天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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作戦

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しばらくして荷馬車が公爵邸にゆっくりと入って来た。

「ただいま帰りましたー。」

「プリム様おかえりなさいませ。」

「たくさんお土産もらってきましたー。」

使用人たちは荷馬車に乗っている箱を丁寧に屋敷の中に運び出す。広間はすっかり箱だらけになり甘い匂いが充満している。

「美味しいケーキ、皆の分もたくさん買ってもらったので好きなだけもらってくださいー。一人ひとつより持っていっていいですよ。」

「ありがとうございます。家族も喜びます。」

「大通りの店の?一度食べてみたかったの!」

「料理人として絶好の勉強のチャンスだ!」

使用人たちは皆にぎわって箱の中身を吟味している。ケーキだけでなくクッキーやゼリーもあるのでどれにするか迷うだろう。

「ああ、プリムおかえりなさい。どうだったかな。」

「ただいま帰りました公爵様ー。お菓子はすごく美味しかったですー。お話はすっごくつまんなくて欠伸堪えるのが大変でしたー。」

「そうか……、ディオールも呼んで向こうで話そう。」

「はーい。」

途中で合流した公爵とともに執務室へ入ると皆真剣な顔になった。プリムはいつも通りの表情だったが。

「やはりユース王子はプリムに接触したね。」

「こっちのこと何とかできると思っていましたねー。ああいうのを懐柔って言うんですよねー。」

「言い方は悪いが、一番舐められるのはプリムだろうとは予測していたからね。」

もちろん今回ユースがプリムに近づいてくることは折り込み済みだった。家当主であり王宮に仕えている公爵と長年筆頭執事であり公爵に忠実なディオールにはどちらもどうすることも出来ないとユースは踏んでいただろう。反面プリムは見習いで子爵家の子息で、立場的には学園生のでしかないと思って言うとおりに出来ると思ったのだろう。
ユースは相手を懐柔しているとも思っていないかもしれないが。

「お話の内容はーアレンシカ様の行き場所とー私の家についてですねー。」

「子爵家の?」

「簡単に言うとおうちに何か危ない目に遭わせますよーって。」

「王族がなんて卑劣な……!」

公爵は険しい顔をし拳を握りしめる。

「君たちミラー子爵家は出来る限り後ろ盾になると誓おう。ミラー子爵にはこちらの護衛もつけよう。」

「ありがとうございますー。でも大丈夫ですよ。お兄様にはちゃーんと言いつけておりますのでー。」

「言いつける?」

「はーい。私がアレンシカ様のお付きになるにあたってそれぞれ決まりを作ったんですー。」

「そうか……それは後で聞こう。まずは王子との会話を。」

公爵はプリムに続きを促す。

「アレンシカ様の居場所を聞いてきたんですけどー、わざと間違ったのを聞いてきたりして、優しい王子様に教えてって言ってきましたー。」

「概ね、想像はつくな……。」

「アレンシカ様の居場所はもう知っているということですね。」

「まあ、それは想定済みだから問題ない。」

「事前に考えてた答えを言っておきましたー。」

プリムがユースにした返答も全て予想通りの問いに対する返事でしかなかった。いきなりペラペラと話せば怪しまれるだけだ。相手は王族で人一倍疑い深い。
少しだけ気分を良くし、多くは答えない。それだけで良かった。

「くだらなくてつまんなくてー欠伸我慢したら涙出ちゃいましたー。」

「そうか。」

それも都合よく捉えたんだろう。ユースは無意識にどこか自分が優位であることに酔うところがある。

「場所はバレてしまいましたがー。」

「そもそもあそこにいるのは時間稼ぎだったからね、王国内にいる以上いつかは分かるものだが、王族にしては遅かった。だがシークス伯爵には大変な役回りをさせてしまったな……。」

「おじさまは大丈夫ですよー。」

「これから王家が向かうから、混乱が起きてしまうかもしれない。」

「んー、たぶん向かわないと思います。」

「何故?」

「とっても面倒だからですー。」

「まさか……。」

あれだけ探しておいてさすがに一人くらいは向かうだろうと思うが、プリムの想像は意外と当たることがあるので公爵は苦笑するに留める。


「だがどちらにしても問題ないな……、向かう頃にはアレンシカはいないのだから。」
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