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拒否
その日はなかなか眠れずに寝不足のままに学園へ向かうことになった。
もちろん見かけたことはリディスに報告済みだ。ただこちらは馬車に乗っていて離れた場所にいたこともあって、もしかすると見間違いかもしれないとは言った。それでもずっと見ていた確信もある。それでもシルロライラ家やハンリビス王国へ迷惑をかける訳にはいかないからしっかりと伝えた。
リディスはにっこりと笑っているだけだった。もうとっくに知っていたのかもしれないが、宰相夫人だけあり特段慌てることもなく報告を聞いても優雅に寛いでいるだけだった。
会うかもしれないと動悸を抑えながら学園へ行くも、いつもの学園のままでホッとした。それでもいつもとは違いどこか不安そうにしているアレンシカに友人たちから心配して声をかけられた。もうすぐあるテストで不安になっているのだと返して一日をなんとか無難に過ごす。
テストに不安になっていることも事実なので友人たちは違和感を持つことはなかった。
学園が終わった後には少しだけ花壇を見てから帰ることにした。いつかは帰る為クラブには入らなかったがそれでも花は好きなのでたまに手伝いや見学をして帰っている。
今日は花を見て心を穏やかにしたかった。何か嫌な予感がする。花のように凛と力強くいたいのだ。
勇気をもらって落ち着かせてから馬車の待つところへ行く。もうメイメイとジュスティが待っていてくれているはずだ。
早く帰りたいと自然と足早になる。あともう少し行けばシルロライラ家から滞在中に借りている馬車が見えるはずだったが。
「待て!アレンシカ!」
「……やっぱり。いたんですね……。」
すぐ横から飛び出してきた人物に勢いよく呼び止められた。
「……何故ここにいるんですか、ウィンノル殿下。」
「迎えに来たに決まってるだろう。」
久しぶりに見たウィンノルは何日もかかって来ているはずなのに綺麗で精錬された雰囲気を纏っていた。アレンシカに会う前にどこかの宿で身なりを整えたのだろうか。
「僕はここに留学生として来ています。無断で帰る訳にはいきません。」
「俺の許可なく渡航するのは違法だろう。そもそも君には渡航制限があるはずだ。」
「フィルニース国王陛下から許可を貰っています。渡航制限は解除されているはずです。そもそも自分に渡航制限があるなんて知りませんでした。」
「国王の判断能力は地に落ちた。今は次期国王として兄上に徐々に仕事が移行されている。兄上は君に帰国命令をもう出している。」
「正式に退位なされていないのに、何故国王の仕事をしていると?それは乗っ取りに等しい行為なのでは。」
「家族が代わりに仕事をするくらいいくらでもあるだろう。」
平民の仕事や正式に移譲されている仕事ならそうだろう。しかし国王の仕事がそう簡単に渡されるはずがない。そもそもウィンノルの様子からしてとても移譲されているとは思えない。
「僕は帰りません。国王陛下や父から直接話が来ないのならば、殿下と共には帰りません。」
「……何故?」
ウィンノルは震える拳を握りしめている。目には怒りが滲んでいた。
フィルニースにいた頃のアレンシカなら、こうなる前にすぐに謝って何がなんでもすぐに一緒に帰ったかもしれない。リディス夫人やレリック宰相に反対されても、帰ることが最適だと考えていた。
だけど不思議とアレンシカは、ウィンノルと話せば話すほど冷静になっていった。すぐ目の前に今にも怒り出しそうなウィンノルがいるというのに。
「自分の判断だけで勝手に留学を取りやめて帰ることは不誠実です。貴族の留学は外交的役割も兼ねている責任ある立場です。」
「俺が帰れと言っている。」
「ここはフィルニースではありません。ハンリビス王国です。そちらの都合だけで出来ることではありません。」
アレンシカは自分でも驚くほどスラスラとウィンノルへ言葉をかけられていた。反対にウィンノルは怒りが溜まっていく。
今までこんなに反抗的だったことはない。たとえアレンシカが拒否していてもウィンノルが少し諭せばすぐに納得して諦めていたはずだった。何故こんなに犯行的になってしまったのか分からない。
「……いい加減にしろ。」
とうとうウィンノルはそう言った。
「アレンシカ、お前は自分の我儘がどれ程周りに迷惑をかけているのか分からないのか。」
「……それはどういうことでしょうか。」
「お前は言うことを聞かず、国を出ていったせいでみんな大変な目に遭っているんだ。」
「……そうですか。」
アレンシカは自分が留学した後でどうなったか何も知らない。アレンシカが帰らないように意図的に情報は止められ入ってくることはない。父はアレンシカを気遣ってくれ、アレンシカも信頼して待っている。
ウィンノルの言う「大変な目」がどうなってのことかも知らないが、アレンシカはどうして自分のせいにしてくるのかと思った。
「帰れアレンシカ。今なら俺は許すし、兄上もきっと許してくれるはずだ。アレンシカがしっかり謝って、きちんと婚約者としての仕事を果たせば兄上もアレンシカを見直すさ。」
「嫌です。」
今までで一番はっきりと拒絶した。ウィンノルは目を見開いた。
「婚約関係はこうしている時も見直されているはずです。殿下が帰る頃にはもう他人同士かもしれません。」
アレンシカはもうとっくに分かっていた。フィルニースから離れてそのまま留学の形でここに来たこと。王族との婚姻が宙に浮いたままここに居るわけではない。アレンシカが留学中にこの婚約関係にかたをつけているのだと。
「そんなことはない。俺が拒否している。」
「以前僕は婚約関係を見直すようにとユース殿下にもきちんと言っていますよ。」
「婚約関係はなくならない。」
「……殿下、どうして婚約解消をされないのですか?」
ウィンノルは肩を揺らす。ウィンノルがアレンシカに冷たく対応されてからずっと疑問に思っていたことだ。
「ずっと殿下からふさわしくないと言われ続けていました。僕の存在が恥だとずっと。それなのに何故今まで婚約関係は見直されなかったのですか。」
「それは……。」
「厳格に一夫一妻制であるフィルニース王国において、殿下は数々の方と浮名を流していますよね。きっとその中に殿下のお目に叶う素晴らしいご子息やご令嬢がいるのではと思っていました。……もしかするとどなたか運命の方もいるではないかと。」
それはあの日天啓で見たあの光景。ウィンノルがエイリークと寄り添っているあの瞬間。
「僕は殿下が誰かに心を寄せるなら応援したいと、……身を引こうと思っているんです。至らない僕よりもっとふさわしい人に。殿下は王族なんですからいくらでも選び直せたはずなんです。」
「俺はアレンシカと婚約を続けるんだ。」
「何故です。どうして……。」
アレンシカがいくら待っても、何かを言ってもどうにも出来なかった。
始めは皆の前で婚約破棄される未来を変えたかった。ウィンノルが誰かを好きなら、その前に変えればウィンノルも喜んでくれると思った。
「僕はまだ留学期間です。殿下は今すぐにフィルニースにお帰りいただくべきです。」
ウィンノルの側には人はいない。アレンシカを連れ戻すためだけに来たのだろうか。
「きっと皆が心配していますよ。それから……フィルニースに帰ったら……婚約解消の手続きを進めてください。殿下の納得のいく婚約を結び直してください。」
アレンシカはリディスに叩き込まれた笑顔で笑う。
「さようなら、殿下。」
お辞儀をした後数歩下がった。あまり王族のすぐ横を通り過ぎるのは好ましいやり方ではない。本来なら王子であるウィンノルが去ってから動くべきだが、今はこちらから去ったほうがいいだろうと、ウィンノルを大回りする形で離れようとした。
しかしウィンノルのほうが速かった。
「お前は俺と一緒に帰るんだ。」
アレンシカを連れて行こうとウィンノルの腕がすぐそばまで差し迫った。
もちろん見かけたことはリディスに報告済みだ。ただこちらは馬車に乗っていて離れた場所にいたこともあって、もしかすると見間違いかもしれないとは言った。それでもずっと見ていた確信もある。それでもシルロライラ家やハンリビス王国へ迷惑をかける訳にはいかないからしっかりと伝えた。
リディスはにっこりと笑っているだけだった。もうとっくに知っていたのかもしれないが、宰相夫人だけあり特段慌てることもなく報告を聞いても優雅に寛いでいるだけだった。
会うかもしれないと動悸を抑えながら学園へ行くも、いつもの学園のままでホッとした。それでもいつもとは違いどこか不安そうにしているアレンシカに友人たちから心配して声をかけられた。もうすぐあるテストで不安になっているのだと返して一日をなんとか無難に過ごす。
テストに不安になっていることも事実なので友人たちは違和感を持つことはなかった。
学園が終わった後には少しだけ花壇を見てから帰ることにした。いつかは帰る為クラブには入らなかったがそれでも花は好きなのでたまに手伝いや見学をして帰っている。
今日は花を見て心を穏やかにしたかった。何か嫌な予感がする。花のように凛と力強くいたいのだ。
勇気をもらって落ち着かせてから馬車の待つところへ行く。もうメイメイとジュスティが待っていてくれているはずだ。
早く帰りたいと自然と足早になる。あともう少し行けばシルロライラ家から滞在中に借りている馬車が見えるはずだったが。
「待て!アレンシカ!」
「……やっぱり。いたんですね……。」
すぐ横から飛び出してきた人物に勢いよく呼び止められた。
「……何故ここにいるんですか、ウィンノル殿下。」
「迎えに来たに決まってるだろう。」
久しぶりに見たウィンノルは何日もかかって来ているはずなのに綺麗で精錬された雰囲気を纏っていた。アレンシカに会う前にどこかの宿で身なりを整えたのだろうか。
「僕はここに留学生として来ています。無断で帰る訳にはいきません。」
「俺の許可なく渡航するのは違法だろう。そもそも君には渡航制限があるはずだ。」
「フィルニース国王陛下から許可を貰っています。渡航制限は解除されているはずです。そもそも自分に渡航制限があるなんて知りませんでした。」
「国王の判断能力は地に落ちた。今は次期国王として兄上に徐々に仕事が移行されている。兄上は君に帰国命令をもう出している。」
「正式に退位なされていないのに、何故国王の仕事をしていると?それは乗っ取りに等しい行為なのでは。」
「家族が代わりに仕事をするくらいいくらでもあるだろう。」
平民の仕事や正式に移譲されている仕事ならそうだろう。しかし国王の仕事がそう簡単に渡されるはずがない。そもそもウィンノルの様子からしてとても移譲されているとは思えない。
「僕は帰りません。国王陛下や父から直接話が来ないのならば、殿下と共には帰りません。」
「……何故?」
ウィンノルは震える拳を握りしめている。目には怒りが滲んでいた。
フィルニースにいた頃のアレンシカなら、こうなる前にすぐに謝って何がなんでもすぐに一緒に帰ったかもしれない。リディス夫人やレリック宰相に反対されても、帰ることが最適だと考えていた。
だけど不思議とアレンシカは、ウィンノルと話せば話すほど冷静になっていった。すぐ目の前に今にも怒り出しそうなウィンノルがいるというのに。
「自分の判断だけで勝手に留学を取りやめて帰ることは不誠実です。貴族の留学は外交的役割も兼ねている責任ある立場です。」
「俺が帰れと言っている。」
「ここはフィルニースではありません。ハンリビス王国です。そちらの都合だけで出来ることではありません。」
アレンシカは自分でも驚くほどスラスラとウィンノルへ言葉をかけられていた。反対にウィンノルは怒りが溜まっていく。
今までこんなに反抗的だったことはない。たとえアレンシカが拒否していてもウィンノルが少し諭せばすぐに納得して諦めていたはずだった。何故こんなに犯行的になってしまったのか分からない。
「……いい加減にしろ。」
とうとうウィンノルはそう言った。
「アレンシカ、お前は自分の我儘がどれ程周りに迷惑をかけているのか分からないのか。」
「……それはどういうことでしょうか。」
「お前は言うことを聞かず、国を出ていったせいでみんな大変な目に遭っているんだ。」
「……そうですか。」
アレンシカは自分が留学した後でどうなったか何も知らない。アレンシカが帰らないように意図的に情報は止められ入ってくることはない。父はアレンシカを気遣ってくれ、アレンシカも信頼して待っている。
ウィンノルの言う「大変な目」がどうなってのことかも知らないが、アレンシカはどうして自分のせいにしてくるのかと思った。
「帰れアレンシカ。今なら俺は許すし、兄上もきっと許してくれるはずだ。アレンシカがしっかり謝って、きちんと婚約者としての仕事を果たせば兄上もアレンシカを見直すさ。」
「嫌です。」
今までで一番はっきりと拒絶した。ウィンノルは目を見開いた。
「婚約関係はこうしている時も見直されているはずです。殿下が帰る頃にはもう他人同士かもしれません。」
アレンシカはもうとっくに分かっていた。フィルニースから離れてそのまま留学の形でここに来たこと。王族との婚姻が宙に浮いたままここに居るわけではない。アレンシカが留学中にこの婚約関係にかたをつけているのだと。
「そんなことはない。俺が拒否している。」
「以前僕は婚約関係を見直すようにとユース殿下にもきちんと言っていますよ。」
「婚約関係はなくならない。」
「……殿下、どうして婚約解消をされないのですか?」
ウィンノルは肩を揺らす。ウィンノルがアレンシカに冷たく対応されてからずっと疑問に思っていたことだ。
「ずっと殿下からふさわしくないと言われ続けていました。僕の存在が恥だとずっと。それなのに何故今まで婚約関係は見直されなかったのですか。」
「それは……。」
「厳格に一夫一妻制であるフィルニース王国において、殿下は数々の方と浮名を流していますよね。きっとその中に殿下のお目に叶う素晴らしいご子息やご令嬢がいるのではと思っていました。……もしかするとどなたか運命の方もいるではないかと。」
それはあの日天啓で見たあの光景。ウィンノルがエイリークと寄り添っているあの瞬間。
「僕は殿下が誰かに心を寄せるなら応援したいと、……身を引こうと思っているんです。至らない僕よりもっとふさわしい人に。殿下は王族なんですからいくらでも選び直せたはずなんです。」
「俺はアレンシカと婚約を続けるんだ。」
「何故です。どうして……。」
アレンシカがいくら待っても、何かを言ってもどうにも出来なかった。
始めは皆の前で婚約破棄される未来を変えたかった。ウィンノルが誰かを好きなら、その前に変えればウィンノルも喜んでくれると思った。
「僕はまだ留学期間です。殿下は今すぐにフィルニースにお帰りいただくべきです。」
ウィンノルの側には人はいない。アレンシカを連れ戻すためだけに来たのだろうか。
「きっと皆が心配していますよ。それから……フィルニースに帰ったら……婚約解消の手続きを進めてください。殿下の納得のいく婚約を結び直してください。」
アレンシカはリディスに叩き込まれた笑顔で笑う。
「さようなら、殿下。」
お辞儀をした後数歩下がった。あまり王族のすぐ横を通り過ぎるのは好ましいやり方ではない。本来なら王子であるウィンノルが去ってから動くべきだが、今はこちらから去ったほうがいいだろうと、ウィンノルを大回りする形で離れようとした。
しかしウィンノルのほうが速かった。
「お前は俺と一緒に帰るんだ。」
アレンシカを連れて行こうとウィンノルの腕がすぐそばまで差し迫った。
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