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序章 夢の世界

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「あれ?」
 俺──斎藤新は困惑していた。当然だ。突然、目の前に小さくなった人工物が視界に映っているからだ。
 小さいという事はミニチュアを見ているか、どこか高い場所から見下ろしているかのどちらかだろうが、前者はあり得ない。なら後者しか残っていないと思えるが、新たはどこか高い場所に登った記憶もなく、これもあり得なかった。
 今日の彼の行動は学校が終わり、いつも通りに寄り道でゲームセンターに行き、やり込んでいるアーケードゲームに教授するはずだった。
(なのに、山奥にいる……)
 ほんの一瞬。自動ドアを潜った矢先の出来事だった。
 ワープともテレポーテーションともいえる謎現象。しかし、そんなものがないのは苦い現実を味わってきた新たにはわかりきっていた。
 突然の出来事に目をチカチカさせ、辺りを見渡す。一面緑に囲まれたこの場所を。一見山頂とも思えるこの場所を。そして……
「これって、もしかして! もしかして!」
 山に木霊するくらいの大声で、
「異世界召喚ってやつですかー」
 アラタの頭ではこの現象に、これくらいの答えしか導き出す事しかできなかった。

 突然の異世界召喚を体験し、遠足前の子供のようにウキウキしている。当たり前だ。異世界召喚といえば、思春期男子の憧れ。こうならない方が不思議なくらいだ。
 現にアラタもいつか異世界に行けないかと夢見ていたくらいだ。
「例のアレ! やっときますか!」
 そう言って「ステータスオープン!」と声高らかに叫ぶ。すると、視線の先には待ち望んでいたものが現れる。
「これがステータスってやつかー」
 異世界の雰囲気──中世ヨーロッパ風の背景には相反する近未来的なシステムだったのだが、想像通りの物で安心した。
「どれどれ……」
 自分の能力値を把握するために、視線のものを凝視していく。

 サイトウ・アラタ
 職業:無職
 装備:なし
 魔法:

「えっ!」
 思わず声を上げてしまっていた。
 何もない。異世界に来たばかりだから、職業や装備がないのはまだいい。だが、お約束のギフトがないのはおかしいのではないだろうか。
 自分の目を擦り、今見たものは幻覚だと信じながらもう一度ステータスを凝視する。

 サイトウ・アラタ
 職業:無職
 装備:なし
 魔法:

 本当に何もない。
 この状態を信じたくないアラタは逆さになったり、飛び跳ねたり、ありとあらゆる方法で眼前の贈り物を見る。しかし、結果は変わらない。
 完全に現実と同じ状態を突きつけられたアラタは、
「嘘だろぉぉぉぉぉ」
 今の状況に絶叫する事しかできなかった。

 
 
 
 

 

 
 
 




 



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