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第10話 差額
しおりを挟む「和也、働かないで良いの?」
「此処暫く休んでないから、この際纏めて休もうと思うんだ」
「そう? それなら良いわ」
「それにここ数日は、多分色々と話し合いが起きそうだから、すぐに動けるようにしておかないとね」
「確かにそうね……それじゃコーヒーでも入れようか?」
「うん、美沙が入れたコーヒーか、楽しみ」
「全くもう、誰が入れても同じよ! インスタントなんだから」
ピンポーン、ピンポーン
「誰か来たみたいだ」
早速、来たみたいだ。
◆◆◆
インターホン越しに見たのは古馬家の執事、伊佐治さんだった。
恐らく、今後の話だろう。
伊佐治さんに家に上がって貰った。
美沙には席を外して貰い隣の部屋に行って貰った。
伊佐治さんは差別をよくする人だ。
美沙にとって、嫌な話をしそうだ。
「それで伊佐治さん、今日はどう言った用件ですか?」
「旦那様からこれを預かってきました。あの女と旦那様の離婚届でございます。旦那様の記入欄は全部、埋まっております。全く酷い事になった物だ。旦那様の戸籍が汚れてしまった」
「正一が馬鹿な事をしたからですね」
「はぁ~本当に正一様が馬鹿な事をするから、本当に困ったものだ」
正一?
伊佐治さんは古馬家に仕える執事だ。
いつもならお坊ちゃまと呼ぶ筈だし、凄く正一に優しい。
「正一に何かあったんですか?」
「正一様は古馬本家から外れる。 身の振り方が解れば客人として扱うが、私が忠誠を誓う古馬本家から外れます。分家筋とはいえ村で活躍している今泉様の方が既に私にとっては最早序列は上の存在ですよ」
「古馬本家から外れる!」
「いかに本家とは言え『姦淫』は許されない。それなのに正一様と来たら『自分は大丈夫』そう思っていたようです。 背景には、貴方への嫉妬があったみたいですよ」
嫉妬?
正一が。
「古馬本家に生まれ、大切に扱われていた正一がですか? この村で古馬家の嫡男に生まれたのに」
誰もが羨む権力者で金持ちの家。
大きな豪邸に、使用人がなんでもやってくれる生活。
こんなに恵まれた環境は無い。
「正一様はその事に気がつかなかったんでしょうな。 今泉様がこの村にスーパーを作った事をご主人様は高く評価をなさっていました。ことある事に褒めていらいしたのでそれが気にくわなかったようです」
「古馬の財力を持ってすれば、こんなスーパー10でも20でも作れるでしょうに」
「確かに……だが、我々は古い人間だから、その発想が無かったのです。答えを聞けば簡単ですが、その答えに自分でたどり着いたのですから大したものです。しかも、このスーパーが出来た事で村の皆の買い物が楽になった。実に素晴らしい事です」
「伊佐治さんに褒められると照れてしまいますよ」
「謙遜する事はありませんよ、貴方はそれだけの事をしたのですから」
「それで正一はこれからどうなるのですか?」
「まだ、決まってません。古馬の跡継ぎでは無くなる事だけは決まっています。東条家か南条家か北條家に婿入りというのが濃厚です。いずれにしてもこの村の者でなくなるのは決まりですな」
東条家も南条家も北条家も古馬家と仲は良い。
だが、大きな括りでは仲間だが『村が違う』から小さな括りなら仲間じゃない。
今では普通に付き合っているが、古い人間の中では未だによそ者だ。
古馬本家の人間には古い人間が多い。
そして伊佐治さんも古い人間だ。
「正一が後を継がないなら、誰が古馬本家を継ぐんですか」
「私にもわかりません……だが、後継者争いで荒れるのは間違い無いでしょう」
「そうですか……」
まぁ誰になろうと関係ないな。
今泉は分家の中でも俺1人しか居ないから立場は低い。
「あと……これを」
風呂敷を伊佐治さんが差し出してきた。
菓子折りかなにかかな?
「これは一体」
「東条芽瑠様と美沙との差額でございます……どうかお受け取りを」
確認すると3千万入っていた。
「……」
「何を驚いているのですか? かたや東条家の跡取り娘で生娘。かたや旦那様の使い古しの女、当然の差額かと思います。慰謝料も込みでございます」
いらないと突っぱねたいが……それをしたら権蔵さんの顔を潰したと、また揉める事になりそうだ。
「解りました。これは頂かせて貰います。ただ、美沙は今後私の嫁です。分家で1人しか居ない今泉ですが、当主の嫁ですので、そう扱って貰えませんか」
「うむ……確かに、それでは正式に籍を入れた後は美沙様とお呼びしましょう」
「ありがとうございます」
用事は終わったとばかりに伊佐治さんは帰っていった。
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