50 / 80
ずっと見てる
しおりを挟む「行って参ります」
ふざけて敬礼をした高遠さんが、川に向かっていく。アタシもつられるように、後ろ姿を追いかけてしまう。
まわりのスタッフもあちこちに固まりながら、高遠さんの姿を見つめていた。
川辺で靴を脱ぎ出した高遠さんに追いつくと、我慢できなくて声をかけた。
「…き 気をつけて」
「うん。大丈夫だよ」
屈み込んだ腕の隙間からいたずらっぽい瞳がのぞく。
「俺はね、これでも野生児だったんだから。川遊びなんてよくやったし。だから大丈夫なんだって。そこで見てて」
「うん…ずっと見てる」
靴も靴下も脱いで、高遠さんが岩に手をかけた。小さいとはいえ滝だけあって、落差は大人の身長くらいあった。高遠さんは、これから身長分の岩を登ってから川を渡り撮影場所まで行かなくてはいけない。
身軽に岩に手をかけて登っていく。危なげない足取りで登りきると、川へと足を踏み出した。
浅瀬を二、三歩行くと、急に深くなり膝の上までが水に浸かる。流れも早くなったようで、体がゆらりと傾いた。
危ない、と声にするより早くぐいっと体が沈み、伸び上がるように岩へと跳び移った。勢いでととっと進んだものの落ちることはなく、撮影場所でぴたりと止まる。
くるりと体がこちらに向けられ、笑っているのがわかった。
そして高遠さんは拳を突き上げて、『大丈夫だったでしょう』と声を張り上げた。
「わあっ…」
自分の声が、まわりの歓声に掻き消される。スタッフは皆手を止めて、高遠さんに拍手と声援を送っていた。アタシも夢中で拍手する。
高遠さんて、凄い。
ほんの一瞬で、まわりの人を引き付ける何かを持っているんだ。
「わかったわ。あとはその格好をどうにかしてちょうだい」
湯山さんがそう言うと、高遠さんは照れたように頭をかいて、首からタオルを取り丁寧に足を拭いて裾を下ろした。濡れないように背中にかけていたシャツをきちんと羽織ると、何事もなくそこにいた風を装う。
さっきまで湯山さんと言い合っていたのなんか忘れたみたいに、爽やかな青年のたたずまいになった。
高遠さんが位置についたことで、スタッフが慌てて準備に入る。
まだ余裕のある高遠さんは、目だけはいたずらっぽく笑っていて、スタッフが動き回るのを眺めていた。
0
あなたにおすすめの小説
恋は、やさしく
美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。
性描写の入る章には*マークをつけています。
強引な初彼と10年ぶりの再会
矢簑芽衣
恋愛
葛城ほのかは、高校生の時に初めて付き合った彼氏・高坂玲からキスをされて逃げ出した過去がある。高坂とはそれっきりになってしまい、以来誰とも付き合うことなくほのかは26歳になっていた。そんなある日、ほのかの職場に高坂がやって来る。10年ぶりに再会する2人。高坂はほのかを翻弄していく……。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
触れる指先 偽りの恋
萩野詩音
恋愛
武井夏穂は、お人よしな性格が玉にキズなカフェ店員。
ある日、常連のお客様のトラブルに遭遇し、とっさに彼を手助けしたところ、そのまま「恋人のふり」をすることになって――。
<登場人物>
武井夏穂(たけい かほ)28歳 カフェ店員
×
貴島春樹(きじま はるき)35歳 エリートサラリーマン
『本当の自分』を受け入れてくれるひとに、出会えたかもしれない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる