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Beryllium
第二十九話 それは狂気か救命か
しおりを挟む(……嫌な事を思い出したな)
王都を出た時に確認した時間からまだ十分程、代わり映えしない景色が視界を流れる中地球での出来事を不意に思い出して随分と時間が長く感じた。
真が地球でアンドロイドキルラーを撲滅させる事に人生を賭す事になったきっかけ。
愛する者を目の前で無惨にも失った悲しみはこんな世界に来ても忘れ去る事は出来ない様だった。
自分の年齢があの日の夏樹と同じになった今、あいつともう一度会えたら何て口を聞くだろうか等と有り得ない事を考えながら真の思考は現実から離れていった。
時空転移プログラム、それが開発されデスデバッカーの粒子分解移転装置を乗っ取ると決断された時、真の心は踊った。
過去の地球に戻れればもう一度夏樹に会えると思ったからだ。危ない橋等とは思わなかった、どちらにしろ日本は最終局面を迎えもう滅ぶ寸前だったのだから。
だが今この現状はどうか。
間違いなくここは地球ではなく、時空転移プログラムも無ければ粒子分解移転装置も存在しない。
もう地球には戻れないし、夏樹にも会うことは無いだろう。
割り切ったとは言え、過去を思い出せばやはりこの現実に歯噛みしたくもなるのはまた事実であった。
だがそれでも一つ、真には譲れない物がある。
目の前で、自分の手にいる者を、もう誰一人、失わせはしないと。
真は思考を再び現実にあるその異世界の景色に向け、この世界に唯一馴染まない科学技術力によって疾走した。
◆
聳える峰々が視界を埋め尽くしそうになった辺りで真は加速を緩める。
地表に生え揃っていた短い草は疎らとなり、砂利と砂が剥き出しの固い地面が辺りを支配し始めていた。
(この辺りか……何処だ、フレイ)
恐らく此処がファンデル荒野だろうと当たりを付け、真は焦燥感に駆られる気持ちを抑え付けながら周りを見渡す。
瞳孔拡大筋が無意識化で光量を調整する、広がる荒野に何処からそんな栄養を取り出したのか不思議に思える雑草が顔を見せる。
不安な気持ちを抑えながらただ荒野を無闇に歩き回る。
こんな事なら眼窩眼球治験もやって遠視にしておくべきだったと後悔する真だったが、それは今更考えても仕方の無い事である。
それからどれくらいの砂粒踏みしめただろうか、大きな物体が一つ、二つ、三つと横たわるのが見えた。
近付いて見ると何か固そうな表皮に包まれるそんな生物達の横にほっそりとした体躯が仰向けでそこにあった。
「フレイっ!?」
今朝方出立した時の格好、伸びる四肢は月明かりにぼんやりと浮かび上がり光量調整が要らない程の白々しさを見せていた。
それはまるで死に化粧を施された者の色を思わせる。
真は周りに転がる見慣れない生物が動かない事を認識しながら横たわるフレイに駆け寄る。
フレイは充血した様な眼球を開けたまま、涎を垂れ流していた。
真の体に悪寒が走る。
直ぐ様首筋に手を当て脈を確認するが静脈の圧送は既に感じられなかった。
「……まさか」
真はそんな現実に意識が遠くなりそうになった。
目の前で、また一つ大事な者を失った様な感覚。両親の自殺を目の当たりにし、荒れ狂った日々を抜けて再び心を開ける夏樹をも失い、今度こそはもう何もないのだと絶望した日々。
最後の希望も無くされ飛ばされた訳の分からない世界で何故再びこんな気持ちにならなければいけないのかと、真は悔しさに神がいるならこの場で殺してやりたくなった。
――――トク
刹那首筋に当てていたままであった真の指先は僅かな動きを捉えていた。
「……フレイ!」
「……し"……ン……」
真の呼び声に反応を示すフレイ、フレイは意識があったのだ。
何かしらの状態で声を発せず、体も動かせなかったのだろう、再度の静脈の動きは5秒、3秒と不定期にだが確実に生きていると思わせる血液の圧送だった。
「不整脈かっ!」
真はギルドでハイライトがあの男を見ていた光景を思い出していた。
目の充血、不整脈、意識混濁、よく見れば剥き出しの腕には紅斑と水疱が出来ている。
毒か火傷か、だが真に出来る事は限られていた。
考える時間も無く真は反射的にフレイの頭を抱え上げ、その唇に自らの唇を重ねる。
「……ン"ン」
意識混濁とは言え、フレイは確かに生きている。真の突拍子もない行動に僅かに目を見開いた。
だが真はそんな事などお構い無く舌根沈下で沈む舌を自らの舌で探し当てフレイの咥内を侵し続けた。
自らの唾液を咥内に流し込ませながら真は必死にフレイの口を漁る。
皮肉な物である。
夏樹が真に辞退させようとしたBPP-4、それをこんな形で夏樹以外の女に役立てようとしているのだから。
BPP-4、そのプロジェクトは酵素による細胞活性化だった。
細胞分裂を統御する酵素Cdk1に細胞の固有周波に合わせて五次元振動を発し、疲労物質、毒素を分解する細胞活性化装置のプログラムを基質として馴染ませると言う物である。
これが成功する事により、その生物は永久的に細胞分裂を繰り返す。夢の不老不死が手に入るのだ。
その上失った細胞の回復も異常な早さで行われ、体内で毒素となり得る分子結合も全て分解されるとてつもない実験。
真は夏樹を失った後、出来うる全ての治験を行ってくれとBPPの責任者に頼み、そしてそれは尽く成功したのだ。
まさに神をも凌駕する程の体、夏樹の言った様にそれは最早既に人間では無くなっているのかも知れなかったが、あの時の真にはそんな事などどうでもよかったのだった。
(……頼む、効いてくれ)
真は漸くフレイの口から自らの舌を抜き、祈るような思いでフレイの体を抱いた。
原因は分からない、この世界の毒と言う物がどの様な物なのか何の成分から構成されているのか。
地球で存在するような毒物と言われる物であれば真の酵素がたっぷりと含まれた唾液は恐らくフレイの体内毒素を分解してくれるだろう。
だがそれはあくまで思い付きであり、咄嗟に判断した一か八かの選択だ。
このままフレイを抱いて薬師とやらの元へ向かうか、ギルドには薬師がいるのだろうか、真の脳裏には幾つもの選択肢が浮かんでは消える。
ふとデバイスの存在を思い出し、真は何と無しに元素を補足する戦闘状態バトルフィールドをフレイを中心に最小半径で展開した。
O 、C、Hと人体では見慣れた元素が並びF、N、Ca、Si、Mg、Fe、Rb、unknown1、unknown2…………とこの世界に来てから頻繁に起こるフリーズ状態にデバイスが見舞われた。
(……ん、弗素だと?)
そこには大気中でもあまり見られる事のない元素。原子番号 9 、Fluorumが高濃度としてデバイスが関知したのだ。
近くに山脈がある事、時に火山近くのガスに含まれる事もあるフッ素だがこの範囲でそれはない。
つまりはフレイの体内と見て間違い無さそうだった。
そしてそのフッ素は単体で存在する事は無い。
元素補足はあくまでも元素のみを取り立てて表示しているだけで大気中、またはこの場合体内にそれぞれが単体であると言う訳ではないのだ。
フッ素に限っては特に安定元素である事から間違いなく何かと結合しているのが予測できた。
「まさか……だが、だとすれば」
フッ素と繋がり結合するとしたら、それはやはり結合力の強いフッ化炭素だろう。
だがそれがここまでの毒となりうるか、ここでの結合性がそもそも地球と同じとも限らない。
真の頭の中で思い浮かんだのは地球でもメジャーに存在したある毒物だった。
もし、それならばと。
真の酵素が十分に発揮し、対策も取れるかもしれないと思った。
フッ化水素。
それは体内に容易く侵入しカルシウムイオンと強制結合する。
それによって出来るフッ化カルシウム結晶は体中に激しい痛みをもたらせ、重篤な低カルシウム血症を引き起こすのだ。
放って置けばそれは骨をも蝕み、死に至るであろう。
「戦闘状態バトルフィールド……やっぱりそうか……粒子結合、カルシウム!」
真は補足元素にCaが高濃度であった事を思い出し、それが恐らく地面の石から来る成分だろうと推測していた。
再度フレイがいない場所にて元素を補足、Ca高濃度を確認し手元にカルシウムで結成された刀を造りだしてそれをフレイの腹部へと突き刺した。
「ッウぐッ」
「許せよ……フレイ、大丈夫だ」
意識のある女の咥内を散々侵した上、今度は刃で刺すと言うその状態は、万が一にも第三者が見たら蛮族の類いだと思われても仕方のない光景であった。
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