その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

文字の大きさ
55 / 139
Carbonium

第五十四話 バジリスクの効能

しおりを挟む
 

 その後本題に入り、フレイはバジリスクの眼球についてレスタへ説明した。
 十七年間不自由だった自分の脚が良くなると言う事実を受け入れがたそうにしていたレスタだったが、親愛なる姉の言葉とあってそれを驚きながらも冷静に受け入れた。
 そんな話から暫くして、湯の用意が整ったとレスタの部屋にメイドのクローアと言う人物が慌てた様子で入って来た為、三人はレスタの車椅子のスピードに合わせて浴場へと向かう事になったのだった。


 一階より狭いらしいがレスタ専用だと言う三階の浴室なる部屋の前には、既に警備長のサンジが待ちわびた顔で此方に視線を送ってきていた。
 メイドのクローアが真とルナ、そして警備長であるサンジをその場で制する一言を告げるとレスタは一礼してそのまま浴室へと入って行く。


「では御友人方は此方でお待ち願えますか、申し訳ありません」

「じゃあ、行ってくる」
「……あぁ、使い方は大丈夫だよな?」

 真は此処で待てと言われた事を察し、後をフレイに任せる事にした。

 本当に成功するのか、効果の発現に何日間かかるのか、むしろ万が一悪化したら等と様々な事態が脳裏を過る。だが此処まで来た以上最早後は天に任せるしかなかった。
 真としても一応ながらデバイスにてバジリスクの眼球が入った瓶を元素補足確認したのだが、これと言って何かが解るわけでもなかった為ソーサリーの話を信じるしか無かったのだ。



 ならばと真は予め細胞活性酵素を持つフレイ自身が湯に浸かって異常があるかどうか確認した方がいいと言い含めてある。
 万が一にもバジリスクの眼球が薬剤としての効果を発揮せず何らかの毒物であった場合、体に異常、変化が起こるはずであり今のフレイならばその異常事態に見舞われても回復する事が出来るからである。
 薬師だと言うソーサリーの言葉を信じない訳ではないが、あくまでこれは保険的な物であった。



 真、ルナ、サンジが見守る中、先に浴室へと入ったレスタに続くフレイとクローアは目礼をして浴室の扉を閉じたのだった。




「……本当に、坊っちゃんの脚が動くようになるんでしょうか」


 ふと呟かれたサンジの言葉、それにどう返すべきか悩んだ真であるがそこは事嘘を付けない性分である。

「……正直俺個人としての確証は無いですね、ただ薬師の話ではまるで常識の様に治療法を述べていた。フレイは言ってませんでしたがこの治療法を確立した本人が作ってくれた物です。簡単に言うのは憚れますが恐らく信頼に足るかと」



「バジリスクと言う存在ですら私は知りません。しかもそれを発案した張本人とは……。十年……坊っちゃんの事も心配ではありますが、私としては十年もの間ここに辿り着くまでの苦労がお嬢にはあった筈です。それが裏切られない事を祈りたい」

「……そう、ですね」


 フレイ自身も恐らく途中までバジリスクの事は諦めていた様に思える。
 でなければ弟の病気を治す為の薬を探す旅の中で盗賊紛いな奴等に稽古をつけてやったりギルド設立の為に奔走したりはしないだろう。
 つい人の為に全力を尽くしてしまうのはフレイの人間として良い所、なのかもしれないが本来の目的からずれてしまっているのはやはりそう言った側面が伺える。

 ただその事に関してわざわざサンジに話そうとは思わなかった真であった。

 ふと真はそわそわと落ち着かないルナを視界に入れ、一言元気付けてやる。


「確証はしてやれないが可能性は高い筈だ。元気になったらデートでもして来たらどうだ」

「……えっ、へ!な、何で私がっ!?」


 真にしてみれば同い年の二人はお似合いに思えた。
 意外にもルナがリードして上手くいく、そんな関係。
 過去の真と夏樹がそうであった様に……もし、もう少し夏樹と早く出会えていたのなら、自分の人生も少しは違う物になったのかとルナとレスタを見ているとそんな事を考えてしまうのだった。


「私はシン様にお仕えしたく…………出来れば婚約の犠だって……た、ただ心配ではありますけどね、折角出来た……後輩ですから!」


「……ふぅ、そうか。まあいい、それよりルナ、お前のそのシン様って言う呼び方はいつまで続くんだ?」
「えっ!?いつまでと言われても……ずっとです!ずっと!だって私にとってシン様は、英雄だから」


 英雄、それが一体この世界でどれ程の価値があるのか真には分からない。
 ただ習慣で、目の前の敵を殺した。それは何ら変わらない真にとっての日常の延長線。それがたまたまこの少女の命を救うと言う結果になっても真にはそれがとても正義とは思えなかった。


「まぁ、いいんだが……気乗りしないな。年的には兄さんて所だろう?」

「ぇへっ!?そ、それじゃあ家族みたいじゃないですか……私はシン様と……」
「家族……か」


 真はそんなルナの言葉に地球での両親を思い出していた。
 天井からぶら下がり、糸を持つ人間のいない壊れた人形の様な両親の変わり果てた姿。
 人はこうもあっさりと死ぬのだと無理矢理に理解させられた忌まわしき過去。

 真はそんな記憶に頭痛を感じ、こめかみを抑えた。

「し、シン様っ、だ、大丈夫ですか!?そん、な……わ、分かりました!兄さん、シン兄さんです!そう呼びますから!怒らないで下さいっ」


 相変わらずの勘違いを炸裂させるルナであるが、そんな事に一々返答できる程真の心の内は穏やかでは無くなっていた。
 だが過去を振り返っても結局何も変わらない。
 両親も夏樹も、もうそこにはいないのだ。
 どれだけ科学が進んでも消え去った物は元に戻せない。

 形の復元までは今の地球の科学技術なら可能だ、粒子分解さえされていなければ。ただ記憶は元には戻らない。一人一人個人の記憶データのバックアップなど取っている筈も無いのだから。


 いや、どうなのだろうか。
 もしも夏樹が復元できたとしたら……体も意識も、記憶も全て。
 そうして出来た夏樹は夏樹か?
 本物と一糸違わぬそれはもう一人の本物なのか。
 人間はたんぱく質の塊、心など所詮は脳の神経信号でしかない。ならば復元させればそれは本物なのか。

 真は自分が人間ですら分からないこんな状況で何処かに違和感を感じていた。















――――やっ、やったぞっ!!
――――そんな、レスタ坊っちゃん!!


 やがて扉の向こうから聞こえるフレイとメイドの叫び。


――――う、動くよ……動く、本当に動いた!



 驚愕、歓喜、三人の声はバジリスクの眼球が効果を上げたと判断するに十分な物だった。
 先天性免疫不全骨障害、ソーサリーの見立は恐らく正解だったのだ。



「ま、まさか本当に……」
「どうやら成功か」


 警備長のサンジは未だ開かない扉の向こうで、喜びに沸き立つ三人の声を耳に入れながらただ呆然と立ち竦んでいた。


 だがしかしこの文明世界でバジリスクの眼球とやらがそこまでの速効性があるとは意外であった。
 真としては先天性免疫不全骨障害、それは地球でかつて言われていたリウマチと言う病気の様な物だと思っていたからだ。

 リウマチは免疫系の異常によって引き起こされる関節炎、免疫システムサイトカインによる炎症悪化。
 真のいた地球の医療用カプセルマシンならばいざ知らず、あんな生物の眼球が炎症を抑えるだけでなく既に骨の異常まで来している体を動かせるまでに回復させるとは。
 それもこの数十分間で。あり得ない治療法、規格外であった。

 地球で需要される程では無いにしてもこの世界の薬師もまだまだ侮れない。
 真はほんの少しこの世界の現実に興味を惹かれていた。




 間もなくして、今まで人生を抑圧されていたのだろうレスタが喜びのあまりに室内を駆け回り、そのあられも無い姿で廊下に飛び出て来た。

「ははぁっ!ほら、もう走れ――――」
「っい!?やゃぁァァァ!」
「レスタっ!」
「レスタ坊っちゃんっ!!」

 それを追うようにメイドとフレイが慌ててタオルをレスタの大事な所に掛けるが、そんなレスタに容赦なくルナの叫びと突飛ばしが入ったのは恐らく乙女心なのだろうと思う真なのであった。


「はは……本当に……レスタ坊っちゃん」

(全く、賑やかだな……)


 恐らく屋敷内でここだけが一番騒がしく、そして活気に満ちていたのは言うまでもない。そんな幸せな一場面に真は口許を綻ばせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で身も心もすり減らした相馬蓮司(42歳)。 過労死の果てに辿り着いたのは、剣と魔法の異世界だった。 神様から「万能スキル」を押し付けられたものの、蓮司が選んだのは──戦いでも冒険でもない。 静かな辺境の村外れで、珈琲と煙草の店を開く。 作り出す珈琲は、病も呪いも吹き飛ばし、煙草は吸っただけで魔力上限を突破。 伝説級アイテム扱いされ、貴族も英雄も列をなすが──本人は、そんな騒ぎに興味なし。 「……うまい珈琲と煙草があれば、それでいい」 誰かと群れる気も、誰かに媚びる気もない。 ただ、自分のためだけに、今日も一杯と一服を楽しむ。 誰にも縛られず、誰にも迎合しない孤高のおっさんによる、異世界マイペースライフ、ここに開店!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...