Glustony(グラストニー)

さむほーん

文字の大きさ
25 / 26
第一章 異界召喚編

第二十七話 賭博王国

しおりを挟む
「では、これから私たちの今後の予定について話し始めまーす」

 ぱちぱちぱち~、とリファは手を叩いた。

「よろしくお願しますっ、と。これからの予定……何やるの?」

 泰久もぱちぱちと手を叩いてそう聞いた。

「えっとね、今日は元々でーとする予定だったでしょ?私が眠っちゃったせいで予定が台無しになっちゃったけど……」

 リファは目尻に涙を溜めながらそう言った。

「あ、大丈夫だよ!全然気にしなくて大丈夫!むしろ今日一日焦らされたお陰で明日のデートが一層楽しみになったくらいだよ!」

 泰久は焦ったようにフォローする。

「でもぉ~、私がぁ~」

 リファは地面蹲ってそう言った。

「大丈夫。気にしてないから。そもそもリファが疲れて気絶しちゃうくらい負担をかけてた僕も悪いし」

 その背中をポンポンと叩きながら泰久は慰める。

「ごめんね……泰久」

 リファが落ち着いた辺りで、泰久はリファを椅子に座らせ、自分もその隣に座った。

「それでリファ……明日は何処に行こうか?」

 泰久はリファに目線を合わせながら聞く。

「う~ん……実は色々考えてはいるんだけど、いまいち結論が出なくて……だから泰久に聞こうと思ったの!」

 リファがぴょんぴょんと飛び跳ねながら言った。

「僕の意見か……」

「意見って言うほど大層なものじゃなくても、別に『単に自分がここに行きたい気分』ってだけでも良いんだよ?私、泰久の要望を満たすのは好きだし」

 リファはニコニコしながらそう言う。

「とは言っても、僕はこの町のことを全然知らないからね……リファが連れて行ってくれるなら、特にどこでも気にしないかな」

 泰久が言うと、リファは嬉しそうな、同時に寂しそうな顔をする。

「まあ、それだけ泰久が私を信頼してくれるのは嬉しいんだけど……その、どういう感じの所に行きたいかだけでも無い?」

 どうしても聞き出したいようで、リファは上目遣いになりながら聞く。

「そんなこと言われても……う~ん、行きたい場所……強いて言うなら、博物館とかかな?でも、デートでそんな所に行っても楽しくないだろうし……」

 泰久は頭の中に浮かんできた要望を率直に伝える。

「博物館……分かった、博物館に行きたいんだね?じゃあ、一緒にパンフレット見よ?」

 リファは泰久の脳内にこの街のパンフレットを送り付けた。

(っ?!?!?!)

 泰久の脳内に凄まじい情報の奔流が生まれる。

 泰久は耐え切れず、前のめりに倒れこむ。

「泰久!?大丈夫?」

 地面に泰久の頭が当たる直前、リファが泰久を抱きかかえる。

「う、うん。大丈夫。ちょっと一瞬頭が痛くなっただけ。もう収まったから……」

 泰久の言葉を聞いたリファの顔がどんどん青ざめていく。

「そ、それって……その情報って、私が送ったの……?」

 リファは震えながらそう聞く。

「え?あ……いや、分かんないかな……覚えてるのはうっすら街が見えたことくらいだけど……」

 リファノ体がどんどん震えていく。

「そんな……」

 リファはついに膝から崩れ落ちた。

「リファ?!大丈夫?!」

 泰久が膝をついてリファの肩を持つ。

「私のせいだ……私のせいで泰久がそんなことに……ごめんなさい……ごめんなさい」

 リファはブツブツと呟きながら蹲る。

「いや、そんなことって……僕は別に怪我とかは負ってないけど……」

 泰久は不思議そうにしながら答える。

「違うの!あのままだと、もしかしたら泰久が一生何もできない廃人みたいになって……それは、不用意に泰久の頭の中に情報を直接送った私のせいで……」

 リファは一人でそう言う。

「大丈夫だよ。結局そうはなってないし、まあ、その……もしそうなっちゃっても、お腹いっぱいで生きていけるならそれで良いし……」

 泰久はリファの頭を撫でながらそう伝える。

「え……う、うん……えへへ……そう、だよね」

 リファは頬を緩ませる。

「だ、大丈夫だよ……泰久がそうなっちゃっても私がずっとお世話してあげるからね……」

 リファはそのまま泰久に抱き着く。

「……うん」

 泰久はリファの背中を撫でて答える。

「その前に、まずは明日の予定を決めようか」

 ――――――――――――――――――

「じゃあ、明日はまずレジャーランドに行って、その後に裏カジノへ行く、っていう感じにしよっか」

「そうだね!これで予定は立った!まあ、明日の気分によって変わるかもしれないけど」

 リファはウキウキしながら行程を思い返す。

「……えっと、じゃあ、明日も朝が早いから、僕はご飯を食べたらもう寝るね。リファもあんまり夜更かししちゃダメだよ?」

 泰久はトリップしているリファを尻目に、ホテルに備え付けられているレストランへ向かった。

「へへ……えへへ……あっ!ちょ、ちょっと待って!ご飯は、ご飯は一緒に食べよ?!ね!?」

 我に返ったリファは、泰久を追いかけて走り出した。
 
 ――――――――――――――――――

「それでね、本当はカジノって作るのも運営するのも禁止なの。でもね、やっぱりわるぅ~いことをしちゃう人は居るみたいで……ね」

 リファはステーキを口に運ぶ。

「まあでも良いじゃん。そののおかげで僕たちは明日、デートを楽しめるんでしょ?」

 泰久は茶碗蒸しをスプーンで掬いながらそう言った。

「あ、泰久。ちょっと料理交換しない?」

「え、うん。良いけど……」

 泰久とリファは互いの口に料理を運び合う。

「この料理、今まで食べず嫌いしてきたけど……こんなに美味しかったんだ……」

 リファは目を輝かせながら言う。

「ステーキかぁ……こういうのも良いかもね……」

 泰久は口に入れたステーキをよく噛んで飲み込んでから言う。
 
 しばらくして

「泰久」

「何?」

 リファが泰久に聞く。

「明日のデートの終わりにさ、ちょっと話したいことが有るの」

 泰久はリファを見つめる。

「……良いよ。リファが伝えたいなら、僕は聞く」

 リファは目を細めた。

「ありがと」

 お酒の入ったグラスを口に運びながらリファは言った。

「泰久も飲む?」

 リファはお酒の瓶を右手に、空のグラスを左手に持ちながら言った。

「いや、僕は良いよ。未成年だし」

 泰久は手で制する。

「え~良いじゃ~ん。その年齢制限ってでの話でしょ~?私のいる場所こっちじゃあノーカンだって~」

 腕をふにゃふにゃと曲げながらリファは言葉を並べ立てる。

「いやいや、僕もいつかは向こうの世界に戻るつもりだから、この世界のルールにだけ従う訳にもいかないかな~……って」

「え?帰っちゃうの?」

 リファは泣きそうな目で聞いた。

「え……あ、いや、一応、そう考えてはいるけど……」

 泰久は少し戸惑う。

「そんなの……そんなの……」

 リファは俯く。

「私……もう一人じゃ……」

 リファが黙り込む。

「いや、別に帰ってこないわけじゃないよ?」

 リファの様子を見た泰久が慌ててそう付け加えた。

「え?そうなの?」

 リファの顔が明るくなる。

「うん。まあ、何と言えば良いのかな……里帰り?って感じで買えるくらいの予定だから、帰っちゃってもうリファに会わない!みたいなことにはならないと思う」

「本当に!!」

 リファが目をキラキラ輝かせる。

「う、うん。そのつもり」

 取り繕えた、と少し息をつく。

 リファの反応を見て咄嗟に付け加えた言葉ではあったが、別に全くの嘘という訳でも無かった。

(少なくとも、僕がリファに会わなくなる、なんてことが起こらないのは紛れもない事実だ)

 泰久は目の前のリファラウスを見つめる。

 気付いた時には、泰久達の皿は空になっていた。

「……そろそろ、お部屋に戻ろっか」

 リファが提案した。

「そうだね」

 リファが会計を済ませると、二人は部屋に戻っていった。

 ――――――――――――――――――

「おはよ」

 泰久は隣のベッドに居るリファに泰久は声をかける。

「ん……あぁ……」

 リファは目を擦りながら体を起こした。

「あれ……あ、そっかぁ……今日はホテルかぁ……」

 ゆっくりとベッドから起き上がる。

「やすひさ~。歩きたくな~い」

 リファは両腕を前に伸ばす。

「はいはい……分かったよ」

 泰久はリファを抱きかかえて歩いていく。

「ねぇねぇ泰久、今日はデートだよね?」

「そなだね~今日はデートだね~」

 リファを抱きかかえて泰久は答えた。

「じゃあさ~、今日は私の時間なんだよね~?」

「……?ま、まあ多分?」

 泰久は少し首を捻りながら返答する。

「じゃあさ~今日は私から離れないでね~♡」

 リファは泰久に抱きかかえられたままそう言った。

「はい!あっち!」

 リファが洗面台のある方向を指差す。

 泰久リファを一旦布団の上に下ろし、今度は背負ってから洗面所に向かった。

 ――――――――――――――――

「!!」

 自身の執務室の中に居た男は咄嗟に立ち上がる。
 
(この反応……まさか、来ているのか?)

 ベランダにまで出てきてそう漏らした。

「こういう動きをするとしたら考えられるのはだが……」

 思案を巡らせていると、部下らしき男が入って来る。

「失礼します!オヤジ、お時間よろしいでしょうか?」

 角刈りの男が部屋の中に入って来る。

 部屋に居た男は上質そうなスーツを軽く整える。
 
「ああ、すまないが、出来るだけ手短に頼む。いまは色々と考えなくてはいけないことがあってな……」

「了解しました!では報告の方だけさせて頂きます。我が組の管理するカジノで最近トラブルが頻発しているとのことで……」

 その話を聞いて、男の反応が変わる。

「……そうか。具体的にはどのくらいのトラブルがどれほどの頻度で起こっている?」

 顎に手を当てながら『オヤジ』と呼ばれた男は聞いた。

「詳しいことはこちらの報告書に書かれておりますが、どうやら組が働かせているディーラーに怪我をさせて無理矢理金を取っているらしいです」

「……ウチのシマでか?」

「はい」

 スーツの男はフゥ、と息をつく。

「分かった。今日中に対応方針を考えておく。報告はそれで終わりか?」

「はい。以上です。失礼しました」

 再び椅子に座り込んで男はため息をつく。

「全く……次から次へと……」

 部屋には、対策に頭を悩ませる一人の男だけが残された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...