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第35話 僕は知っている。この世に女神が居る事を
しおりを挟むフレイヤはまだ授業があるからと帰っていった。
僕はというとLRでシャワーを浴びベッドで寛いでいた。
ルームサービスも無料だからLRは男にとって至れり尽くせりの施設だな。
尤も、元が小市民のせいか……最近は牛丼やハンバーガーばかり食べている。
少し休むかな……ベッドで横たわりウトウトしているとスマホの音がけたたましく鳴り響いた。
女性から男性へ連絡するのはマナー違反。
そんな決まりがあるから僕のスマホはなかなか鳴らない。
それが鳴ると言う事はきっと何かあったんだろう…….
そう思いスマホに出る事にした。
「レイラの事で話があるから……ちょっと研究所の方まできて頂戴、すぐに車を回すから」
「レイラさんになにかあったのですか?」
「詳しい事は後で……」
そう言うと電話は切れてしまった。
仕方なく、僕は車を待って研究所に向かった。
一体なにが起きたと言うんだろう。
◆◆◆
研究所につくとすぐに病室の様な部屋に通された。
そこのベッドに横たわっていたのは……老婆だった。
しかも、痩せほとり見方によってはミイラに見える。
幾つもの細いパイプが繋いであり、辛うじて生きている。
そう見えた。
ただの老婆じゃない。
山姥、奪衣婆ばあ……そう見える程醜悪な姿だ。
「……」
老婆は虚ろな目で天井を見ていて、意識すらないみたいだ。
「セ……レ……ス」
僕の名前を小さな声で呼んでいる。
この服は……まさか……
「まさか、彼女は……」
僕の傍に立っている研究員の女性が口を開く……
「そう、これがレイラです」
これがレイラさん!? 何処にも面影が無い。
「どうして、こんな事になっているんですか? 何かの病気ですか?」
「それは、そうとこのレイラ、要りますか? もうこんなの要らないですよね?」
人を物みたいに……
「要るとはどういう事ですか? 彼女はパートナーだし、それ以前に人間です『要る』とは……」
「ああっ、レイラは確かに『人間みたいな物』確かに人権もあるし、人間です……但し、その前に人造がつきます。 簡単に言うなら美女や美少女の遺伝子を沢山加えて作ったキマイラ……ある意味人とは似て異なる物です」
人工的に造られた……そう言う事か?
だから、なんだ……
「それで?」
「これ、もう気持ち悪いでしょう? 破棄しようと思うのですが、貴方の『パートナー』になっていますから無碍に出来ないのです。こんなガラクタ女要らないでしょう? 気持ち悪い化け物みたいな老婆ですよ。 パートナー解除の書類を用意しますからサインを……」
「ううっ……セ……レ……ス」
「煩い! 化け物」
そう言って研究員の人はレイラさんのベッドを蹴った。
確かに今のレイラさんは老婆の姿をしている。
そして、ここ迄言うのだから、もう治らないのかも知れない。
だけど……それでも僕は見棄てたくない。
「いえ、パートナーは解消しません」
「えっ、これまだ必要なんですか? どう見ても醜悪な老婆ですよ? 他にも幾らでも良い女がいるんですから要らないでしょう?」
要らない……人をなんだと思っているんだ。
「それを決めるのは僕ですよね」
「そうですか……ですが、もう生命維持装置をつけても数日の寿命です……数日命が延びるだけですよ。 それじゃ、精々その化け物のガラクタを大切にする事ですね……それじゃあね、廃棄予定の醜いレイラ」
そう言うと研究員は面白くなさそうに部屋から出ていった。
「……」
レイラさんは目に涙を溜めて、もう話さない。
あの美しい黒髪が、綺麗な肌が全て失われ……白髪の老婆にしか見えない……それでも僕は彼女を見棄てる……別れるという選択はしたくはない。
だが……僕はどうすればいいんだ?
この状態のレイラさんを治す方法……僕は知っている。
頭の中に浮かぶ呪文のような言葉……
『光よ……その輝ける生命力の元に死に贖い傷を治せ……パーフェクトヒール』
何も起きない。
そう、これは僕の妄想の中の呪文。
しかも、僕はこの呪文が妄想の中でも使えなかった。
これを使えたのは……僕じゃない。
僕を殺した片割れ聖女メリルだ。
妄想の中でも使えない物を現実社会で使えるわけが無い。
こんな未来の最新鋭の医学でさえ、さじを投げる状態。
もう、僕にはきっと何もしてあげられない。
誰か助けて下さい……
「女神様、どうか……どうか……レイラさんを助けて下さい」
「ハァハァ……ゼ……レェス……神様なんていないよ」
レイラさんが声を絞るように言った。
科学が進んだ世界……なら信仰なんて無いのかも知れない。
だが、僕には……信じられる物がある。
妄想の中のこの世の中物とは思えない美女。
『私の世界を救ってくれませんか?』
『勇者セレス』
そうはにかむ様に微笑んでくれた女神様。。
まるで太陽のように暖かい女神様。
妄想の中の気高く美しい女神様。
魔法は使えない……だけど、勇者としての力が一部ある。
ならきっと、あの女神様......イシュタス様はいる。
「レイラ……君が知っている神はいないのかもしれない。仏陀、キリスト、ゼウスは居ないのかも知れない。だけどね、僕は神がいるのを知っているんだ……」
「そ……う……」
レイラは今にも死にそうだ。
「この世で尤も気高く美しい女神イシュタス様! お願いです……お願いですから、レイラを助けてーーー」
叫んだ。
イシュタス様なら、きっとどうにかしてくれる。
カメラがついているから研究員が見ているのだろう。
だが、そんなのに構う時間が無い。
スピーカーから声が聞こえる。
『セレス……あなたは何を叫んでいるのですか、神など妄想の存在、いない事は誰もが知っている』
「僕は過去の人間です……僕が生きていた時代には信仰があった。 そして、僕には心から信仰する女神様がいる。どうか構わないで下さい!」
『そう、それなら好きなだけ祈りなさい……それで気がすむなら』
そう言ってスピーカーからは声が聞こえなくなった。
「……ご、めん……なさい」
レイラは僕に何故か謝っている。
「イシュタス様、イシュタス様……お願いですから……助けて、助けて下さい!」
「私は異世界の女神……世界を救った勇者の、願いを聞きにここに来たのさぁ~」
幻聴なのかイシュタス様の歌が聞こえた気がする。
「えっ……イシュタス様!?」
「久しいですね! 勇者セレス、魔王を倒し世界を救って頂いたのに最後はあんな事になりすみませんでした。あなたをこの世界に送った。それが貴方に対する償い……ですが、魔王を倒し世界を救ってくれた。その褒賞を貴方は受け取っていない。私の世界の王族が与えなかった分、私が与えましょう」
「女神イシュタス様、なら、この子、レイラを助けて下さい!」
イシュタス様は何処からともなく杖を取り出した。
「勇者、セレス。それは貴方が行いなさい! 女神イシュタスが理を捻じ曲げる……この世界の『聖』『光』『闇』『風』『火』『水』『土』全ての力が使えるようにパスを繋ぎます。そして『聖女』のジョブを『聖人』に書き換え『賢者』のジョブと併せて与えます……さぁ、勇者セレス……受け取りなさいっ! 手を挙げるのです!」
「はい…….あっああっ体が、体が熱い……」
体が熱くなり、力が宿っていくのが分かる。
その、あの時『勇者』になった時のように…….
「はぁはぁ、以上をもって、私の世界を、魔王を倒し救って頂いた褒賞とさせて頂きます! さぁ、セレス今の貴方なら出来る筈です! 死んでさえいなければ全てを治す、究極の呪文……」
「はい!『光よ……その輝ける生命力の元に死に贖い傷を治せ……パーフェクトヒール』」
老婆のように変わり果てたレイラがみるみる若返っていく。
そして、欠損していた目が、足をも再生されていく。
「セレス、私、私……」
「元通り、ううん、元よりずうっと綺麗だよ……レイラ……」
「ああっ、ああっ本当……本当に元通りだ! セレス様、女神様、ありがとう……ううっ、本当にありがとう!」
「イシュタス様、本当に、本当にありがとうございます!」
「気にする事はありません! これは私の世界を救ってくれた、貴方への褒美……『うわぁ、ちょっと待って、待って……あっスイマセン、本当に……もうしませんから』」
「「イシュタス様!?」」
「こほん! 私はもうこの世界に干渉できません『ひぃ、許して……スイマセン』来ることも出来ませんっ! 『ああっ』兎も角……良かったねセレス! 私の勇者、これからも……『ああっ償いますから、今は』強く生きるのですよ!」
「はい」
「それじゃ……セレス『お別れくらい言わせて下さい』さようなら」
何故かイシュタス様は笑顔を引き攣らして消えていった。
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