Glustony(グラストニー)

さむほーん

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第一章 異界召喚編

第二十五話 デート

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「そうか、やはり彼は向かったか」

「あなたの予想通りのようですね」

 部屋の中でエイデンともう一人の人物はそう会話する。

「しかし、予測していたのだとしたら、手は打たなくて良かったのですか?」

 エイデンに付き従う男がそう質問する。

「手を打つとは?具体的にどういう方法なら彼が亡命するのを妨げることが出来る?」

 エイデンの言葉に、付き添っている男は黙り込んだ。

 エイデンは続ける。
 
「そうだ。無理やり引き留めたところで彼のこの国への不信感が強まるだけだ。彼もまた一人の『超人』。明確な敵対は出来るだけ避けるのが当然だろう?」

 その言葉を不審に思った付き添いの男が質問する。

「しかし、それなら彼を敵対国家に渡すのはまずいのでは?敵として現れられるのを嫌うのならむしろ多少の無茶をしてでも非友好国ウェスタに渡すのを防ぐべきなのではないでしょうか?」

 エイデンが目を閉じて返す。

所属国家そこは大した問題ではない。国が変わるくらいなら引き抜き返すのは簡単だ。それよりも我々に対しての不信感を出来るだけ抑えるのが優先だ」

「はあ……そういうものなのでしょうか……」

 付き添いの男が返した。

「長い間生きていると君もそう考えるようになっていくものだよ。もっとも、私はそれほど長く生きていないんだがね」

 エイデンは話を締めくくるようにそう言うと、玉座に座りなおして口を開く。

「さて、超人の彼の話も良いが、今はそれよりも重要な案件がある」

「【不可侵領域アンタッチャブル】で起こった異変ですか……」

 二人は神妙な顔をして目線を交わす。

「ああ、領域内での暴走機械モンスターの異常行動・領域内部から『人の話し声』の観測情報・複数回起こった大きな爆発……挙げだすとキリがないほどの異変が不可侵領域あのばしょで起こっている」

 付き添った男はこう言った。

「……動いているかもしれませんね、が」

「ああ。至急、秘密裏に【色欲対策班】を設置しろ」

 エイデンはそう指示すると、他の作業に入っていった。

 ――――――――――――――――――

「ほらほら、こっちこっち!」

 ぴょんぴょんと跳ねながらリファは走っていく。

「はいはい。ちょっとリファは焦り過ぎだと思うけどね……」

 後ろを泰久はゆっくりと歩きながら付いていく。

「ほら、ここから外に出られるの!」

 リファが指さした先にはオレンジ色に輝くドアが有った。

「あれ?ここって【不可侵領域】の端っこだったっけ?その割には周りの景色が変わらないんだけど……」

 泰久は首を傾げながら聞いた。

「いや。全然違うよ?ここは多分……あれ?どこだろ?」

 リファは小首をかしげた。

「え?分からないの?」

 光沢は驚いたように聞き返した。

「うん。でも、このドアを通れば領域外そとに出られるのは分かってるの」

 リファは自信満々にそう言った。

「なるほど……そうなんだ……そんなに便利な道具が有るんだね……」

 泰久は感心してそのドアを見る。

(まあ、どこでもドアみたいな物なのかな……?)

 自分の理解できる範囲でそのドアの解釈を行った光沢に向けてリファはこう告げる。

「ほら、この中に入って!」

 リファはドアを開けて光沢に中へ入るように促した。

 光沢は疑うことも無くドアの中に入る。

 一瞬目の前が虹色に染まろ、その直後に再び景色が元に戻る。

「……結局瓦礫のままなのか」

 光沢は不思議そうな顔をして自分の通って来たドアを振り返る。

 すると、そのドアからリファが出てくる。

「泰久!」

 出てきてすぐにリファが泰久に飛びついてきた。

「わ!え!?きゅ、急にどうしたの?」

 何が起こったのかと不思議に思うような表情をしながら泰久は飛びついてきたリファを抱きしめ返す。

「いや……だって泰久と離れ離れになっちゃったし……」

 リファは口をとすぼめながらそう言った。

「離れ離れって……ほんの数秒じゃん……」

 そう言った光沢をビッ、と指差してリファは言い張る。

「あのね、寂しさ=時間×距離なの!ちょとの時間しか離れてなくても距離的に離れてたらものすごく寂しいんだからね!」

 泰久の腕の中で泰久のことを見上げながらリファは言った。

「う~ん……そういうものなのかな……?」

 いまいち納得できないように泰久は唸る。

「何?私と遠く離れてても泰久は寂しくないの?」

 リファは不安と、少しの怒気を滲ませて泰久に言った。

「いや、めちゃくちゃ寂しいよ?」

 腕の中のリファを持ち上げて、リファの顔を自分の目の前に持ってきてから泰久はそう伝えた。

「ならよかった🖤やっぱり私のことを想って貰えてるんだね」

 リファは満面の笑みでそう言った。

「ところで、街に行くって言ってよね?」

「うん、そうだよ。早く初デートしよ♥」

 リファは泰久の腕の中から降りて、泰久を引っ張りながらそう言った。

「いや……そうは言っても行き先っぽい街が見当たらないんだけど……」

 泰久は周りを見渡しながらそう言う。

 改めて周りを見回すが、やはり瓦礫しかなかった。

「大丈夫!こっちに来て!」

 リファがぴょこぴょこと歩きながら泰久を手招きする。

「はいはい」

 泰久がそれに付いて行く。

「ほら!この後ろ!」

 瓦礫の後ろに回ると、そこの景色は【不可侵領域アンタッチャブル】という言葉とは無縁なものだった。

「……普通に街だ」

 泰久の目線の先、数キロほど行った場所には街が見えていた。

「ね?良い雰囲気でしょ?あの街、色々と見るものもたくさん有るから、初デートにはピッタリ」

 リファは泰久の腕に自身の腕を絡ませる。

「そうなんだ……でも僕、この街のことあんまり知らないからリファのこと案内とか出来ないと思うんだけど……」

 泰久は不安そうに言った。

「そこは大丈夫だよ!ちゃんと私がリードしてあげるから♪」

 リファの言葉と同時に半ば強制的に泰久がリファの元へ引き寄せられる。

「う~ん……我儘かもしれないけど、やっぱりリファに迷惑はかけたくないっていうか……まあ、街のことを知らない僕が案内しようとする方が迷惑かもしれないけど……」

 リファはブンブンと顔の前で両手を振る。

「そんな。メイワクだなんて、むしろワクワクだよ!だって泰久とデートだよ!それこそどう回るかとか何日も妄そ、じゃなくて……しみゅれーしょん、そう!シミュレーションしてたんだから!」

 リファが抱き着いた泰久の腕を振り回しながら言う。

「あ!ごめん、痛かった!?」

 直後にリファは心配そうに泰久の顔を覗き込む。

「全然。大丈夫だよ。それよりも、リファの方は大丈夫?腕に怪我とかしてない?」

 泰久がリファの腕を間近で見る。

「私は大丈夫!それよりも、早く行こ!こっちからなら景色が良いよ!」

 走り出したリファを追いかけて泰久も走り出す。

「ほら、ここ!奇麗でしょ?」

 丘の上まで来たリファは、先ほどまで自分たちが居た【不可侵領域】の方を指差す。

 その丘からは【領域】が一望できるようになっていた。

「ここから出てきたのか……」

 勿論、1つの丘から本当の意味で「全体」を見渡せるほど【不可侵領域】は狭くない。

 しかし、泰久の瞼には少なくとも、あの犬が死んだ場所や自分たちがドアから出てきた場所が映っていた。

「ね?奇麗?」

 リファが泰久に顔を向けて聞いてくる。

「うん……なんていうか……その、凄い景色だ……」

 泰久は話を振ってきたリファを横目に、景色を見つめながらそう言った。

「……気に入って貰えたんなら良かった。ここ、私のお気に入りのスポットだから」

 リファが景色に目線を戻す。

「そういえば、リファの家ってどこなの?」

 泰久はふと思い当たる。

 少なくとも、泰久が見渡した限りでは、自分がリファと共に過ごした場所とみられる建物は見つからなかった。

「私は……特に『家』って呼べる場所は無いかな。一人でも安心できる場所って少ないし」

 リファは俯きながらそう言う。

(安心できる場所?……やっぱりこの子、ちょっと話が通じないのかな?)

 泰久はリファの会話能力を不安に思いながら、リファの隣に座る。

「……リファはさ、やっぱり今は安心できる場所、無いの?」

 リファは泰久に笑顔を向ける。

「今は、強いて言うなら泰久の腕の中、かな?だからここがお家♪」

 リファは泰久の胸にもたれかかる。

「こごお家、ねぇ……」

 泰久はもたれてきたリファを後ろから抱きしめる。

「そう。私が安心できればそこが家になるの」

 リファはそのまま目を閉じた。

「……リファ?」

 泰久がリファの様子を心配に思ったのか、顔を近付けてリファの息を確認する。

「……寝てる、のかな?」

 寝息を耳で感じ取った泰久はそう考えた。

 泰久は、目を閉じてすやすやと幸せそうに眠るリファの髪を指で梳く。

「疲れちゃったのかな?」

 泰久は今日一日で起こったことを思い出す。

「今日は蜘蛛に追い回されたり、変なドアまで向かったり、その後この丘まで登ったりとたくさん歩いたからなぁ……」

(そういえば、僕はそんなことをしても全然疲れなかったな……)

 泰久は自分の足を見つめる。

「……健脚、だね」

 そう考えてから泰久は目を離した。

「リファと僕じゃあ体の作りが違うのかな……?」

 泰久はリファの足に触れる。

 感触は、泰久の足とほとんど変わらなかった。

「やっぱり、体から全然違うって感じでは無さそうなだよな……」

 そこで泰久はある1つの可能性に思い当たる。

「あれ?僕って確か【超人】なんだっけ?」

 泰久は自分に言われたことを思い出す。

「そう……確かに診断でそう言われたはず……その僕と似たような感じってことは、リファも僕と同じちょうじんなのかな?」

 泰久は指でリファの髪を梳きながらそう考えた。

 ――――――――――――――――

 夢を見ていた。

 懐かしい人と丘の上で二人一緒にゆっくりピクニックをする夢。

 私たちはずっと一緒に遊んで、歩いて、手を繋いで、そうやって毎日一緒に過ごす夢。

 消えてしまったいつかのどこかの夢。

(そう、このままずっと続けば良かったんだ……)

 リファの意識が少しずつ浮上し始める。

(……うん。大丈夫)

 相手の少年に向かってリファは頷く。

「今はちゃんとが居るから、心配しなくても大丈夫」

 その様子を見ていた少年も不器用ながらもはにかんだ。
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