77 / 139
Nitrogenium
第七十五話 本戦一回戦 前半
しおりを挟む――宇宙に存在する不可視エネルギーを利用してこの転移装置は作られてるんだよ。暗黒物質ダークマターって言われててね、なんかさぁ……いい響おとだよね。
そんな事を言っていたのは誰だったか。
真をこの世界へ否、本来であれば過去の地球へ時空転移させる為のプログラムを開発し、デスデバッカーの空間転移装置を利用すると発案したフォースハッカーのメンバーが言っていた言葉。
名をそう、山本猛と言った。
この異世界から召喚された少年が言い放った言葉は偶然にもそれと一致する。
だがしかし、真のいた地球でこのような不可思議な力を持つ人間は存在し得ない。
ならばやはりこの少年は真のいた地球とは全く別の"チキュウ"と名のつく星から来たと言うのか、真は眼前で対立する黒い生物とその半分程度の身長しかない少年の行く末をただ呆然と眺めるだけだった。
やがて少年が顕現させたであろう黒き小宇宙はその体積を縮小させながら黒き生物、ガーゴイルの体内へと吸い込まれる様にして消滅する。
「……ん?あれ、どうなってるんだろ。効果に全ての物を飲み込むって書いてあったんだけどな……す、ステータス!」
「ケケケケケ……ナンダナンダオマエハシェイプサマノシモベナノカ?ナカナカウマイマナダ、チカラガワク……チカラ、ガ、ウゥゥォォ!」
「何だっ!?アイツ!」
「何かおかしい……皆伏せろッ!」
構えていた剣士達がそう言い放った直後、薄闇色の暴風がリング上に巻き起こり魔族の咆哮と共に暗闇が視界を遮る。
思わず真も自らの腕で眼前を覆っていた。
「ケケ、ふふ、ふははは。凄いぞ……何だこの力は。まるで魔王にもなった気分だ、これならシェイプ様にも劣らない……ふふふ、いや、もうシェイプ等の褒美はいらん。そこの、お前は一体何者だ?私に力を与えてくれた、感謝しよう。お前の目的は何だ、折角だ、一度位なら力を貸してやってもいいぞ、ハハハ!!」
「……は、はっ。目、目、目が!暗いよっ!何も見えないッ!何だよこれ!」
二つの声を耳に入れ、真はゆっくりと顔を隠していた腕を下ろして状況把握に努めようと試みる。
リングの地表面には未だ漂う薄紫の霧がそこにいる人間達に妖しく絡みついている。
見れば真以外に七人いた選手達はある二人を残して皆呻き、蹲りながらリングを転がっていた。
まだ辛うじてその身を起こしている人間、異世界から召喚されし少年はしかし自らの顔を押さえながら喚き定まらぬ足取りでリングを駆けまわっている。
「これは、何が起きてる」
「……ブラインドネスだ、あの少年の魔力はまさか」
真以外に唯一リングで正常を保つ選手、朱色の長髪に白銀のチェインメイルを身に着けた女剣士は真の呟きに応えるかの様に険しい顔つきでそう呟いた。
真にはまるで理解の及ばない現状、呻きながらリングを転がる選手に取り乱す異世界少年。
少年に視線を向けたままのガーゴイルは先程より何処か人間味を帯び、拡げていた汚らしい翼は艶を増して今は背に折り畳まれている。
ふとそんな状況に真はある一つの事を確認すべく、思い出したように観客席を見回した。
コロッセオのリングを囲う円周の観客席はガラリと無人になってはいるが、そこには一人だけ見慣れた青色の髪が壁から覗いていた。
恐らくルナだろう、真は視覚を最大限に拡大させその姿を確認する。縮こまった身体は壁に阻まれよくは見えないが、覗く小さな頭と杖が震えている事から恐らく無事なのだろうと真に認識させていた。
恐怖の中でもレスタとサンジだけを避難させ、自分は真を見守ろうと必死だったのか。
そう思うと真は少しだけルナへの態度を改めようかと考えさせられていた。
フレイは恐らく父ブランタの所に向かっている。レスタとサンジ、そしてアリィは言うまでもなく他の観客と逃げていると見ていいだろう。
そしてルナも無事ならば後は目の前の化物をどうにかしてこの状況を打開するだけだ。
はてと真は視線をガーゴイルに合わせたまま思考を巡らせていた。
周りにはさして多くない人間しかいない上、まともに状況を理解できるのは横の女剣士一人だ。ならばデバイスを使用してこの魔族を斬り殺しても何ら問題はない。だがしかしと。
いつかのブルーオーガと呼ばれる魔物にはカーボナイズドエッヂで通用した。フレイを危険に晒したバジリスクはそれでは厳しく、たまたまFの収束で難を抜けた。
果してこの魔族と言う生物には何が有効となるのか、ここに来て下手にこの世界の知識を得ていた真の心にはそんな僅かな迷いが生じていたのだった。
「ただのガーゴイル一匹なら十分に殺れたかもしれないが……そもそも何故こんな場に」
「……今は奴を殺るのが先決だろう」
ふと女剣士の言葉で真は我に返る。
何故こんな場に魔族が現れたのか、それはやはりブランタが元凶。つまりフレイの父だ。
だがそれを万が一にも暴かれるのは都合が悪かった。
ブランタが裏で魔族と関わっているとは言え、それでブランタが責められる事態になればフレイやレスタを含むフォーレス家全体が非難の対象となる。
ならばここで手早く事態を収束させ、その後でブランタと接触し事を収める必要があった。何があの生物に有効か等と考えている程悠長な時間はない。
「それも、そうだな。しかし分が悪い……奴は恐らくあの少年の魔力を吸って強大化している。先刻のガーゴイルなら私一人でも辛うじて相手出来たかもしれないが」
真の発言に同意する女剣士。
だが、かのガーゴイルはあの異世界少年の不可思議な小宇宙を吸収して力を増したと言う。
原理は解らないがいつかにシグエーとルナの戦いで見た同魔力は……と言った所なのだろう、真はいつしか眼前で未だ厭らしく耳障りな高笑いを続けるガーゴイルから隣の女剣士に視線を移していた。
「剣は通用するんだろ?」
「剣?はっ、魔力機マナコアの間違いだろう?唯の鉱物で出来ただけのなまくらが魔族に通る物か」
「詳しいな」
「まぁ少なくともAだからな、魔族との戦闘も経験はある。と言うかお前もBかその辺りじゃないのか?魔族と争った事も一度や二度あるだろう?」
そんな女剣士の言葉に真は苦笑した。
ザイールトーナメント本戦、それはつまりそれだけの強者が集まっていると言う事。
それだけの実力がある人間ならその殆どがギルドでもB階級レベルにはなっているだろうと女剣士はそう言いたいのだ。
確かにフレイも魔物や魔族への知識は中々に持っていた。
そんな中自分はギルドで言えば新人も新人のDである。真は如何に自分が場違いな所に立っているかを僅かに実感させられていた。
「ブルーオーガ数匹位だな……階級はDの3だ」
「……はっ、こんな状況でそれだけの冗談が言えるとはな。是非剣を交えて見たかったものだが、今はそうも言ってられないか……仕方ない、手を貸せ」
冗談では無かったがそれを訂正する間もなく、女剣士は朱色の髪を跳ねさせてガーゴイルの前へと踊り出ていた。
「……やるか。端末起動デバイスオン戦闘状態バトルフィールド・拡張オーバーフロー、ダイヤモンズドエッヂ!」
領域の元素量を確認する事も無く、最初からバトルフィールドを遥かに拡げた真はその手に透き通るCの刃を収束させながら女剣士の斜め後ろへ着いた。
「――――シェイプッ!お前の出番は終わりだぁ!!」
「なっ!?」
刹那だった。
女剣士と真に真紅の眼球を向けていたガーゴイルの背後、空中から一人の金髪が何かを叫びながら両手で持った大剣を振り下ろすのが視界に飛び込んできた。
「ムッ!?」
「ハァァァッッ!!」
気迫に満ちた声と共に、ガキッと言う金属がコンクリートに叩き付けられた様な鈍い音が響く。だがガーゴイルは何事も無かったかの様に背後へ首を捻った。
「何ッ!?」
「……ふはは、人間か、こんな所にも隠れていたとは。しかし魔力も籠もらない玩具で今の私を傷つける……面白い。それに今シェイプと言ったがその名を何故知っている?」
今やつらつらと人間の言葉を吐くようになった魔族に顔を向けられた金髪の青年はしかし、その顔険しく頬を強張らせて目を見開くだけであった。
1
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で身も心もすり減らした相馬蓮司(42歳)。
過労死の果てに辿り着いたのは、剣と魔法の異世界だった。
神様から「万能スキル」を押し付けられたものの、蓮司が選んだのは──戦いでも冒険でもない。
静かな辺境の村外れで、珈琲と煙草の店を開く。
作り出す珈琲は、病も呪いも吹き飛ばし、煙草は吸っただけで魔力上限を突破。
伝説級アイテム扱いされ、貴族も英雄も列をなすが──本人は、そんな騒ぎに興味なし。
「……うまい珈琲と煙草があれば、それでいい」
誰かと群れる気も、誰かに媚びる気もない。
ただ、自分のためだけに、今日も一杯と一服を楽しむ。
誰にも縛られず、誰にも迎合しない孤高のおっさんによる、異世界マイペースライフ、ここに開店!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる