その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Natrium

第百二十五話 命の価値観

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 夜が明けていく。
 どれだけの間不可思議な戦いに身を置いていたと言うのか。

 霊騎士と化した数人の街人を連れ、いつの間にか退散していた黒騎士。
 シグエー率いる神星の理、そして地球から半ば無理矢理この星へ飛ばされた月華元と山本弟の六人は、思い思いの態勢でいつしか静寂に満ちる第七都市のど真ん中で顔を突き合わせていた。





「……ねぇ、山本、君。何かおかしな人達が睨んでいるけれど」
「あぁもう無理!こんなのあの兵器共にやらせろって話だよ、許すまじ結城咲元」


 月華元は訳のわからない事態に混乱し、だが普段の冷静さを取り戻していた。

 それは女としての本能か、科学者としての生き様がそうさせたのか。最初こそ動揺したものの、少しの時間を経た今では自分が陥るこの状況を、全ての記憶を総動員させて理解する事に成功していた。


 まず大前提として、真を含む自分達フォースハッカーはフォラスグループの一つである事。
 その上でデスデバッカーと言うのはフォースハッカーの代表柴本と対立する芹川の派閥に過ぎなかった事だ。

 つまり二つの派閥は対立しながらも影で共同研究を行い、恐らく他国と共に他惑星移動プロジェクトを進めていた。
 尚それだけでは飽き足らず、結城は柴本らと手を組み何かの人造人間を作ろうとしている。その被験体がフォースハッカーの戦闘要員であり、恐らく真がその唯一残った成功品と言う事なのだろう。


 そしてそんな真の回収に無理矢理送り込まれたのが自分達。人選理由はアンドロイドキルラーだけでは全てを知らない真に敵だと誤認されて破壊されかねないから。

 もしくは結城の月華元に対する恨みからか。

 しかし腑に落ちないのは、何故他惑星移動の実験にアンドロイドキルラーではなく人造人間唯一成功品である真をそもそも送り込んだのか。その点が月華元にはわからない。

 だが、見当をつけるとしたら。
 本来他惑星移動をする目的対象は人間である筈、つまりそれはモルモット治験だけでは不安要素が残る為段階的に治験対象を人間にして行きたかったと言う事だろうと。
 アンドロイドキルラーから人造人間、そして最後は人間、つまり自分達が最終段階の他惑星移動実験の被験体にされたのではないかと月華元は考えていた。



「待って……だとしたら、真が来る前に此処にはアンドロイドキルラーが来ているって事!?」


 月華元は脳内で整理した状況から割り出される一つの事実に気付き声を上げていた。月華元の横で座り込む山本は、そんな月華元の言いたい事を瞬時に理解し、口を開く。


「あぁ、なるほどね……もうそこまで思考が辿り着いたんだ。流石は月華元女史、萌えるだけあるね。でもそれは無い筈だよ、第一回目の移動は失敗だったんだ。尊のコードだからね、近すぎたんだよ。惑星一個吹き飛ばしたのが連邦にバレてさぞかし言われたらしいよ。それで僕にお呼びがかかったって訳。ついでに人工人格式生物兵器(バイオキルヒューマン)、あ、真君の事ね。の構造チェックも兼ねて僕のコードを真君に届けてもらったと。だからまぁこの星にはアンドロイドキルラーは居ないだろうねぇ……これからはどうなるか解らないけど」


「おい……貴様等、殺るのか殺らないのか?」
「ん?」


 山本の話に唖然とする月華元だったが、今更何を言われて驚くつもりはなかった。だがそんな刹那、訳のわからない話に没頭する月華元と山本に低く冷たい声が飛ぶ。
 
 
「て言うか何!何なの……すっごい人型魔族じゃん!」
「馬鹿が、フィリップス。魔族ってのは人型になれるんだよ……だがそれよりブライン、あんまり挑発はしないでくれ!俺もフィリップスもこう見えて結構来てんだからよ。今から魔族二匹はちとキツイ」



 月華元と山本を敵とみなしたブラインが挑発を仕掛けるが、ボルグとフィリップスはもう勘弁してくれと言いたげにそんなブラインを見据えていた。



「そう言えば……この人達、は……そのマモノ、じゃないの?」
「やだなぁ月華元女史、どう見てもあれは人間でしょう?魔物はもっとこうシュピンッピンッってなってる奴ね!あれ、でも何で言語認識できるんだろ。もしかしてインデックス範囲なのかな」


 山本はそう言いながら腕に付けた端末を弄る。

「おい……何をごちゃごちゃ言ってるか知らないがここの都民(ニンゲン)じゃないな。何の魔族だが知らんが仲間割れなら勘弁してくれ。俺達は今の所争う気は無い」

「おいブライン、それは極端すぎるだろ」
「まぁ争う気と言うか、戦える力が残ってないと言うべきだよね」



 互いの言葉が交錯する。
 見つめ合う二対四。
 僅かな間を置いて口を開いたのは元ファンデル王国ギルド本部、ギルド試験官のハイライト=シグエーだった。


「君達は人間、だろう?」

「へ!?何言ってるんですかハイライトさん、さっきのどう見ても魔力機のレベルじゃないよ!」
「ハイライトさん、それはいくら何でも無理がある」


 シグエーの言葉にフィリップスとブラインが不評を浴びせる。
 だがシグエーは真面目だった。
 突如降り立ち、見た事も無い力と武器で元人間とは言え死霊騎士と成り果てた者達を瞬時に消し去ったそれ。
 唯一この四人の中でそんな不可思議な力を過去目の当たりにした事のあるシグエーの発言に、月華元と山本は目を点にしながらも返答を返す。



「そ、それはそうよ……て言うより貴方達こそ」
「――おお、異星の人!凄い!言葉が分かる!髪緑だしぃ?!僕達はM87-1853-SS3から来た者です、貴方達に危害を加えるつもりはありませんので悪しからず。少し人探しをしようかとええ、思いましてね、ええ」


「ハイライトさん!」
「なんだ、馴れ馴れしい魔族だな」


 突如捲し立てるように喋る山本はそんなシグエーに駆け寄ると、その手を無理矢理とって友好の握手を求めていた。
 若干身体を逸らすシグエーと咄嗟に戦闘態勢に入ろうとするブラインとボルグ。

 だが次の瞬間にはそれを制するように出されたシグエーの腕によってトライレイズンの三人は動きを止めていた。



「何だかわからないがやはり魔族、ではなさそうだね。僕はハイライト=シグエーと言う、先ずは危ない所を助けてもらった事を感謝するよ」
「お、おぉ……異世界到着からの人助け……正にテンプレ!巨乳ヒロインじゃないのは残念だけどこれはこれで!」

「それで……助けてもらった所悪いけど、さっきの騎士達はこの街の人間だったんだ。殺したのか?」



 シグエーは不可思議な力で消し去られた死霊騎士達がどうなったのか、それが少しばかり気掛かりだった。
 出来れば大元であるあの黒騎士を潰し、街の人達を開放したかった。その為に自分達は苦戦を強いられていたのだから。
 だがそれに対して返された山本の言葉はまるで理解不能とも言いたげなものだった。



「え……あ、そうなの?でも完全にアンデッド化してたみたいだよ?て言うか別にいいんじゃないかな、弱い奴は死ぬ。それがファンタジーの醍醐味でしょう?えーと、ハイライト、さん?」

「!?」


「ハイライトさん……やっぱりこいつ等、人間じゃねぇ」
「全く知らない言葉が度々出てくるけど、とりあえずかなりヤバイ奴なのは間違いないね」



 このだらけた体躯の男は人の命を何とも思っていないような発言をした。それに対しトライレイズンは半ば怒りを顕にするが、今のシグエーは違った。
 昔のシグエーならこのトライレイズンと同じ事を思っただろう。だがシンとの一件から少しながら考えを改めさせられていたのだ。


 そう言う人間もいると。
 人それぞれの価値観は違い、それはある意味個性でもあると。
 確かに間違った考えではあるとも思うが、それならば何が正しい考えとなるのか。
 シグエーにとっては人の命を大切にする事が正しいと考えるように、目の前の男は人の命を何とも思わないのが正しい事なのだろうと。



「そうか、殺したんだね。残念だ、出来れば元凶を叩きたかったけど逃げられてしまったし……と、それは置いておくとしても、君達の目的は何かな?」


「え!?」
「おいおい、それでいいのかよ!それなら俺等が苦労してたのは何なんだよ」
「ハイライトさん。それは、ギルド官として……いや、ハイライトさんらしくない。さっきもそうでしたが、随分変わられましたね」



 シグエーの言葉はトライレイズンにとって衝撃的であった。
 正義の塊、力だけではなく人を守る事に必死になる、そんなハイライト=シグエーに憧れていたブラインは殊更今のシグエーの発言に心を揺さぶられた。

 だがシグエーはそんなトライレイズンの言葉を耳に入れ、暫し目を瞑ってからゆっくりと口を開く。


「あのままじゃ危なかったのは確かだ。それに僕等じゃきっとあの騎士達を殺める事は出来なかっただろう。人を殺める事が正しいとは言わない、でも僕達はそんな自分の正義によって自分達の命を無下にする所だったんだ。防衛の為に、僕らが出来なかった事を彼がした。そんな彼を僕らが責める資格が、あると思うかい?」




 トライレイズンの三人も、山本も、そんなシグエーの言葉に暫し黙り込む。
 
 シグエーは考えさせられていたのだ。
 シンと言う男に会い、その考えに触れ、師であるソーサリーの言葉を反芻し、ずっと考えてきた。

 自分の正義がいつでも本当に正しいものなのかと。
 そもそも正義とは何かと。
 もしくはそんな自分の思う正義とは、所詮法の下に形成された偽物の固定観念なのではないかと。



「今の僕達にある一つの事実は、偶然であれここの二人に助けられたと言う事だけだ。少なくとも僕は君達|新星の星(トライレイズン)が無事であった事を喜ぶのを最優先する。危険な目に合わせてすまなかった、僕の判断ミスだ」

「ハイライトさん……」




 朝日が上り始めた冷気の霧が漂う静寂の街に、ただ下げられたシグエーの頭。
 だがその行為は、震える肩は、シグエーの想いと真意を理解させるのに|神星の理(トライレイズン)の三人には十分のものだった。


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