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第36話 最後の戦い 終
しおりを挟む城塞都市ギルメダにそのまま入った。
魔族と人族の戦争…だから冒険者証を持っているだけで警戒態勢でも入れる。
俺は門番の配置と門の構造を見た。
『これなら、内側から門番を倒せば1人でも開けられるな』
そのまま、ダラダラと街で過ごした。
スカルが攻めてきてからが勝負だ。
◆◆◆
俺が城塞都市ギルメダに来てから3日目…とうとうスカルが攻めてきた。
情報ではもう城塞の前にまで死霊の軍団が攻めてきている。
俺が居るこの場所まで、死霊の唸り声が聞こえる。
俺はあらかじめ買って置いた仮面をつけフードを深く被った。
俺はこれから、最低な事をする。
「四天王の一人スカルが攻めて来たぞーーーっ」
「大丈夫だ、此処は城塞都市ギルメダだ! 誰もこの城塞を崩す事は出来ない…門が閉まっている今、此処は絶対に安全だ」
確かにこの城塞はかなりの物だ。
実際に外には魔王軍が攻めてきているのに…皆は非難もせず普通に暮らしている。
普通に店が開かれていて、酒場には人も居る。
『いい気なもんだ』
『戦争に参加もしないクズ』
俺の前世の国ではもう戦争は無くなり平和だったが…
戦争があった時代に協力しなかった人間は非国民呼ばわりされた…そう顔も思い出せない爺さんが言っていた。
だから…利用させて貰う。
お前等の命をな…
俺は英雄じゃない…
勇者でも無い…
チートも持ってない。
だから、真面に戦えない。
だから、お前等の命を利用させて頂く。
門の傍まで来た。
「今は外に出られませんよ! 此処は安全ですが、この門の外には沢山の魔族が居ます…安全が確保されるまで門は閉鎖されます」
「悪いな…」
「貴様、何を…」
馬鹿な奴だ、こんな怪しい人間に普通に話すか?
仮面をつけているのに…
俺は門番に当身を喰らわせて気絶させた。
偽善だな。
俺が殺さなくても恐らくこの男は死ぬ。
俺は門の閂に手をあて思いっきり引いた。
沢山の死霊に押され、そのまま門は開いた。
「貴様、何をしているんだ…魔族が襲ってきているなか、門を開けるなんて」
「お前なにしているんだーーっ」
顔は見られていない。
なら逃げれば良い。
「ぐわぁぁぁぁーーーっ」
「門があいた…理由は解らぬがチャンスだ」
「人間…殺す…皆殺しだ…」
「スカル様に栄光あれ…」
続々とスカルの死霊の軍団が乗り込んできた。
もう、この勢いは止まらないだろう。
「ファイヤーソード」
俺は門が再び閉められない様に門を壊すと城塞都市への奥へ走り出した。
◆◆◆
「駄目だ…此処に入られてはもう…」
「馬鹿言うな、我らが逃げてどうする!城塞が破られた時の為の我らゴーレム部隊だ! なぎ倒してくれる」
「人間如きが我らに敵うと思うな…」
「我は死霊の騎士…」
「人間は皆殺しだ…」
「助けて…助けてくれーーっ」
「お母さん、お父さん…僕死にたくない」
「いやぁぁぁぁーーー息子を助けてーー」
「無理だ諦めろ…」
「アーシャ、アーシャーーーっ」
あちこちで悲鳴が聞こえる。
これこそが戦争だ。
今迄のお前達の生活が可笑しいんだ。
だが、謝る『ごめんな』
スカル討伐の為に…死んでくれ。
『魔王討伐こそが最優先』
これはこの世界共通の認識だ。
だから、きっと3万人が死んでも問題ないよな。
俺達のパーティは敢えて目立たない様に此処に向かってきたから…
『間に合わなかった』で済ませば良い。
俺は空歩(空を歩くスキル)を使い教会の屋根の上に居る。
3万人の人間VS 1万のスカル軍、その戦いを俺はただ見ていれば良い。
『蟲毒』
実際は違うが1か所に閉じ込められてお互いが殺しあう。
その生き残りを俺が倒せば良い。
もし、人間が勝利していても少人数なら、殺して手柄を横取りすれば問題はない。
『他人が何人死のうが痛くない』
所詮は対岸の火事。
大切なのは『身内』だけだ。
俺は…それで良いんだ。
◆◆◆
どの位時間が経っただろうか?
随分、静かになった気がする。
ふと覗くと…勝ったのはスカル達、死霊の軍団だったようだ。
あの分じゃ、この街の人間はほぼ全滅だ。
これなら、俺の悪事も漏れないな。
『死人に口なしだ』
スカルの軍団も…10人位だな。
よし…
「ファイヤーソード」
無数の炎の刃が浮かび上がり死霊たちに襲いかかる。
「アイスソード」
「貴様何者だ…我は冥界王スカル…四天王の1人である…不意打ちしか出来ぬ…卑怯者め」
「馬鹿言うなよ! お前はトラ…俺はウサギだ…その位の力差があるんだぞ…立っているだけで偉いんだぞ」
「それが解っていて何故、こんな事をしたのだ…確かにこれで我は1人だ…だが、お前にとって我はトラなのだろう?茂みに隠れていて見つからなかったウサギが何故噛みつく…放って置けば去った」
さっき迄の俺は此奴に勝つ方法が無かった。
だが、今は違う。
今の俺は究極の武器を持ったウサギだよ。
「本当は戦いたくないんだが…仕方が無いんだ…手加減してくれないか?」
「速やかに…殺してやろう…我の前に出てきたのが間違い…なんだ」
「行くぜーーーっそらやぁぁぁぁぁーーっ」
俺はある液体をスカルにぶっかけた。
「ぎゃぁぁぁぁーーっ貴様何をするかーーっ」
「この薬の名はエリクサール至高にして究極の治療薬…だがアンデッドにはこの上ない毒だ」
世界に数本しかない最高の薬…この教会の大司祭が死んだからこそ『持ち出せた』
「…」
「なんだ、話ししている間に息絶えたか」
本来なら王族にも使えないエリクサールだもんな。
アンデットの親玉でもこうなるか?
しかし、本当に舐めているよな…
これを使えば倒せるなら『勇者パーティ』に支給するなり、騎士に持たせて戦うなりしろよな。
だが、これで危機は去った。
「討伐完了―――ッ」
俺はスカルの首を持って城塞都市ギルメドを後にした。
尊い犠牲のおかげで四天王の1人を葬る事が出来た。
たった3万の犠牲で四天王に勝ったんだ…充分だよな。
これが俺達の戦いの終わり。
これでもう、戦うことは無い。
犠牲なんて関係ない…
『他人が何万死んでも痛くない』
だって只の『見知らぬ人間だからな』
大切な人間3人の方が俺には100万の命より重い。
帰ろう…大切な人の元へ…
※あと3話位でクライマックスです。
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