前作主人公の悪役息子

ふゆきまゆ

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初めてのお客様

ある日、決まった時間にだけ来るメイド以外に風変わりな客が来た。

「貴方がノイン様ですね?はじめまして、ヨルスと言います。」

ヨルスは聖書の書き写しをしている途中のノインの手を取りブンブンと大きく握手をした。

「俺の父さんがここの当主様とフクシン?てやつで、俺は十歳。ノイン様のお兄様のサリジュと同じ年なんですよ。」

兄と聞きピクリと手が動く。

「将来はサリジュの付き人になるのかなーなんて話になってるんですけどね。そんな感じでサリジュのお友達としてここに通ってるんですけど。」

ノインは黙って話を聞いていた。罪人には必要な時ではないとメイドとも話してはならない。それでも突然来たこのお客様にどうすればいいのかが分からない。
もっとも気安く話しかけてはならないことくらいはノインも分かっていた。
どうすることも出来ずにヨルスを黙って見ているしか出来ないのに、当のヨルスは気にせずにグイグイと話しかけて来る。

「ここ、すごく暗くないですか?明かりが全然ないですし。そもそも一番日当たりの悪い部屋そうですよね。こんなところにずっといたら不健康になっちゃいません?ノインちゃん、すっごくちっちゃいし。手なんかすっごく細っこい。」

掴まれたままの手をヨルスはベタベタと触った。

「ね、ノインちゃん。俺と一緒に外で遊びません?せっかく来たのにサリジュのやつ勉強の時間だって暇なんですよねー。暇なんで俺の相手してくださいよー。」

一見無理やりに見えるがあまり篭っていない力でそっとノインの腕を引かれて思わず小さな椅子から立ち上がった。
ヨルスは子どもだがノインから見れば随分と大きく見える。子どもと直接接する機会はないからそれが平均的なのかはノインには分からないが。
立ち上がったのがいい機会だとヨルスは手を繋いでそのまま部屋の外に行こうとした。それにノインは抵抗して逆と方向に力を入れた。
ヨルスの力は入っていなかった為すっぽ抜けてノインはぺたりと床に尻もちをついた。

「あっ、ごめんね。嫌だった?」

ヨルスはノインの目の前にしゃがみこんだ。

「でもこんな暗いとこにいたら駄目だよ。ね、ノインちゃん。」

優しく顔を覗き込みながらヨルスはそう言ってくれたがノインはふるふると緩く首を横に振る。

「だめです。」

「どうして?」

ノインは初めて誰か分からない人と話した。ノインくらいの年の子はもうお披露目をしている頃だ。でもノインはずっとここにいなければならないから外で誰かに会うことは出来ない。

「……ぼくはつみのこだからです。」
「なんで?」
「ぼくはおかあさまを殺しました。」
「……それはノインちゃんのせいじゃないんじゃない?」

チラリとヨルスは今までノインが座っていた席を見る。机の上には聖書とノインがずっと書き続けていた質の悪い紙がある。拙い字で一文字ずつ写されている。

「ノインちゃん、しなくていいんだよ。」

ノインは再び首を横に振る。それは頑なだからではない。本当にそうしなければならないと思っているささやかな振り方だった。

「ノインちゃん。ノインちゃんには外に出て遊ぶとかが必要なんじゃないかな?」
「なんでですか?」
「こんなこと、よくないし……。小さいノインちゃんにはもっと大切なことがたくさんあるよ。」

ヨルスにどれほど言われてもノインは動かなかった。
ノインは一生をかけて罪を償わなければならない。それをノインは知っている。
何故遊ばなければならないのだろう。何故外に行かなければならないのだろう。母はもう遊べない。外にも行けない。
ノインが命を奪ったせいで母は何も出来なくなったのに。

キョトンとして動こうとしないノインにヨルスは焦れたのか急にノインを抱き上げた。十歳でも軽々と持ち上げられるくらいにノインは軽かった。
そのまま外に行こうとすると。

「ヨルス様!何故こんなところに!」

膳の回収に来たメイドが悲鳴を上げた。まさか独りきりの部屋に来客がいると思わなかった。

「何をしているんです!」

メイドは思い切りヨルスからノインを引き離す。いくらノインを抱える力はあっても十歳では大人の力には叶わない。
突き飛ばされたノインは床に叩きつけられた。

「ノイン!」

「ヨルス様!ここに来てはなりません!ヨルス様も殺されてしまいます!そうなってしまえばお父様がどれ程悲しまれるか!」
「……そんな話信じてるの。」
「ヨルス様、この方は人殺しなのです。アイフィナ様の命を奪ったんですよ。」
「馬鹿馬鹿しい!」

ヨルスが噛み付くがメイドはヨルスの腕をひっぱり部屋から出そうとする。

「もしかすると次に命を奪われるのはヨルス様のお父様かもしれませんよ!すぐにここから出ないと!」
「やめろ!違う!」

いくら抵抗してもメイドの手を振り払うことは出来ない。いなくなったヨルスを探していたのか部屋の外はいつの間にか慌ただしく何人か来ていたようだ。
大きな音を立てながら扉は強く閉められた。
ヨルスが大きな声を上げて騒いでいるが次第に遠ざかり、いつも通りの静かな部屋に戻る。

またノインは独りになった。
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