甘くて酸っぱい

Sigre

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甘くて酸っぱい檸檬さん

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レモンティー。
酸っぱいけど、鼻に抜けるレモンの爽やかさが癖になる。僕の一番好きな飲み物。これを飲むといつも思い出す。


「おっはよー!!」

「お、おはよう…」

「うわぁ、相変わらず暗いねー。朝からイヤになるわ。」

たまたま通学路が一緒なだけの同じクラスの子に毎朝絡まれる。嫌になるなら話しかけないでスルーすればいいのに…と心の中でボヤく。

「あ!今スルーすればいいのにって思ったっしょ!?」

「え、えっ!?」

「思ったでしょ!うわー、冷た。私の事嫌いなんだ。」

「す、好きとか嫌いとかそういう話ではなく…」

「うわー、傷ついたわー」

食い気味にリアクションを返してくる彼女。そういえば彼女に最後まで話を聞いて貰えた試しがない。毎朝毎朝どうでもいい話を聞かせられながら登校するうちに今日は何の話なんだろう、と憂鬱だった毎日に少しだけ楽しみが出来ていた。だけど不思議なことに彼女と話すのは朝のこの時間だけで学校に着くとほとんど話さない。

「ねぇ。」

「…ん?」

彼女が1人になった時に勇気をふりしぼり話しかけてみた。朝の人とは別人なのではないかというぐらい冷たい。

「いや、な、なんでもない。」

「…そう。」

そう言って席を離れ廊下に出ていった。

「んじゃ、お前ら。気をつけて帰れよ。」

ホームルームが終わり、帰ろうとした時に彼女が僕の席の前に来た。

「ちょっと今いい?」

「う、うん。」

誰もいない空き教室で2人きりになる。

「な、なに?」

「…なんであたしが毎朝あんたに絡みに行くか不思議に思ってんでしょ?」

「え?」

「だから、今日昼休み声掛けてきたんでしょ?」

「うん。それもあるけど…」

「あんたさ、今好きな人とかいるの?」

「い、いきなりだね。誰もいないと思うよ。こんな僕を好きになる人なんて。」

「そうじゃなくて!あんたが好意をもってる人はいるのかって聞いてんの!」

「あ、あぁ….いないよ。」

「そう、ならあたしと付き合わない?」

「え、何言って…」

「へ、返事は?付き合うの?付き合わないの?」

「わ、わかった。こ、こんな僕でよければ…」

実際、全然嫌じゃなかった。むしろ嬉しかった。彼女と話したり、話を聞いたりしてる時間が楽しかったから。いつの間にか表情がコロコロ変わる彼女の笑顔が好きになっていたから。
今もそうだ。この教室に来た時はキツいキリッとした表情だったのに今じゃ満面の笑みで顔を赤く染めている。

「顔真っ赤だね、かわいい…」

「…….な!?なに!!いきなり!彼氏みたいなこと言い出してんの??」

「え、彼氏じゃないの?今この瞬間から僕は君の彼氏じゃないの?」

「いや、そうだけど。私の彼氏だけど!
あ、あんまり彼氏、彼氏って連呼しないで、恥ずかしいから。」

「あ…ごめん。」

「…じゃ、じゃあ行くよ!」

「行くってどこに?」

「今日は付き合った日だからお祝いするの!!」

「そ、そういうのって1ヶ月とか1年とか経ってからするものじゃ…?」

「いいの!あたしは付き合った日に、付き合った瞬間にやりたいの!!」

「わかったよ….どこ行くの?」

「今日は確か新作が出る日だったはずだから~…」

「それってただ新作を飲みたいだけじゃ?」

「なっ!ちーがーいーまーすー!!」

学校を出てバスに乗る。
夕方だからか混んでいた。彼女を車内のできるだけ壁際に立たせ向き合うように僕が立つ。
彼女が耳元で囁く。

「なんか彼氏みたいだね。」

そんな彼女に僕も囁き返す。

「なんか彼女みたいだね。ぼ、僕ができるだけ守ってあげるよ。」

「できるだけってどういうことよ!
そこはちゃんと守りなさいよ!」

なんて言う会話をしてるうちに目的地に到着。

「あー!開放感!さ!新作を飲みに行くぞー!」

彼女の後ろをついて店内へ入り注文する。
メニュー欄の1番上に『爽やかな酸味のレモンティー新登場!』と書いてある。

「新作ってこのレモンティーのこと?」

「そう!めっちゃ美味しそうでしょ!?」

店員から注文した飲み物を受け取り店を後にする。

「んー!!うまっ!酸っぱくていい感じ!」

「へぇ…そうなんだ。僕レモンティー飲んだことないから分かんないや。」

「飲んだことないの!?え、マジで?飲んでみ?」

「え….」

ストローに目がいく。ここで飲んだら、か、関節キス…

「あ、今関節キスとか考えてたでしょ!」

「あ、や、いや…」

ちゅっ…

人生で初だった。僕の初めてのキスは…

甘くて酸っぱいレモンの味がした。
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