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しおりを挟む明るすぎて飛んでしまった視界にも、会場の笑顔が見える気がした。
ミカさんを見たら、やっぱり笑っていてあたしまで嬉しくて、ステージの上だということも忘れてデレた笑い顔になってしまった。
ミカさんに向けられた拍手の何十分の一かは、あたしに向けられているものも混じっているかもしれない。そう思ったら胸の中が暖かくなった。
掴まれていた手を、きゅっと握りかえす。
「ミカさん、このステージに立たせてくれてありがとう」
「お礼なら、あたしが言いたいくらいよ。ずっとあったコンプレックスを、玲奈ちゃんが無くしてくれたのよ。
あたしはずっと服が好きだったの。デザインするのも、作るのも。
それでも服を作ることも、こうやってショウをする事も悪いこと、みっともないことだって両親や親戚から言われてきたのよ。
それでもやめるなんてできなくて、迷って悩んで作った服がその服なのよ。コンテストに応募してなんにも賞がとれなかったら、止めようって思ってた。
この服がきっかけで、賞も貰ったし、そのご縁でこうしてブランドを任されたのよ。
あたしのことをこうやって受け入れてくれる場所がやっと見つかったの。
それはやっぱり玲奈ちゃんに会えたことも大きいの」
ミカさんと両手をつないで向き合うと、とても綺麗な笑顔をあたしに向けてくれた。
「ここに来てくれてありがとう。玲奈ちゃんにこの服を選んでもらえて嬉しいわ。どこも直すところなんてないくらい完璧にサイズが合ってる。
……ありがとう。あたしのディーヴァ(女神)」
そしてあたしの手を取ると甲にキスをして高くかざした。
その瞬間、割れるような拍手に会場がふるえるほどの衝撃があった。
その衝撃は客席からステージへと津波のようにやってきて、空間を満たした。まともに衝撃を浴びたあたしは、その熱と音でびくりと体が跳ねた。
この空間を埋めているものは、とても幸せな気持ちで、熱いくらいの思いだった。
この会場からの拍手に応えたくて、もう一度お辞儀をする。
自然と深く深く体が傾く。ツインテールにした髪が膝につくくらいに。
はじめてステージに立ったあたしが、どうやってこの会場じゅうの人に感謝を伝えたらいいのかわからなかった。
とっさに沢山の言葉を話せるほど頭の回転がいいわけでもなく、すぐに言葉に詰まってしまうあたしに出来る精一杯のお辞儀だった。
MCのマイクが向けられて、ミカさんはにこりと微笑んだ。
「本日は、私共ピンクラビッツのショウにお越し頂きありがとうございます。
デザイナーが変わって初めてのショウになりますが、ピンクラビッツの象徴ともいえるモデルを得て、これからはさらに可愛くて素敵な洋服を作っていきたいと思います」
拍手と声援にミカさんが手を振ってこたえる。
拍手に背中を押されてバックステージまで戻る間も心臓がばくばくと激しく脈動していた。
ステージやランウェイではなんとか持っていた緊張が切れて、がくがくと足が震えた。
怖かった。
シロウトのあたしが、こんなに大きな会場のこんなに大きなステージで、沢山のお客様に見られる。
きちんとしたレッスンに裏付けられた自信なんてないし、あたしが出来ると選んでくれたミカさんを信じるだけだった。
鳴り止まない拍手で、ショウは成功したとわかる。
よかった。無事に終わって。
誰にも迷惑をかけてないかな。
ショウが終わっても取材で忙しいミカさんとはゆっくり話す機会もなく、あたしを気にして来てくれたさやさんから、差し入れのお菓子や食べ物を沢山貰って解散になった。
心地よい疲労感とお土産にウキウキと家につくと、暗くなったリビングに人の姿があった。
まるで動かない姿にびっくりして、お菓子の紙袋を落とすとその音でその人物が振り返った。
おねーちゃんだった。
「明かりもつけないでびっくりしたよ。沢山お菓子を貰ったんだよ? 一緒に食べよう」
振り返ったおねーちゃんは、薄暗がりでもわかるほど顔が引きつっていた。
「……なに言ってんの? 馬鹿にするのもいい加減にしてよ!! 心の中で私のこと笑ってるくせに……モデルとしてショウに出るなんて聞いてなかったから……私、あんなこと……」
朝のおねーちゃんの言葉が蘇る。『玲奈もショウとか見たらいいよ』
だって…あの時のあたしは、こんな未来がわからなかった…
高いお金を出しても見たいというほど、あたしは執着してなかった。むしろ、非売品のグッズが貰えるかもとふらふらしていた。
「違うよ…おねーちゃん。あたしおねーちゃんのことそんな風に考えたりしたことないよ…おねーちゃんは、いつもあたしの自慢なんだよ? 」
「嘘ばっかり…私だけいい学校に行って、両親から可愛がられているから、ヤキモチを焼いているんでしょう? 私だって、お受験に落ちた玲奈のこと恥ずかしくて友達に紹介なんて出来ないんだから! 」
いつも優しいおねーちゃんが、こんなに感情をあらわにして怒っているのは初めて見る。
「おねーちゃん……あたしおねーちゃんのこと好きだよ。出来損ないの妹かもしれないけど、あたし今の学校が好きだし、今の状態も嫌いじゃない。
おねーちゃんの学校は、おねーちゃんみたいに頭がよくって何でも出来る人が行くとこだもの…あたしには合わない。家の経済力でいっても、これでいいってわかってる」
何て言ったらいいんだろう。どうしたらおねーちゃんはわかってくれるんだろう。
「……どこかよそで会っても、おねーちゃんなんて呼ばないで。言いたいことはそれだけだから」
そう言っておねーちゃんはリビングから出て行った。
あたしにも、お菓子にも興味なんてないみたいに、ただ横を通り過ぎていった。
おねーちゃんが、無条件にあたしの夢を応援してくれるなんて、そんな訳なかったんだ……
どうして、そんなこともわからなかったんだろう。
あたしがモデルなんてチャラチャラしたことをしていたら、おねーちゃんにも迷惑がかかるかもしれない。
おねーちゃんの学校みたいな、いいお家のお嬢様が行くところには、そんなことをする人なんていなくて、家族や親戚とかにもそういう人がいないのかもしれない。
あたし、もうおねーちゃんて呼べない……
どこか家の外で会っても、おねーちゃんはもうあたしとは話してくれないのかもしれない。
お友達といたら、恥ずかしくて話してくれないんだ……
そう思ったら悲しくなった。
ピンクラビッツの服を着たら、みんなが幸せになると思っていたのに、あたしは大切なおねーちゃんのことは幸せにしてあげられない……
それがとても悲しい。
ついさっきまで、ぱんぱんに膨らんでいたあたしの気持ちは、あっという間にぺしゃんこになってしまった。
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