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閑話: ある者の過去

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私は...美しい者が憎らしい。

私は子供の頃、蝶よ花よと育てられた。

私に仕える者は皆、私を称えてくれていた。

だが、不思議な事に私は1度もこの洞窟から出た事が無い。

私は母親に一度外に出たいと願った事があった。

そんな私に母は、

「駄目ですよ、ネルみたいに可愛い子が外を歩いたら攫わてしまうわ、だから駄目」

そう言われて一切外に出させてくれなかった。

《そうか、私は可愛いのか...なら仕方ないのね》

仕方なく納得した。

だが、こんな暗闇の中に居るのは正直つらい...だけど母が結界を貼っていて出る事が出来ない。

そこまでして私を外に出したくないらしい。

そこまで私は可愛いのか?

仕方なく、仕えている女に聞いて見た。

「ねぇ、私ってそんなに可愛いのかしら?」

「私は、貴方程綺麗な女神は見た事がありません」

「えっ、私は綺麗なの、そして女神って何?」

詳しく、聞いて見た。

《そうか、私は女神だったのか、それじゃ仕方ない》

「私が女神だから、ここから出られないの?」

「正確には未来の女神様です。」

「そうなの? いつか私は女神になるのね?」

「はい、女神様になれば自由になれる筈です..それまで我慢して下さい」

「そう、だけど私は退屈なのよ、此処には何も無いんですもの!」

「それなら、今度絵本を読んで差し上げます。」

「絵本って何?」

「えーと、楽しい物語を絵と共に描いた物です」

「そう楽しみにしている」

私は沢山の絵本をねだって読んで貰った。

その中でも女神と勇者や王子の話がお気に入りだった。

だって、私は女神ですもの、いつか私の前にも美しい勇者や王子が現れて結ばれる。

楽しい未来しかない。

だったら、この生活も我慢できる。


最近の私は、絵本にあきて唄を好きになった。

私に仕える者が口ずさんでいたので何か聞いたら唄だと知った。

面白そうなので教えて欲しいと頼むと教えてくれた。

仕える者の話だと私の唄は歌姫のように綺麗な歌声なんだそうだ。

「歌姫って何?」


ある時、私が夜に眠れずに唄を口ずさんでいると、外から声が聞こえて来た。

《誰だろう?》

「そこに誰かいるの?」

「こんな所から綺麗な唄声が聞こえて来たから気になってきたんだ」

「そうなの?」

「うん、所で君はなんでこんな所にいるの?」

「解らない、だけど私は此処に居なくちゃいけないんだって」

「ちょっとだけ外に出てみない?」

「出たくても結界があるから無理ね」

「そうなんだ、この結界...やっぱり中には入れないか」

「そうね」

「ねぇ、君の名前は何て言うの?」

「私の名前はネルよ」

「そうなんだ、僕の名前はアイン、宜しくね、明日も此処に来て良い」

「ええ、良いわよ、だけどお母さまや仕えている者には見つからないようにしてね」

「解かった..明日もくるね」

「待っているわ」

それから、毎日アインは周りが寝静まる頃に私の元におとづれてきた。

今迄と違って毎日が楽しくなった。

凄く楽しい。

「ねぇ、ネル、君はどんな人なのかな? 声は凄く可愛いけど...」

「私は良く解らない、だけど周りは私程、綺麗な女性はいないっていうけど」

「やっぱり...僕頑張ってお金を貯めて、この結界を破る魔道具を用意するよ...暫く会えないけど迎えに来たらお嫁さんになってくれるかい?」

「うん、わたしアインのお嫁さんになる」

「じゃぁ、暫く会えないけど..頑張るよ」

「頑張ってねアイン」

それから又私は寂しい生活が続いた、だけどアインとの楽しい生活を夢みてたから以前の様な悲しさは無かった。


半年くらいしてようやくアインは来てくれた。

「ネル 寂しい思いをさせてごめんね、待たせたね...結界封じの魔道具が思ったより高くてお金がなかなか溜まらなかったんだ」

「ううん、アインがきてくれると信じていたから、寂しくなかったよ」

《お母さま、皆んなごめんね、だけどこんな暗い場所に閉じ込められた生活は嫌なの..私はケインと一緒に幸せになります》


結界が溶けてアインが見えた。

《ああなんて可愛らしいのかしら、王子様のような華やかさは無いけど凄く可愛らしい》

「アイン」

《あれっ、なんでアインが固まっているの...そう私に逢えて緊張しているの困った人、すぐに一緒に逃げなくちゃいけないのに》


「化け物...」

「アイン..化け物って」

「寄るな化け物...くるな」

アインが遠ざかっていく、私を恐怖の目で見て怖がりながら....

《私っていったい.....アイン逃げないで》

「アイン、逃げないで」

「殺さないで、ひぃー」

私は、アインを追い掛けるのを辞めた。

私の横を黒い影が通り過ぎた...アインの首が地面に落ちた。

「私の可愛いリリ、こんな所にいちゃ駄目ですよ帰りましょう?」

「あの、私、化け物なの?女神じゃないの?」

「そんな事ありません、貴方は私達の希望の女神 邪神リリ様です、あの者がただの人間だっただけです」

「じゃぁ王子様がいつか現れるかな? 良い子にしていたら迎えに来てくれるかな?」

「はい、だから良い子にしているんですよ」

「うん」


それから月日が流れた。

.........王子様が迎えに来るなんて嘘だった。

母だと思っていた者も、周りの者も魔族だった。

女神は女神でも私は邪神、人に愛される訳が無い。

それでも私は...幼い頃の夢が忘れられない。

叶わぬと思いながらも....今も....
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