その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Carbonium

第六十三話 欲望と快楽の間に

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 観衆の激しい声援と手拍子、それに答えるように喚く参加者が数名。
 恐らく優勝候補でもいるのだろう、真は興味無さげにただ調子のいい司会者がルール説明を終えるのを上の空で待った。



「――――と言う訳ですから一回戦後の敗者復活戦を入れますとここでは本日六戦行われる事になります!皆様お見逃しの無いようその目をかっ開いていて下さいよぉ!でわっ!ではではでは!お待ちかね、第一回戦を開始させてぇ頂きます!先陣を切るのはこの選手達だッ!」


 司会者の囃し立てる様な大声に観客側から又も歓声が上がった。


「ピラニア商会より!前年度は惜しくもブロック優勝ならず。しかしその腕前はファンデル王国ギルドでもCの1階級っ!腰の剣は飾りじゃぁないっ、マウガー=ラケット!!」

 司会者の誘い文句に合わせて、鞣した革装備と一振りの剣を腰に提げた戦士風の男が両腕を上げながら石台へと上がっていく。
 何処かで見た様な風貌に、真はその男が先程レスタにぶつかり難癖を付けてきた奴だと気付く。

 観客の声援にはマウガーと連呼する声が混じっている事から前年度出場ともあってそこそこ名が知られている選手なのだろうと真は考えていた。


「それに相対するのはぁ……天福商店より!今回が初出場っ、これを機に商店と実力をどこまで売れるかぁ!?俺の名前は唯一つっ、シィィィン!」


 いきなり語られた実況解説。
 真はそれが自分の事だと気付くのに少しの時間を要してしまった。どうやら組み合わせは決まっていても順番は特に決まっていない様である。
 真は参加者の人垣を抜け、石台の階段を一段づつ踏み締めた。



「んぁ?何だお前、手ぶらか?武器を置いてきたんじゃねーだろうな?おい、審判。緊張して武器を置いてきたらしいぞ!ハッ」


 レスタとルナに絡んだマウガーと言う名の男は、真がそれらしい武器を持っていないと見るなりそれを実況解説兼審判であるピエールに伝え嘲笑う。

「え……あ、し、シン選手?えと、武器は……魔力結石か何かをお持ちで?」


 審判は若干小声で動揺しながらも丁寧に真へとそう問いかけるが、真はめんどくさいと言った表情で視線をマウガーに向けたまま右手を軽く上げて言った。


「……素手だ、別にいいんだろ?」
「なっ……!」

「な、な、な、ナァァントッ!ここに来て素手で戦う選手の登場だぁぁ!素手と言えば皆さんもご存知過去ザイールトーナメント優勝者、今ではファンデル王都のギルド審査員ハイライト=シグエーと此度のシード選手ヨハネ=リクエート以来ッ!リヴァイバル王国の力はどこまで及ぶぅぅ!!」


 大袈裟なピエールの実況がやけに耳障りだった。だがシグエーがこのザイールトーナメントで優勝していたと言うのは初耳である。ここで優勝すればその力はファンデル王国から認められ、A階級のギルド員になる事も出来るのだからシグエーがそうであれば今の立ち位置も解せた。

「舐め腐りやがって…………おい新人、今ならまだ降参させてやってもいい。くじ運が悪かったぜ、敗者復活戦でせめて頑張りな」

「…………お前は家に杖があるか?」

「はぁっ?んだってぇ?」



 真はマウガーの挑発に構うことなく、気づけばそんな場違いな言葉を吐いていた。


「杖を使って歩くのは大変だと言ったんだ」



 ここでこの男と当たった事、それは真にとって何とも幸運な事、もしもこの世界に神がいるなら少しだけ礼をしたいとすら思える程のくじ運だと真は感じていた。
 これで少しは胸の奥に燻っていたフラストレーションを解消出来るのだから。


「おおっとぉ!?これは早速言葉からの戦い!ヒートアップする前にそろそろ始めましょうッ!試合開始ぃぃ!」


「訳わかんねぇ事いってんじゃねぇよ、杖はジジイの使うもんだ。何ならてめぇにプレゼントしてやろうか?これから足が悪くなるだろうからなぁっっ!」
「ベッドの方がいいかもな」


 試合開始の掛け声と同時にマウガーは叫びながら抜刀し、真の足元を目掛けその剣を降り下ろして来た。
 恐らく本当に殺す気は無いようである。
 ここまでの武器を使用して試合をするのに相手を殺してはいけないと言う謎のルールは完全に浸透していた。

 だがまともに受ければそこそこの致命傷は免れないだろう
。と言っても真が心配しているのは自分が死ぬ事ではない。
 自分が誰かを殺す事を抑えられるかと言う事である。


 マウガーの降り下ろされた剣をブーツの反発応力によって軽く飛び退け身体をマウガーの背後へ反転させる。

「チィッ!小賢――――ふぐぅっ」


 即座にマウガーの首を背後から取った真はそのままその頸椎を石台へと打ち下ろした。


「ゥヘ……ヘフ……ハヘ、えぐぅ」


 マウガーは呼吸が困難になったのかそのまま仰向けの状態で喉を掻きむしりながら言葉にならない呻き声を発していた。


「……審判、終わりだ」
「えっ……あは、あぁ……こ、これは……しょ、勝者ッ!シィィィンン!!」


 僅かな間を置いて外周から歓声と真を呼ぶ声が上がる。
 審判のピエールは慌ててマウガーの状態を確認すると、白いエプロンの様な物を着けた恐らくは薬師であろう人間達にマウガーを運び出させていた。


 真はその様子を横目で見ながらゆっくりと石台を降りる。
 周りの選手も真へと釘付けだったが、敢えてそんな真に声を掛ける者はいなかった。


 特殊軍隊格闘技、モータルコンバット。
 相手の首を確実に折って息の根を止めるか戦闘不能にする技だ。

 真はそれを独自に改良した。
 素手、それは即ち最大に応用の効く最高の武器。

 マウガーは恐らく今後自らの足で地を歩く事は出来ないだろう。真は最高の意趣返しが出来た事に満足し、久し振りの快感に身を委ね、そしてそんな自分に恐怖していた。




(…………ラベール……あと一回分か)

 真はふとこの世界に来てからの事、仲間、そしてシグエーの言葉を思い出しながらラベール花の粉を口に含み唾液で無理矢理それを咽頭に流し込んだ。


 怒り、戦いへの純粋な快感。
 それは今の真にとって自分を失う事に直結するかもしれない感情。

 ラベール花はそんな真を安心させる一材料であった。
 このトーナメントが終わったらまた取りに行かなければと、真は自らの興奮を必死に抑えつけながら青い空を見上げ、フレイ達の事を考えていたのだった。
















 トーナメントはこれと言った休憩も取られる事無く滞りなく進んだ。
 あの後敗者復活戦も行われ、残った16名の選手で第二回戦が行われていた。

 第一回戦のインパクトか、真に対する不名誉な選手紹介がピエールにて行われたが相手は真に畏れを成して辞退。
 続いての三回戦の相手も真が軽く往なして場外負けで終了となっていた。


 遂にブロックAは残す所あと二戦。
 選手の集まる場は真を含むたったの四人となり、選手同士互いに顔を見合わせる事も無く何処か張り詰めた空気だけが漂っていた。




「さぁぁあっ!ここで残す所もあと二戦ッ!ブロックAの決勝に駒を進めるのはどの選手だ!第五回戦っ、星白屋より……ここまで鮮やかな剣技で相手選手を圧倒!初出場のハイル=イグリィィスっ!そして対するはリトアニア商会より……数々の戦場をくぐり抜け、己の力でBの1階級まで上り詰めたA階級ギルド員に最も近い男っ!ボルグ=イフリエートっ!!」



 拡声器を使う必要すら感じられないピエールの騒がしい実況に二人の選手が石台へと上がっていく。
 つまりは残された真と、ルナと同じ様なローブを身に纏う青髪の少年がこの五回戦の第二陣と言う訳だ。

 真は横目でそんな青髪を視界に捉えると、少年は軽く微笑んで真に会釈した。
 真がそれを気にせず石台へ上がる選手達の試合に目を向けると、少年もまた視線を外す。



――――試合開始ィィ!




 二人の剣士はピエールの合図を皮切りに、とてつもない反射で石台を蹴ったのだった。
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