母さえいればいいと思った。住んでいた部屋は湿っぽく、壁は染みだらけだった。食べ物も薪もない。璃央はいつも空腹で冬は眠れないほど寒かったが、母と寄り添っていると温かかった。母はやさしく朗らかで、璃央は根拠もなく母に未来の希望を見ていた。
 夜に働く母を休ませるため、昼間は璃央が働いた。宿の前で旅人を待ちかまえ、足を洗ったり馬の世話をしたりした。水汲みや届け物などの小さな仕事をして小銭を稼いだ。二人で働けばおなかいっぱい食べられると思ったが、働いたら働いた分だけ空腹がひどくなった。がっかりして母にこぼしたら、母は膝を叩いて笑った。
「母親が咳をし始めたのがいつだったかは、覚えてないです」
 たぶん、璃央が七歳くらいのときだろう。寝起きに二、三度だった咳は少しずつ回数が増え、一日中になり、乾いていた音に痰が混じるようになった。母はすぐ治ると言ったが、咳は日に日にひどくなった。とうとう体を折って咳をするようになり、母は仕事ができなくなった。
 代わりに璃央が夜も働いた。酒場や宿屋を転々とし、掃除や料理をした。温かい着物と栄養のある食べ物と、何より薬が欲しかったが、大人ほどの稼ぎがあるわけではない。空腹をまぎらわせるだけで精一杯だった。母が体を起こしていられる時間はだんだん短くなり、食も細くなった。明け方に帰って母の手を握り、弱々しく握り返してもらえるとき、璃央はようやく一日詰めていた息を吐き出せた。
 璃央が八歳の冬、母は死んだ。握った手は動かず指先は冷え切っていたが、てのひらにはまだ温もりが残っていた。死んだ人間を見るのは初めてなのに、璃央は母が死んだのがわかった。近所の人が気づいて引きはがすまで、璃央は母の手を握ってひとりで冷たい部屋に座っていた。
 急に広くなった部屋とあの日の寒さを思い出し、璃央は息を止めた。母が死んだとき、璃央は世界でただひとりの生き残りになった。璃央の小さな世界で、母の存在は大きすぎた。
はっとして顔を上げると、士鵠がじっとこちらを見ていた。
「すいません。聞きたくないって言われてたのに」
「続きは? 孤児になったお前がどうして貴族の仲間入りをした」
 士鵠は聞きたくないと言ったことをすっかり忘れたように催促した。
「母さんが、父さんからの手紙と帯飾りを持ってたんです」
 帯飾りと手紙は母の懐から出てきた。前日、璃央が体を拭いてやったときにはなかった。あんな狭い家のどこに隠していたのか、今となってはわからない。文士崩れの老人が読み上げてくれた手紙は、聞いていた者が赤面したり忍び笑いをもらしたりするほど熱烈だった。いつか迎えにいくと書かれていた。
 璃央は帯飾りと手紙を持って父に会いに行った。それが母の遺志だと思った。母はいつか父が迎えに来ると信じていた。帯飾りを売れば薬が買えたのに、父を信じて売らずにいた。
「董の家には人がたくさんいました」
 宴でもしていたのだろう。使用人に追い払われても諦めずに声を張り上げていたら、酔った大人たちがたくさんやってきた。璃央が持っていた手紙と帯飾りは大人たちの手から手へ回された。父は恰幅がよく、赤ら顔で口髭と顎鬚を生やしていた。客人たちに余興にされながら、にこにこ笑っていた。やさしそうな笑顔に璃央はほっとした。これでひとりぼっちではない。
 しばらく待たされ、璃央は董家の門をくぐることを許された。来てよかったと思った。母はいなくなってしまったけれど、今度は父といっしょに暮らせるのだ。
 あとから聞いた話だが、その頃、父は宮廷内でよくない噂が立っていたらしい。璃央を引き取って徳を示し、噂を払拭したかったのだろう。多くの目撃者がいたので、璃央の存在は広く認知された。父はもう璃央を追い出せなかった。幸運だったと思う。璃央は温かい寝床を得た。食べ物に困らなくなった。清潔な衣類を与えられ、教育を施された。
「なるほど、金回りがよくないのは庶子だからか」
 士鵠は冷ややかな笑みを浮かべていた。
「父親の肩書に対してお前の荷物は貧相すぎる。馬も下男もない。厩で寝ても何も言われないのも、そのためだな」
 否定できず、璃央はうなだれた。董家に初めて招き入れられた日、客人たちが宴席へ戻ったあとで父は召使いを振り返った。
「これを洗っておけ。臭くてかなわん」
 璃央を指したとき、直前までの笑顔はどこにもなかった。父の息子と内外に認められても、璃央が期待した家族としての扱いは受けられなかった。璃央からの挨拶や問いかけに、返事はほとんどない。屋敷内で行き合っても、ちらりと視線を向けられるだけだ。
「お前が地に額を擦りつけてまで金丹を欲しがるのは、父親に自分を認めさせるためか」
「認めさせるっていうか、俺はただ、兄さんたちと同じように接してもらいたいんです」
 二人の兄は仕事から帰ると、父に助言を頼んだり有益な情報を伝えたりしている。父はときに厳しい顔で指示を与え、ときに目を細めて労いの言葉をかける。父を知らずに育った璃央には珍しくうらやましい光景だった。
 一度だけ、兄のまねをして父に助言を求めた。倉庫のねずみ取りをしている者の間で不正が横行し、一度差し出した死体を盗み出して翌日にも差し出し、さも仕事をしているように見せかけている。そういった不正を糺すにはどうすればいいかと聞いた。父は乾いた息をもらし、手を振って璃央を退出させた。
「お前、そんなつまらん仕事をしていたのか。初めて知ったぞ」
「下らぬ話で父上を煩わせるな」
 長兄は笑い、次兄はにらんだ。璃央は小さくなって退散するしかなかった。以来、父に仕事の相談はしていない。
「それを、認めさせると言うんだ。で、認めさせてどうする。要職でもねだるのか」
「別に。家族だと思ってくれればいいです。俺は上の兄さんみたいに武術ができるわけじゃないし、下の兄さんみたいに文芸が得意なわけでもない。重要な仕事なんて、できないから」
 ねずみの話をしたときに、返事をもらえるようになりたい。それだけでいい。璃央が答えると、士鵠は眉を寄せた。
「なぜ愛されたいんだ」
「え?」
「お前とお前の母親を捨てた男だぞ。体面を保つためにお前を引き取り、あってなきが如く扱う男だ。本当にそんな男に愛されたいのか」
「父親に愛されたいと思うのは、当たり前じゃないですか」
「では、質問を変える。手柄を立てたら愛される根拠はどこにある」
 璃央は身を固くした。
「皇帝のために金丹を持ち帰れば誰の目にも大手柄だ。体面を保つため、父親はお前を認めざるを得ない。では、愛情は? 内面の問題だ。お前を愛さなくてもなんの影響もない。ならば、これまでの経緯から愛されないと判断するのが妥当だろう」
「義理の母が言ったんです」
 璃央は士鵠の言葉尻に食いつくように言った。
 ねずみの話で兄たちに笑われ叱られたあと、義母に呼ばれた。亡き母よりも若く美しい義母は、目尻をきりりと上げて璃央に手柄を立てよと言った。兄たちが父に認められ、愛されているのは功績があるからだと。
「手柄を立てれば褒めてもらえるから励みなさいって」
「その女を信じる理由はなんだ。赤の他人だろう」
「他人でも、あの人は俺と話をしてくれます。家の中で、一人だけ」
 父は璃央を見ない。兄たちは侮蔑する。召使いたちは父を恐れて目を逸らす。義母は挨拶を返してくれるし、少しの間なら話もしてくれる。
「話をするだけで信じるに値するのか」
 士鵠は鼻で笑った。
「何が言いたいんですか」
「俺がお前の義母なら、手柄など立てさせたくない。自分の息子に不利益になる。だが、冷遇もしない。恨みを買って刺されでもしたら困る。適当にあしらい、信用させ、叶わない希望を見せ、遊ばせておく」
 叶わない希望。
 うなじが熱くなる。
「あの人は俺が金丹の使者に立候補したのを褒めてくれました。出立のときにも励ましてくれたんです」
「帝国全土に人をやって探させても見つからない金丹、一介の倉庫係が持ち帰るとは思えないからな。心安く見送れただろう」
 嘘だ、と璃央は唇を動かしたが、声にはならなかった。義母はやさしい人だ。父に冷たくされる自分を案じてくれる。実の子である兄たちほどではなくても大切に思ってくれている。璃央の名を呼び、側に寄るよう手招いて、お父様はきっとわかってくれますからね、と慰めてくれる。士鵠は義母を知らないから、そんなひどいことが言えるのだ。
「ぜんぶ、士鵠様の勝手な想像です」
「もちろん想像だが、お前は想像すらしていないだろう」
「想像する必要なんかない」
「なぜ家族のことだけ思考を放棄するんだ」
 強い力で内臓を握られたような心地がして、璃央は背を丸めた。
「日々の仕事を見ていると、お前がよく考えて行動しているのがわかる。掃除や水汲みの順序を変えて試していただろう。冬瓜も無闇に切らなかった」
 掃除や水汲み以外に料理も馬の世話も一人でするのだから、効率よくやらなければ終わらない。冬瓜は切らなければ保存が効くと、子どもの頃に働いていた宿の主人に教わった。
「人に対してもだ。お前は俺の顔色をうかがい、俺の出方を想像する。俺を怒らせないよう慎重に振る舞う。なぜ同じことを義母にしないんだ」
 人の機嫌をうかがうのは身に染みついた癖だ。そうしなければ生きられなかった。大家の機嫌を損ねれば寝床を奪われてしまう。酒屋の主人に嫌われたら仕事がなくなってしまう。
 義母にその必要はない。義母は璃央から寝床や仕事を奪ったりしない。家族だからだ。義母が何を考えているか、自分をどう思っているか、やさしい言葉の裏はあるのか。そんな疑うようなこと、家族に対してできるはずがない。家族は信じ合い支え合うものだ。母と璃央はそうだった。義母ともそうありたい。
「俺には、お前がただ信じたい感情だけで義母を信じているように見える」
「信じたいことの何が悪いんですか」
 母はもういない。璃央が家族と呼べるのは董家の人々だけだ。彼らに見捨てられたら、璃央はまたひとりぼっちになってしまう。誰もいない部屋で呆然と虚空をながめていた幼い自分に戻ってしまう。あんな思いは二度としたくない。
「俺はあの人たちを信じます。金丹を持って帰って、士鵠様が言う通り、父に認めてもらいます」
 手柄を立てれば、父は褒めてくれるだろう。兄たちに笑われたり叱られたりしなくなる。義母にも喜んでもらえる。
「董家の一員になるんです」
「お前の言う家族は、成果を上げなければ家族として認めないのか」
 士鵠の声は冷ややかだった。まるで、父のように。
「お前の母親もそうだったのか。お前が銭を稼いだから、成果を上げたから、お前を愛したのか」
「やめろ!」
 璃央は自らの大声に驚いていた。こんな風に声を荒げるのは初めてだった。どこか遠くから驚く自分を見ている自分がいて、その自分を見ている自分もいる。果てしなく無数の自分が自分を見ている気がした。自分がどこにいるのかわからない。
 脈が速い。こめかみがずきずきと痛い。走ったわけでもないのに息がうまくできなくて、頭の中が真っ白になる。
「あんた仙人になるために家族を捨てたんだろ! 普通の人間の暮らしをやめたんだろ! あんたみたいな人には、俺の気持ちはわからない!」
 自分の叫びが耳の中で反響していた。士鵠の話を聞いてはいけない。信じてはいけない。金丹さえあればいいのだ。金丹さえあればうまくいく。金丹さえあれば、本当の家族になれる。
 士鵠は璃央を見つめていた。黒い目は磨いた玉のように艶々として、心の裏側まで見られているような気がした。士鵠の瞳に吸い取られるように怒りが去り、頭に上っていた血が落ちてくる。呼吸も脈も落ち着き、無数にいたはずの璃央は一人で士鵠の前に座っていた。
「す、すいません……じゃない、申し訳ございません」
 体が震える。今度こそ本当に追い出されてしまうと思った。
 璃央は血がつかないよう拳を握り、絨毯に額を押し当てた。誰かに頭を下げるのはいつものことだ。悔しいとも悲しいとも思わなかったが、今だけは涙が出るほど惨めだった。
「前にも言ったが、俺は頭を下げられるのは嫌いだ」
 士鵠は傲慢だ。世の中には、頭を下げる以外に何もできない人間がいる。
「追い出されたくなければ顔を上げて手を出せ」
 璃央は恐る恐る体を起こし、両手を差し出した。べちゃりと嫌な音がして、両のてのひらに薬が落ちてきた。黒っぽい緑色をしている。ぬるぬるした感触が気持ち悪い。鼻を刺す草と酒の匂いに、璃央は思わず顔をしかめた。士鵠は眉一つ動かさず璃央の手に薬を塗りたくり、細く裂いた布を巻きつけた。
「朝まで布を取るな。できるだけ動かさないようにしろ。寝具に薬がつかないよう、うまく寝ろ。でないと、何日もこの匂いの中で寝る羽目になる」
 士鵠は手元の道具を脇に寄せ、粉の壺に蓋をした。信じられないが、士鵠は本当に璃央を追い出さないらしい。言いつけを破って盾突いて、俺の気持ちはわからないと怒鳴った。大嫌いな皇帝の使者を追い出す絶好の機会なのに、どうしてだろう。
「おい、聞いているのか」
「は、はいっ」
「魚はなまぐさくないよう調理しろ」
「はい」
「本当はあんな大きな魚はいらないんだ。俺は魚なんか捌けない。お前がいなければ持て余すだけだ」
 士鵠は苦い顔をした。もしかしたら、士鵠はあまり魚が好きではないのかもしれない。子どもの頃、璃央が働いていた居酒屋の常連にも、魚嫌いの男がいた。彼もなまぐさい臭いを嫌がった。
「出かけるときは、客間に薬を置いていく。だからもう俺の部屋には入るな」
「はい」
「薬の代金はなんでもいい。布の切れ端でも、粟の一握りでも、出されたものを受け取れ」
「はい」
 遊明の魚が丸焼きにして頭からかじれるような小魚でも、士鵠は何も言わず受け取っただろう。士鵠は嫌味で傲慢だが、誠実だ。世間の多くの人間にとって薬がどれほど価値を持つか知っていても笠に着ない。もしも士鵠のような誰かが近くにいてくれたら、母は助かっただろうか。
「士鵠様」
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 本当に俺を追い出さないんですか、と聞こうとして思いとどまる。士鵠の返事は想像できた。追い出されたいのか、と聞き返されるだろう。
「手当てしてくれて、ありがとうございます」
「手当てしてやったんだから、魚は絶対になまぐさくないようにしろ」
 士鵠はよほど魚が苦手らしい。
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