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Carbonium
第四十八話 勇者召喚
しおりを挟む真はギルドの二階から青い髪を揺らす見慣れた少女を視界に留めていた。
ポーチからはみ出す程に集められたラベール花と余分に持っていった麻袋もパンパンに膨れ上がっている。
どれだけ集めてきたんだと思いながら真はルナが受付に行く前にその前に躍り出る。
「シン様っ、お、お早いんですね!流石です、私なんかこんなに時間が掛かってしまって……これでもグレイズウルフも使って急いだんですが。でも見てください!沢山取れましたっ、これならシン様も認めて下さいますか!?」
ルナの言葉通り麻袋も摘まれたラベール花で一杯だ。
シンはよくやったなと一声掛けると、麻袋からラベール花を一束掴んで少し貰えるかとルナヘ問い掛ける。
若干戸惑った様子のルナであったが真に誉められた事が嬉しいのか、それとも真の言う事に疑問を浮かべるべきではないと判断したのかそれを快く承諾した。
もし真が欲しいのであれば全部差し上げますとも言ってきたルナであったが、それはいいと断りを入れ受付へ行くように促す。
あれだけのラベール花を摘んでくる辺りまた群生地でも見つけたのだろうか、真の見た限りでは百本は下らない。
それでも大した額にはならないが、そっちの才能があるのかもしれないと真はルナヘの評価を若干修正させていた。
◆
ルナのラベール花採集の話を二時間に渡って聞かされた真、あまりのストレスにギルドの二階で遂にカフェインを口にしてしまっていた。
自分の体の異常がカフェインのせいでは無いとは言え、少しばかりの引け目を感じてしまう。
ただソーサリーから貰ったラベール花の粉を飲む程のストレスでもない、ただ早い所フレイが帰って来ないかと切に願った程度なのである。
その後数人のギルド員がゾロゾロとギルドへ集結するのが見てとれた。
その中に見慣れた顔を見つけ、真は心底ほっとした気持ちにさせられる。
フレイは一通りの手続きを済ませた後、何やら嬉しそうな顔をしながら真とルナの待つ二階へと上がって来た。
「悪いっ、待たせたか?」
「フレイさん、お疲れ様です!」
「……大分待たされた。何か嬉しそうだな、よっぽど稼げたのか?」
真は二時間に渡るルナの相手をした辛さをその一言に込めてフレイへと放つ。
だがフレイはそんな嫌味に慌てる様子もなく上機嫌で真達と同じテーブルについた。
「男ならそこは今来た所だ、とか言うものだぞシン。まぁすまないな、だが金は稼げた。運は向いているのかいないのか分からないがな」
フレイはそんな事を言いながらテーブルに麻袋を置く。
硬いものが木製のテーブルに当たる音、恐らくは硬貨が入っているのであろうそれを手で叩きながらニヤリと不敵な笑みを溢す。
まるで悪巧みをしている盗賊の様だ。
「金貨五枚に銀貨三十、銅貨……予想以上の収穫だ」
「す、凄い……き、金貨……私なんか銀貨三枚なのに……」
フレイの自信と悦びに満ちたそんな言葉にあからさまな落ち込みを見せるルナだが、ラベール花で銀貨三枚を集めたと言う事実もそれはそれで凄いと真は思う。
「……あまり危険じゃないんだろ?よくそんなに稼げたな」
平野の遺跡とやらに住み着く魔物はそこまで凶悪ではないとの話だった。
それでもこれだけ稼げるのであればもっと凄い魔物ならどうなるのかと真はそんな疑問を口にする。
「それなんだ……どうやらもう統率者がいた様だ。最初のうちはスクイッグ、スライムとそれに続いてコボルト、ゴブリン、オークなんて物だった。まぁ、それも問題だがな……でレッドオーガにイエローオーガ、ブルーオーガと出てきた時は流石に私も焦った。その上魔族が統率していたとはな……だが氷城のエミールと、一人の男が意図も容易く倒してしまってな!私はもう何が何やらだ。S級ギルド員を見れるとは思ってなかったが……その上戦利品まで分けて貰えるし、何と言うか複雑だっ」
フレイの話は興奮混じりでどうにも要領を得ない。
だが話は何となく分かった気がした。
つまる所あの男達の話もあながち間違いでもないと言う事だ。
「要するに悪い報告と良い報告が混じったって訳か」
「っ!?そ、そうなる。S級ギルド員氷城のエミールとよく分からない少年がいた事、魔族が現れている事……そこから考えられる事態はあまり良くない事な気がしてならないんだ。だがお陰で金はそこそこ稼げた、これなら明日にでもレスタの所に行けるかもしれない」
フレイは真の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、落ち着いて事を整理するように話した。
勇者、S級ギルド員、魔族、魔王とオカルトもここまでくると真にとっては今この時がお伽噺に思えて仕方ない。
だが異世界の人間を召喚するとはどういう事なのか、ならば自分も勇者と言う存在になるのだろうか。
真はそんな事をぼんやりと考えていた。
「……勇者召喚、か」
ふと口をついて出た言葉、それは先程隣にいた男達が交わしていた会話の一部。
フレイはその真の呟きにはっとした顔で真を見た。
「そうか!それだ……だがまさか、魔王とやらが……あの話は本当だったのか……しかしそれなら得心がいくな。だとすればあの少年が異世界の勇者……確かに訳の分からない事を言っていたし、とてつもない力を持っている様だった……」
「おい、フレイ?」
「んっ!?あ、す、すまない……で、何の話だったか……そう、ザイールへ行くのに三人の持ち金を整理しよう」
真の問いかけに我に返ったフレイが慌てて全財産をテーブルに広げようとしたが、真はそれより早くポケットに乱雑に突っ込んだ金貨十枚をテーブルへと置いた。
「っこ、これは……!?シン、お前は……この短時間で一体幾つの依頼を……」
「いや、例の薬師館だけだ。薬剤の原料とやらを作ってやったら寄越してきた、これで預け金とやらは賄えるだろ?」
荷馬車を個人的に借りるに当たって預け金は金貨十枚、ならばこれで大方問題は解決しただろうと真は思っていたのだ。
「こ、こんなに貰える物か……D級で金貨報酬なんて聞いた事がない。はは……予想より早く貸した金が返ってきたな。荷馬車の分は既に私がぎりぎり賄えていたから問題無かったのだが……一気に大金持ちになってしまった」
「シン様……凄い……私は……やはりお役に」
横目にルナが落ち込むのが目に入る。
真はラベール花は自分にとって重要だった、お前は役に立っていると適当に励ましておく事にした。
そんな一言にぱぁっと表情を明るくするルナは、元気を取り戻したのかまたいつもの真英雄説話を繰り出したので再度の無視を決め込みながらフレイと明日の予定を立てる事にする。
長旅に必要な物の買い揃えや、王都宿の引き払い。
懐に余裕が出来た事から旅途中でもゆっくりと寝れる様に天幕も買うか等と一頻り話も盛り上がった所で、フレイは真へ金貨十枚の報酬に対しての危惧を再び口にしてきた。
「しかしシン……その報酬、それは薬師館からの誘い的な意味合いもあるんじゃないのか。いや、それしか考えられない。いくらなんでもいきなりD級の手伝い要員に渡す金じゃないぞ……その辺り、考えているのか?」
フレイもやはり真と同様の事を思っていた様で、ギルド員を辞めて薬師館に従事するのかと若干寂しげな顔をする。
だが真としてはそこまで重く事態を考えてはいない。
どうにでもなるような気がしていたのだ。
「大丈夫だろ。まぁ正直薬師館で働くのも俺としてはいいけどな、今はやる事がある。それにまた手伝いに行けば話も多少収まるだろう」
薬師館の人間の態度に少し苛立った事からちょっとした嫌味を込めた行動がここまでの事態になるとは、真自身やはりこの世界の文明レベルが低すぎて科学技術を隠しきれないと言うのは事実であった。
少しの行動がこの世界ではとてつもない発見にも成りうる、だが逆に言えば全て魔法の力だと言えばこの世界の人間なら丸め込める様な気もしていた。
「まあとにかく今日はもう暗くなるだろ?準備も明日に回してそのままここを出るか?」
「あ、ああ……そう、だな。そうしよう、シン……無理は、するなよ?」
フレイのそんな心配に真は軽くああとだけ答えて、三人はギルドを後にした。
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