その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Helium

第十三話 森での狩り

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 暫くフレイと歩みを共にしながら足首程度の茂みを踏み分けながら森を歩く。
 ふと水の音が聞こえ、森林に挟まれる様な形で流れる川が視界に入り込んで来た。


「川沿いに下流へ進む。木の背が低くなった辺りにまで行けば王都まで半日とかからない」
「……これはワイドの街から流れる川か、最初から川沿いに来ればよかったんじゃないのか?」


 ワイドの街から王都まで行くならフレイは何故一々こんな回り道をしてきたのだろうと真は疑問を口にした。

「行ければな。今までの道は木が少なかったろう?王都までの荷運びに使われている道だから多少踏み均されているんだ。と言っても開拓されているとはまだ言いがたいがな」

 そう言えば真も何となくだが途中からいやに歩きやすい場所を進みながらワイドの街まで行ったのを思い出した。

「荷運びには何で行く?」
「ん、何でって……そりゃ荷馬車だろう。ワイドの街にも馬舎があったろう?と言うかそんな事も知らないとは……シン、お前一体何処から来た?」

「いや、だから、その南の田舎だ。何も無かった。あったのはそうだな、藁の屋根位か」

「っは、藁葺き屋根か。それはいいな。今時そんな村がまだあるなんて私も冒険者としてまだまだだ」



 真が最初に訪れた、と言うより転移先に選ばれた村と言うより集落はあまり知られていないのかもしれない。
 それよりこのままどこまで誤魔化し切れるかと言う不安は拭えない。
 そもそも誤魔化す必要すら無いのかもしれないとこの数時間で思わざるを得なかった。

 フレイの話からここの文化レベルは壊滅的に低い、恐らく自分が時空転移プログラムによって時間軸を遡るつもりだったが誤って違う星に来てしまったと言った所でとても信じて貰え無いだろう。
 だが、かと言ってそれをわざわざ説明してやるより自分は世間知らずの田舎者で通した方が楽でいいと思う真であった。


「そろそろ日が暮れる、まぁ暗くても当分は川沿いに進むだけだから月明かりでも十分歩けるだろうが。夕食の準備も含めるとそろそろ始めた方がいい」

「始めるって、何を」

「何をって。そりゃ狩りさ、食える木の実にメインの獣か魚でもいいが、魚は取るのに一苦労だしな」


 ワイドの街で久し振りに料理を食べたものの真には空腹と言う概念がない。
 だがフレイ達はそうではないのだ、旅をするに当たって食糧の持ち運びは邪魔になる。となればやはり食事は現地調達となるのが当然の流れであろう。

 真はこのまま歩き続けてもいいと思ったが、フレイの事を考えとりあえずその話に身を任せる事にした。


「俺は何をすればいい?」

「あぁ、まずはそうだな。火を焚く為の木がいる、その辺から出来れば落ちている枯枝を拾ってきてくれ」
「分かった」


 フレイは何やら川岸から大きめの石を集めるといい、その場から離れた。
 真もそれを見てとりあえず今の場所から離れすぎない程度の場所で枯れ枝を探す事にした。

 火を焚くのに燃えやすい木を探す、その辺の木の枝を切り取って使わないのは生えている木には水分が多く含まれているからだろう。
 その辺りの事は生活の知恵としてこの世界でも浸透している様だった。

 数十本枯れ枝を身繕った所でフレイの元へ戻ると、川岸近くに器用にも積まれた石の山が出来上がっていた。


「シンか、この石の間に枝を入れてくれ」

 よく見ると石はただ積まれている訳ではなく、円を描くように置かれ中心にぽっかりと空間が空いていた。

 よく分からないが、これも考えればなるほどと言う物である。
 石に熱を伝導させる事、火が消えにくくなる上風を程よく入れる事で酸素のコントロールが出来る事。
 その身のこなしといい、こう言った原始的な事にも通じているフレイに少しばかり尊敬の念を抱く真は言われた通りに石の中心に枝を投げ入れた。

「雑だな、まぁいい。食える木の実を探してくる、どうせそれも分からないんだろうからそこで待っていてくれ」


 真にそう言い、今度はフレイが森へと入っていった。

「ふぅ……原始時代に転移した気分だな」

 一人ごちりながら真は何気無く川岸に歩みより水面を覗き込んだ。
 流れに歯向かうように小さな影が幾つも蠢いている。恐らくは魚であろうそれに真は目を奪われていた。

 観賞用に館で飼育されている魚は幼い頃に見たことがあったが、自然の川に泳ぐ物を見るのは初めてだった。
 真のいた時代の地球、特に日本では川など存在しない。いや、存在するが地下に埋まり排水設備を介して海へと流れるので目にする機会は無いのだ、ましてやそこに魚が泳ぐ姿などあるわけが無かった。


「魚は取るのに一苦労、か」


 真にはその意図が掴めずにいた。
 所詮はただの生物である、ましてやこんな導電性の高い水の中を生きる生物等殺して食うには容易い。
 ふと子供心を擽られた真は何気無く合金製ブーツを水面に近付け加速システムを起動させた。

 パツンッと水面が一瞬弾けたかと思えば、ブーツの周囲にいた数匹の小魚達がその小さな身をゆっくりと水面へと揚げた。

 加速システムはその磁場に対する反発応力を発生させる。
 とすればそこには当然電流が起こる訳で、その間に位置する導電性物質が感電するのは極自然の事である。


「ぬるぬるするな」


 そう呟き、この魚は食べれるのか等と考えながら4匹程手に取って岸へと置いておく。
 残った小魚達はたゆたいながら流れに身を任せてそのまま下流へと流されて行った。



 暫くするとフレイが片手に白い何かを持ちながら繁みから出てくるのが見えた。


「今日はついてるぞ、獣を呼び寄せる必要もなくなった。仲間に裏切られた私を天は哀れんだかな」
「それは……兎か?」


 皮肉にも聞こえるフレイの言葉は流す事にして、真は手に持つそれが耳の長い小動物、兎の様だと思った。

「ウサギ?これはピッグラビット、すばしっこい上に臆病でなかなか出会す事は無いんだがな。こいつの肉は高値でも取引される程美味なんだ」

 豚兎、直訳すればそうだ。その生き物は鼻が豚のように潰れ耳が不釣り合いに長く、まさに豚と兎が合わさったかの様でそれがこの世界で銘々されていることに真は笑いが込み上げた。


「何がおかしい?って、そこに落ちているのは魚じゃないか!おいシン、それどうした?」

「ん、ああ……食えるかと思ってちょっと捕ってみたんだ」
「ちょっと捕ってみたって、どうやって……水中での速さはピッグラビットの比じゃないぞ。お前は漁師か、いや漁師だって網を使うだろうが」


 フレイは驚きのあまりに自分が手に持つ大物であるはずのピッグラビットの存在を忘れる勢いで真が置いた魚の元へ駆け寄っていた。


「ま、まぁいい。あらかた食材も揃った事だし日も暮れてきた、火を焚くか」

 フレイはそう言うと焚き火に木の実を数個入れ、今まで背負って来た丈夫そうな袋からごそごそと何かを取りだすと拳を先程真がくべた枝に向け差し出す。
 何をするのかと疑問に思った刹那、フレイは何かの言葉を口ずさみ一瞬手がぼんやりと紅く光ったかと思えば小さな火弾が枝に向け放たれた。

「これでよし、と」

 石に囲まれた枝はあっという間に燃え盛りそこには立派な焚き火が完成していた。


「これは」


 真はワイドの街で男が放ったであろう火弾を思い出していた。
 目の前で再現される、だがあの時よりも少々威力には欠ける不可思議な現象。


「魔力結石はこう言う使い方もある。まぁどちらが正しい使い方かは分からないが……持つ人間によって物は使いようと言うことだな」


 何処か憂いを伴うフレイの発言には説得力があった。
 だが真はそんな言葉よりも目の前で起こる現象に疑問を隠せないでいた。
 火弾、それ自体が手からいきなり放たれるのも疑問だが一瞬で可燃物に着火し燃え盛る等どうやってもあり得ないからだ。


「その、石とやらにはこんな使い方があるのか?だが……そんな早く枝が燃えるか」

「ん、ああ、さっき着火材の実を入れたからな。あれから出る汁は火が着きやすい。しかしそんな事も知らないとは……だがお前だって魔力機を持っているだろう?」


 デバイスの事を言っているのだろうが、それを今否定しても仕方ない。
 真はポケットからデバイスを取りだしフレイに見せてやった。
 ここに来て初めての情報開示だが、別に構わないだろう。他人に使える物でもない。

「見たことのない魔力機だな、魔力結石も何処に埋まっているかさっぱり検討もつかない。だがこれにも魔力結石が入っていてそのエネルギーを引き出す物だ、学者連中が考えたんだろうが……これがなきゃ争いも起こらなかったかもしれないな」


 過去に国がこの魔力機を巡って戦争し、分断した話をフレイから聞いた真は地球での科学進歩による争いを思い出し、そこだけは同意せざるを得なかった。
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