Glustony(グラストニー)

さむほーん

文字の大きさ
19 / 26
第一章 異界召喚編

第二十話 見学会

しおりを挟む
『撤退?!』

 光沢は軍からの司令を聞いて内心驚いた。

 周りを見渡すと、やはり皆不思議に思っているようだ。

「その……どうして急に撤退を……?」

 その内の一人が勇気を出してそう聞く。

 若い上官はそれに答えた。

「あのな……お前は分かってないかもしれないが、軍において上層部うえからの指示に異論を唱えるのは禁止行為だ。気を付けろよ」

 上官は少し睨みながらそう言った。

「は、はい!申し訳ございません!」

 聞いた補給員は大慌てでそう答える。

(やっぱり、一介の補給員程度に情報が回ってくる訳が無い……か。けど、このまま何も知らずに撤退するのはちょっと不信感があるな……)

 光沢は、今の時点で僅かながらウァルス帝国に不信感を抱いてしまっている。

 そんな状況下でウァルスが自分の理解できない行動を、何一つ説明せずに取ったら不信感は強まるばかりだ。

(もどったら誰かに話を聞いて……いや、無理だ。)

 光沢は政府の中枢部とも関わりがある。

 しかし、それは主に行政、つまり軍事以外の政治を執り行う部署との間だけだ。

 光沢には軍部の情報を得るためのパイプが何一つ無かった。

(もどったら自力で調べるしか無いか……自由時間、取らせてもらえるか……?)

 光沢は不安に思いながらも撤退の準備を始めた。

 ――――――――――――――――――――――――

「お疲れ。実際に経験して、戦場はどうだった、光沢?」

 ウァルス帝国の中心部に戻り、メギドに会いに行った光沢はそう質問される。

「いえ、俺が配属されたのは補給部隊ですから……とてもまだ『実際の戦場を体験した』と呼べるものじゃあありませんよ」

 光沢は少し遠慮がちにそう言った。

「いやいや、後方でもちゃんとした戦場だぞ?そこに大した優劣は無ぇ」

 メギドは励ますように言う。

「……そうですか」

 光沢は俯きながらそう答えた。

 それを見て、あ~、と頭を掻きながらメギドは伝えた。

「お前な、そんなに年行ってねぇだろ?」

「え?はい……まあ、そうですけど……」

 光沢は頷く。

 メギドは椅子から立ち上がり、持っている本で光沢の頭をコツンと叩く。

「ガキが大人のことを気遣うな」

 メギドはそう言った。

 光沢は少し焦ったように答える。

「いや、別に気遣っていた訳では……」

「嘘つけ。絶対気遣ってたぞお前。顔に出てた」

 光沢の言葉はすぐさま否定された。

「あのな、お前が自分で色々と決めたいのも自分で決めなくちゃいけない事が沢山あるのも分かる。けどな、お前、今何歳だ?」

「今年で16になります」

 メギドは少し驚いたような顔を見せる。

「そうか……16か……まあ、そっちの元々居た世界で16歳ってのがどのくらいの歳かは分からねぇけどよ、少なくとも俺達の世界では16ってのはまだまだガキだ。そんな奴が色々背負おうとするな。その……なんだ、大人おれたちのメンツが潰れる」

 メギドは光沢に言い聞かせる。

「……分かりました。今後は気をつけます」

 ちゃんと分かってんのか~?というメギドの声を後ろに光沢はその部屋を去ろうと動いた。

「あ!それとお前、暫く休暇だから!」

 メギドが思い出したようにそう言う。

「え?休暇ですか?」

 光沢は驚いてそう聞く。

「ああ、なんか分からんが上層部うえからそういう指令が来た。どうやらあいつ達はお前を一旦休ませたいらしい」

「はい?」

 光沢は自分の扱いに少し驚く。

「ん?何をそんなに驚いてるんだ?」

 メギドはその光沢を少し不思議そうに見つめながら言った。

「正直、俺のことはもう少し……なんというか、雑に扱ってくると思っていたので少し意外なように思っていまして……」

 光沢が遠慮がちにそう言う。

「いや、いくら何でも『超人』をそんな奴隷みたいな扱い方する奴はいねぇだろ。後々反乱でも起こされたら大変だし。そういう使い方をしたいんなら普通に奴隷を買うと思うぞ」

「まあ、それもそうですよね……ん?この世界って、奴隷制が残ってるんですか?!」

 光沢はメギドの言葉から気になる言葉が出た事に気が付き、そう質問した。

「残る……?ああ!お前の元々居た世界ところじゃあ、奴隷制が無くなってたりするのか?」

「はい。僕の生まれてくる随分前に国際的に禁止されたはずです……勿論、まだ世界の何処かではに近い制度が残っているかもしれませんけど、少なくとも公的には無くなっているはずです」

 光沢はメギドにそう言う。

「へぇ、そうなのか……じゃあ、丁度いいじゃねぇか!」

「丁度いいって、何がですか?」

 『奴隷』という言葉に『丁度良い』という肯定的にも聞こえる言葉を使ったメギドに対し、光沢が不機嫌そうに眉を顰める。

「お前、観光に行くんだろ?じゃあ奴隷の働いてる所に行ってみるのも良いんじゃねぇのか?知らねぇことはどんどん学んでいった方が良いと思うぜ」

 光沢は、少し考える。

(俺はこの世界について、まだ殆ど何も知らない)

 メギドの言葉に頷く所のあった光沢は、奴隷の働いている場の見学に行くことを決めた。

「そうですね。行かせていただくことにします。具体的には、どこに行けば良いんでしょうか?」

 光沢はメギドに質問する。

「そうだな……この国の中にもそういう場所があるから、そこにしたら良いんじゃないか?そこなら多分お偉いさんに申請を出せば通ると思うぞ」

 メギドはそう言った。

「そうなんですか?」

「ああ。これでも俺は使える権限は多いほうだからな。そのくらいならどうとでもなる」

 メギドはそう言う。

(この人、そんなに権限が強かったんだ……全然知らなかった……)

 光沢は驚く。

「でしたら、お願いします」

 光沢は頭を下げた。

「そんなポンポン頭を下げんな。遜る癖を付けちまうと後々大変だぞ?」

 メギドは光沢の頭をポンポンと叩きながらそう言った。

「……ご忠告、ありがとうございます。気をつけさせていただきます」

 メギドはそう言った光沢を、困った顔をしながら見送った。

 ――――――――――――――――――――――――

「奴隷か……」

 光沢は自分の部屋に戻りながらそう呟いた。

(僕の常識の中では『奴隷制』は許されないことだ)

(けど、それはあくまで向こうの世界で生きてきた『僕』の意識の中の話だ)

(この世界での常識に慣れる、っていう意味も含めて奴隷市場を見に行くのは良い機会かもしれない)

 光沢は一人でそう考える。

 そのまま自分の部屋に着いて、光沢はシャワールームに向かう。

(今日はお風呂でゆっくり考え事をしたい気分だな……)

 光沢が頭の中でそう考えていると、浴室の方から何やらガタガタと音がする。

『浴槽の組み立て、及びお湯の準備が完了いたしました』

「あ、ありがとうございます」

 光沢はそう言って浴槽に向かう。

(それにしても、恐ろしく便利だな……自分の頭の中で考えただけでその望み通りに事が運ぶなんて……)

 この部屋の外もそうだったら良かったのにな、と柄にもなく弱気になりながら光沢は服を脱いだ。

 身体を軽く洗い、浴槽に浸かる。

「……ふぅ」

 独特の感触のするお湯を持ち上げながら光沢は深く息を吐いた。

「奴隷……奴隷か……」

 光沢は記憶の底から『奴隷制』のイメージを引っ張り上げる。

(やっぱり北アメリカやアフリカの農園奴隷がイメージとして出てくるな……後はロシア帝国の農奴くらいか?)

 光沢の頭に浮かんだ『奴隷』の姿は農園や鉱山などの過酷な環境で延々と働かされているものだった。

(この世界での奴隷も似たようなものなのか、それとも、もっと感じのものなのか……)

「まあただ、実際に見てみないと分からないこともある。自分の目で確かめる前に変な先入観を持つのもあんまり良くないかもしれないな」

 光沢は風呂の中でそう考えた。

 暫くお湯に浸かりながらゆっくりしていると、光沢はある1つの違和感に気が付く。

「……全然上せないな」

 先程からずっと風呂に入っているが、全く上せる気配がない。

「別にお湯の温度が低いとかそういう訳では無さそうだけど……」

 光沢は不思議そうにしながらお湯をすくった。

「……うん。普通に温かいな」

(だとしたら、俺の身体がおかしいのだろうか?)

 浴槽の中で暫く考えるが、結論は出なかった。

「……これ以上は考えても無駄だな。明日に回そう」

 光沢は風呂を上がり、寝るための服へ着替えた。

 ――――――――――――――――――――――

「よし!許可取れたぞ!明後日から行って来い!」

 メギドは光沢を自分の部屋に呼んでそう伝えた。

「明後日からですか?!」

 光沢は驚いて大声を出す。

「ああ。直近の共同販売会オークションがその日らしい。だから、行くなら明後日だとよ」

 メギドが言った。

「?でも、元々予定してたのは【奴隷が働いているところ】を見に行くことですよね?」

 光沢は首を傾げながら言った。

「ああ。だが、市場の方も見ておいたほうが見聞が広まるのもまた事実だろう?」

 そう言ってメギドは光沢の脳内に情報を送る。

「これは……地図、ですか?」

「ああ。お前、あの辺の地理に詳しくねぇだろ?だから俺が教えておいてやろうと思ってな」

「なるほど……」

 光沢は納得したように頷く。

「って訳だ。お前の他にももう二、三人くらいは連れて行っても構わんらしいが、どうする?」

 メギドはそう選択を迫ってきた。

「……いえ、俺一人で行きます」

(清水くんは精神病棟に入っているらしいから、とてもに行ける状態じゃあ無いだろう)

(凛も、連れて行くには少し不安がある)

(僕一人で行くしか無い)

「そうか。まあ、その場合も俺達こっち同伴者をつけるから別に構わないんだが……」

 メギドはそう言う。

「ところで、どこの……奴隷市場オークション?に行けば良いんでしょうか?」

「お、そうだな。まだ地図に目的地を載せてなかった……これで行けるか?」

 泰久の頭の中の地図に赤い点が追加された。

「ここに行けば良いんですか?」

「ああ、そうだ。じゃあ明後日までにちゃんと準備しておけよ?」

 メギドはそう言って、光沢に部屋の外へ出るよう促す。

「それでは、失礼します」

 光沢はその部屋から出て呟いた。

「……随分、早いな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...